断点-3 8 - 9


(8)
「脱げよ。ボクが好きなんだろう?ボクに抱いて欲しいんだろう?
だったらさっさと脱げよ。それとも着たままされる方が好きなのか?」
突然の言い草に大きく目を見張ってアキラを見返す。けれど変わらずに冷ややかな視線で見上げて
いるアキラに、ヒカルも覚悟を決め、ギリ、と睨み返した。

アキラを睨みながら上着を脱ぎ捨て、更にネクタイを解き、ワイシャツのボタンを一つ一つ外していく。
その様子を、アキラは無言のまま無表情に見ていた。
ヒカルはシャツを脱ぎ捨て、更にTシャツの裾を捲り上げ、頭から引き抜いて放り投げる。
ぱっと見だけは豪華そうなシャンデリアの安っぽいキラキラした光の下で、ヒカルは裸の上半身を
晒してアキラに向き合う。
が、変わらずアキラは冷ややかな視線を向けてヒカルにその先を促した。
アキラの目を見据えたまま、ヒカルはベルトに手をかけた。

最後の一枚はさすがに躊躇した。
何しろこっちはパンツ一枚になっているのに、向こうは相変わらずきっちりとスーツを着込んで、眉
一つ動かさずに自分を見ているのだ。
屈辱と羞恥と怒りとで震えそうになる身体を必死にこらえて彼を睨み付けた。
だがその視線を受けても、彼はびくともせずに変わらぬ冷ややかな視線を返した。
それでも、ここまで来て引き返すなんて出来ない。
自棄のように乱暴に下着を足から引き抜き、バシッと音を立てるほどに放り捨てて、震えをこらえる
ように両拳を握り彼の前に仁王立ちになって全てを曝け出した。


(9)
上から下へゆっくりと降りていった視線がまた上に戻り、ヒカルの目を捕らえる。
言葉もなく真っ直ぐ見る目に耐え切れずに奥歯を噛んでぎゅっと目を瞑った。
普段以上に肌の表面が敏感になっているような気がする。
空調の風が肌にあたるのがイヤな感じだ。
早く。
早く何とかして欲しい。
せめて何かひとこと言って欲しい。
塔矢。

空気が乱れたような気がして目を開けると、アキラが椅子から立ち上がり、けれどヒカルを見ては
いない事に、ヒカルは呆然とした。
「…塔矢……!」
その声が届いてもいないように、アキラはヒカルを見ないまま、その横をすり抜けようとする。
「待てよ、なんだよ、どこ行くつもりだよ。」
思わず引きとめようと伸ばした手を無言ではらわれて、ヒカルの目は大きく見開かれる。
「どういうつもりなんだよ、おまえ!」
やっと振り返ったアキラはヒカルをちらりと一瞥して言い捨てた。
「――やる気が失せた。」
「…なんだよ!?それ!!」
「いくら据え膳でもそんなんじゃ食欲がわきやしない。出直してきな。」
「な…ふざけんなよ!」
「何が?」
「何って、ここまでさせておいて、それはないだろう…!」
「キミが勝手にした事だろう。
残念ながらその気になれそうにないから失礼させてもらうよ。」
「ふざけんなよ、塔矢、いい加減にしろよ!!」
「触るなッ!」



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