断点-3 4 - 5
(4)
ヒカルを睨みつけていたアキラは、ようやく湧き上がる怒りを押さえ込んで、低い声で言った。
「…だから、だったらどうだって言うんだ。それで、どうするつもりだ。
キミがボクを好きだって、だからどうした。それがなんだ。
キミがどう思おうと、ボクはキミなんか好きじゃない。」
「ウソだ。」
間髪入れずにヒカルは言う。
「――何が、嘘だって?」
「オレを好きじゃないなんて、ウソだ。おまえだって、おまえだってオレを好きなくせに。」
まるで予想もしていない事を言われたように、アキラはまた大きく目を見開く。
そこに付けこむようにヒカルは続ける。
「だって、おかしいじゃないか。オレがおまえの事好きなのが気持ち悪いとかって言うんなら、まだ、
わかるよ。オレだって自分がヘンなんじゃないかとか思ったし、おまえ以外の男なんて絶対ヤだし、
絶対考えられないし。」
ギリギリと睨みあげる視線に怯みそうになるのを隠して、ヒカルは必死に言い募る。
「おまえだって言ったじゃないか。オレの事、好きだからゴーカンしたんだろ。
でなきゃ、あんなこと、するかよ。好きでもないのに。ヤりたいなんて、思うのかよ。しかも、男を。」
ヒカルがやっと言い終えて挑むようにアキラを見上げると、相対するアキラの目がすうっと細くなった。
「……馬鹿馬鹿しい。ボクがキミを好きだって?」
平静を取り戻したアキラは冷たく言い捨てる。
「おめでたいね。そんな事、考えてたのか。
ふ、キミの理論からすると世の強姦魔は皆被害者に好意を持っていたとでも言うのか。」
アキラがすっと手を伸ばしてヒカルの前髪に触れると、ヒカルがビクリと身を竦めた。
その様子にアキラは冷ややかな笑みを浮かべながら、身体を縮こまらせながらアキラを見上げるヒカル
の瞳を覗き込む。
「確かに、キミに欲情したのは事実だよ。
そうやって怯えた目でボクを見るキミは実にボクの劣情をそそるよ。
どうしたらもっとキミを痛めつけてやれるだろうって、考えるだけでゾクゾクするよ。
だがそれは好意なんかとは無関係だ。」
ヒカルの前髪をくるくると弄びながら、薄く笑んだまま、アキラは続ける。
「相手が男だろうと女だろうと挿れて出すことには変わりはない。
好意なんかなくたって、いくらだってできるさ。
嫌がらせだって、鬱憤晴らしだって、」
ヒカルを見ていた瞳にギッと力がこもる。
「憎しみからだって。」
(5)
「オレが…憎いのか…?」
「ああ。」
「そんなに、オレの事、キライなのか。」
「ああ、嫌いだね。」
「……どう…して。」
「理由なんて、ありすぎて並べてたらきりがない。」
「時々、殺してやりたいと思うくらい憎らしいよ。
でも、そこまで手を汚す気にはならないからしないだけだ。」
「こ、殺さなく、たって、でも、犯罪、だろ…」
「そうだね。でも強姦は親告罪だから、被害者が訴えて出ない限り犯罪にはならない。
それとも訴えるかい?」
微笑みを浮かべながら優しく甘い声で囁きかけるアキラの目は、けれど氷のようだ。
ヒカルの髪を弄っていたアキラの手は、次いで、ヒカルの頬に触れる。
ビクリとヒカルは顔を強張らせる。
アキラの手はそのまま顎のラインを伝い、首筋に軽く触れた。
緊張でヒカルの全身が強張る。
手のひらでヒカルの細い首を包むようにしながら、アキラは顔を近づけ、ヒカルの目を覗きこむ。
「威勢のいい事を言っていたわりには、ボクが怖いのか?」
頚動脈を撫で上げられるように手を動かされ、思わずヒカルがきゅっと目を瞑ると、その手は何事も
なかったかのように離れていった。
「首を締められるとでも思ったのか?殺しはしないって言っただろう。」
クス、とおかしそうに笑った後、アキラはキッと表情を引き締め、一転して冷たい声で言い放った。
「とっととボクの前から消え失せろ。目に入るだけで不愉快だ。」
|