ストイック 9


(9)
「一応、医者に行くか?」
「いえ、大丈夫です。たぶん、ただの貧血じゃないかな。貧血なんて初めてだけど…」
あの後芦原さんは僕を居間に運んでくれて、布団を掛けてくれた。
少し眠っただけでも気分は楽になり、芦原さんが作ってくれた鍋焼きうどんをたいらげる頃にはずいぶん落ち着いてきた。
それでも食器をさげようと立ち上がった瞬間、僕は立ち上がることができずに、その場に座り込んでしまった。
手にした食器がテーブルに落ちて、転がった。
「アキラ、いいから座っていろよ」
咄嗟にさしだされた芦原さんの手に支えられながら、僕は座りなおした。
からっぽの胃に熱いものを入れたせいか、急に眩暈がぶりかえしてきた。
僕は芦原さんの胸に倒れこみながら、立ち上がろうとして彼の腕を掴んでいた。
「アキラ…」
ささやくような声でそう言って、芦原さんが僕を抱きすくめた。
あまりに急な出来事に、驚いて僕は身体を緊張させた。
「あ、芦原さ…」
言いかけた僕の口を、芦原さんの口がふさいだ。
そのまま芦原さんはゆっくりと腕を下ろして、僕の身体を横たえた。



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