狩人の館には常世の人が聞いたらたぶんビックリするような掟がいくつもアル
ルールといえばルールかもしれないし,一応は規則になってるけど,それがどこかのはり紙に書いてあるわけじゃなくて,いきなり狩人から通達がくるノ...
今日ワタシが通達を受けたのはこのような内容...
『戒季(かいり,ワタシのコト)宛
汝の罪を今夜問うことに決定した 2Fの教会まで出頭せよ なお教会へ入る際しては,門番に汝の名を伝えよ.それまで心置きなく余暇を過ごせ』
まるで裁判をしてショケイしてやる,と言わんばかりの,狩人からの非道でしかも権威的なコトバ...
アイツが言うワタシの罪とは,良識のあるヒトが聞いたら,腰を抜かすようなこと...たいしたことじゃなく,ただ屋根裏でキレイな満月を観ていたら,昔を思い出している内に,ムショウに飛びたくなって...だから自殺というわけじゃなくて...この頼りない羽でパタパタと...
そうそう,言うの忘れちゃったけど,ワタシね,実は人間じゃないノ
正確には人間だったころもあるケド
で,今はどういうわけか蝶に...
満月を見ていたら,ワタシがまだ人間だった頃を思い出したワケ
そんなひとりよがいの思いでを少し顧みていたら,人間に戻りたい,戻りたくない,戻りたくない,戻りたい...
いろんなヒトのコトとか,いろんな場所とか,自分のコトはあまり好きじゃなかったケド.
だけど,やっぱり,戻りたい! という意識がたぶん強く働いちゃったんだね,この粉々しい羽根に...
ほんとちょっとだけだったのに,お外の世界に向かって飛んだのは,羽根を数回パタパタしただけで,とても飛んだような気分なんてありゃしない.滞空時間は数秒ぐらいカナ?
そしたら,すぐ察したんだろうネ,アイツが...
ワタシが二枚の羽根で空気の流れに乗ろうとするその,数百倍の風圧が,ワタシを目掛けて押し寄せてきて,屋根から満月に突き刺さるよう伸びていた近くの煙突に吸い込まれ,アレヨアレヨと言う間に館に連れ戻されてしまったノ
狩人から通達が来たのは,そのすぐ後で...なんの罪の意識もなく(アルワケナイ)ワタシが自分の部屋に戻って,煙突で黒く汚れた身体を全身でプルプルさせ,もう疲れたから寝ようかなぁ,なんて思っていたトキ
気がつくと扉にデカデカと,先にも述べたような内容のはり紙がしてあった.
まだ,狩人の館で生きることの厳しさをワタシは知らない
こんな日記を書いていけるのも今の内かもしれないし...
でも,ワタシはこの道を選んだんだ...
だから,狩人の館に誘われる時,その誘惑にワタシは勝てなかった...
否定したいけれど,人間でいるよりは,ずっとずっとましな生き方だと思っていたから...
本当はそんな自分がおそろしくコワい.
狩人からの罰なんかよりも,自分の決断力,判断力の結果が,いつもコワくて怯えていた.
昔からワタシはそんな人間.
で,今は蝶に成り果てた...
これから神のいない教会に行ってきます...