―世界の、始まり― #9

黄色い月、瞬く星

セミの声

行き交う人々

これが現実の世界。

一人一人が個人として存在する

本当の世界。


―世界の、

まり―
Vol.9
作:えみこさん



冷たい夜の風に少し身震いをする。

だけど、つながれたアスカの手は

とてもあたたかい。

ボクは、ずっとアスカに憧れていた。

いつも自信に満ちていて

物事をはっきりと言う

そんな彼女に憧れていた。

だけど、拒絶されるのが怖くて

ボクは何も言えなかった。

本当はずっとこんな風にアスカと

一緒にいたかったんだ。

その願いが今、叶ったような気がする。

だけど、これは多分違う。

ボクの気持ちを何も言わずに

願いが叶ったなんて思っていたら

きっといつかそれはするりとすり抜けていってしまう。
 
 

「ねぇ、シンジ」

「え? あ、何?」

「なんか良いね。こういうの」

「…?」

「今まではいつもぴりぴりした状態だったじゃない?」

「うん…」

「みんなに認められたいって努力するのがいつしか苦痛になっていたのね」

「今こうやって普通の中学生としているのがすごく嬉しい」

そう言って笑うアスカはものすごく…綺麗だった。

凛として、どこまでも自分を持っていて

うわべだけではなく、その全てが綺麗だった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「眠れない…」

自室のベットにうつ伏せてボクはつぶやいた。

あの世界での出来事、こちらに戻ってから、

ボクも少しは強くなったと言う自信はある。

だけど…もしボクの前からアスカが消えてしまったら…

自分を保てる自信がない。

強くなれたのはアスカがそばにいてくれたから。

アスカと言う、守りたいものがあったから。

離れたくない、離したくない。

…だけど

今までボクが何かを真剣に取り組んで

ろくな結果になった試しがないんだ。

みんなを助けようと思ったのに

"お前のせいで妹が怪我をした"

と殴られた。

父さんに認められようと頑張れば

"もう私を見るのはやめろ"と言われる。

みんなに認められようと頑張れば

アスカを怒らせる結果になってしまう。

だから、いつの頃からか

何でも適当にするようになった。

だって、それが一番楽だから。

誰も傷つけない、誰も怒らせない。

居心地が良いわけではないけれど

少なくとも嫌な思いはしないで済む。

そうやって生きてきた。

それで良いと思っていた。

欲しいものがあるわけじゃなかった。

欲しいものがあったってボクの手には入らない。

今までずっとそうだったから。

”パタン、ペタペタ”

―なんだ…? ―

「シンジ…起きてる?」

扉の向こうから小さな声で呼びかけるアスカの声が聞える。

「アスカ…? どうしたの?」

ボクの声が届くと扉がすっと開いた。

「あのさ…一緒に寝ても良い?」

枕を抱えたアスカがぴょこんと顔を覗かせる。

「ど、どうしたの!? それにそんな…」

ボクは驚いて声がうわずった。

「良いじゃない。だってあの世界ではずっと二人だったんだし今更…」

「そ、そうだけど…」

「だめ…?」

「えっ、いや…あの、その…ダメ…じゃない……」

「えへへ。ありがとう」

ボクの返事を聞くとアスカは素早く布団にもぐりこんだ。

「どうしたの? 急に?」

「なんかあの世界ではずっと一緒だったのに離れて寝るってなんか寂しくって」

持ってきた枕を抱きかかえてアスカは言った。

「そっか…そうだね」

「うん。お休み」

「おやすみ」
 
 
 
 
 
 
 

”ドキン、ドキン、ドキン”

余計に眠れないよ…。

こんなに近くにアスカがいるのに…。

あの世界では…どうして平気だったんだろう? 

二人きりで、寝る時も一緒だった。

なのにどうして今、こんなに心臓が激しく鼓動を打っているんだろう? 

寝息を立てるアスカの顔をチラリと見る。

カーテンの隙間からさしこんでくる月の光が

アスカの端正な顔をますます際立たせる。

「眠りの森の美女…ってこんな感じだったんだろうな」

今まで見たことも話した事もないお姫さまに

一目で惚れてキスをする王子様。

きっとアスカはそれにだって負けていない。

そんなアスカにボクなんかが似合うんだろうか。

勝手に好きになって、振られて、傷ついて…。

「……っ! ウジウジするな、碇シンジ!!」

ボクはアスカに似合うような男になろう。

あの世界でのように。アスカが安心して

頼れるような男になろう。

今までのように簡単に諦めたりしない。

欲しいものは手に入れる。

もう、今までのような生き方はしない。

アスカを離したくないから…。

そう思ったら、急に胸の鼓動が消えた。

隙間からさしこむ月の灯りがやさしく僕を照らした。

―続く―



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管理人のこめんと
 えみこさんからいただきました。「―世界の、始まり―」、第9話です。

 好きなひとに甘えることの喜びを知ったアスカ。可愛いです。おかげでシンちゃんもようやく、自分の気持ちを自覚し始めたみたいですね。
 最初から望まなければ、欲しがらなければ、たとえ手に入らなかったとしても傷つくことはない。傷つくのは怖いから、誰かを傷つけることで嫌われるのは怖いから、だから誰とも距離を置いた。
 そんな風に生きてきたシンジがはじめて望んだのは、アスカと共に生きること。
 想いは伝えなければはじまらない。たとえその結果、傷ついたとしても、それでも手に入れたいものがあるなら。欲しいものは欲しいとハッキリ言わなくちゃね、うん。
 これからが彼の戦いのはじまりです。がんばれ、男の子。
 続きが楽しみです。

 とゆうわけで皆さん、ハイペースで作品を送ってくださっているえみこさんに、これからもアスカらぶで頼むぜっ、とか、レイのことも忘れないでくれよっ、とか、感想や応援のメールをじゃんっじゃん送って頑張ってもらいましょうっ。
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