羽化 5 - 6
(5)
だがアキラは変わった。進藤ヒカルがアキラを変えた。
アキラがあんなに気性の激しい少年だとは、いや、内に秘めた情熱の存在に気付いてはいたが
あれ程だとは思ってもいなかった。だが、ある意味アキラの対ヒカルの暴走振りも、芦原は微笑
ましく見ていた。やっと、おまえの待ち望んでいた相手に会えたんだな、と、そう思った。
アキラにとって同年代の友達であり、ライバルである存在ができたのは良い事だ、と。
時折進藤ヒカルの存在がチリッと胸を焦がすような気がする。だがそれはアキラ以外の年下の
少年に追いつき、追い越されるかもしれない、そんな嫌な予感のためなのだろう。
もちろん、自分としてもそんなに簡単に追いつかれる訳には行かない。
そろそろ、自分もアキラのように、自分の闘志を燃え立たせる誰かに会えないだろうか。
(6)
「…ボクはいつも一人だった。
だからボクを追ってくる足音に苛ついていたのも事実だけど、それが急に消えたら…」
「追われるのは恐かったけど、追ってこないのはもっと困るってか?」
「そうですね。」
苛立ちを隠せないような、複雑な笑みを頬に乗せて、アキラは芦原の言葉を肯定した。
「やれやれ…、まあ、おまえにとっちゃあ初めてできたライバルって奴だからなあ。
なんだか進藤が羨ましいよ。
オレなんか所詮お友達どまりでライバルにもなれなかったからなあ。」
芦原が多少愚痴っぽくこぼすと、アキラは一瞬呆れたように目を見開いた。それからこぼれる
ように笑って、言った。
「何、言ってるんですか、芦原さん?
ボクは…まあ、こんなだから、同年代の友達なんていないし…だからボクにとっては芦原さんは
とっても大事な存在なんだ。その辺をもっとわかって欲しいな。」
アキラはにっこり笑って芦原の目を覗きこんだ。
間近に迫るアキラの目に、芦原は思わずドキリをした。
危ない危ない、と芦原は自分に言い聞かせる。
気をつけろ、いくらキレイな顔をしてるからって、こいつは女じゃないんだぞ。
しかし、それにしても何だか最近のアキラは、何て言うか随分と色気を感じるんだよなあ。
ヤバイよなあ、こんなふうに思っちゃうのって。
もしかしたら、こいつが男で、まだ良かったのかもしれない。もし女の子だったら、とっくに理性が
切れてそうな気がする。いくらなんでも師匠の子供に半端な気持ちで手を出す訳には行かない
もんなァ。
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