―世界の、始まり― #11

やさしい手のぬくもり

やさしい月の光

ずっとこのままでいられたらいいね。


―世界の、

まり―
Vol.11
作:えみこさん



アタシ達は夕飯の買い物をするため

商店街に来ている。

ここにあるのは20世紀から続いていると言うお店ばかり。

商店「街」って言うだけあっていろいろなお店が

本当に小さな一つの街みたい。

なんでも置いてあるスーパーと違って

ここでは一つ一つの店でそれぞれの品物を買う。

ここはシンジのいきつけなんだって。

スーパーよりも早くに閉まっちゃうけど

その分いつでも新鮮なものが置いてあって

遅い時間になると割引のサービスもしてくれるみたい。

いつもシンジはこんな風に買い物していたんだ。

「ねぇ、アスカ。なにが食べたい?」

「ん〜そうだなぁ…」

―シンジが作る物ならなんでもいいんだけど―

「…肉じゃが! 肉じゃがが良い!」

「珍しいね、アスカが肉じゃがなんて食べたがるなんて」

「だって、せっかくこう言う店に来たんだもの。いつもとは違ったものが良い」

「そうだね。じゃあまず肉屋さんからいこうか」

アタシはシンジに手を引かれたままお肉屋さんへ向かう。

「こんばんは」

「あぁ、シンちゃん、いらっしゃい」

人の良さそうなおじさんが笑顔で迎える。

「えーと…豚コマ300グラムください」

「はいよ、豚コマ300ね。450円だけど400円で良いや」

「ありがとうございます、おじさん」

「良いってことよ。シンちゃんにはいつもひいきにしてもらってるからね」

―へぇ、シンジの意外な一面だ―

「あれ? そっちのかわいいお嬢ちゃんはシンちゃんの彼女かい?」

「え!? そ、そんな。彼女だなんて…」

シンジは真っ赤な顔でうつむいた。

「そ、それじゃ、ありがとうございました」

シンジは真っ赤なままアタシの手を引いて店を後にする。

「そっちのお嬢ちゃんもまたおいでよ!」

おじさんは笑顔でアタシ達を見送った。

―彼女か…へへっ―

「つ、次ぎはお豆腐屋さんでしらたき買わなくちゃ」

まだ赤い顔のままシンジはお豆腐屋さんへ向かった。
 

―…あれ? ―

商店街の狭い路地に見覚えのある顔をみつけた。

―アイツは今朝の…―

ムサシと名乗ったアイツがショートカットの女の子と

なにかを話している。

「アスカ、どうかした?」

「あ、ううん。なんでもない」

―ま、別にどうでも良いか―
 
 

結局シンジは行く店、行く店でからかわれて

ずっと真っ赤な顔のまま商店街を後にした。

「ごめん、アスカ。みんな良い人達なんだけどすぐにボクの事からかうんだ」

「なんで謝るの? 良いじゃない別に。また来ようね」

「あ、うん。アスカがイヤじゃなければ」

「全然イヤじゃないわよ。楽しい人ばっかりだもん♪」

「ははは」

「へへっ」

「早く帰ってご飯の支度しなきゃね」

「アタシも手伝う!」

アタシ達は手をつないだまま夜の道を歩いた。

「月が綺麗ね」

「うん。星も綺麗だね」

アタシに対するシンジの気持ちはわからない。

だけどアタシは焦らない。

こうやって少しづつお互いの存在を

確かめて、それからはじめて気が付けば

良いと思うから…。
 
 

―翌日―

廊下を歩いているとあいつに声をかけられた。

たしか、ムサシとか言ったっけ…。

「ちょっと付き合ってくれよ」

「なんで?」

「良いからちょっと来てくれ」

そいつはアタシの腕を引っ張った。

「離して! 自分で行けるわよ」

アタシは腕を振り払う。
 
 

「で、何の用?」

ここは校舎裏。全く人気がない。

「話は簡単なほうがいいよな。オレと付き合ってくれよ」

「…用ってそれだけ? 悪いけどイヤ」

「イ、イヤって…何でだよ? 好きな奴でもいるのか?」

「そんな事、あんたに関係ないでしょう」

「こうみえてもオレは戦略自衛隊にいたから体術でも

パイロットとしての技術もおまえと変わらないか、それ以上なんだぜ」

「…あんたバカ? そんな事自慢してどうするのよ」

「バカってオマエ…」

「それに、人の事オマエオマエって気安く呼ばないで」

「なんだよ、オレの何がダメなんだよ」

「…自分の経歴をそんな風に自慢してそれが馬鹿だって言うのよ。

それは誰のためなの? 人に自慢するため? 誉めてもらうため? 

全て自分自身のためなんじゃないの?」

「なっ…!?」

それは、ちょっと前のアタシ…。

それが違うと言う事に気がつかせてくれたのは

他の誰でもない、シンジ。

「アタシの大事な人は…その勲章が逆に重荷で

決してそれを自慢するような事はしなかった。

最初は、なんでもっとその事に自信を持たないんだろうって思ってたわ。

だけどね、その人は知っていたのよ。

そんな事にこだわって一体何のためになるのかって事を」
 

「…アタシもね、ちょっと前まではアンタみたいに思ってたわ。

だけどそれは違うってわかったの。その人のおかげでね」

「……」

「じゃ、アタシ帰る」

アタシはそいつに背を向けて歩き出した。

「あ…オイ!」

「……くそっ、なんなんだあの女」

ムサシは唇を強くかみ締めた。
 
 

「あらら〜ムサシ君、振られましたねぇ」

校舎の影から一人の少女が姿をあらわした。

「マナ…おまえなんでいるんだよ」

「べつに〜。ちょっとどんな人なのかなって思ってね」

「生意気な奴だよ…。でも諦めねぇ…」

「あそこまで言われたのに諦めないの?」

「だからこそなんだよ」

「?? わかんないなぁ…」

マナは首をかしげた。

「あ! そう言えばムサシ、戦自の事喋っちゃって良いの?」

私には人前で喋るなって怒ったくせに」

マナは頬を膨らませた。

「一般人にはまずいだろうけど相手はあのエヴァのパイロットだ」

「だからこそまずいんじゃないの?」

「アイツはそんな事ぺらぺら喋ったりしねぇよ」

「ふ〜ん…ま、良いけどね」

「だけど…気になる事を言っていたな…勲章を重荷に思う奴…か」

「何の話??」

「お前のライバルかもしれないぜ?」

「????」
 
 

      *
 
 
 

「……ね、ねぇレイ。こんな所で何してるの?」

アタシの前には買い物かごをもったレイが立っていた。

「買い物……ここは買い物をする場所だもの」

「それはわかるけど、アンタが??」

レイは黙ってこくんと頷く。

「おや? シンジ君に惣流さんじゃないか」

振り向くとそこには野菜を持った渚カヲルがいた。

「君達もここに買い物に来ていたのかい?」

「アンタたちが…買い物…」

―なんか似合わない…―

「赤木博士は今ちょうど忙しい時期だから代わりにボクたちがね」

「だけど、アンタ達にご飯なんて作れるの?」

ま、アタシも人の事言えないけど。

「ふぅ。それが困った事にね、まともに作れた試しがないんだ」

そう言って渚カヲルはシンジをちらりと見る。

「あ、良かったら僕が作りに行こうか?」

「良いのかい? 君にも都合があるだろうに?」

白々しい…いかにも作ってくださいって顔でシンジのこと見たくせに。

「今日はミサトさんも帰って来ないし、アスカ良いよね?」

「まぁね。困ってる相手を見捨てて帰れないからね」

仕方ない。アタシもシンジがいなかったら飢え死にしていたかもしれないし。

「嬉しいよシンジ君。どうせならみんなで食べないかい?」

「良いの? あ、だけどアスカは?」

「アタシは別にかまわないけど…レイ、アンタ良いの?」

「ええ、構わないわ…」

人と食事なんて嫌がると思ったのに、意外ね。

「それじゃえっと…」

シンジがレイの持つ買い物かごを覗き込む。

「……あの…これで何を作ろうとしてたの?」

「…晩ご飯」

「い、一度全部戻して選びなおそう」

シンジが苦笑いをしながらレイのかごを持つ。

「? 何が入ってるの?」

かごを覗き込んでアタシは絶句した。

「アンタたち…バナナと卵ときゅうりと小麦粉とタクワンで何を…」

いくら料理が苦手なアタシだってこんなチョイスはしないわ。

「そう…食材がダメだったのね…」

「ダメだったのねって、レイ今まで食事はどうしてたの?」

「司令がご馳走してくれていたもの」

「なるほどね…」

アタシ達がこんなやり取りをしているあいだに

シンジはテキパキと食材を選び、レジへ向かった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「アンタたち、ちょっとは料理を勉強したら?」

夕暮れの街を4人で歩く。

すれ違う人がアタシ達を振りかえる。

自分で言うのもなんだけど、確かにこの4人で

歩いていたら目を引くかもね。

「リリンの食文化というものはなかなか奥が深いね」

「だから勉強しろって言ってんのよ」

「所で君は料理ができるのかい?」

「ア、アタシは良いのよ!」

―痛い所をついてくるわね…―

「碇君、ここ」

レイが指差したのはミサトのマンションよりも

ずっと大きくてセキュリティもしっかりしていそうな所だった。

「へぇ〜リツコって良いところに住んでるのねぇ」

アタシは見上げながら溜め息を漏らした。
 

リツコの部屋はコーヒーの香りがした。

家具もシンプルにまとめられ、以外に片付いていた。

所々にネコの置き物なんかがあって意外な一面も見て取れた。
 
 

「ねぇ、アンタたちって二人の時どんな会話してるの?」

隣からは油のはじける音が響いてくる。

「別に何も…」

「何もって、アンタたち話しないわけ?」

「言葉だけがコミュニケーションの手段ではないからね」

渚カヲルは妖しく微笑む。

「言葉だけじゃないって…アンタたち何してるのよ…」

「おっと、誤解しないでくれよ。そう言う意味じゃない」

「…変な奴」

「それは褒め言葉かい?」

「…そうよ」

―ほーんと、変な奴―

このまま話してるとアタシも変になりそう。

つかみ所のない奴。ま、嫌いじゃないけどね。

「シンジぃ、ご飯できたぁ?」

ドアを開けると良い匂いが漂ってきた。

「うん、カヲルくんやレイも呼んできて」

「はぁい。レイ、渚カヲル、ご飯できたって」

シンジに返事をしてそのまま後ろを振りかえって呼びかける。
 
 
 
 
 
 

「美味しい…」

「久しぶりにまともなものを食べたよ」

渚カヲルもレイもどんどん箸をすすめる。

「よかった。いっぱい食べてよ」

「おかわり…」

「はい。この位で良い?」

「良い」

「渚カヲル、お醤油とって」

「レイ、君も醤油を使うかい?」

「碇君、お水…」

「あ、ありがとう レイ」

「シンジ、お皿とって」

「惣流さん、そこのサラダをとってくれるかい?」

シンジと2人だけの食事も良いけど、

やっぱりみんなで食べる食事は美味しい。

たいした会話もないけれど、それでもやっぱり

シンジやミサトと一緒に暮らすまで

一人で食べる事に慣れていたアタシにとって

こんな時間は楽しい。
 
 

”シュン”

ドアの開く音がした。

「ただいま」

「赤木博士、おかえりなさい」

「おかえりなさい…」

「お邪魔してます」

「お邪魔してるわよ〜」

「あら、シンジくん、アスカ、いらっしゃい」

「ん〜良い匂い、美味しそうね」

リツコは上着を脱ぎながらテーブルをのぞいた。

「あ、リツコさんも食べますか?」

「あら、良いの?」

「えぇ。まだありますから」

「そうね。じゃあ頂こうかしら」

こうしてリツコも混じって5人での食事。

レイは相変わらず無表情だけど、どこか楽しそう。

「レイ、楽しい?」

思わず聞いちゃった。

「……」

しばらく考えた後、レイはこくんと頷いた。

リツコはそんなレイを見て少し微笑んだ。

リツコもリツコなりにレイのこと心配しているのね、きっと。
 

食事が終わって部屋にコーヒーの良い香りが漂う。

リツコがコーヒーを入れてくれている。

アタシは砂糖2つ、ミルク入りのコーヒー。

シンジは砂糖1つ、ミルク入りのコーヒー。

レイは砂糖1つ、ミルクなしのコーヒー。

リツコはブラック。

渚カヲルは…なにあれ? 

殆どコーヒー牛乳じゃないかって

くらいにミルクを入れている。

「コーヒーなんてはじめてなんでね。良くわからないんだ」

―ほんとに変わった奴…―

「ねぇ、リツコ。ネルフの今後、まだわからないの?」

アタシはコーヒーのカップを両手で包んだ。

「それがねぇ、政府のほうでもまだ会議の結果が出ないのよ」

2杯目のコーヒーをカップに注ぎながらリツコは答える。

「あの、政府の下に配属されたらネルフ自体はどう言う活動を?」

「そうね、多分MAGIがあるから政府の出した問題の議決をしたり

他にはデータのバックアップね。うちには技術者がたくさんいるから

システムの開発なんかもするんじゃないかしら」

「それに……もうネルフで兵器に関わる事はしないと思うわ。安心して」

リツコはやさしく笑った。

きっと、リツコももうそう言うことには関わりたくないんだと思う。

エヴァを作った事を後悔していた気がするから…。

「リツコが今までやってきた事は無駄じゃないわ。アタシはそう思う」

「アスカ…」

「赤木博士…私にこの体をくれたのもあなた…。ありがとう」

「レイ…」

「あなた達に慰められるなんてね…本当に強くなったわ…」

リツコはアタシたちに背を向けた。

「リツコさんがエヴァの開発を続けてくれなかったらボクは母さんに会えなかった」

「シンジ君…もう、この子たちはみんなして大人を泣かせるんだから」

「リツコ、アンタ化粧が落ちてるわよ」

「パンダ…」

「ぷっ! マスカラが落ちて確かにパンダだわ!!」

アタシ達の笑い声がリビングに響いた。

「あっ! もうこんな時間! シンジ、帰らないと!!」

「本当だ。もう9時だ」

「あ、あなた達、今日はミサトネルフに泊まりだからうちに泊まっていったら?」

「え?」

「そうだ、シンジくん、そうしたら良い」

「リツコ、良いの?」

「良いわよ。それなら明日シンジ君の朝ご飯が食べられるからね」

「ちゃっかりしてるわ」

誰かの家でみんなで食事して、食後のコーヒーを飲む。

ほのぼのとしたあったかい雰囲気の中

誰かの家に泊まる。

こんなに楽しい事だったなんて。

今までの生活に不満があったわけじゃないけれど

やっぱりこういうのってすごく嬉しい。

これからこうやって今までになかった経験をしていくのかな…。

―続く―



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管理人のこめんと
 えみこさんからいただきました。「―世界の、始まり―」、第11話です。
 いつものことながら筆が早いです。うらやましい(^^;)

 相変わらずほんわかしていていいです。
 アスカも人と交わることの楽しさを知って、どんどん魅力的な女の子に成長していきますね。あとは花嫁修業ですけど……ま、シンちゃんのお手伝いをしながらぼちぼち覚えていけば大丈夫でしょう。もともと頭のいい子ですし。
 べつに女の子だからっていうんでなくて、やはり最低限、料理と掃除、洗濯くらいはそれなりに出来た方がいいと私は思います。人として。
 にしても、レイ……献立決めてから買い物しろよ(^^;)
 バナナと卵ときゅうりと小麦粉とタクワンで何を作るつもりだったのか。ってゆうか、それで何が作れるというんでしょう。特にバナナとタクワンがヤバめな感じです。

 混ぜるな危険(笑)。

 さてさて、心配していたライバルのムサシ君ですが、いきなり告白です。で、あっさり玉砕。あれで女の子を口説いてるつもりなんでしょうか。変わった奴です。
 優れていることを誇りとする彼に、昔の自分を見るアスカ。少しは大人になったってことでしょうかね。
 なんだかまるっきり道化だったムサシ君ですが、これで引き下がりそうなあっさりしたタイプにも見えないし、どっちかというと嫌がられれば嫌がられただけヒートアップする鬱陶しい性格をしてそうな感じなので、もう一波乱ありそうですね。
 続きが楽しみです。

 とゆうわけで皆さん、ハイペースで作品を送ってくださっているえみこさんに、これからもアスカらぶで頼むぜっ、とか、レイのことも忘れないでくれよっ、とか、感想や応援のメールをじゃんっじゃん送って頑張ってもらいましょうっ。
 えみこさんのメールアドレスはこちら。HPはこちら

 このHTMLファイルはきたずみがちょこっと修正しました。
 問題があった場合はきたずみに言って下さい。

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