ストイック 25


(25)
帰宅後、僕は母の目をさけるようにして浴室に直行した。
湯船に浸かると、身体のあちこちが痛んだ。
あの後、目を覚ましたらすでに辺りは暗くなっていた。
緒方さんのマンションの寝室。室内には僕以外の人の気配はなかった。
徐々に慣れてきた目と手探りで服を探し当て、身につけた。
緒方さんは居間にいた。パソコンになにやら打ち込んでいる。
サイドテーブルには火のついた煙草と、お酒と氷が入ったタンブラー。
僕が入ってきたのはわかっているのだろうに、振り返りもしない。
まるで、何事もなかったような態度だ、と思った。
僕は逡巡し、やがて無言のまま部屋を出ようとした。
「シャワーなら出て右側だ」
緒方さんが言った。
「いえ、帰ります」
「なら送ろう」
緒方さんが立ち上がる音に、なぜだか身体がびくりとした。
「結構です!」
言い捨てて、僕は足早に緒方さんのマンションを背にした。



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