羽化 9 - 10
(9)
二人とも、酔っているんだ…酒のせいだ…。
アキラの体重と体温を感じ、アキラの唇を味わいながら、芦原はそんな言い訳を心に浮かべた。
だが本当はずっと心の底にこうしてアキラを抱きたいと言う願望は眠っていて、アルコールはその
願望を抑え込んでいた理性のたがを緩ませたに過ぎないという事を、芦原の半ば酩酊状態に近
づきつつある脳の片隅に残った理性は知っていた。だが芦原はその理性をアルコールの霧の向
こうへ追いやる。そして自分の上にのしかかっていた少年の身体を逆に自分の下に押さえ込んだ。
潤んだ黒い瞳が自分を見つめている。紅い唇が誘うように僅かに開かれている。
手を伸ばして指先で唇にそっと触れる。その輪郭を確かめるようにそっとなぞりながら視線を白く
細い首筋へ、そしてパジャマの襟元から覗く華奢な鎖骨へと降ろし、それと同時にパジャマの
ボタンを一つずつ外して、胸元をはだけさせた。
少年の身体を、白い薄い胸を、一瞬眉を顰めて、眺める。アキラの目が、それでどうするつもり
なんだ、と問うように、挑戦的に自分を見上げている。その視線に対抗するように芦原はアキラの
ズボンに手をかける。一瞬アキラの視線が怯む。アキラの怯えが芦原の手を後押しして、芦原は
アキラのパジャマのズボンを下着ごと引き下ろした。一気に身体を外気に晒され、アキラは緊張
に下半身をひくりと震わせる。そして唇を噛み締め目を閉じて横を向く。
その初々しい様子に芦原は彼の頬を慈しむように撫でた。そして露わにされた股間に手を伸ばし、
まだ大人になり切れていないアキラの性器を手にした。不思議と違和感も嫌悪感もなかった。
自分の下で少年が息を飲むのを感じる。まるでイタズラ半分に年下の少年にマスターベーション
を教えてやるように、手の中のモノを擦りあげる。少年の息が荒くなる。手の動きに力と熱が加わる。
少年の口から噛み締めるような息が漏れた。
(10)
そして芦原の手によって到達させられてしまったアキラは、うっすらと涙を浮かべて、芦原をなじ
るような表情で睨みつけた。まるで一人だけ先に果ててしまった事が悔しいと言うように。その表
情が可愛いらしいと思って、芦原は宥めるように彼を見る。
すると、突然、アキラが手を伸ばして芦原の胸元を掴んだ。そして目は芦原を睨み付けたまま、
先程自分がされたように、芦原のパジャマのボタンを外そうとする。その指先が震えている。
芦原はその手をそっととり、震える細い指に軽くくちづけした。そして残るボタンを自分で外し、
上着を脱ぎ捨てる。それから少年の身体を僅かに覆っていた、はだけられただけの上着を腕か
ら抜き取り、裸の身体を抱きしめた。抱きしめながら、少年の細い首筋に唇を寄せる。
強く吸い上げてから唇を離すと、白い肌に紅い花が散る。芦原は鮮やかなその色に見惚れた。
滑らかな肌触りを堪能するように手を滑らせながら、いつも目を奪われそうになっていた華奢な
鎖骨に歯をたて、カリッと齧った。
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