夢の魚 6
(6)
明るい水の中で、瑠璃色の魚は群れをなしていた。
「これがルリイロスズメダイ?」
「うーん」
進藤は、眉間にしわを寄せ、口を尖らせて唸っている。
「俺が、昔行った水族館では、こいつのことルリイロスズメダイっていっいてたんだけどな。
でもこれ見ると…」
進藤は水槽のガラスに貼ってあるシール状の説明書きを指でさしてから、あとを続けた。
「…ルリスズメダイってのが本当の名前みたいだな」
僕は、緒方さんにあらかじめ聞いてあった知識を、いま口にする気にはなれなかった。
そんな賢しら口は、いまの気分を台無しにするような気がしたんだ。
「コバルトスズメとも言うんだね?」
僕は、進藤の指差す解説文に目を走らせた。
「なんか…俺の知らない魚みてぇ……」
「名前が違うと?」
「うん、まあな」
そう言って、拗ねたように口をへの字にする進藤が子供っぽくて思わず噴出してしまいました。
「なんだよ、笑うなよ。こんなガキンチョの頃から、ルリイロスズメダイって信じてきたんだかんな。
それをいきなり間違ってたって言われてもな。気持がね、ついてかなねぇよ」
進藤はため息まじりに小さく笑った。
その笑みに、僕は笑った事を後悔していた。
だって……、それは最近進藤がよく見せる寂しそうに表情だったから。
「進藤…、すまない……」
僕が居たたまれない思いで謝ると、進藤は慌てて言い募った。
「な、なんだよ。なに謝ってんだよ。相変わらず、わけわかんねーな。それより!
それより、こいつら、綺麗だとおもわねえ?」
僕はその言葉に大きくうなずいて見せた。
名前がどうであろうと、青い魚は美しかった。
進藤はこの魚が、僕に似てると言っていた。
僕とどこが似ているのか問いただしたかった。そのつもりだった。
だけど、なんと切り出せばいいのかわからない。
それに確かめるのが、少しだけ怖かった。
|