夢の魚 3
(3)
「誕生日、おめでとう」
僕がそう言うと、進藤は笑顔でありがとうと言ってくれた。
「あの、これ」
僕は、デイバックの中から箱を取り出した。
「えぇ?」
進藤が少し大袈裟なぐらいに驚いて見せたことに、僕のほうが戸惑った。
「だって、おまえ一昨日……」
彼のいわんとすることは理解できた。
「あれは、この前、傘に入れてもらったお礼だから!」
進藤が、あの大きな瞳で僕をじっと見る。
僕は、思わず目を逸らしてしまった。
碁盤を挟んで向き合うのなら、僕はいつだって彼の瞳を正面から受け止めるだろう。
だけど、こんなイレギュラーな場面では、それができなかった。
だって、僕は嘘をついている。
あの水色の傘は、進藤の誕生日のプレゼントとして買ったものだ。
それを素直に言葉にできなかった。
小さな嘘だ。
だけど、どんな気持ちが僕に嘘をつかせたのだろう。
それがいまだにわからないから、僕は進藤の瞳の前で、ひどく無防備になってしまう。
鎧うものがない。拠って立つものがない。
だから、目を逸らす。
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