―世界の、始まり― #10

この世界に戻ってそろそろ

2週間が経つ。

街も復興され、どんどん新しい人が

増えていく。

これからが本当に世界の始まり。


―世界の、

まり―
Vol.10
作:えみこさん



「なぁ、誰だよあの美人」

「おまえ知らないのか? 惣流・アスカ・ラングレーだよ」

「アスカ・ラングレー…」

「ホントかわいいよなぁ。彼女」

「ハーフか何かなのか?」

「いや、確かクウォーターだったと思う」

「彼女狙ってもダメだぞ。今まで彼女にアタックした奴ら全滅だから」

「ふうん…」

「しかもエヴァのパイロットだったんだぜ」

「エヴァの…? へぇ」

「あれ? 驚かないの?」

「あ、いや。別に…」

自黒の健康的な肌に濃い群青の髪を持つ

きりっとした顔つきの少年はアスカを眼で追った。
 
 
 
 
 
 

「あ〜! ムサシ! こんなところにいたぁ!!」

濃い茶色をしたショートカットの少女が

ムサシと呼んだ少年の元へ駆け寄る。

「なんだ、マナか。なんか用か?」

「も〜、一緒に帰ろうって言ったじゃない」

「あぁ、忘れてた」

「む〜。ムサシっていっつもそうなんだから!」

「…あの。彼女?」

ムサシと言う少年の傍らに居た少年が声をかける。

「あぁ、こいつは…ただの幼馴染だよ」

「霧島マナです! よろしく! さっ、ムサシ帰ろっ!」

マナという少女は元気良く挨拶をすると

ムサシという少年を引っ張るようにして去っていった。
 
 
 

「さっきなんの話してたの?」

「ん? あぁ、良い女が居たんだよ」

「まぁた、ムサシの悪い癖が出た」

「うっせぇな…」

「でもね、私もステキな人見つけちゃったぁ♪」

「なんだよ、おまえもかよ」

ムサシは頭を掻きながら溜め息をついた。

「ねぇ、ムサシのみつけた良い女ってどんな子?」

マナはムサシを覗き込む。

「それがな、エヴァのパイロットなんだよ」

「エヴァの!? この中学に二人もエヴァのパイロットが…」

「なんだよ、二人って…?」

「私のみつけたステキな人もエヴァのパイロットなのよ」

「マジかよ…」

「でもそういう人にひかれるのってやっぱり私達も…」

「やめろ! マナ!」

突然ムサシが大声で制止をかけた。

「ムサシ…」

「人に聞かれたらまずいだろ…」

「そうだった。ごめんごめん」

マナはぺろっと舌を出した。
 
 
 

―次の日―
 

「惣流・アスカ・ラングレー!」

アタシは校門の前で見知らぬ男に呼びかけられた。

「なにか用?」

「俺の名前はムサシ・リー・ストラスバーグ。覚えておいてくれよな」

それだけ言うとそいつは走り去っていった。

「…? なんなの?」

横にいたシンジも怪訝な顔をしている。
 
 
 
 

「やぁ、シンジ君。今日もいい天気だね」

「あ、カヲルくん。おはよう」

「…ちょっと、渚カヲル。シンジにだけ挨拶するってどう言う事?」

「あぁ、惣流さん。これは済まない。おはよう」

「おはよ…」

「ファ、ファースト! 後ろからいきなり声かけないでよ!」

「綾波…じゃなくてレ…レイ、おはよう」

シンジは照れくさそうにレイと呼んだ。

「そうね。もうファーストじゃおかしいわね…」

「ん〜…やっぱレイか。おはよ、レイ」

「おはよう、セカンド…」

「ちょっと、アタシももうセカンドじゃないわよ」

「……ア…アスカ…」

レイは恥ずかしそうにうつむいた。

なんだか以前とは変わったわね。

今はもう感情のない人形なんかじゃない。

それにしても…さっきのアイツは一体…? 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「ねぇ、シンジぃ。なんか退屈〜」

エヴァが無くなってからアタシ達が

ネルフへ足を運ぶことはぐんと減った。

そのため放課後のこの時間は何もすることがない。

本来ならば部活をしたり、友達と遊んだりといった

時間なのだろうけれど今までほとんどそれをした事のない

アタシ達はこの時間のつぶし方を知らなかった。

「ん〜そうだね。あ、じゃあ散歩でも行こうか? 夕飯の買い物もしたいし…」

「うん。じゃあアタシ着替えてくる」

シンジと散歩なんて初めてだ。
 

「ねぇねぇ、どこ行く?」

「そうだね。ちょっと遠いけどあの公園がいいな」

「あの公園…?」

「うん、ついてからのお楽しみ」

シンジは笑った。

「へ〜。そんな所シンジが知ってるなんて意っ外〜!」

多分アタシは相当浮かれていたと思う。

だって初めて…好きな人と二人で街を歩いているんだから。

アタシは意味もなく多弁になる。

なんだか気恥ずかしくて、会話が途切れるのが怖い。

胸が高鳴って、嬉しくて…きっとはじめての感情。

それをシンジに悟られるのが怖くて会話を必死で探す。

今が夕方でよかった。きっとアタシの顔は赤いと思うから。
 

「着いた。ここだよ」

シンジの指す指の先には

緑の木々と真っ赤な夕日が広がっていた。

「すごい…きれ〜い!!」

高台にあるこの公園からは街の景色がよく見えた。

「ねぇ、シンジ見て見て! 信号がまるでネオンみたい!!」

手招きするアタシに、シンジは子供の親のように

やさしく笑いながら近づいた。

アタシの隣に並ぶシンジの影がアタシを覆う。

”ドキン”

心臓が大きく脈を打つ。

気が付かれないようにチラリとシンジを見た。

遠くを見つめる目、風にさらりと流れる黒髪。

―どうしよう…胸の鼓動が止まらない…―

アタシはそのままくるりと向きを変え

そばにあったベンチに腰をかける。

今までは頼りなくておどおどした奴だと思ってたけど

シンジは変わった…。

―男、なんだ…―

シンジがアタシの横に腰を下ろす。

アタシたちはそのまま黙って景色を見つめた。

さっきまでは黙っているのが怖かった。

でも今はとても落ちつく。シンジが隣にいるだけで。

―なんか、良いな。こういうの―
 

どれくらい時間が経ったのだろう。

この綺麗な景色に、隣にいるシンジと

ずっとまどろんでいたい。

だけど、夕日が沈み、冷たい風が吹くと

アタシたちは現実に連れ戻された。

「そろそろ帰ろうか? お店もしまっちゃうし」

「うん、そうね」

ベンチから腰をあげアタシ達はもと来た道を歩き出した。

夏とは言え日が沈んでしまうと少し寒い。

―ちょっと寒いな…―

アタシの手はぶらぶらとさまよう。

―良いかな…。良いよね…―

さまよっていたアタシの手はシンジの手をつかんだ。

「!?」

シンジが少し驚いてアタシを見る。

アタシはうつむいたままぎゅっと手を握る。

―あ…―

シンジはやさしくアタシの手を握り返す。

―ねぇ、シンジ、ずっとこうしていたいな―

アタシは心の中でつぶやいた。

―続く―




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管理人のこめんと
 えみこさんからいただきました。「―世界の、始まり―」、第10話です。

 いよいよライバル登場です。しかし、ムサシとは……まったく知らない人なのでこめんとのしようがないです(笑)。マナも出てきて、なにやら一波乱ありそうな雰囲気。
 一方でアスカの方はもうらぶらぶ一直線で、周りが見えてなくて可愛いですね。
 にしても、時間のつぶし方を知らないっていうのがグッときます。何気ないありふれた日常が、それまではなかったというのがなんとも。この辺りを何気なく描くえみこさんのセンスがすごく好きですね、私は。
 続きが楽しみです。

 とゆうわけで皆さん、ハイペースで作品を送ってくださっているえみこさんに、これからもアスカらぶで頼むぜっ、とか、レイのことも忘れないでくれよっ、とか、感想や応援のメールをじゃんっじゃん送って頑張ってもらいましょうっ。

 えみこさんのメールアドレスはこちら
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