私には大切な物がある。お母さんが遺してくれたもの。色々な研究の資料、良く手入れされた楽器。そして、私たちに宛てられた手紙。当然二通あった。そのうち一通が私の手の中にある。そこに書かれた言葉。わたしが一番大切にしている言葉。
 私には大切な人がいる。そして大切な人がいた。今も、心の中にいる人たち。友人達。家族………。
 時々思う。
 忘却は人が犯す最大の罪なんだろうか?
 神がくれた最大の慈悲なんだろうか?
 今は、分からない。
 いつか、分かるんだろうか?


微笑(ほほえみ)の中で』

作:SHOWさん


参話−A  『心の形』


「……………………………………ママ? 誰が?」
「? ママはママよ」
 そう言って私を見上げる。深緑の髪に常緑の瞳。はじめて見る子ども。私は十四で一児の母になった記憶はないんだけど…。
「…………と………とにかく。レンちゃん、中に入れてあげて。話を聞いてみましょう」
「あ、はい」
 小さな子を連れて居間に戻る。思考停止状態だったみたい。いったいなんでこんな子が…?
「そこに座ってちょうだい」
「ハーイ」
 ちょこんとソファーに腰掛ける。改めて見るとけっこう可愛い。光を弾く髪は腰付近まであり、同じ色のワンピースに溶け込むように見える。肌も白い。大きな瞳をキラキラさせてる。文句無しの美少女みたいだけど…
「あなた、名前は?」
 ミナが尋ねると、笑顔が一瞬にして泣きそうになる。
「………………………」
「…無いの?」
 コクンと頷く。それを厳しい瞳でカオル君が見ている。
「……『サキエル』………」
「え? ……知ってるの? カオル君?」
「何ですって?!」
 わぁ! ビックリした…。リツコさん急に叫ぶんだもん……でも、サキエルって聞いた事あるような気が…。
「間違いないよ。彼女は『サキエル』さ。同族のボクには分かる」
「………『それ』はわたしのなまえじゃないもん!! リリンがかってにつけたなまえだもん!!」
 ………カオル君と同族……リリン………。じゃぁこの子って!
「ええええええ!! この子も使徒なのぉ?!」
「………でも、『サキエル』って自爆したんじゃないですか?」
 ……ミナって変なところで冷静ね…。でも、自爆したってことは……。
「ねえ、君ってもしかして、今日私に話し掛けてきた人? あの時に……」
 あ、表情が戻った。
「うん!!」
 やっぱり……。この子ってわたしが戦っているときに話し掛けてきた子なんだ…。でも、話をした印象はもう少し年が上のような気がするけど…。
「話し掛けた? 戦闘中のあの独り言の事?」
「独り言じゃないですよ。…そう言えばリツコさんたちには聞こえていなかったんですね。でも、私にはちゃんと聞こえてたけど……」
「うん。ママがわたしにいてもいいんだよっていってくれたら」
「……なんで私がママなの?」
「? リリンってじぶんをうんでくれたひとのことを『ママ』ってよぶって」
「…何処から知ったの? そんな事」
「ママから」
 ……………良く分かんない…。
「おそらくこういう事だと思うよ。あの戦闘の時にレン君が『サキエル』に対して生存理由を示した。その時に『サキエル』はそれを受け入れた。今まで消滅が生存理由だったから『使徒』としてのサキエルは存在できなくなった。で、新しい『サキエル』に生まれ変わる時に、レン君のパーソナルパターンを半分だけコピーした。色んな記憶や思考とともにね。明日、本部に行って調べてみたら分かると思うけど、『サキエル』の遺伝子パターンはレイに酷似しているはずさ」
「……つまり、ここにいる子は『サキエル』だけど、『使徒』ではない?」
「ボクやレイと同じ存在かな?」
「ふ〜ん。で、どうするのこの子?」
「「「………………………………………………」」」
 …三人とも固まっちゃった。でもなぁ、今の話聞いてると、この子を放り出す事も出来ないなぁ。
「………わたし、いちゃいけないの?」
 わああああ!! 泣いちゃうよううう!!
「……四人が五人でも一緒か……。いいわ。ここに居なさい」
「リツコさん! いいんですか?」
「それしかないでしょ? 面倒は基本的に皆でみましょ」
「よかったね! えっと……、名前がないんだっけ……。姉さん、名前付けてあげようよ」
「そうだね。呼ぶ時に困るし、ここに居るんだった戸籍も作ったほうがいい。名付け親は…」
「レンちゃんに決まっているでしょ」
「…………えっと……………。…………………………」
 そんなに期待した顔で見られたら緊張するなぁ……………。
「……………………」
「……………………」
「……………………」
「……………………」
 思いつかない……………。
「……………!! そうだ! 『スイ』っていうのはどう? 『緑』って意味。ストレートだけど良くない? 『碇スイ』」
「なるほど……。良いんじゃないかな? 似合っていると思うよ」
「…うん。良いと思うよ。姉さんもやるじゃない」
「決定ね。よろしく。スイちゃん」
「……なまえ? わたしの?」
「嫌だった?」
「ううん! いやじゃない。………あたし、ここにいていいの?」
「そうよ。あ、でもママだけは止めてね。ちょっと恥ずかしいから」
「? なんてよべばいいの?」
「『お姉ちゃん』位かな?」
「レンお姉ちゃん」
「そう! で、ミナとカオル。カオルはお兄ちゃんね」
「……ミナお姉ちゃん」
「そうよ」
「…カオルお兄ちゃん」
「そうだよ」
 ……………しまった。リツコさんどうしよう……。まずいよな〜。
「…………私の名前はリツコよ」
「………リツコ…………お姉ちゃん?」
「残念だけど、『お姉ちゃん』っていう年じゃないの。……あなたが嫌じゃなければ『お母さん』の方がいいわ」
「リツコお母さん? ………! リツコママ!!」
 ………………………すっごく意外。まさかリツコさんが自分で『お母さん』って呼んでくれっていうなんて…。スイも嬉しそうだけど………、いいのかなぁ?
「…いいのかい、リツコさん? そんな事言って」
「親がいないって言うのは可哀想よ。生まれたばかりならなおさらね。そうしとかないと都合が悪いでしょ? それに、私が良いって言ってるの。問題はないはずよ」
「……了解しました。そうしときましょう」
 こうして私たちは六人家族になった。でも、前途多難ねこれは…………


「いや〜、いい天気だね今日は。こんな日は昼寝をするに限るんだけどね」
「しょうがないよ、学校なんだから。でも、カオルって席が窓際だからいつも昼寝してるじゃない。変わらないよ」
「それもそうか。しかし、レン君も大変だよね? 着た早々学校なんて」
「…………え? ゴ、ゴメン! ちょっとボーっとしてて…」
「……スイちゃんなら大丈夫だよ。リツコさんが面倒見てくれるっていったし、そんなに心配なのかい?」
 そうだよね、リツコさんが本部に一緒に連れて行ってくれたから、心配ないはずなんだけど…。
「………………」
「姉さん。お父さんなら大丈夫よ。昨日のうちに電話しておいたでしょ?」
 そう。昨日のうちに電話しておいたの。もう全てばれてるよって。すっごく驚いていたみたい。でも、冬月先生が説得して、今日学校から帰ったら話をする事になったんだ。スイは冬月先生に頼んでいるから大丈夫だけど…。
「その話は帰ってからにしよう。さ、着いたよ。ここが、第壱中学だよ」
「職員室まで案内するね。カオルは私のカバン持って行っていて」
「ボクはついていけないのかい? ミナ、それは酷いんじゃないのかい?」
 カオル君、笑いながら言っても効果はないと思うんだけど……。そう言いながらもちゃんとカバンを持って行くところが何とも言えないわね。相変わらず良くわかんないな…カオル君は。カッコいいのにね。
「さ、姉さん行こう!」

「この子がそうか……。なるほど、レン君に良く似ている。それで、名前は?」
「碇スイ!」
「スイちゃんか……。赤木君、わたしが面倒をみても良いかね?」
「よろしいのですか? 私も仕事の時はマヤにでも任せようと思っていたので、そうしていただけるとありがたいのですが…」
「碇。構わんな?」
「…………ああ。問題ない。…………私も早く仕事を終わらせよう」
 ……………………私も早く終わらせた方が良いわね。スイちゃんに何かあったら、あの三人から殺されかねないわ…。ミサトにだけは見せないほうが………。
 シュン!
「おはよ〜ございま〜す!」
 …………なんでこういう時だけ遅刻もせずに早いのよ……。釘を刺しとかないと……。
「なになになになに!!! この子!! かわいいよ〜!!」
「!!!! リツコママ!! この人こわ〜い!!」
「なになになになに!!! この子リツコの子どもなの?! あんた何時子どもなんて産んだのよ?! 相手は?! かわいい〜〜〜〜!!」
「……ミサト、あんまりこの子泣かせると、あなた命を落とすわよ…」
「え?」
 はぁ。やっと司令達に気づいたようね…。副指令のこめかみに血管が浮いてるし、司令にいたっては妖気が漂っているわ。でも、スイを泣かせたんだもの。弁護もしなければ庇いもしないわよ。
「葛城一尉………………1ヶ月の減棒だ…」
「碇。少し甘くないかね?」
「大丈夫だと思います。今日あの子達来ますから」
「そうか、それなら良かろう。スイちゃん、おじさんと何か食べに行こう。さ、おいで」
「グス………グス…。いいの? リツコママ?」
「ええ。行ってらっしゃい。私も仕事を早めに終わらせるわ」
「うん!!!」
「ねえリツコ………。あの子って?」
「レンちゃんの子ども。ミナもカオルもあの子の事すっごく可愛がっていたわ。後で絞られるのね……彼女たち、今日来るから」
 ミサトの表情が固まるけど、自業自得ね。さ、仕事しよ。


「ふぁ〜〜〜〜……やっぱり眠いね……」
 さて、レン君は何処のクラスになるんだろう? 後でチェックしとかないとね。ボクのクラスにも空きはあるけど、どうかな? ネルフのことだから同じクラスに押し込む事は考えられるね。そうなるとなかなか楽しいことになりそうだ。
 ガラッ
「おはよう」
「おお、なぎ…」
ドドドドドドドドドドドドド!!!
「「「「「「「「「「「「「渚君!!! 朝一緒に来ていた子って碇さんと誰?!」」」」」」」」」」」」」
 …ビックリした…。そうか、見ていたんだね。
「彼女かい? 碇さんのお姉さんさ。今日転校して来たんだ」
 ……何だか殺気をかんじるんだけど…。あ、一応納得したみたいだね…。しかし、他のクラスの娘までどうしてここにいるんだろうね? それよりも…
「………あのさ、退いてあげないと死んじゃうよ? 相田」
 ………踏まれた事に気付かれていないのも可哀想だけど、気付いても退いてくれないというのは悲惨だね…。日ごろの行いが悪いという事かな? 大丈夫なのかな? リリンはそんなに丈夫じゃないはずだけど…。彼は特別なのかな?
「生きてるかい? ケンスケ?」
「…………………おお。」
 本当に丈夫だな……。
「………イテテテッ! しかし、凄いな。お前の親衛隊」
「………迷惑なんだけどね…ボクとしては」
「ふ〜ん。もてる男も別の意味でつらいんだな。ところでさ、転校生って碇の姉さんだったのか?」
「そ。双子のね。あ、先生が来たよ」
 ガラッ
 相変わらず、何時倒れても不思議じゃないな……。あれで50代っていうのは信じられないよ……。
(ちょっと、カオル! 椅子引いてくれない?)
(遅かったじゃないかい。ミナ。……はい)
(ありがとう)
「おはようございます。今日は転校生がいます。皆さん仲良くしてあげてください。
 ガラッ
「……………碇レンです。よろしくお願いします」
「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」」」」」
(生きててよかったぁ!!)
(このクラスは天国だぁ!!)
(純和風美女ぉ!!)
(二大美女から三大美女に!!!)
(くううううぅぅぅう!!! 売上は倍増だぁ!!!)
「……それでは、碇さん………このクラスにも碇さんがいましたね…。レンさんとお呼びしましょう。レンさんの席は窓際の一番後ろの席です。碇ミナさんの隣です」
「はい。………あれ? カオル君、このクラスだったんだ? よろしくね」
「「「「「なああああああにいいいいいいいいいいい!!!!!」」」」」
(渚ぁぁぁぁぁ!!!)
(あれだけ女を独占しておいてぇ!!!!)
(まだ足りないというのかぁ!!)
(お前にはミナちゃんと綾波がいるんじゃないのかぁ!!!)
 ……………凄い殺気だな…。男でこの反応っていうことは、…………やめた。女の子の方は見まい。
「……ねぇ。カオル君。私、なんだか睨まれているような気がするんだけど………気のせいかな?」
 気のせいじゃないよ。睨まれているんだよ、ボク達はね。
「別に、気にしなくていいよ。姉さん、端末はそこにつないで」
 ミナ。君って鈍感だったんだね。よくこの視線の中で平然としていられるね? 君のその神経の太さは尊敬に値するね…羨ましいよ。
「それじゃぁ、朝のホームルームを終わります」
「レン君!! 逃げる…」
「「「「「渚ああああああああぁぁぁぁぁ!!!」」」」」
 ………………遅かったか…。レン君もミナも囲まれている。
「ねえねえ、レンさんとカオル君ってどんな関係?」
「どんなって? う〜ん、友達……なのかな?」
「姉さん、それは違うんじゃない? ただの友達なら同居なんてしないって」
「「「「「なああああああにいいいいいいいいいいい!!!!!」」」」」
 ミナ、君はボクの不幸を願っているのかな? それとも、天然なのかい? どちらにしろ、無事ではいられないね…

「はぁ、なんか大変だったね? やっと振り切れたし…」
「流石に追ってこないだろうな? ミナ。君はもう少し『考える』ということをした方が良いよ」
「はははは…ごめんなさい」
 今は昼休み。三人で屋上まで出てきてるの。大半の生徒は何とか立ち直っていて、友達も出来たんだけど、カオル君の友達の相田ケンスケ君がカメラ持って追いかけてきてたんだ。何だかすっごく怖かった。で、その相田君にカオル君が何かしたらしく、昼休みになってやっと振り切れたって訳。
「でも、レン君も凄い人気だね? これはうかうかしていられないかな?」
「ミナと同じ顔なのにね。でも、綾波さんも同じクラスなんだ。怪我大丈夫かな?」
「本部に行った帰りによれば良いよ。姉さん、お弁当どこ?」
「バックの中よ。カオル君のもあるから」
「ありがとう」
 三人分のお弁当は私が作ったの。リツコさんとスイは本部の食堂で食べるって。
「あの……碇レンさん」
「? なんですか?」
 そこには同じクラスの委員長の………えっと、洞木さんだったかな? と、二、三人の名前も聞いていない女子が立っていたの。
「ちょっといい? なんか、彼女たちが話があるんだって」
 そう言って後の子達を指差す。………なんだかなぁ、いいたい事があるのならはっきり言えば良いのに…。
「………………ご飯の後じゃダメ?」
「ええと…………」
 …洞木さんも困ってるね…。はぁ、彼女は巻き込まれただけのようね。
「………話があるんなら自分たちで行けばいいのに」
 げ!! 相田君?! 追いついてきたの? でも、急に女の子の後に立つのはやめた方がいいと思うけど…。ほら、逃げちゃった…。
「ケンスケ。助かったけど写真をとるのは禁止だよ」
「分かってるって。俺も同席して良いかな?」
「レン君に聞いてくれ」
「写真に撮らないならいいよ。……洞木さんも一緒にどう?」
「え?」
「委員長、あの子達に頼まれてメシ食ってないんだろ? レンちゃんもそう言ってるんだから一緒に食えば?」
「え? え?」
「遠慮しなくていいよ。ほら、カオルつめてつめて」
「分かったよ、ミナ。ちょっと待って」
 洞木さんも何だかわかんないようだけど良いよね。

「………………」
 雲が流れていく……。思ったとおり。ここは気持ちいい。屋上の出入り口の上の給水タンクの陰だから涼しいしね。ゴロゴロしてるのは見た目的にはよくないけれど、午後の授業が自習じゃなきゃこんな事出来ないから、たまには良いよね?
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
 カチャ…
 ? 誰か出て来た……。午後の授業抜け出したのは私だけじゃないんだ…。誰だろう?
「………………」
 ……同じクラスの娘だ……なんて名前だっけ? え――――っと………、霧島………さん、だっけ? 何してるんだろう?
「………………」
「………………」
 誰か待ってるみたいね……。何となく出づらい……。ま、関係ないよね? 私には…。も一回寝よ。
 カチャ…
 …………また来た。誰だろう? 霧島さんが待ってる人よね?
「……来てくれたんだ……。渚君………」
 !!!!! 渚って……カオル君?! …………なんで……?
「……来てくれるとは思わなかった…。ゴメンね? 呼び出したりして。聞いて……欲しい事があるの……」
 …………………告白の現場………ってこと? まずいなぁ……。
「………渚君、好きな人いるよね? だけど、聞いてね。……………………………………………私……………渚君の事が………………好きなの。付き合って欲しいの」
「……………ボクは…その気持ちには応えてあげられない…」
「………………そう…………。好きな人って……………引っ越してきた碇さん?」
「…………ああ」
 ?!! ………………冗談じゃ…………なかったの?!
「……………分かったわ………聞いてくれてありがとう。………………ね、1つだけ。お願いを聞いて」
「…………なんだい?」
「…………キス…………して欲しいの…………」
「…………………分かった」
 ……………………………………
 ガチャン!!
 ………出て行ったみたい………。カオル君は…いない……。……………………………? 何? 苦しい………。何で? 初めて…こんな感覚。私、自分の気持ちをもてあましてるの? …分かんない。何なんだろう?

 結局何だったんだろう? こうして三人で本部を歩いてても何ともないのに。……こっちに来てから分かんない事ばっかりだなぁ。う〜ん、誰かに聞くわけにもいかないし、説明できないし、どうしよう。
「……姉さん! どうしたの? なんか変だよ?」
「え? 何?」
「……………」
 はぁ。こんな事じゃいけないよね。しっかりしなきゃ。ミナにも心配かけちゃってるし…。でも、カオル君の顔を見る事がためらわれるんだよね……。
 シュン
「あ〜〜〜〜!!! お姉ちゃ〜ん!! 学校おわったの?」
「スイ。元気してた? ……すみません、リツコさん」
「あら、学校おわったのね。お帰りなさい。スイちゃんはいい子にしてたし、私よりも副司令が面倒を見てくださったわ。お礼は副司令に言いなさい」
「冬月先生が? ありがとうございます」
「いやいや、私も楽しかったよ」
 そう言うと冬月先生はスイの頭をなでた。スイも喜んでる。良かった。ちょっと心配だったんだよね……。
「スイちゃん。お父さんから何もされなかったでしょうね?」
「………………ミナ。私は一応人の親なんだが……」
 ………居たんだ……。やっぱり暗いよね…。
「ふふ。碇のやつ、自分の仕事が終わらなくてスイちゃんの面倒を見れなかったから機嫌が悪いんだ」
 …親ばか? 信じらんないなぁ……。
「スイちゃん。誰からも何もされなかっただろうね?」
「カオルお兄ちゃん!! え〜っと、う、うん……」
 ……………………何かあったんだ……。あ、同じ事感じたんだ。ミナが無表情な笑顔になったし、カオル君はアルカイックスマイルなのに妖気が漂っている……。私は無表情で殺気が出てるんだろうな…。
「リツコさん。何がありました?」
「え…えっと…(本気ねこの子たち)」
 ちなみにミナの笑顔ってお母さんの得意技だったらしい。私の無表情はあの男譲り。遺伝って怖いわね。
「お兄ちゃん! スイ何ともなかったよ!」
 ………スイは無理に笑ってるわね…絶対。誰よ!! こんな顔をさせるのは!! ………………………見つけた。
「葛城ミサトさん?」
 ビクウゥ!!!
 ビンゴ。絶対この人だ。
「スイに何しました?」
「隠すとためにならないよ?」
「早めに話してくれないと困るんですけど」
「えっと………私は何も……してないわよ………多分」
 私とカオル君とミナに詰め寄られてたじろいでる。そんな態度で信じられるわけがない。周りの人たちはみんな『触らぬ神に祟り無し』を決め込んでいるから助け舟もないんだよね。あっても同じだけど……。
「信じられません」
「嘘は為にならないよ?」
「絶対に聞き出します」
「三人とも。そこまでにしなさい。レンちゃん、司令と話をしないといけないんでしょ? カオル、ミナ、スイを見ててね。さ、司令、副司令もです」
 わたしは渋々リツコさんについて行った。後からミナに何があったか聞こう。


「……………大体話は分かったわ。でもそんな事をしてもお母さんは喜ばないわよ」
「………うむ」
 …………この男は〜! 本気でお母さんがそれで喜ぶって思ってんの?
「はぁ。まぁいいわ。その計画は中止。お母さんは事が終われば自分で帰るって言うわ」
「しかし、レン……」
「私とミナのお母さんよ? 分かって言ってる? 『お父さん』」
「!!! …………そうだな」
「よし!! じゃぁ、この話は終わりね。それで、スイの事なんだけど…」
「冬月」
「ああ。レン君、これを」
 そう言って差し出されたのは……戸籍謄本? ………スイの名前が入ってる……早いわ……。
「これでよかろう」
「父さんってホントに不器用ね……。今まで誤解していたわ。でも、スイにお父さんって言わせないわよ。スイのお母さんはリツコさんなんだから」
「む。………問題ない。………いや、面倒ぐらいは……」
「………冬月先生付きならOKよ」
「厳しいわね。レンちゃん」
「リツコさん、スイが無表情になったり不器用になったりしていいんですか? 無表情の怖さは今さっきの私で分かったと思うけど…」
「そ、そうね。分かったわ。私は何も言わないわ」
「父さんは?」
「ユイに似てきたな…………いや! 分かった!!」
「よろしい! じゃ、リツコさん行こう! ………あ、そうそう。父さんも冬月先生も手をきちんと治した方が良いですよ?」
「「!!! 分かった」」
 バタン
「良かったな…碇」
「ええ。冬月先生」


「……レンちゃん、何か私に聞きたい事があるんじゃないの?」
「…………気付いてました?」
「一応ね。あなたより人生経験は豊富だから……。カオルの事かしら?」
 ………図星だ〜…そんなに顔に出てたかな?
「…どうしてそう思うんですか?」
「…今日、カオルの事避けてたでしょ? カオルが何か言いたそうにしてたわ。元気もないし……」
「………何だかわかんないんです」
 リツコさんは私を自販機が置いてある休憩コナーに連れてきた。最初から聞く気だったんだ…。それで、発令所に戻らなかったのね。
「………カオル君は、本気なのかな?」
「あなたを好きって事? 本気だと思うけど…」
「会ったばっかりで? 好きになれるのかな?」
「…あなたはどう思うの? 彼の事。好き? 嫌い?」
「分からない……。いい人だとは思う。でも、好きなのかどうかは分からない…。彼と一緒にいると楽しい。でも、それはミナと一緒にいるのと同じ感じがする。……今日、カオル君が告白される現場を見ちゃったの。その時はすっごく苦しかった。でも、普段は何ともないの」
「…不器用ね。お父さんに似て…。いい機会だから、少しお話しをしてあげる………………。私の、大学時代の話よ…」
 そう言うとリツコさんはジュースを片手に話し始めた。
「私とミサトは大学の時に知り合ったの。その当時、彼女には『加持くん』という彼氏がいたの。何かしらね? すっごく気が合ったの。で、いつも一緒にいたの。どこかに遊びにいくにしろ、お酒を飲むにしろ、彼女たちは私を毎回誘ったわ。楽しい時間だった…。だから気付かなかった。自分の気持ちに……。楽しかったからこそ気付けなかったわ。私が加持くんに惹かれている事に……。気付いた時がそのトリオの解体の時だったわ。そして、わたしは、彼女たちから離れるような人生を選んだの。結局同じになっちゃったけどね…。そうしていると、いつ頃からか客観的にしか自分を見れなくなっていったの。恋愛もそう。素直じゃなかったのね……。『恋愛はロジックじゃない』 でも、自分の心に素直じゃなかったから、認められなかったのね」
 リツコさんが私の手に自分の手を重ねた。その手の暖かさがリツコさんの言葉とともに私の心に染み込んでくる。
「……自分に素直になれないと苦しむわ。私のように…。あなたたちは決して幸福とは言えない生活をしてきているし、これからもそれは続いてしまうわ。でも、幸せには、なって欲しいの。私と同じ事を繰り返してもらいたくないの。だから、自分の気持ちを怖がらないで。心が囁く事が、あなたの真実なの。大丈夫。あなたに何があっても、わたしが守るわ。だから……怖がらないで……自分の心を受け止めてあげて」
「リツコさん…」
 眼が熱くなる。その熱さを冷ますように、涙があふれる。お母さんがいなくなって以来、私には泣いた記憶がなかった。その空白の期間の心を埋めるように、涙があふれる。
 お母さんが遺してくれた手紙『幸せになって。生きていれば、何処に居ても幸せになれるから』その文面が甦る。
 涙があふれつづけた。
 何時までも………
「自分の心に素直になって。どんな結果だとしても、受け止めてあげて。大丈夫。私は何時も一緒にいるわ」
「うん…………………うん!」
「……………よし! …………もう大丈夫ね。今日家に帰ってから、カオルと話してみなさい。スイちゃんは今夜私の部屋で寝かせるから。大丈夫、覗いたりしないわよ」
「な?! リツコさん!!!!」
 かあっと顔に血が上る。
「あら、真っ赤よ。ふふふ、本当に可愛いわね」
「いや! これは! その!!」
「いいのよ。あ、でも、気をつけなさいよ。いきなりスイちゃんに妹か弟が出来たらビックリするから」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!」
 もう、言葉にならない…………。リツコさんはまるでお母さんのように笑っている。反則だよ〜〜。
「さ、戻りましょう。スイちゃんが心配するわ」
 …………………あれ? 何だか体が軽い………。そっか…………私………緊張してたんだ………。
「…………ありがとう、リツコさん」
 リツコさんは振り返ると、また微笑んだ…。





中間座談会(中書き)

 レン「中書きって何よ?!」
 作 「今回は二本立て。Bパートで18禁になるかな?」
 ミナ「姉さんのお相手ってカオルだったんですね?」
 作 「他のメンバーじゃ釣り合わないから。特に『止めて!!』っていう意見もなかった」
 レン「……………」
 ミナ「いまさら真っ赤になっても無駄ですよ、姉さん。しかし、作者ってミサトさん嫌いなんですか?」
 作 「いいや。リツコさんを持ち上げたら、勝手に落ちただけ」
 レン「…………天秤? でも、進展遅いわね。まだまだ、第四使徒戦になりそうにないし…、アスカさんの出番、こっちはあるんですか?」
 作 「予定はしてるよ、ただ、メインじゃないかな? 難しいんだよ〜、彼女って。キャラ立ってるから」
 ミナ「……進展遅い方が私的にはいいですけど…(順番的にいったら次だもんな)」
 作 「……………何考えてるか分かったけど、君のそういうのはまだ先。かなり先」
 ミナ「……それも何だか……」
 レン「いいじゃない? わたしは次よ」
 作 「そうだね、じゃぁとっとと行こうか? 話は後書きでね」

つづく

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管理人のこめんと
 SHOWさんの『微笑の中で』、第3話前編です。
 スイちゃん登場ぉっ♪ ろり好きのハートをむぎゅっと鷲掴みにしちゃう可愛さです。その可愛さでおじさんたちのハートも一気に鷲掴んじゃったみたいで、ゲンドウたちはすっかり孫煩悩なおじいちゃん状態(*^▽^*)
 なんとかレンちゃんにも許してもらえたみたいで、よかったよかった。レンに叱られてへこむあたり、ユイさんがアレを「かわいいひと」というのもなんとなく頷けます。
 ついでにミサトの不幸度が着実にアップ中。このままいくと出番はますます減りますね。
 さて、こめんとはこのへんにして、さっさと続きをどうぞ。
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 問題があった場合はきたずみに言って下さい。

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