寄せる波、返す波。一面の赤い空。

一見、普通の風景のように見えるこの世界。

紅い海、裂かれた月。

どこかが普通とは違っていた。

普通とは違う風景の中に、二つの影。

その内、一つの影がもう片方の影に

こつんと寄り添う。

それは、はじめて心が通い合った男女の姿…。

お互いを拒絶しあい、寄り添うことを知らなかった二人。

はじめて素直になれた。紅い海の前で・・・。


―世界の、

まり―
Vol.3
作:えみこさん



「ねぇ、シンジ・・・アタシたち、これからどうしたら良いのかな?」

シンジの肩に頭をもたれたままアタシはつぶやく。

「う…ん…」

そのままシンジは黙ってしまう。

「正直・・・アタシにも良くわからないんだ。どうしたら良いというより、どうしたいかって事が」

シンジは黙ったまま少し体を震わせた。

「ア、アスカ・・・今、こうなってしまったのは…ボクが・・・ボクが…」

シンジの膝元で握り締められた手が震えている。

「良いのよ。わかってる」

「え…?」

シンジの言葉を制止して、アタシは言葉を続けた。

「ねぇ、シンジ。アタシ達ってさ、お互いの事何も知らなかったと思わない?」

「シンジの事だけじゃないけど…一番アタシ達は近くにいたはずなのにね…」

シンジは何も言わない。ただ、遠くを見つめている。

「だからさ…今は世界がどうこうよりも、お互いを知らなきゃいけない時なんじゃない?」

「アスカ・・・」

シンジは目線をアタシに戻し、小さな声でアタシの名前を呼んだ。

「ボ、ボク達が今ここにいるのは・・・ボクがこの世界を望んだからなんだ」

「だから、それは良いのよ」

「良くなんかないよ。アスカが今言ったじゃないか。お互いを知らなきゃいけないって」

「シンジ・・・」

シンジがアタシを見る目は以前のように怯えたものでなく、真剣なものだった。

「うん…でもね、ファーストから聞いたのよ。この世界の事」

「アタシね、最初はシンジの事を恨んだわ。シンジのせいでこの世界に巻き込まれたんだって」

シンジの体がビクッと反応する。

「だけど、アタシがシンジの立場でもきっとこう言う世界になったわ」

「だから…もう自分を責めるのはやめて。ね?」

シンジの肩にもたれていた頭を上げ、アタシはシンジを見つめた。

「アスカ・・・ゴメン・・・ゴメン。アスカの辛いときにボクはアスカから逃げて」

「その上この世界に巻きこんだ。ゴメン・・・アスカ・・・」

シンジはうつむき、握り締めた手を更に震わせた。

「良いのよ…。それにアタシが一番欲しかったものをシンジはくれたもの」

シンジの顔に両手当て、そっと上に上げた。

「さっき、アタシのこと抱きしめてくれたでしょ? その時ね "あぁ、アタシが一番欲しかったのはこれだ

ったんだなぁ"って思ったの」

「今までずっと肩肘張って、プライドだけを支えにして生きてきたけど、今はそれだけじゃない・・・」

アタシがそう言って微笑むと、シンジは力が抜けたように目を閉じた。

「ありがとう…アスカ」

アタシもシンジもここから先、言葉は必要ないと思った。

ただ、黙って寄り添い、紅い海を見つめた。

波の音に混じって聞こえる鼓動、呼吸する音。その全てがいとおしく、大切だった。

アタシ達はまだ人生の半分も生きていないけれど

お互いそれぞれに色々な事があった。それはおおよそ普通の14歳が

経験する事は少ないであろう事だったと思う。

だからお互い心を閉ざし、触れ合う事もなかった。

だけど、だからこそ今、この何もない瞬間が大切なのだと思う。
 
 

これからこの世界がどうなるのかはファーストの言うようにシンジにかかっている。

だけど、それをシンジ一人に背負わせることはアタシは違うと思う。

どう言う経過でアタシがこの世界にいるのか、今はどうでも良い。

ただ、今はアタシが少しでもシンジの負担を軽くしてあげる事が出来るならば

アタシはそれを惜しまない。

アタシが欲しかったものをシンジがくれたなら今度はアタシの番だから・・・。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「ここは…どこ…?」

アタシは辺りを見まわした。

気が付くと目の前にあった紅い海も、

アタシのとなりにいたシンジの姿もここにはない。

「やぁ。惣流・アスカ・ラングレーくん」

アタシの前に現れたのは見覚えのないやつだった。

「アンタ・・・だれ? ここはどこなの?」

「今は・・・そんな事問題じゃないよ」

初めて会ったはずなのに、それほどこの人物に警戒心を抱かなかった。

「君は、シンジくんを助けたいのかい?」

「え…?」

「この世界を元の世界に戻したいかい?」

「何でアンタが・・・そんな事知っているのよ…」

ここは、行った事はないけれど宇宙空間のような感覚を覚える不思議な場所だった。

前の世界にはアタシとシンジしかいなかった。

でもここにはアタシと目の前のこいつしかいない・・・。

「君も、まだ正直怖いのだろう?」

「怖い? アタシが何を怖がっているって言うの?」

「元の世界に戻る事さ。そうすればまた君はいろいろな使命を背負うかもしれないからね」

「アンタ…一体・・・?」

「君が恐怖している事と、シンジくんが恐怖している事はひどく似ているよ」

「そんな二人が寄り添いあっていても結局傷をなめあうだけで元には戻れない」

「…!? ア、アンタにアタシやシンジの何がわかるのよ!?」

アタシがバカにされた事よりも人類の存亡と言う重い使命を背負わされたシンジを

バカにされるのは許せなかった。シンジの気持ちが今のアタシには痛いほどわかるから。

「君達は人に本心を見せるのが怖いんだ」

「何言ってるのよ! ふざけないでよ!」
 
「本心を見せるのが怖いからそれを隠し、そして傷つく…人の心は痛がりだ」

「本心を見せてしまえば楽になれるのに、君達はそれをしようとはしない」

「やめてよ・・・」

「君達の心は他の誰よりも繊細で痛がりなんだ…」

「やめてったら!!」

「アタシは何を言われもかまわない! でも、シンジの事をバカにするのだけは許さない!」

自分でも知らないうちに見ず知らずのそいつに怒鳴っていた。

「………」

そいつは黙ったままアタシを見つめて微笑んだ。

「君は・・・変わったね」

「今、僕に君の本心をぶつけた。今までの君だったらそれが出来なかっただろうね」

「君がいればシンジくんも大丈夫だよ。安心した」

そいつはアタシのもとに歩み寄り、顔をそっと近づけた。

「…!? な、なにするのよ!?」

「何って・・・くちづけだよ。ほんのおまじない代わりさ…」

あっけに取られたアタシに手を振りながらそいつは消えていった…。
 
 
 
 
 
 
 
 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ…」

アタシはものすごい汗をかいていた。

「ゆ、夢・・・?」

アタシの目の前にはさっきまでと同じ紅い海が広がっていた。

「アスカ・・・? 怖い夢でも見ていたの・・・?」

心配そうにアタシの顔を覗き込むシンジ。

「シンジ・・・大丈夫。なんでもない…」

アタシはシンジの肩から頭を起こした。

「誰だったのよ・・・アイツ・・・」

―君は、変わったね・・・―

流れる銀髪に目の前に広がる海と同じような色をした瞳の持ち主の言葉を思い出した。

―君がいればシンジくんも大丈夫だよ―

額から流れる汗を拭い、アタシはシンジと向き合った。

「アスカ・・・?」

「シンジ・・・アタシ達は正直言って、まだ元の世界に戻る事に不安を感じているわ」

「でもね。アタシ、シンジと一緒ならきっと平気だと思う」

アタシはシンジを見つめ微笑んだ。

そしてそっとシンジに顔を近づけた。
 
 

「…!? ア、アスカ・・・!?」

「ふふ…ほんのおまじないよ」

―アタシ達が、新しい世界を作る。素直になる事が最初の一歩 ―

アタシはもう迷わない。大丈夫。シンジと一緒なら・・・。

―新世界の始まりは、もうすぐそこまで来ているのかもしれない―
 
 

―続く―




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管理人のこめんと
 えみこさんからいただきました。「―世界の、始まり―」、第3話です。どっかのお気楽管理人と違ってムチャクチャ筆が速いです(^^;)

 アスカがリードしているのが何だかすごく自然で、シンちゃんの支えになろうと頑張ってるんだなぁと感じさせてくれます。誰かのためにつよくなるのって、素敵ですよね。
 やっぱり、眩しい笑顔でシンちゃんをぐいぐい引っ張っていくアスカが一番魅力的だと思います。で、シンちゃんの優しい笑顔ひとつで簡単にとろけちゃうあたりが可愛いというかなんというか。今はまだそんな状態ではないけれど、将来的にそうなりそうな気配が漂っていて、ほんわかします。

 さて。カヲルくんの登場で、何となく雰囲気がつかめた気がします。アスカとシンちゃんは、ふたりに見守られてたんですね。厳しいことを言って、アスカの気持ちを試したカヲルくん。なんかお兄さん、って感じです。…ところで「おまじない」は何処に? (爆)

 ふたりで一緒につくる世界。それがいったいどんなものになるのか、続きが楽しみですね。

 とゆうわけで皆さん、ハイペースで作品を送ってくださっているえみこさんに、これからもアスカらぶで頼むぜっ、とか、レイのことも忘れないでくれよっ、とか、感想や応援のメールをじゃんっじゃん送って頑張ってもらいましょうっ。
 えみこさんのメールアドレスはこちら。HPはこちら

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