『誰がために……』

 
作:SHOWさん
 
     第弐話  『過去と未来と現実と』


第二ジオフロント内 対量産型エヴァシリーズ会戦 十二時間前
 赤い世界の中で、三人の少年少女が話をしている。その姿は、見る者がいたとしたなら、この上なく目を惹いたであろう者達だった。
 透けるような白い肌。
 現実には在りえない髪の色。
 紅玉の瞳。
 その姿をした『三人』は、まるで絵本や小説の中の登場人物の様だった。
「シンジ君。まず君の事から説明しよう。シンジ君が『人』でなくなった事は理解してくれたね?」
「うん」
「そして君はボクらと同じ存在になった。…『原初の子』に……その為に君は『人間』という種族とは言えなくなった。……そうだね、シンジ君の場合は『進化した』と思ってくれればいい。ボクらと同じ存在にね」
「私達二人は、人の手によって作り出された存在……その元になったのは『アダム』と『リリス』。………言い換えれば、私達はその子ども。『原初』とは『アダム』と『リリス』を指すの。………人間……『リリン』も、一応は『原初の子』だけれど…………私達に比べたらその血は薄い……」
「しかし、シンジ君はサードインパクトの時に、『アダム』を取り込んだ『リリス』と接触し、その存在を書き換えられた。つまり、君はボク達よりも、更に血が濃くなっている。………いや、純血種と言えるだろうね。ボクらはハーフといった所かな…」
「……………じゃぁ、僕は使徒になったの?」
「……そうね、そう言った方がいいかしら……」
「……ボクは壱拾七番目、レイは弐番目……シンジ君は、この世で唯一の『純血の壱拾八番目』ということになる。……リリンの名付け方にのっとればね」
「…………? 純血の壱拾八番目?」
「……私は『リリス』と『リリン』のハーフ」
「ボクは『アダム』と『リリン』のハーフだね。『原初の人』たるのは『アダム』と『リリス』のみ。そして、君はその二つの血のみを引いている。それ故に純血のリリンと言えるんだ。他のリリンは長い年月の中でその血と力を薄めている。…………リリンを『使徒』と呼ぶのなら、君は使徒になるかな」
「…………でも人ではないんでしょ?」
「……………ええ。でも、碇君。………ここで言う『人』は『現代に生きる人間』を指してるの。そして碇君は、その意味での『人』じゃ無い。神話の中に生きている『人間』と言えるの………」
「???? …………ちょっと意味が…」
「古代に生きたリリンは、使徒に無い力を駆使して生きていたんだ。現在の人間より数段上の身体能力や、精神的能力も持ってもいた。………使徒それぞれの能力にそれほどの類似性が無いことから、その能力と『群体』という性質がリリンの能力かもね。……シンジ君はその頃の『人間』と言えるんだ」
「………古代人?」
「そういうこと。……ちょっとニュアンスが違うかもしれないけどね」
「どちらにしろ、碇君は碇君よ」
「そうだね。………あぁ、忘れる所だった。…シンジ君。君は自分の姿を見たかい?」
「? いや。どうして?」
「そうだろうね。…………ちょっと自分の髪の色をみてごらん」
「? ………………ナンダこれ―――――!!!!」
「同じ存在………」
「そういうこと。似合うよ。シンジ君」
「……………恥ずかしい………」
「恥ずかしがること無いさ。美しいものを鑑賞するのはリリンの文化の一つじゃなかったかな?」
「ええ」
「ふ……二人とも……」
「まぁ、それは後でゆっくり鑑賞するとして、まずこの世界から抜け出さないと」
「………この世界は一種の精神世界。現実とは紙一枚隔てている………現実世界では、一瞬の永遠が完了しているの。誰も気づかないままで………だから夢から覚める要領で簡単に抜けることは出来る。問題はその後………」
「時自体は問題ないよ。ボクらというファクターが入る事で、簡単に崩すことが出来る。やはり問題はゼーレだね。このまま黙っているとは思えない」
「…………すべての人が戻ってこれるの?」
「それは無理だよ。シンジ君。戻ってこれるのは『未来』を創造できるものだけだ。『夢』や『希望』といった物を持ち、これから先を生き抜いていくと言う強い心を持つ者だけだ。そうじゃないとボクらの力は及ばないよ。でも、それはゼーレをも復活させることになる。彼等の執念は並じゃないからね」
「…ということは、現実に戻った時の最初の相手は…………量産型エヴァ?」
「そういうことになるね。でも、今のシンジ君と初号機ならアンチATフィールドは物の数じゃない。おそらく地球に戻っての白兵戦になるだろうね。そうなった時に、ボクら二人は戦う術が無い」
「……………それは大丈夫……多分……碇君なら」
「僕? 綾波、僕に何が出来るの?」
「碇君なら、リリスから造ることが出来るわ。それで大丈夫」
「…………なるほど。可能性は高いね。それで行こう」
 こうして方針が決まり、闘いは始まった。…………シンジが状況を飲み込めないまま、事態は進んだのだ。



ネルフ本部 発令所――会戦後三十分
「こうして三人並ぶと兄弟みたいね〜」
「ホント、そっくりだわ」
「碇……」
「問題ない」
 発令所内には、左からレイ、シンジ、カヲルが並んで立っていた。蒼銀の髪、に抜けるような紅さを見せる瞳のレイ。金と銀の髪が織り交ざった感じの髪に、レイよりも紅みが強い瞳のシンジ。白銀の髪に、レイより薄い感じの紅玉の瞳のカヲル。三人並んだ光景は現実のものとは思えない神秘さが漂っていたが、この面々に取ってみたら……見世物状態である。
 今は一通りはカヲルから説明があり、その事に若干の質問が交わされた後である。混乱が無かったことも無いが、シンジが『人』と言えなくなったということに触れた時も、
『問題ない』
 である。碇ゲンドウ。何事にも動じない男である。
「あの……僕達はこれかどうすれば良いんでしょうか?」
「そうね、シンジ君には一応メディカルチェックを受けてもらうわ。色々調べておかないと何かあったときに困るし、どんな能力があるかも調べたいわね」
「わかりました」
「私達は……?」
「レイちゃんたちは私達と一緒にお片づけよ。さすがに瓦礫とかはエヴァを使わなきゃ無理だしね」
「………分かりました。葛城三佐」
「ボクもかい? 疲れたから休みたいんだけどね…」
 大仰に肩をすくめる。そこに冬月から声がかかる。
「いや、君は我々の話し相手をしてもらおう。色々と聞きたいこともある」
「…………そうですね」
 話は終始和やかな雰囲気の中進んでいた。と、思われていた。………たった一人を除いては……



(………だれもアタシを必要としない…)
 リツコと楽しそうに会話するシンジ。
(………だれもアタシを見ようとしない…)
 レイと打ち合わせをするミサト。
(………だれもアタシに期待なんかしない…)
 冬月とこれからの方針を話す男。 (……だれもだれもダレモダレモ!! …………弐号機………ママすらも)
「セカンドチルドレン」
「!!!! なによ? アンタ?」
 そこには何時こちらに来たのかにやけた男が立っていた。
「アンタとは酷いね。ボクには『渚カヲル』という名前があるんだけどね……気に入っている名前だから、そっちで呼んでくれないかい?」
「で、その渚……が何の用よ?!」
「こわいねぇ…なかなか。……話があるんだよ。……弐号機のことさ」
「……………何よ?」
 無意識に身構える。カヲルも当然それに気がついていた。しかし、あえて気づかない振りをして話を続ける。
「…弐号機はこの闘いで再構築したのだけれど、コアの内部ダメージまでは無理だ。あれはS2機関を搭載したから、コアの弱さはそのまま自滅に繋がる。周りのものを巻き込んでね」
「…………」
 アスカの脳裏にアメリカの第二支部消滅の記録がよみがえる。
「だから、もう少し心を開いたほうがいいよ。でないと、せっかくのスペックが活かせない。それじゃぁ、これからの闘いを乗り切ることが出来ないよ」
「!!!! …………………」
 アスカの心に黒い渦が巻き起こる。心に負った傷は癒えるのに時間がかかる。そのアスカの心の中で最もウェイトを占めていた『プライド』はヒビが入ったガラス細工のようなもの。その中心を衝かれた。いつかの対使徒戦のように。そして、その事を認める余裕は、今のアスカには存在しなかった。また、自分が完膚なきまでに敗れたものに、ほとんど完璧に勝利しただけでなく、弐号機までも復活させた。…あの時発令所で見せたのは強がりだった事も見抜かれていると感じてしまった。
「……………アンタに……………アンタに何がわかるって言うのよ!!!!!!!」
 その言葉は発令所に響き渡った。一瞬にして静まり返る。しかしカヲルはそれを平然と受け流して、言葉を続けた。
「少なくとも君よりかは色々なことが分かるつもりだよ、ボクはね。……君こそボクらの何がわかってそういう事を聞くんだい? ………シンジ君は初号機の中の母親と常に対話している。その為に彼女はシンジ君を裏切ることは無い。零号機も基本人格こそ無いが、レイの心に共感して再構築に応じ、その身を復活させた。そういう事が出来るのがエヴァなんだよ。君はそれすらも分かっていないんじゃなのかい? エヴァは機械じゃない」
「…………………」
 怒りによってか、アスカの肩が震える。下を向いたまま唇を噛み締める。シンジが止めようとするのを、レイが手を掴んで止める。
「分かったかい? 君は甘いんだ」
「!! …じゃぁ、アンタが弐号機に乗ればいいじゃない!! 使えるんで…!!」
 パアアァァァァン…
 その言葉に反応してカヲルの手が飛ぶ。
「クッ!! 何すんのよ!!」
 アスカの手が飛ぶが、カヲルは易々とその手を受け止める。そして冷たい目線でアスカを射抜く。
「…………」
 緊迫した空気が辺りを包み込む。言葉を発するのすら妨げるような、重い沈黙。それを破ったのは、ここにいる誰もが予想しえなかった者だった。
「アスカ。現実から目を逸らしてもろくなことは無いよ。それに、彼が言うことももっともだ。少し頭を冷やせ。でないと勝てる戦も勝てなくなる」
「!! か…加持さん………」
「加持!!」
「よう、葛城」
 そこにはいつものスーツをだらしなく着た加持リョウジの姿があった。驚いていないのは、シンジとレイとカヲル位だろう。特にミサトは想像すらしなかった。それも当然で、彼は凶弾で倒れたはずだったからだ。彼女にしてみれば幽霊も同然である。
「な…なんで?」
「シンジ君のおかげさ。一応言っておくが幽霊じゃないからな。おまえと一緒さ。シンジ君が補ってくれたからここにいることが出来るんだ」
 そう、シンジはあの世界から戻る前に、LCLの海と、リリスと、アダムを利用して何人かの命を補ったのである。これもサードインパクトの副産物である。
「さて、アスカ。皆が作業している間、話がある。…それでかまわないかい? 渚君?」
「……分かりました。お任せします」
「じゃぁ、行こうか、アスカ。んじゃ葛城。後頼むわ」
 そう言うと加持はアスカを連れて発令所から姿を消した。それに合わせて凍っていた時間が動き出す。
「カヲル君!! 何であんなこと言ったの?!」
「シンジ君…悪かったと思っているよ。でも、君がこの世界に戻ってくる時に、特別に力を貸したのが気になってね。あの子は本来ならLCLから戻ってくるほどの意志はなかった。それをシンジ君が無理やり干渉してこの世界に引き戻した。そこまでされていることは、彼女も薄々気がついてるはずだ。なのに自分のみを考えているあの態度が、ちょっと気になってね」
「カヲル君………」
「碇君……カヲルの言うことも一理あるの。セカンドが自分の心を見つめないかぎり、本当の意味での『惣流・アスカ・ラングレー』を見せない限り、本当の彼女の未来を見せない限り、私達が彼女を認めることは出来ないの。それが、この世界の一つの決まりごと。未来を夢見て、それに向かって努力することを忘れてしまったら、それはもうリリンとも言えないから」
「綾波……分かったよ。でも、少し時間をくれないかい?」
「碇君………アナタの望む通りにするといいわ」
「ありがとう」
「んじゃ方針が決まった所で、そろそろ行動を開始しましょ」
 このミサトの一言で、人々に時間が戻った。
 やること、決めることは多い。人は未来を自分で掴むために、多大な努力をしないといけないのだから。

 そして、それぞれは、これからの時間の選択を始めた。



 ――――――碇シンジの場合
本部内検査室
「医療システムが生きているのは大きいわね。被害は対人システムが主だったから、当然と言えば当然ね」
「そうなんですか?」
「今さっきMAGIで破損個所をチェックしたから。まぁミサトの作戦で使えなくなった所のほうが多いわ」
「ハハハハ……ミサトさんらしいですね」
「そういうことね……じゃぁ始めるわよ、シンジ君」
「はい」
 リツコの言葉に従ってスキャナがシンジの体を丁寧に調べていく。それに従いリツコの手元に膨大な量のデータが上がってくる。それをリツコは恐ろしいほどの速さで処理していく。手伝うと言ったマヤを『いいわ、貴女がするより速いから』の一言で置いて来たのも頷ける。マヤはショックだったようだが、シンジはその後の一言を聞いていたので何もいわなかった。曰く『マヤがいないとMAGIは動かせないでしょうし、ミサトを目の届かない所において置くのは怖いから監視させとかなきゃ』その通りである。
「……………はい、いいわよシンジ君。上がってちょうだい」
「え? もうですか?」
「そうよ。司令も待っていることだし…話は道々ね」
「はい」



通路
「……基本的には変化は無いわ。血液型、指紋、声紋、骨の組成。そういったものは前のシンジ君と同じ。違うのは髪と虹彩。そんな所かしら。……ただ」
「………ただ? 何ですか? リツコさん?」
「遺伝子パターンが変化しているの。人間とは99.89%しか一致しなかったわ。これがどういうことか、シンジ君なら分かるわよね」
「はい……覚悟はしていましたし、カヲル君や綾波とも話していましたから」
「……そう。………でもこれだけは覚えておいて。例え『人間』と言う罪深き種で無いとしても、貴方という人格には違いは無いの。だから、その事を気に病む必要は無いわ」
「……はい。……でもリツコさんがそんなことを言うなんて、意外でした。僕は嫌われていたと思っていましたから」
「…『貴方』を嫌っていたわけじゃないわ。今更言えた義理じゃないけどね。……そうね、今はあの人のこともそんなに引きずっていないから。今まで見えなかった事が見えるようになった………というところかしら。『恋は盲目』とはよく言ったものね」
「あの………」
「無理して会話しようとすることはないわ。それに、シンジ君が恋愛で私に意見しようと思うんだったら、倍くらいの経験を積んでからにしなさい。じゃないと、私は無意味に年を重ねた事になるから」
「はい」
 そう言うとシンジは、なんだかリツコに対しての気負いが薄くなったように感じた。二人で通路を歩きながらしている会話なのに、息苦しさが無い。それは今までのリツコとの関係からでは想像も出来ないことだった。
「それで、シンジ君はこれからどうするの?」
「…………それは父さんも交えて話したいと思っています」



 シンジの目の前には発令所が広がっていた。そこには碇ゲンドウと、冬月コウゾウが立っていた。
「父さん」
「シンジか…」
「司令、シンジ君の体に、これといった問題は認められませんでした」
「分かった。…シンジ。これからどうする?」
「…………父さんはどうするの?」
「ネルフを再建する。ゼーレが黙っているとは思えんからな。しばらくは表舞台には出てこんだろうが、迎え撃つにしろ攻めるにしろ、本拠地がないと話にならんからな」
「…僕はしばらくここを離れたい。そして色々なことを学びたい」
「シンジ君??!!」
「いいだろう」
「碇!!!!」
「加持一尉の話によると、しばらくゼーレも動けん。こちらもだ。その間に出来ることはやらなければならんが、それは大人の仕事だ。そこでだ、冬月。お前にシンジを預けたい」
「! ………なぜだ碇?」
「父さん……」
「シンジ、よく聞け。冬月はこれから、ネルフの支部をまとめる為にスイスに発つ。それに同行しろ。教師役に赤木君を付ける。護衛役は加持一尉だ。住居その他はこちらで用意しよう」
「司令!」
「リツコ君。シンジとの同居は君の為になる。MAGIの方は伊吹二尉に任せる。加持一尉にはゼーレを探ってもらう。その間、君は他の支部のMAGIを探れ。こちらは復旧作業に追われるからな」
「……分かりました」
「すまん、シンジ。またこちらの都合で……」
「いいよ、じゃぁ決まりだね」
 こうして、シンジは一旦ネルフを離れる。しかし、シンジには、ゲンドウが何を考えているのかがわかった。シンジを彼女たちの護衛役としたのだ。恐らく生身であればこの地球上で最強であろう者を。また、様々な政治的意図もある。そういう諸々を考えての編成である。



 ――――――綾波レイ・渚カヲルの場合
「葛城三佐。作業終了しました」
『ありがとう、レイ。上がっていいわ。ご苦労様。上がってこれからの事を話しましょ』
「………了解」
 そう言うとレイは回線を閉じた。そして色の変わった零号機をケージに戻して電源を落とした。プラグを出ると、そこにはミサトとカヲルが立っていた。
「ご苦労様。レイ」
「ハイ…」
「レイ。シンジ君は一旦ここを離れるそうだよ。まぁいい判断だね。今回の戦闘でゼーレは一旦地下に潜る必要がある。そうすると、ここでの戦闘はしばらくは無い。いたずらに時間を浪費する必要も無いしね。…レイはどうするんだい?」
「決まっているわ。葛城三佐。碇君に付いていくことは出来ますか?」
「で、できると思うわ」
 ミサトは驚いた。あのレイが、ここまで自分を出す事があるなんて想像も出来なかった。何があったのか茶化してみたかったが、藪を突いて蛇を出しては堪らないので言わなかった。
「アナタは?」
「ン? ボクかい? そうだね、ボクはここに残るつもりだよ。チルドレンの半分以上が行方を晦ますわけには行かないからね。しかし、そうするとしばらくはシンジ君と会えない訳か……」
「……………碇君は渡さないわ」
「はいはい、お二人ともそこまでね。とにかく、今後のことを司令に報告しときましょ。その後でケンカでも何でもしなさい。ただし、被害を出さないようにね」
「大丈夫………葛城三佐の料理よりは人道的………」
「何ですって〜!!」
「シンジ君が言っていたよ。『ミサトさんの料理だけは食べちゃいけない』って」
「……………(怒)」
「さて、その話は置いといて。僕の身の振り方は決まっているんですか? まぁ基本的にネルフに残るつもりですけど」
「その事は司令から話があるそうよ。…言っておきますけど、私の料理は万人うけしないだけよ」
「…赤木博士は『あれを料理と認めるのより、太陽が四角い言うのを信じる方がまだ許せるわ』と言っていたわ」
「……………ボクはアナタとの同居だけは、遠慮させてもら………」
(リツコ………許すまじ……)
 渚カヲルは後に『リリンとは怖いね。このボクに恐怖心を抱かせることが出来るなんて…』と冷や汗交じりに語り、綾波レイは『あの時の葛城三佐は人間じゃなかったわ』ともらしたそうだ。……葛城ミサト。彼女は、彼ら二人に恐怖心を教えると言う快挙を成し遂げた。



発令所
 発令所に着いたミサト達は、そのまま碇ゲンドウと冬月コウゾウのもとへと足を運んだ。レイの希望とカヲルの今後のことの相談である。都合のいいことに、発令所の最上席には件の二人が座っていた。シンジ達はその下でオペレーター三人組と話をしていた。
「碇司令。綾波レイ、渚カヲルの今後のことで、ご相談があります。綾波レイは副指令、赤木博士との随伴を希望しています。渚カヲルはここに残る事を希望しています」
「………レイのことは許可しよう。監督は、シンジと同じく赤木君に一任する。………渚カヲル。何か希望することはあるかね?」
「そうですね……本部はどうなるんですか?」
「その事は私から話そう。第三新東京市は若干の移転を余儀なくされた。湖の水が流れ込んできたのでね。一応松代の機材などを取り寄せて、ここより東に、新しく広げようとしていたネルフの研究所と、ゲヒルン時代の研究所もあるので、そこに再建することになる。再建といっても街としては、すでに存在しているので一年もすれば体裁は整う予定だ」
「じゃぁボクもそれについて行きますよ。渡さないといけないものも有ることだし。かまいませんね?」
「あぁ、問題ない」
「決まりですね。それじゃぁ、シンジ君と少し話でもしてくるかな。もう用もないでしょう?」
「あったらこちらから呼び出す」
「分かりました。……レイ………」
「………何?」
「そんなに睨まないでくれるかな。可愛い顔が台無しだよ」
「抜け駆けはダメ」
「…………レイはまだ話が終わってないだろ? ボクは終わった。何か問題あるかい?」
「…………」
「二人とも話は終わりだ」
「葛城君。二人を下に連れて行ってくれんかね」
「はい。了解しました」
「レイ。詳しいことはシンジに聞け。今その話をしているはずだ」
「ハイ」
「ふぅ。惜しかったな。せっかくシンジ君と話すチャンスだったのに」
「ほら。二人とも行くわよ。シンちゃんが待ってるわよ」
 こうして世界を担うもの達は、大人も子どもも、それぞれの思惑を胸に行動を始める。………………一人を除いては……



 ――――――惣流・アスカ・ラングレーの場合
「……………」
「飲まないのか? アスカ」
「いらない」
 加持は、アスカを食堂近くの喫煙所まで引っ張ってきた。アスカの目は赤かったが、涙は見せていなかった。それが最後の砦であるかのように。加持は正確に今のアスカの精神状態を掴んでいた。……表面的には。
(プライドの高さか……俺はそんな物、とうの昔に捨てたが、捨てきれない者は不運だな。周りが見えないと、心はたやすく傷つく。………一人にするか)
 しかし、加持は判断を誤った。今のアスカには周りの状況を掴むほどの余裕はなかった。そして、自力で立ち上がる事も出来なかった。そのため時間をおけば大丈夫と思った加持予想を裏切り、時間を置けば置くほど、アスカは病んでいった。
(シンジに負けた……ファーストに助けられた………その上、あんな男に言いくるめられるなんて………アタシじゃないとママは……弐号機は動かないんじゃなかったの?! ……アタシが手も足も出ないなんて!! …………何のために!!)



『敗北』




(違う…………………)



『重責』




(そんな物ない!! ………………違う)



『寂寥』




(そんな物感じない!! …………………違う!)
 シンジと会話するレイ。
 あの男と会話するシンジ。
 シンジと笑いあうリツコ。
 レイと笑いあうミサト。
 シンジを認める司令。
 ……………本心から笑うあの男……
 ……………シンジが気にするレイ……
 ……………何かを共有する三人……
 動かない弐号機。
 帰ってきた初号機。
 爆発から復活した零号機。
 ……………あの男の手によって甦る弐号機。
(違う)―――――何が?
(違う)―――――アナタは負けたのよ。
(違う)―――――助けられたの。あの三人に。
(違う)―――――アナタは弐号機を動かせなかった。
(違う)―――――彼は動かした。弐号機を。
(違う)―――――アナタは『イチバン』じゃない。
(違う)―――――否定できるの?
(…違う)――――その権利があるの?
(…違う)――――理由があるの?
(……違う)―――何が?
(……違う)―――全てを否定するの?
(……違う)―――シンジも否定するの?
(………………)
(………………)
(………………)
(…) ――――――弱いのね。
(……違う)――― ……………逃げるの?
(!!!!)
 アスカの中で何かかが止まる。音を立てて。軋むように。それでもアスカは考えることをやめない。まるで、それしかすがる物が無いように。
(……だれが逃げるの?)
『アナタが』
(何から?)
『…自分から』
(どうしてアタシが自分から逃げないといけないのよ!!!!)
『アナタは弱いから』
(どこがよ!)
『一人では戦えない』
(!! ……闘えるわ!! あの使徒とすら闘ったのよ!!)
『アナタは一人では戦えなかったわ』
(第六使徒……!!)
『第六使徒戦は、シンジが居たわ。シンジが居ないと今ごろ海の藻屑よ』
(第は…)
『第八使徒戦もシンジが助けてくれたわ。ナイフを投げてくれたのは誰だった? ワイヤーが全て切れた時に、引き上げるために溶岩の中に飛び込んでくれたのは誰だった?』
(!! …………)
『それ以降、アナタは一人で出撃をしなかった。…命令違反をするまでは』
(…………それでも、アタシは逃げなかった。シンジのようには)
『逃げていなかった?』
(そうよ!! アタシは苦しい時も逃げなかった!!)
『そうして自分から逃げた』
(!!!!)
『シンジは素直だった。……友達を傷つけた。だから迷った。悩んだ。人としては当たり前の事。シンジはそれに素直に従った。シンジが異常じゃない。あの時のアタシ達の周りこそ異常だった』
(それと何の関係があるのよ!!)
『アナタはあの時何をしていた? あの時だけじゃない。アナタは何時も自分から逃げていた。アナタが自分で決めた事はいくつあるかしら? シンジとの同居。他には?』
(!!!!! 人任せじゃない!! アタシは自分の意志でエヴァに乗った!! 自分の意志で闘ってきた!!)
『何と?』
(え……?)
『何と戦ってきたの?』
(そ……それは……)
『皆戦っているの。弱い自分と。それがフツウなの。そして皆知っているの。他の何から逃げても、自分からは逃げてはいけないって。それは他人が入ってこれない、孤独な戦い。アナタは自分と戦って来た? 未来は自分で引き寄せるしかない。それを考えてきた?』
(考えてきたわ!! だからエヴァに乗ったんじゃない!!)
『何の未来のために?』
(!! ………)
『今いる人たちは輝いてる。自分の未来を掴もうと、弱い自分と戦っているから。……………そして、弱い自分に打ち勝っているからこそ、信頼し合い、協力し合っているの。アナタは他人を信じる事が出来る?』
(アタシは今まで一人でやってきた!! これからも…)
『孤独』
(!!!!!!)
『弱虫』
(………)
『そのアナタが? 一人で?』
(………)
『闘えない者』
(………や…)
『翼をもがれた天使』
(や…………)
『血にまみれし愚者』
(や……メ………て…)
『心弱き者』
(やめ……て………)
『己を認めず、他者を傷つける咎人』
(やめ……テ…)
『用を為さぬ者』
(やめて………)
『孤独の者』
(やめて……)
『傲慢なる者』
(やめて)
『他者の心を踏みにじり、快哉をあげる罪人』
(やめて!!)
『永久に許されざる者』
(!! やめて!! アナタは一体何者なのよ!!)
『……分からない? 愚かな人。アタシはアナタ。アナタの深層心理に潜むもう一人のアタシ。鏡に映した左右違わぬ者。己の犯した罪を唯一裁くことの出来る者。アナタの心』
(…………………)
『だから、これは全て真実。アナタの心の中にある想い。アナタが隠しつづけてきた自分自身』
(…………………)
『アナタはもうダメ』
(……………)
『逃げたから』
(アナタから?)
『いいえ、アナタから』
(……………アタシは……………もう?)
『そう』
(…………………)
『もう…』
(『アタシは要らないの………………』)
『誰からも必要とされない』
(誰も見てくれない)
『誰もアタシを呼ばない』
(誰も聞いてくれない)

(『シンジすらも…………』)

「用済みなの………」
 気づかないうちにアスカは病んだ。誇りは消えうせた。信念は無くなった。心は砕けた。その全てはシンジに向けた感情。己を認める事の出来ない不器用さから来るものであり、誰も気づく事の無いまま、アスカの残留は決まった。
 アスカは誰にも気づかれぬように振舞った。シンジが日本にいたら気づいただろうが………シンジ以外のものはアスカが病んでいたのに気づかなかった。……シンジの帰国まで。



 こうして暁の天使は地に落ちた。
 己で己に鎖をかけた。

 その背に翼は見出せず、
 その蒼い瞳は何も映さない。

 己が慕った者が傍にいないことで、
 その天使は
 耳と瞳を塞いだまま眠りについた。
つづく



(後書き…のようなもの)
作者  「ここまで読んで下さった皆様! ありがとうございますううううぅぅぅぅぅ!!」
 ドゲシ!!!!
作者  「ハウウウ!!」
アスカ (怒)
シンジ 「アスカ、それ以上したら死んじゃうよ!!」
アスカ 「死ねばいいのよ!! こんな奴!!」
カヲル 「同感だね。このボクをシンジ君から引き離すとは……いい度胸をしているよ」
レイ  「……………碇君は私のもの」
アスカ 「レイ!! なんかしたら許さないからね!!」
レイ  「聞こえないわ」
アスカ 「なななななななんですっっってええええええええぇぇぇぇぇ!!!!!!!!」
シンジ (なんか大変なことになったな……)
作者 「さて」
四人 ビクウウウウウゥゥゥゥゥ!!!!
作者 「ここで一つお知らせが有ります」
アスカ 「頑丈ね…………(10トンじゃ軽かったかしら)」
作者 「頑丈なのが取り柄ってネ。……ええと、#0を読んで下さっていれば、この話が行き当たりバッタリなのは分かって貰えていると思います」
カヲル 「ホントだね。最初の予定じゃアスカ君は、あぁはならないはずだったよね?」
作者 「まあね。予定は未定ってね。でね次回、マナちゃんを登場させる予定――『あくまで予定』――なんですが」
シンジ 「オリキャラも出したいと?」
作者 「…そうなんだけどね。でも…」
レイ  「予定は未定」
作者 「……セリフ返してくれる?」
レイ  「イヤ」
作者 「(こいつ…)……でも確かに未定だから」
カヲル 「言い訳かい?」
作者 「…………………………」
カヲル 「…図星だったようだね」
シンジ 「まぁ作者(バカ)だから」
アスカ 「それより!!!!!!!」
作者 「わあぁ!! びっくりした…」
アスカ 「あの小娘が出てくるの?!」
作者 「うん。……レイ、その無言のプレッシャーは止めて」
レイ  「……………」
作者 「………マナちゃんだけじゃないけどね」
アスカ 「誰?」
作者 「それは秘密です」
 ぼぐしゃああああぁぁぁ!!!!!
アスカ 「冗談はキライなの!!」
カヲル 「…………これは立てないね」
シンジ 「……うん」

カヲル 「さて、今後の概要だけど」
レイ  「タイムテーブルを進めるらしいわ」
カヲル 「そう。無理やりにでも学園物にもって行くつもりらしいからね。コイツは」
シンジ 「まぁ後2話ぐらいかかるらしいけど、どうなるかは作者の腕次第」
カヲル 「最終話を迎えるのいつになることやら……」
アスカ 「アタシを活躍させればいいのよ」
レイ  「ライバルは多いわ」
アスカ 「そうだけどね」
カヲル 「まあまあ。ここはこれくらいにしておこう。あぁ、作者に代わってお礼を言っておかないと」
三人 「この話を読んでくださり有難うございました。これからもよろしく」
第弐話終幕

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管理人のこめんと
 SHOWさんの『誰がために……』、第2話です。前回、アスカとマナに襲撃されたダメージは意外に軽かったようですね(笑)。
 予想どおり、加持さん大復活。やはりこの人がいないと始まらんでしょう。色々と便利に使えますからねぇ。ついでにおじいちゃんたちも復活してるようですが(--;)

 しかし、何だかアスカが不穏な気配。前回、妙にハイテンションだったから油断してました。他の人たちが知らない間に補完されてたから、てっきりアスカも補完されたのかと思ってたんですが、なんか違うみたいです(^^;)
 カヲルくんてば結構きついです。正論だから、どうにも反論できないんですよね。確かに、アスカは甘えてると思うし……。けど、あんまりいじめないでやって欲しいなぁ。
 まさかこのまま壊れていっちゃって、元気なアスカは後書きにしか出ないなんてことは……ないですよね? …ないといいなぁ(^-^;

 まあ、基礎が歪んでるんだから、一度建て直さなくちゃならない。でもって、建て直すには一度壊すしかない。中途半端は何もしないよりよけい悪いですからね。彼女には頑張って欲しいとこですが……。
 続きが楽しみです。

 とゆうわけで皆さん、後書きだけ元気なアスカの攻撃を受けて瀕死(爆)のSHOWさんに、何とか頑張って生き延びてねー、とか、死にそうになってもとりあえずつづきをっ(をひ)、とか、感想や応援のメールをじゃんっじゃん送って頑張ってもらいましょうっ。
 SHOWさんのメールアドレスはこちら

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