若手棋士による塔矢アキラ研究会 6 - 10


(6)
その時、床に置いた自分の手の甲の上にその男の手が乗せられた。
「…?」
アキラは彼が無造作にたまたまそこに手を置いたのだと思い、何気なく手を抜こうとした。
だが、男の手はそのアキラの華奢な指を床に押さえ付けたまま動かないようにしている。
「…進藤くんって、可愛いよな。」
「…!」
男のアキラに向けられる視線が明らかにさっきまでと様子が変っていた。
アキラはその目を知っている。時折電車の車内や街角で自分に対し不作法に投げ付けられる、
雄の目。アキラの服の上からアキラの肢体を想像し空想の中で好き勝手に
嬲りものにして愉しむ男達と同質の目つきだ。
「進藤くんってさあ、いつも和谷くんと一緒にいるだろ。…あいつらデキてんのかな。」
アキラに卑猥な視線を向けながら何故かヒカルの話しをする。手を離せないのをいい事に
すぐ耳もとに顔を寄せて息を吹き掛ける。
やっとの思いで手を引き抜いたアキラは怒りを露にして立ち上がった。
「…検討会をするつもりがないのなら、帰ります。」
そのアキラの行く手を遮るように男も立ち上がると壁にアキラを囲うようにして両手をついた。
「検討会だよ。新入段者の素行に関する…ね。特に進藤くんと、彼のお相手についての…。」
アキラはその言葉に相手の男の目を睨み返した。
何か自分とヒカルの事を知っていてそういう話しをしているのだと感じた。


(7)
碁盤を囲んでいた者たちも、一斉にアキラの方を見ている。2人は少し躊躇があるように
アキラと目が合うと視線を下に向けたが2人は隣の男と同様に笑みを浮かべて
アキラの出方を伺って楽しんでいる。
ハメられた、とアキラは思った。彼等は最初からそれが目的で自分をここに誘ったのだ。
男の手が壁から離れてアキラの髪を梳いた。
アキラは壁に背を付けたまま動かなかった。だが男を睨み吸える目はそのままだった。
男は愛おしむように暫くアキラの髪を嬲り続けた。
「一度でいいから、こうしてみたかったんだ、オレ…。」
黒髪の少しを指にからめるとそれにキスをした。
まるで直に体の一部に触れられたような悪寒がアキラの背中に走った。
「見たんだよ、オレ。」
何を、とは聞き返せなかった。ヒカルと初めてキスをしてから、少し隙があった。
浮かれていた。一目をはばかったつもりでいて無意識に周囲を威嚇していたかもしれない。
ヒカルはボクのものだと。2人の間に何者も立ち入るなと。
只でさえ勝ち星を自分達低段者にさらわれて快く思わない輩にとって、
無意識とはいえ自分がとった行動は歪んだ敵意を生み出すきっかけになってしまった
かもしれない。
そしてそれが最も悪い形で自分の身に向けられようとしている。
「進藤ヒカルがとある有段棋士とキスしていたなんて、広めたい話じゃないよな。」
男の指が髪からアキラの目尻、そして頬をなぞって唇に触れて来た。


(8)
男の指が、ついとアキラの細い顎を持ち上げた。
「進藤くんの相手は誰なんだろうねえ。」
アキラは口を開かなかった。ただ射る様な視線のみで相手を非難した。
こんな事をしたって、自分の棋力が上がる訳でもないだろうに。
そういう哀れみも混じっていたかも知れない。アキラはもう一度部屋に居る
他の棋士達を見つめた。誰か1人でいい。「からかうのはその辺にしとこうぜ」、
その言葉を発してくれる者が出て来るのを願った。今なら、まだ。
だがそんなアキラの望みは、長髪の男が次にとった行動で断たれた。
「黙っていてやるから…オレ達に同じ事させろよ、塔矢三段…。」
最初からアキラの意志や返事など待つつもりがなかったかのように、男の厚い唇が
アキラの唇の上にかぶさってきた。
「…やった…!」
「…もう引き返せないぜ、オレ達…どうせなら最後まで…全員共犯だし…」
部屋の男達が自分を納得させるための勝手な言い分を口々にしているのがアキラの耳に
聞こえて来た。抵抗しようにもあまりに強い力で後頭部と肩を押さえ付けられ、
激しく唇を貪るように吸われた。それでも渾身の力で男の首元を押しやり、
やっとの思いで顔を引き離した。
「…進藤と…こんなことはしていない…!」
「じゃあ何をしていたんだ。言ってみろよ。」
アキラが返事を言い淀むと再び唇を塞がれた。2人の男が近付いて来る気配がした。


(9)
長髪の男がアキラの肩を掴んでアキラの体を反転させ、背中から抱きすくめるように
して来た。後から来た男達がそのアキラの前に来て顎を捕らえるとキスをして来た。
「…!」
すでにかなり興奮しているその2人は奪い合うように交互にアキラの唇を吸い、
思い思いの角度で重ね、舌で唇の内側を舐め回して来た。
「もっと口を開けよ!」
興奮に行為が追い付かないもどかしさに苛つきながら1人がアキラの顎を掴んで
強く揺さぶって来た。だがかえってそれはアキラに掴まれた痛みを与えてますます
歯を食いしばらせる結果になった。
こいつらの好きにはさせない。何より強い意志でアキラは出来うる限りの
ガードを崩すまいと身構えていた。
「おい、あまり乱暴にするなよ。可哀相に。」
後ろで抱きすくめている男が仲間をなだめる。
「そのうち嫌でも口を開けるようになるさ…。慌てるなって…。」
背後からアキラの頭髪の香りを吸い込み、耳に息を吹き掛け、しゃぶりつく。
「あっ」
小さく叫んでアキラは首を振った。男は片手で抱きすくめたまま片手でアキラの顎を
押さえ、耳の中まで舌を這わせて来た。ザ−ッと音を立てるようにアキラの全身が泡立った。
「やめ…」
やめろと叫ぼうとしたアキラの口が塞がれ、もう一つの舌の侵入を許してしまった。


(10)
口内を生き物のように這う相手の舌を押し戻して歯を閉じようとするが、
耳の中を同じ熱く蠢くモノで刺激されては意識が分断され、うまくいかない。
ぴちゃぴちゃと耳の中でやたらに大きく響く音と、自分の舌を吸われる音に
アキラは自分の思考まで汚されていくような気がした。
「や…め…ろ…」
舌を吸う男が交代する一瞬だけやっとの思いで口にした言葉は無視される。
誰のものか分らない手が、薄手のニットのセーターの中を弄っている。
がくんと膝の力が抜けて折れた。だがそれに合わせて前後の男達も姿勢を低め、
施される行為から逃れる事は出来なかった。
それでもまだアキラはその時点ではいくらか冷静だった。5人が5人全てが理性をなくしている
訳じゃない。碁盤のそばにいる2人はあきらかに目の前の光景に気後れしている。
「こんな事をして許されるんだろうか」という良心の呵責と戦っている。
激しく抵抗すると、こちらの3人の獣性をますます煽り立ててしまうかもしれない。
彼等だって自分より年上の、普段は立派な棋士達なのだ。一瞬の気の迷いで行動して
しまったが、どこかで踏み止まるはずだ。アキラの体から少し力が抜けた。
「…おや?」
長髪の男がアキラの耳から口を離した。男のだ液で髪がアキラの頬から顎にかけて
張り付いていた。前の男はまだ夢中でアキラの舌と唇を貪っていた。その男の額を押しやって
アキラから引き剥がすと、長髪の男はアキラの顔を自分の方に向けさせた。
「…ちょっとだけ休憩するか。」



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