夢の魚 5
(5)
「こんな立派なもの……、本当に貰っちゃっていいのか?」
「よかったら、使って欲しい」
僕が重ねて言うと、進藤ももう一度、ありがとうと言ってくれた。
そして、彼はくるりと僕に背を向けた。
「いつまでもこんなところで立ち話もなんだから、とにかく移動しよう」
「ああ、そうだね」
そのとき、進藤が少し早口で囁いた。
「塔矢には……、俺がいまどんなに嬉しいか、きっとわからないよ」
僕は進藤の背中を見つめ、戸惑った。
彼はいまの言葉を僕に聞かせたかったのだろうか?
わざわざ背中を向けて、囁かれた言葉。
照れている?
いや……、違う。照れてるんじゃない。進藤の少し落とした肩に、僕は思わず手を伸ばしていた。
「進藤!」
進藤が振りかえる。彼の表情に、僕は安堵する。
僕はなぜ、進藤が泣いていと、思ったんだろう。
「なに?」
僕は慌てて進藤の肩から手を外すと、苦笑いで言った。
「ところで、どこの水族館に行くのか、僕はまだ聞いていないんだけど」
「そうだったっけ?」
「そうだよ」
「でも、東京に水族館なんてそんなに何個もないだろう?」
進藤が悪戯を見つかった子供のように、瞳を輝かせる。
ああ、よかった。
進藤だ。進藤のこんな顔が僕は嫌いじゃない。
「品川にもあるし、池袋にもあるし……」
「ブッブ――――、どれもハズレです」
進藤は僕の手首を掴むと、地下鉄の入り口へと歩き出す。
「海の見えるとこだよ」
地下鉄を乗り継いで、僕と進藤が降り立った駅は、「葛西臨海公園」だった。
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