―世界の、始まり― #9

平穏な時間。

やさしい時間。

このままずっと続いてほしいという願い。

けれど、時は過ぎる。

過ぎ去る時間は何かを変える。

小さな願いと裏腹に…。


―世界の、

まり―
Vol.13
作:えみこさん



今、アタシはものすごくイライラしている。

原因はわかっている。

屋上にシンジと一緒にいたあの子のせい。

”何を話していたの? ”

そう、普通にシンジに聞けばいいだけなのに

それが出来ずにもやもやと自分の中で

勝手な妄想が膨らんでいく。

「…ダメだ」

アタシは溜め息とともに椅子から立ち上がった。

―今日はシンジに黙って一人で帰ろう―

きっと、一緒に帰ったらシンジにあたってしまう。

そうすればシンジは訳もわからずうろたえるだろう。

だけどアタシにはどうしてシンジにあたったのか、

その理由を言う勇気はない。

だから…アタシはシンジのいないすきに教室を

逃げるように飛び出した。
 
 

放課後のざわつく校舎。

急いで上履きからローファーに履きかえる。

外に出て校舎を振りかえる。

「……」

そのままくるりと向きを変え校門を目指す。

足早に門を抜ける。
 

「惣流さん!」

アタシを呼びとめる声。

びくっとして振り返るアタシの目に

昼休みにシンジと一緒にいた少女の姿が入った。

「…あ、なに?」

その子はアタシの姿を上から下まで眺めて言った。

「ふ〜ん、やっぱり綺麗ねぇ。スタイルも良いし」

「…?」

アタシは怪訝な顔をした。

それに気付いたのか、彼女はにこっと笑った。

「あ、ごめんなさい。私、霧島マナ。よろしく」

「……」

「ちょっと良いかしら? 一度あなたとお話したいって思ってたの」

アタシはそのまま無視して帰ろうかと思った。

だけど、これはいい機会だ。

昼休みの事もこの子に聞けばいい。

アタシはコクンと頷き、彼女と一緒に近くの公園へ足を運んだ。
 
 
 

「惣流さんと碇君って一緒に住んでいるんだってね」

「そうだけど…?」

「いいなぁ。ね、私とかわってくれない?」

彼女はブランコを高く漕ぎ出し笑った。

「随分…シンジに興味があるみたいね」

「うん! だって碇君ステキだもん」

「ステキって…あなたシンジの事ほとんど知らないでしょ?」

「そんな事関係ないよ。はじめて見た時にこの人だって思ったんだもん」

「……」

彼女を乗せたブランコはどんどん速度を増していく。

瞬間、彼女の体が宙に舞う。

無人になったブランコはバランスを崩し音を立てる。

「よっ…と」

綺麗に着地した彼女はそのままアタシの前に歩み寄った。

「私はあなたに宣戦布告します」

「な…!?」

「まぁ、あなたが碇君をどう思っているかわからないけど

今のところ彼に一番近いのはあなたみたいだからね」

そう言って彼女は鼻歌まじりにアタシに背を向けた。

アタシは何も言えずに唇をかみ締めた。

「なんか、こう言うのってフェアじゃない感じだなぁ…」

彼女はつぶやき振り返る。

「ね、あなたは碇君の事どう思ってるの?」

「どうって…」

あの世界での事、こちらに戻ってから、

ずっとずっとシンジと一緒に頑張ってきた。

シンジに抱いている想いを一言ではとても言い表せない。
 

「…どうして黙るの?」

彼女は溜め息まじりにアタシを見る。

「なんとなくわかるよ? あなたが碇君を特別に想ってるのが」

「……」

「私は自分の気持ち、ちゃんと言ったのにな。あなたにも、碇君にも」

「そう…」

昼休みの屋上でのあれはそう言うことだったんだ…。

「碇君の反応を見るとあなたは何にも言ってないみたいだね。

だけど私が碇君の周りをうろちょろする事を快く思ってないよね?」

「……」

依然として黙ったままのアタシに呆れたように溜め息を漏らす。

「それって卑怯だなぁ。自分の気持ちも伝えないで、それでいて

碇君を自分の手元において置きたいなんてずるいよ。

そんなのただ臆病なだけだよ」

「…そうかもね。確かに臆病かもしれない…」

やっと口を開いたアタシを彼女は正視する。

「だけど、今シンジに想いを伝えて、その結果がどうなるか…

そう考えると何も出来ない。失いたくないから…」

彼女は私を見てちょこんと首をかしげる。

「…私、碇君とだったら世界の果てでもどこにでも行けるよ」

くりっとした瞳をこちらに向け、彼女は笑う。

「だから、例え嫌われても、振られたとしても怖くなんかない。

好きになってもらえるまでアタックする。

だから、きっと二人きりになったとしても生きていける」

恐れるものなど何もないと信じきった表情で彼女はアタシを見つめる。
 
 

「……でよ…」

「え?」

アタシのつぶやいた声を彼女が聞き返す。

「…簡単にそんな事言わないでよ!!」

アタシの声に一瞬、彼女の瞳がひるむ。

「な…いきなり何怒ってるの?」

「世界の果てで二人きりになる事が…どんなに辛くて

苦しい事か、あんたが何にも判ってないからよ!!」

「どうしてあなたがそんな…」

言いかけて彼女ははっとした表情になる。

「どんなに好きでも、信じていても! 誰もいない世界なんて

生きていけない! そんな世界要らないのよ!!」

「……」

あっけに取られた表情で彼女は固まっている。

「アンタなんかにシンジは渡さない。シンジは私のだから」

自分でも驚くほどに鼻息を荒げていた。

「話はそれだけね。じゃ、サヨナラ」

アタシはそのまま振りかえらずに公園を後にした。
 
 
 
 
 
 

「……すっきりしたぁ」

足を止め、空を見上げて深呼吸をする。

シンジに抱いている想いが”恋愛感情”だと言うことに

気がついてから、なんだかアタシらしくなかった気がする。

「ウジウジしてるなんてアタシには似合わないわね。

それはシンジの十八番(おはこ)だったんだから」

見上げた空は真っ青でとても綺麗だった。

すっとしたアタシの気持ちみたいに。

風がふわっと頬をなでる。

揺れた髪を抑えるように少し横を向くと

そこにはシンジがいた。

「あ…シンジ。今帰り?」

「今帰り? じゃないよ! アスカの事学校中探したんだから!」

「ごめんごめん。ちょっと用があってね」

「だったら先に帰るとか一言言ってからにしてよ」

「ごめん、今度からそうするわ」

今、アタシとシンジのこの関係を”恋人”とか

そう言うもので縛りたくない。

家族と友達と恋愛感情。このふわふわした関係を

もう少し、もう少しだけ味わっていたいから。

ずるいかもしれないけど、その時が来るまでアタシは

この気持ちをしまっておこうと思う。

時期が来れば、きっと自然に言えると思うから。

「さ、帰ろう」

「うん」

アタシ達は真っ青な空を見上げながら歩き出した。

―続く―




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管理人のこめんと
 えみこさんからいただきました。「―世界の、始まり―」、第13話です。

 マナの宣戦布告、アスカがどう反応するかと思いきや、真っ向から受けて立った感じですね。実に彼女らしいというか、何というか。頼もしいです。
 本当に強くなりましたね、アスカは。きちんとシンジのことも考えられるようになって、自分のことも冷静に見つめられて。以前の彼女ではとても考えられないことです。
 さて、こうなるとシンちゃんもフラフラしてらんないですね。これからの展開がますます楽しみです。
 続きが楽しみです。

 とゆうわけで皆さん、ハイペースで作品を送ってくださっているえみこさんに、これからもアスカらぶで頼むぜっ、とか、レイのことも忘れないでくれよっ、とか、感想や応援のメールをじゃんっじゃん送って頑張ってもらいましょうっ。

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