夢の魚 9
(9)
「つまんない?」
「え? なんで?」
「なんでって、おまえがぼんやりしてるからだろう? さっきから話しかけても、上の空だしさ」
気分を害したのだろう。進藤がすっと顔を背ける。
「あ、違う。つまんなくない。ただ、ちょっと考え事して」
「考え事?」
僕はいつになく必死になっていた。
せっかく、進藤が誘ってくれたのに、たとえ短い間でも、他の事に気を取られていたなんて。
それは、誘ってくれた進藤に失礼だ。
「うん、傘のなかで見た魚のこと……」
進藤の肩がぴくっと揺れ、ゆっくりと振りかえる。
彼の瞠いた瞳に、僕は自分の失着を知る。
言うつもりのなかったことを、僕は焦りのあまり言葉にしていたんだ。
こんな、説明したって理解してもらえないようなことを―――。
顔を背けるのは、今度は僕のほうだった。
「塔矢」
進藤が僕の手首を掴んだ。
「俺、ここでボーっとするのが好きなんだ」
そう言いながら、僕の腕を引っ張るようにして、進藤は先を急いだ。
「こっちこっち」
僕たちは水槽の中にいた。…………というのは、勿論、一瞬の錯覚。
始めて目にする形状の、水槽だった。
ドーナツ型と言えばわかってもらえるだろうか。
そのドーナツの真中の空洞に僕たちは立っていた。
青白い光のグラデーションが薄暗い水槽の中に、柔らかく溶け込んでいるようだった。
細かな気泡が、下から上へ帯のように連なってあがっていく。
金と青の魚が遊んでいた水槽が夏の海だとしたら、いま目の前にある海は冬を連想させる。
劇的な変化にとどめを差したのは、銀鱗を煌かせて泳ぐ魚群。
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