ボク達は、ただ黙って寄り添い、紅い海を見つめた。
寄せては返す波の音。それに混じって聞こえるアスカ鼓動。
呼吸する音。その全てがボクの支えになった。
弱いボクの、たった一つのささえ・・・。
アスカはボクを許してくれた。
この世界に巻きこんだボクを、
辛いときに何もしてあげる事のできなかったこのボクを
やさしく支えてくれる。
だけど…ボクはアスカのそのやさしさに
甘えすぎてしまっているんだ。
いっそこのまま二人きりでも良いという考えすら
頭をよぎっている。
今、隣ではボクの肩でアスカが小さな寝息を立てている。
これまでボクのせいでずっと心が張り詰めていたアスカ。
ボクはアスカに何をしてやれるのだろう?
―シンジはアタシの一番欲しかったものをくれた―
アスカはそう言ってくれた。
だけど、ボクのせいでこの世界に巻きこみ、そのうえ
このままで良いなんていう考えをボクは持ってしまった。
それはアスカの為になるのだろうか?
わからない…。
アスカだって以前の世界ではずっと張り詰めた状態だったと思う。
使徒の精神汚染を受けてボロボロになったりもした。
加持さんの事だって・・・。アスカにとってはものすごく辛い出来事だったはずだ。
アスカは、元の世界にもどりたいと思っているのだろうか?
ボクは寝息を立てるアスカの髪をそっとなでた。
「う…ん…」
安心したように眠るアスカの顔。
ボクは、アスカを守りたい。
だけど…このままでも良いなんて思うようなボクが
一体誰を守れると言うんだ?
「……っ…」
「アスカ・・・?」
アスカは眉間にしわを寄せ、汗をかいている。
悪い夢でも見ているのだろうか・・・?
ボクはそっとアスカの額の汗を拭いた。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ…」
ぱっとアスカが目を覚ました。
「ゆ、夢・・・?」
アスカは目の前の紅い海を見つめていた。
「アスカ・・・? 怖い夢でも見ていたの・・・?」
ボクはアスカの顔を覗き込んだ。
「シンジ・・・大丈夫。なんでもない…」
アスカはボクの肩からゆっくり頭を起こした。
額から流れる汗を拭い、アスカはボクのほうを見た。
「アスカ・・・?」
「シンジ・・・アタシ達は正直言って、まだ元の世界に戻る事に不安を感じているわ」
「でもね。アタシ、シンジと一緒ならきっと平気だと思う」
アスカはボクを見つめ微笑んだ。
「…!?」
なんて…ボクはなんて事を考えていたんだろう。
悔しい、情けない…。
アスカのやさしさに甘えて
逃げることばかりを考えて、前に進もうとしない。
悔しい、悔しい、悔しい。
強く・・・なりたい。
その時、ふっとアスカの顔が近づく。
「…!? ア、アスカ・・・!?」
「ふふ…ほんのおまじないよ」
ありがとう。アスカ、君がそう望むならボクも強くなる。
そうだ、逃げちゃダメなんだ。また、君に教えられた。
ボクは君を守れるように強くなる。
うわべだけでなく、本当の強い心を手に入れよう。
―ボク達が、新しい世界を作る。逃げない事が最初の一歩 ―
ボクはもう迷わない。大丈夫。アスカと一緒なら・・・。
ボク達は、ただ黙って寄り添い、紅い海を見つめた。
寄せては返す波の音。それに混じって聞こえるアスカ鼓動。
呼吸する音。その全てがボクの支えになった。
だから、きっと出来るんだ。
傷つく事から、裏切られる事から
今まで逃げていた事に、逃げずに立ち向かう事が…。
―新しい世界の始まりは、すぐそこに・・・―