―相田ケンスケ君の日常―
part1(後編)

作:えみこさん




「ええっ!! 写真を撮ってくれだって!?」

翌日、俺は学校でみんなに昨日の話をした。

「ちょっとぉ、アンタ嘘つくならもっとマシな事言いなさいよ」

惣流ははなから信じていないようだ。

「ア、アスカ、そんなこと言ったら悪いよ…」

「じゃ〜あシンジはどう言う風に思ってるってのよ?」

「あ、いや…それは…その…」

―おいおい…シンジ、お前まで信じてくれないのかよ―

「まったく物好きもいたもんやなぁ」

―トウジ…お前の感想はそれか・・・―

「いや…だけど相田君のカメラ技術を考えたらそれは最良の選択だと思うよ」

―渚! お前って奴は・・・なんて良い奴なんだ(涙)―

「だってそうだろう? 盗み撮りで被写体の能力を引き出してくれるカメラマンなんてそうそういないと思うよ?」

「しかも無料でなんてね」

―渚・・・前言撤回だ…―

「あぁ! そうよねぇ。おだてておいて無料で撮らせる」

「それをアイドル事務所かなんかに持っていけば完璧よね!」

惣流はなにか納得したかのようにしきりに頷いている。

「ちょっと、みんな。それは相田に悪いわよ」

―いいんちょう〜〜(涙)―

「ヒカリィ、アンタはじゃあどうだと思うの?」

「それは…だから、相田のカメラマンとしての才能を買って申し出たのよ」

―うんうん、さすが委員長―

「で? その写真をその子はどうすると思う?」

「え…? それは…やっぱりオーディションかなんかに・・・」

「委員長・・・もう良いよ・・・」

俺はマジで半泣きだった。

「あ、いや、ちがうのよ! きっと記念に取っておくのよ! そうよ!」

―委員長がフォローしてくれてるからそう言う事にしておくよ・・・―
 
 

実際、俺もなんでそんなことを頼まれたのかわからなかった。

彼女は写真を撮ってくれとだけ言うとそのまま走り去ってしまったのだから。

「で? その子ってどんな子なのよ?」

惣流はどうやら興味津々のようだ。

「よっしゃ、今からその子を見に行こうやないか!」

「え? え?」
 
 
 

俺は何も言う暇もなくその子のクラスまで案内させられた。

「ええ〜! あんな可愛い子なのォ!? ま、アタシには負けるけどね」

「ほぇ〜なんやめっちゃ可愛いやないけ」

「ほんと…すごく可愛い・・・」

「まるでなにも知らない無垢な天使のような娘だね…」

「お、おい、もう良いだろう。クラスに戻ろうぜ」

渚や惣流はただでさえ目立つんだ。こんなところに長くいたら怪しまれる。
 
 

「なにか、裏を感じるわね」

教室に戻る道すがら惣流が口を開いた。

「もう、アスカったらそんな事ばっかり」

「…? どうした? シンジ」

さっきからずっと何かを考えているようだった。

「あ、いや…何でもないんだけど・・・」

「なによ、はっきりしなさいよ男のくせに」

「う…ん。なにか、どこかで見たような気がするんだ・・・」

「そりゃ、あれだけ可愛い子や、一度見たら覚えてるやろ」

「そうなんだ…だから…気になるんだけど思い出せないなぁ」

「なぁによ、シンジ。あんな子がそぉんなに気になるの?」

「あ、いや、そんなんじゃないんだよ! もう…からかわないでよ」

―一体なんだって言うんだ―

*

今日も帰りは俺一人。

昨日彼女に出会った道にさしかかると昨日の事がよみがえってきた。

「ホントに可愛かったよなぁ・・・。あんな子の写真を堂々と撮れるなんて…」

俺は一人で含み笑いをしていた。はたから見たらかなり怪しい奴だろう。

「相田さん」

不意に後ろからかけられた声。それだけで俺は声の主がわかった。

「や、やぁ。君か」

平静を装い声をかけるがかすかに声が震えている。

それもそのはずだ。俺が女の子と二人きりで会話をする事なんて

生まれてこの方数えるほどしかないのだから。

「あの…これ…」

彼女がなにか紙を差出した。

―ま、まさか…ラ、ラヴレター!? ―

「それじゃ、お願いしますね!」

俺が紙を受け取ると彼女は走り去っていった。

俺は緊張気味にその紙を開いた。薄目でそーっと紙をのぞくと・・・。
 
 
 

そこには地図が記されていた。

*

日曜、俺は彼女に渡された地図を頼りに指定の場所へと向かった。

「あれ…ここは遊園地・・・」

派手に飾られたここは第三新東京市では数少ない遊技場だ。

ぐるっと周りを見渡すと俺の視界に見覚えのある姿が映った。

「相田さん!」

そこに立っていたのは真っ白なワンピースを身につけた彼女だった。

「や、やぁ。ごめん、待った?」

「いえ、私も今来たところですから」

そう言って微笑む彼女の髪を風がなでた。

ふわりといい香りが漂ってくる。

―こ、これは写真って言うのは実は口実なんじゃないか? ―

甘い期待が俺の頭をよぎる。

「入りましょう!」

彼女はそう言ってスカートのすそをふわりと風に乗せ走り出した。

「あ、ちょ、待って。俺チケット買わないと・・・」

彼女はくるりと向きなおし俺に紙を差し出した。

「あ、それだったら私が買いました。はい、これ」

「あ、サンキュー。いくらだった?」

彼女から受け取ったチケットを口にくわえ俺は財布を取り出そうとした。

「いえ、いいんです。私が誘ったんだし、写真まで撮ってもらうんですから」

「でも…それは悪いよ」

―デートでは男が金を出すものだ―

という言葉が口から出そうになるのを必死に抑えた。

「ホントにいいんです! いきましょ!」

彼女に手をつかまれ俺は走り出した。

―て、手をつないでるよ(涙)神様ありがとう〜!! ―

園内に入場すると彼女は足を止め俺を振り返った。

「相田さん。あの…」

「ん? なに?」

「あの…今日は…私とデートしているつもりで写真を撮ってください!」

逆光でよく見えなかったが彼女は少し頬を染めているように見えた。

「デ、デ、デート?」

「あ、ご迷惑でしたか? だけど私・・・」

「い、いや、迷惑なんてとんでもない! 喜んで!」

―神様〜! 俺は今まで生きてきた中で今が一番幸せですぅ(涙)―

「よかった。ありがとうございます」

そう言って微笑む彼女はまさに女神のように見えた。

「あ、相田さん! このお花かわい〜♪ここで1枚お願いします」

手招きするしぐさで彼女が俺を呼ぶ。

「よし、それじゃ、撮るよ」

ファインダー越しの彼女の笑顔はまさに輝いていた。

歩けば誰もが彼女を振り返る。そんな彼女を今俺が一人占めにしている。

しかもつもりとは言え「デート」をしているのだ。

―こんなに可愛い子が何で俺なんかと…―

「相田さ〜ん! ここ、ここ! メリーゴーランドの前でお願いします!」

―ま、いっか! ―

「おう! じゃあその馬車が通った時に撮るぞ!」

「はい!」

彼女が俺…いや、カメラに向ける目は恋人に向けるそれと同じように感じた。

もちろん俺も盗み撮りなんかじゃない「自分の彼女」を撮るつもりで

最高の写真を撮りつづけた。
 
 
 
 

「はぁ〜たくさん撮りましたねぇ」

昼食のため俺達は園内のレストランに入った。

「うん、君、すごくいい表情していたよ」

「そ、そうですか? やだ〜はずかしい…」

両手で頬を抑えながら彼女は下を向いた。

「はは、恥ずかしがる事なんてないよ。緊張していると良い写真ってのは撮れないものだからね」

「そうですよね。私、相田さんのおかげですっごく写真を撮られる事が楽しかった!」

「それはよかった。こっちも撮る甲斐があるってもんだよ」

汗をかいたアイスティーのグラスを手に一気に飲み干した。

一見何事もなく会話をしているように見えるが俺はずっと緊張していた。

ファインダーをのぞいているときは写真を撮ることに集中しているから

平気なのだが、あらたまって二人きりで話をすると緊張で喉がからからだった。

「良い写真、撮れました?」

「うん、今日はほとんど良い写真ばかりだよ」

「どうしてわかるんですか?」

「良い写真が撮れたと思うとね、頭の中で現像後の写真が出来あがっているんだ」

「わぁすご〜い」

「それにね…こう言う良い写真を撮るためには・・・」

俺は言葉を止めて息を吸いこんだ。

「被写体と、カメラマンの…き、気持ちがリンクしていないとダメなんだ」

「どちらかの気持ちが他を向いていると…本当に良い写真ってのは撮れないんだよ」

「……」

―沈黙だ・・・彼女の気を悪くさせちゃったかな・・・。でもデートだって言っていたし・・・―

俺はそーっと彼女を見た。

「…やっぱり、そうですよね」

彼女の目が輝いている。やっぱり彼女は俺のこと・・・!? 

「私ね、まだこの中学に転校してきたばかりなんです」

―なるほど。彼女の事を俺が知らなかったわけだ―

「それでね…それで…」

彼女は真っ赤な顔でうつむいた。

「クラスの子から相田さんの話を聞いて、それで…」

俺は胸の鼓動を抑えながら彼女の言葉を待った。

「相田さんの事・・・悪いとは思ったんですけどしばらく見てたんです」

―か、彼女が俺のことを見ていた!? ―

「そしたら、本当に真剣に写真を撮っていて・・・」

俺の心臓が更に高鳴っていく。

「あぁ、この人だなって思ったんです!」

ぱっと彼女が顔を上げた。その顔は赤く目は潤んでいた。

「そ、そうだったのか…お、俺…君の事…」

「この人ならきっと良い写真を撮ってくれるだろうって!」

―へ? ―
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「えへへ。私ね転校したから前の学校の彼氏と、はなればなれなんですよ」

「か、彼氏?」

「だからせめて写真でも・・・って思って」

「あ、あはは。そうか…それで俺を・・・」

「ごめんなさい。でもずっと見ていて相田さんならきっと良い写真が撮れるだろうって」

「あ、あの、じゃあ"デートのつもり"って言うのは・・・?」

「あぁ、それですか? それはさっき相田さんがおっしゃったように気持ちをリンクさせるためですよ」

「私、彼と一緒にここに来たようなつもりでいたんです!」

「そうしたらやっぱり相田さんは良い写真が撮れたって言ってくれて・・・」

「あ、あはははは…そうかぁ。そういう事かぁ」

「それじゃあこの写真は・・・?」

「はい! 彼に送ります! 

「そ、そうだよね…そうだよね。あははははははははは」

「えへへ。はずかし〜」

俺の気持ちが今すぐ体に現れるとしたらきっと痩せこけて髪は真っ白だっただろう。


―次の日―

「ケンスケ! 思い出したよあの子!」

シンジが俺のもとに駆け寄ってくる。

「ぼくがここに転校する前の学校にいたんだ!」

「ああ…そうらしいな…」

「そうらしいって、ケンスケどうして?」

「もう俺のことはほっといてくれよ…燃え尽きたんだよ・・・真っ白にな・・・」

―神様、俺は一体いつになったら幸せになれるんですか〜! (涙)―

―終わり―


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管理人のこめんと

 えみこさんからまたまたいただきました。ありがとうですっ。
 ね? 予想どおりだったでしょ? (爆) ここんとこ格好いいケンスケしか見てなかったので、こういうのは何かほっとするですね(^-^)。
 part1、ってことは続きもアルですか? 是非! 見たいですね。
 てことで……

渚カヲルの勝手に次回予告
 いやあ、友情って素晴らしいね。リリンの生み出した奇跡だよ。
 だってそうだろう? 僕らはみんな、ケンスケのことを信じてるんだ。君に彼女が出来るワケないって。泣かせる話じゃないか。でも、一時はどうなることかと思ったよ。あぶないあぶない(謎)。
 それぐらいのことで燃え尽きるなんて甘い甘い。だって、君には不幸の星が憑いてるんだから。
 君にはこれからもささやかな不幸がちまちまと訪れることだろう。だって、みんながそれを望んでるんだから。
 目の幅涙を流し、真っ白に燃え尽きながら己の不幸を嘆く君の姿は、僕らに明日への勇気と希望を与えてくれる。
 さあ、立つんだケンスケ! 泣いてるヒマなんてないよ。明日は明日の不幸が君を待っている! 
 …ま、今日の分がこれで終わったとは限らないけどね(爆)

 とゆうわけで皆さん、立て続けに作品を送ってくださったえみこさんに、やっぱケンスケの不幸はデフォだよ、とか、「ケンスケの(不幸な)日常」シリーズ化希望っ、とか、感想や応援のメールをじゃんっじゃん送って頑張ってもらいましょうっ。

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