―世界の、始まり― #14

大切な存在。

いつでもそばにいる。

”さよなら”という言葉なんて

必要としない存在。

アタシがずっと欲しかったもの。

ずっとずっと欲しかった大切なもの…。


―世界の、

まり―
Vol.14
作:えみこさん



「ただいま〜」

いつものように

玄関が開くエアー音がこだまする。

「あれ? ミサト帰ってるみたいね」

台所にあかりがともっているのが見える。

「ミサト、ただいま」

「あら、シンちゃん、アスカおかえり〜」

いつものようにタンクトップにジーンズの短パン姿で

ビールを煽るミサトの姿。

「ちょっと〜、まだ夕方なのにもう出来あがってるわけ?」

テーブルの上に転がる大量の缶を指ではじきながら

アタシは言う。

シンジも少し呆れたような顔でカバンを持ったまま

缶を片付け始めた。

「……」

そんなシンジの姿を缶を口にくわえたままミサトは見ていた。

「見てないであんたも片付けなさいよ。シンジにだけやらせてぇ」

ミサトはアタシの言葉にもそのままの姿で黙っている。

「…ほんっと、だらしないんだから」

ブツブツ言いながらアタシは冷蔵庫からミルクを取り出す。

「アンタたち…昨日リツコのところに泊まったんだってぇ?」

椅子にもたれていた体を起こしミサトが言う。

「そうよ。あ〜あ、リツコの家は居心地よかったなぁ。ね、シンジ?」

「え? あ、うん」

アタシに話をふられてビニールを縛りながらシンジが答える。

「ふ〜ん…リツコも喜んでたわよ。シンジ君のご飯美味しかったって」

ミサトは次の缶ビールのプルタブを爪ではじいた。

「あ、いえ、そんな大した物はつくってないんですけど…」

「リツコの綺麗な家からよくこんなきったない家に帰ってきてくれたわね〜」

「…? 何言ってんの?」

「べぇっつに〜。私はリツコと違って家事も片付けも出来ないずぼらな女だからね」

「そんな事知ってるわよ。変なミサト」

「だらしない保護者で悪かったわね。こんな家に帰ってこないで

リツコの所でお世話になったらぁ?」

「…?」

アタシとシンジは顔を見合わせて首をかしげた。

ミサトはまた椅子にもたれて缶ビールを一気に飲み干した。

「…!! ミサト、もしかしてヤキモチやいてるのぉ??」

「な、何言ってるのよ。なんで私が…」

「え? アスカ…どう言うこと…?」

シンジは意味がわからないといった表情をしている。

「昨日アタシ達がリツコの家で楽しく過ごしたからでしょぉ?」

「……」

ミサトは黙ったまま飲み干したビールの缶を握りつぶす。

「ばっかねぇ。アタシ達が帰る場所が他にあるわけないじゃない」

アタシの言葉にシンジははっとしたようにアタシの後に言葉を続ける。

「そうですよ。僕らの家はここなんですから」

ミサトはアタシ達から視線を外したまま椅子を揺らした。

「確かにリツコの家は広いし、綺麗だし、すごく居心地はよかったけど…

世界中どこを探したって…アタシ達を”家族”だって言ってくれるのは

ミサト、アンタだけよ。だから、アタシ達の帰る家はここしかないのよ」

シンジは黙ったまま軽く笑って頷いた。
 

「…あ゛〜〜、ちょっち飲み過ぎたかなぁ。…何言ってんだろ」

ミサトは頭を掻きながら天井を見上げた。

「変な事言って悪かったわ。ごめんごめん。

私も…あんた達しか家族はいないんだからね」

ぺろっと舌を出し、決まり悪そうにミサトは言った。

「しょうがない。頼りないやつだけど我慢してあげるわ。家族だからね」

家族…そう、アタシ達は家族だ。

アタシもシンジもミサトも、それぞれの事情で今まで

ほとんど一人で生きて来た。

寂しさも、辛さも、孤独もずっと一人ぼっちで味わってきた。

でも、三人が出会ってアタシ達は家族になった。

初めてのぬくもり、”家族”と言う名の安心感。

欲しくて欲しくてたまらなかったのに、

手に入れる事が出来なかった物を初めて手に入れた。

だからきっと、アタシ達にとって”家族”というぬくもりは

誰よりも大切で、失うのが怖いんだ。

でも、もう大丈夫。アタシ達は本当の”家族”だから…。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「カヲル…」

薄い茶色の瞳…

琥珀色と言った方が近いかもしれない。

その瞳の持ち主は、同じような琥珀色した

瞳の少年に話しかける。

「どうしたんだい? レイ」

「わからない…だけど一人で…いたくない…」

少年は琥珀色の瞳を細めて少女を招く。

「それはきっと、寂しいという感情だよ」

「さみしい…」

「そう。人は一人きりでいる事を恐れるからね…」

「私は寂しい…人は一人でいる事が…」

「キミもリリンの一員という事さ」

「そう…」

そのまま2人は黙って寄添った。
 

少女は知らなかった。

寂しいという感情を。

いや、それは正確ではないかもしれない。

少女はその感情の名前を知らなかった。

その感情の癒し方を知らなかっただけなのだ。
 

少年は知っていた。

寂しいという感情を。

しかし、少年はその感情にとらわれた事がなかった。
 

そんな2人はリリン…人となり、

初めてその感情を知る。

そして寄添い、その感情が癒える事を知る。

彼らもまた”人”だから…。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「アダムとリリスが地に堕ちた」

「アダムとリリスが天から去った」

「アダムとリリスが感情を持った」

「アダムとリリスが俗世を知った」

「アダムとリリスが再び寄添った」

「アダムとリリスは再び神に背くのか…」
 

…その日の空は妖しく光り、闇が広がった。

―続く―



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管理人のこめんと
 えみこさんからいただきました。「―世界の、始まり―」、第14話です。

 今回は私の大好きなミサトさんがとっても可愛い感じに描かれていたので、ちょっと倖せでした。
 家に帰ってもちゃんと灯りが点っていて、「おかえり」っていってくれるひとがいて。やっぱ家族っていいですよね、うん。あまりにも何気ないものだけに、なくなると思うとすごく心にズンときます。
 レイとカヲルくんもなんだかいい感じで、ああ、和むにゃあ(´▽`)。

 ……って思ってたら、何か雲行きが怪しいです〜〜(^^;)。
 どーもおじいちゃんたちとかが復活してしまいそーな雰囲気なんですけど。いよいよ悪役登場でしかねぇ。この先どうなるんでしょう。これからの展開がますます楽しみです。

 とゆうわけで皆さん、相変わらずハイペースで素晴らしい作品を送ってくださっているえみこさんに、これからもアスカらぶで頼むぜっ、とか、レイのことも忘れないでくれよっ、とか、感想や応援のメールをじゃんっじゃん送って頑張ってもらいましょうっ。
 えみこさんのメールアドレスはこちら。HPはこちら

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 問題があった場合はきたずみに言って下さい。


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