断点-3 6 - 7


(6)
アキラから離れるように一歩下がって、けれどそれ以上は動かずにじっとアキラを見ているヒカルに、
アキラは苛ついたように言った。
「出ていけって言ったろう。そんなにボクを怒らせたいのか。
また痛い目にあいたくなかったらさっさとボクの前から消えろ。目障りだ。」
「なっ、なんだよ、怖くなんか、ねぇよ。」
また一歩あとずさってから、けれど自分を奮い立たせるようにヒカルは言う。
「そうだよ。怖くなんかねぇよ。
それに痛い目ってなんだよ。またオレをゴーカンでもするって言うのかよ。
そんな事したいんなら好きなようにしろよ。ヤりたいんならヤれよ。
どうせもう一回ヤられてんだから、二回だって三回だって同じだよ。
でもな、オレはおまえがどんな事したって、おまえの事、キライになんかなってやんないからな。」
勢いづいたヒカルは挑むようにアキラを見上げて続ける。
「キライになんかなってやんないからな。
何したって好きだからな。
覚えてろよ。おまえから離れてなんかやんないからな。」
ヒカルを睨みつけていたアキラの眉が不快げに強張る。
が、何かを言おうと口を開きかけたアキラは、その口を閉じ、ヒカルを睨みつけてからくるりと背を向けた。
「なんだよ、ヤらねぇのかよ。」
ヒカルを置いて出て行こうとしたアキラの背中に、ヒカルは言葉をぶつける。
「意気地なし。」
歩き出しかけていたアキラの足が一瞬止まり、けれどまた歩き始める。
それを引きとどめるようにヒカルは続ける。
「根性なし。臆病者。オレが怖いのかよ。」
ドアノブに手をかけていたアキラはゆっくりと振り返り、冷たくヒカルを一瞥する。
「よく、言ったな。」
負けじとヒカルもアキラを睨みつける。
低い、氷のような声が響いた。
「望み通り抱いてやろうじゃないか。」


(7)
「おまえさぁ、こーゆーとこ、前にも来たことあんの?」
「まさか。」
「だってさぁ、なんかすげー慣れてるみたいで……」
ヒカルの言葉に、アキラはさも不愉快そうに眉をひそめ、侮蔑するような表情でヒカルを見返した。
だって部屋に入る時だって、全然迷ったりとかしてなかった。初めて来たふうになんか見えなかった。
誰かと―――誰と、来たことがあるんだろうか。

塔矢アキラとラブホテル。あまりにも似合わない単語の取り合わせだ、とヒカルは思う。
けれどそれを言ったら、今までに知ったアキラの見た事も無い一面が、あまりにも「塔矢アキラ」らしからぬ
ものでもあったのだが。
誰かに言う気なんかこれっぽっちも無いけれど、それでももし誰かに言ってみたところで、信じる人なんか
いる筈がない、とヒカルは思った。

妙に可愛らしい少女趣味なピンクのフリルのベッドカバーが、いかにも、といった感じで居心地が悪い。
本当に、本気でする気なんだろうか。
挑発したのは自分のほうだけど、まさかこんな所にまで連れてこられるとは思わなかった。
本当に、あいつが何を考えているんだかさっぱりわからない。
これからどうしたらいいんだろう。どうするつもりなんだろう。
怖い。本当はすごく怖い。でもここまで来て今更逃げ出せるわけもないし。
「……塔矢、」
所在無さげに辺りを見回していたヒカルは助けを求めるようにアキラを見た。
ヒカルがきょろきょろとしている間に、いつの間にか華奢な籐製の椅子に腰掛けていたアキラがヒカルを
見上げていた。相変わらず冷たい視線に怖気づきそうになる。けれどここで逃げたら負けだ、と言う意識
もあって、ヒカルもきゅっと顔を引き締めた。
「塔矢、」
もう一度呼びかけると、長い脚を見せつけるように組み、身体の前で軽く指を組み合わせたアキラは、
傲岸不遜にヒカルを見上げたまま、言い放った。
「脱げよ。」



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