紅い海、裂かれた月。

ここは何もない世界。

生命の存在はただ二つ。

はじめの頃の、今にも消えそうな弱い生命ではない。

新世界を創造する、強い強い二つの生命。

この世界は、少しづつ変わり始めているのかもしれない。


―世界の、

まり―
Vol.5
作:えみこさん



―気が付くとアタシはまた一人だった―

「ここ…どこ?」

シンジの姿も、紅い海も、裂かれた月もない。

存在するのは、アタシと何もないこの空間だけ。

存在しているのか、それすらもわからない曖昧な世界。

「また…夢なの・・・?」

―違う・・・―

曖昧だけれど、ここにはアタシが存在している。

はっきりと意思を持って…。

―なんで? どうしてまた一人なの? ―

歩いても歩いても無限に広がる空間からは抜け出せない。

それどころか自分が"歩いている"のかすらわからない。

「シンジ・・・どこにいるの?」

―怖い…―

また、孤独と言う世界に押しつぶされそうになる。

―また、一人…―

アタシは走った。何もない空間では走っても

周りの景色は何も変わらない。

それでもアタシはひたすら走った。そうしなければ、

じっとしていれば、自分を保てないような気がしたから。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

―ママ! アタシ、選ばれたのよ! エリートなのよ! ―
 

―アタシはママの人形じゃない! ―
 

―アタシは一人で生きるの―
 

―やめて! アタシの心を読まないで! ―
 

―加持さん・・・どうしよう。アタシ…汚されちゃったよ…―
 

―アタシが心を閉ざしてるっていうの!? ―
 

―ミサトもイヤ、シンジもイヤ、ファーストはもっとイヤ―
 

―だけど、自分が…一番イヤ!! ―
 

―動かない・・・動かないのよ・・・―
 

―アタシなんて誰も要らないのよ・・・誰も・・・誰も・・・―
 

―一人はイヤ! 一人はイヤ! 一人はイヤぁ!! ―
 
 

「やめて…やめてよ・・・思い出させないで…」

アタシの体がかすかに震え出した。

「シンジ・・・シンジ…シンジ・・・」

シンジの名前を呼びながらアタシはフラフラと歩いた。

「怖い・・・一人はイヤ・・・」

アタシの弱い心が顔を出す。
 

―一人はイヤ! 一人はイヤ! 一人はイヤぁ!! ―
 

「そうよ…一人はイヤ・・・」
 

―アタシなんて誰も要らないのよ・・・誰も・・・誰も・・・―
 

「アタシは…誰にも必要とされていないの・・・?」

自分を失いそうになったその時、ふっと暖かいものが蘇る。
 

―アタシなんて誰も要らないのよ・・・誰も・・・誰も・・・―
 

「違う…違う! アタシは一人じゃない!」

アタシはうなだれた頭を上げぐっと歯を食いしばった。

「そうよ、一人はイヤ、孤独はイヤ! だけど! アタシにはシンジがいる!!」

「負けてらんないのよ! こんなところで! 決めたんだから!!」
 

瞬間、アタシの視界で一筋の光が反射した。

アタシはそこを目指してひたすら走った。

負けないと決めたから、元の世界に戻ることを恐れないと決めたから…。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

―気が付くとボクは病院のベットの上だった―

「やだな…また、この天井…」

ボクはゆっくりとベットからおきあがった。

「ボクは・・・どうしてここに・・・?」

ついさっきまでは目の前に紅い海が広がり、

隣にはアスカがいた。

なのに…ここは…? 

ボクはふと横を見る。

「と、父さん!?」

「シンジ・・・なぜここにいる・・・」

「なぜって…父さんこそどうして!?」

父さんは何も言わない。

「どうして何も言ってくれないんだよ! どうしてだよ!」

ボクの目の前に立つ父さんは口をつぐんだまま目を閉じている。

「どうしてだよ…いつもいつも、何でボクと向き合ってくれないんだ!」

「突然ボクを呼び寄せて、エヴァに乗れって言ったり、人類補完計画に巻き込んだり!!」

「なんでだよ! どうしてだよ! ボクにやさしくしてよ!!!」
 
 
 

静寂・・・
 
 
 

「と、父さん…?」

気が付くとそこは何もない空間だった。

存在するのは、ボクだけ。だけど、

ボクが存在しているのか、それすらもわからない曖昧な世界。

「ここはどこなんだ・・・?」

ボクは歩いた。何もない空間を・・・。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

―ボクは要らない子なの? ―
 

―なんで、なんで今更なんだよ! ―
 

―誰かボクにやさしくしてよ!! ―
 
 

「そうだよ…誰も、ボクにやさしくしてくれない・・・」
 
 

―誰かボクにやさしくしてよ!! ―
 

「だれか…誰かボクに・・・」

自分を失いそうになったその時、アスカのやさしいキスが蘇る。

―ふふ…おまじないよ―
 

―誰かボクにやさしくしてよ!! ―
 

「違う・・・ボクはいつも誰かに求めてばかりだった」

「でも、それは違う…違うんだ!!」

ボクははうなだれた頭を上げぐっと歯を食いしばった。

「そうだ、逃げちゃダメだ! ボクにはアスカがいる!」

「逃げちゃダメだ! 逃げちゃダメだ! こんな所で逃げるわけにはいかないんだ!」

瞬間、ボクの視界で一筋の光が反射した。

ボクはそこを目指してひたすら走った。

逃げないと決めたから、傷つく事を恐れないと決めたから…。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「アスカ・・・」

「シンジ・・・!?」

光を目指して走って、走って、

空間を抜けた先にはシンジが待っていた。

「アスカ!!」

「シンジ!!」

アタシ達は歩み寄り、しっかりと抱き合った。

「怖かった・・・怖かった。でも、シンジがついてるって思ったから、だから…」

「アスカ・・・ボクも、ボクも同じだよ」
 
 
 
 
 

“パチパチパチパチ”

「!?」

アタシ達はとっさに音のするほうを振りかえる。

「君達は・・・本当に強くなったね」

「か、カヲルくん!?」

「ファースト!?」

そこに立っていたのはアタシの夢に出てきた奴とファーストだった。

「カヲルくん…どうして…?」

シンジはアタシの夢に出てきた奴を知っていた。

「シンジ・・・こいつ・・・誰なの・・・?」

アタシはシンジの腕を引っ張った。

「惣流さん、こいつとはひどいなぁ。ボクはカヲル。渚カヲルだよ」

「渚・・・カヲル…」

「碇君、セカンド…もう、良いのね?」

ファーストが静かに口を開いた。

「良いって・・・どう言う事・・・?」

「君達のおかげで、世界には人が戻り始めているよ」

足下には霧が晴れるかのように青い空が広がった。

そこには行き交う人々の姿が・・・。

「さぁ、後は君達だ、元の世界へ・・・」

「ちょっと待って!!」

アタシは渚カヲルの言葉をさえぎった。

「アンタたちは・・・? アンタ達はどうなるの?」

「…私達は、人間とは違う生命体・・・アダムとリリスだから・・・」

ファーストは今までと変わらず無表情のように見えたが

少し、寂しそうな目をしていたように感じる・・・。

「綾波・・・カヲルくん・・・」

「許さない・・・」

アタシはつぶやいた。

「え…?」

3人が驚いた顔で私を見る。

「許さないわよ、そんなの。元の世界にアンタたちがいないなんて!」

「アスカ・・・」

「セカンド・・・」

「時間だ。さぁ、元の世界へ戻るんだ」

「特にファースト! アンタにはねぇ、まだ言いたい事だって山ほどあるのよ!」

なにか、見えない力に押されるような気がした。

だんだんファースト達の姿が霧がかかったように見えにくくなる。

「わかったわね! アンタ達 ……………・

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「やれやれ…リリンと言うものは本当にやかましいね」

「それに…お節介だ」

渚はそっと微笑んだ。

「ええ…ホントに・・・」
 

―ここからが本当の世界の、はじまり…―
 

―続く―




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管理人のこめんと
 えみこさんからいただきました。「―世界の、始まり―」、第5話です。2本まとめての投稿です。どっかのお気楽管理人と違って、ムチャクチャ筆が速いですね(^^;)

 アスカの側と、シンジの側、それぞれの心の補完。互いに寄り添うことで心の弱さを補い合うという形が、とても素敵です。
 これでふたりは元の世界へと戻っていったわけですが、やはりというか、レイとカヲル君は戻れないんですね。でも、そばにはいなくても、きっと見守ってくれていると信じます。

 さて、次回はいよいよ新たな世界の始まりです。
 えみこさんがどのような新世界を創造されるのか、続きが楽しみですね。

 とゆうわけで皆さん、ハイペースで作品を送ってくださっているえみこさんに、これからもアスカらぶで頼むぜっ、とか、レイのことも忘れないでくれよっ、とか、感想や応援のメールをじゃんっじゃん送って頑張ってもらいましょうっ。
 えみこさんのメールアドレスはこちら。HPはこちら

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