夢の魚 7
(7)
進藤がルリイロスズメダイと長年呼んでいた魚は、本当に綺麗な青い色をしていた。
空や海を思わせる青じゃない。
それは宝石の青だ。
母の宝石箱にある青い石はなんといっただろう。エメラルド? サファイア? ルビーは確か赤い石だったと思う。
水槽の中で、珊瑚の枝を縫うようにして泳ぎ回る青い魚が、泳ぐ宝石のように思えた。
空のように、海のように、透明ではない。
もっとはっきりとした色、でも水の流れや光線の加減で、微妙に色見が変わる。
生きている青だ。息衝く青だ。
瑠璃の魚は、群れで動くのが習性らしい。
白とピンクの珊瑚の影に隠れている。でもなにかの弾みで、一遍に200前後がさあっと動き出す。
一瞬水槽の中が、青く染まったように思えるが、すぐにまた珊瑚の向こうに姿を隠す。
「綺麗だろ?」
「ああ」
「俺の一番好きな魚なんだ」
その言葉になにか特別な含みがあるようで、僕はなんと答えていいのかわからず、そっと進藤を盗み見た。が、すぐに視線を戻した。
なぜなら、進藤が見ていたのは、僕だったからだ。
胸が騒いだ。
落ち着かない。ひどく落ち着かない。
なにか言わなければと思うけど、なにを言えばいいのかわからない。
そんな僕を助けてくれたのは、一匹の魚だ。
「進藤、これはなんて言うのかな?」
「これ? どれ?」
「この魚、この黄色と黒の……」
「ええっと。これは、クマノミ……だね」
「これ……」
「いいよ、言わなくてもわかるよ。俺に似てんだろ?」
不貞腐れたような進藤の言葉に、僕は笑った。
クマノミは、金と黒の縞模様。進藤の髪のようだ。
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