取り敢えず、ご飯の支度は、おっけー♪
どうせ、火を使うと汗かいちゃうから、シャワーは後回しで、そのままご飯を作っちゃった。くんくん・・・・・・制服の袖の匂いを嗅いでみる・・・・・・う、ちょっと汗くさい・・・・・・。さっさと、シャワー浴びちゃお。
背中のエプロンを紐を解いて、するっ、と首をぬく。これ・・・・・・へへへ、リツコさんと色違いのお揃いなんだ。胸元で畳み・・・・・・脇にあるキッチンワゴンのカゴにしまう。
キッチンを出ると一旦、自分の部屋に戻る。部活で汚れたシャツとかを洗濯機に入れとかないとね・・・・・・。スポーツバッグは・・・・・・っと、・・・・・・う・・・・・・ちょっと、部屋・・・散らかってる・・・・・・中間試験とかあったしなあ。そろそろ片づけないと・・・・・・。
気休め程度に片づけをしてみる。床に散らばってる雑誌をマガジンラックに入れ、お菓子の空袋とか紙屑とかポリ袋にまとめる。くしゃくしゃになってるベッドのシーツに手を伸ばす。
・・・・・・ありゃ、汗で湿っぽくなってるなあ。まあ、あれだけ寝汗かいてりゃ、ね・・・・・・。これ、取り替えとこ。
んしょ、んしょ・・・・・・ベッドからシーツを剥ぎ取る。洗面所のカゴに入れとけばいいよね・・・・・・くるくると丸めて小脇に抱える。さっき、脱いだまま、床に落ちてたソックスも拾っておく。部屋を見回して・・・・・・んー、後は、また今度にしよう、あはは・・・・・・。わたしは苦笑いを浮かべると、シーツを抱えスポーツバッグを片手に洗面所に向かった。
とてとて、廊下を歩いてると、ちょっと気だるい感覚を覚えた。うーん、久しぶりに部活に出たし・・・・・・夕飯の買い物して・・・・・・ちょっと、疲れちゃったかな。
洗面所の扉を開けると、小窓から夕日が射し込んで中を赤く照らし出している。お・・・・・・電気つけなくても、いいかな。夕焼け眺めながらシャワーを浴びるのも、オシャレで結構いいじゃん。
わたしは制服のスカートをするりと脱ぎ、襟元のリボンを解く・・・・・・ブラウスのボタンを全部外す。背中のホックを外すと、するんと肩紐を抜いてブラだけ脱いじゃう。うー、大して胸が大きい訳じゃないけど・・・・・・結構、苦しいんだよなあ・・・・・・はだけたシャツを、ぱたぱた扇いで肌に風を送り込む。ふー、涼し・・・・・・。なんかね・・・・・・疲れちゃって、身体の芯に熱がこもってるような・・・・・・そんな感じなんだよね。
今日も熱帯夜っぽそうだ。わたし、強い冷房には弱いから・・・・・・できれば窓、全開で寝たいなあ。ここ、最上階だし風の通りがいい夜は冷房いらず、なんだよぉ。
そんなで、しばらく、ぱたぱたやって涼んで・・・・・・ふと、洗面台の鏡に目をやる。鏡の中の、わたしは、制服の白いブラウスの前がはだけて、割と白い素肌とパステルブルーのパンティーが覗いてる。ブラウスの裾から、白い太腿がのびてる・・・・・・。
・・・・・・たははは、リツコさんみたいに、胸元に谷間の「た」の字もできないや・・・・・・それに全然、絵にならん。
同じように、鏡の中のわたしも頬をポリポリ掻きながら、苦笑した。
・・・・・・あれ、足首むくんでる? 洗面台の鏡と向かい合わせにジャンボミラーが壁に掛かってるんだけど──鏡の奧にわたしの後ろ姿を写したジャンボミラーがみえてる。問題は、その足首だっ。
洗面台の縁に左手をついて、片足を持ち上げて、ふくらはぎから足首を触ってみる。ふにふに・・・・・・あらら、どうりで身体がだるかったりする訳だ・・・・・・。昨日、相田には言わなかったけど・・・・・・実はねぇ・・・・・・足首が細いのだけは、ちょっと自信があるんだ・・・・・・けど、こんなにむくんじゃってちゃあねえ・・・・・・。
シャワー浴びたら、マッサージでもするかなあ。
と、スポーツバッグが目に入る。
おっと、今のウチに洗濯機に放り込んどかないと忘れちゃう。・・・・・・それに、スポーツバッグに手を掛け、そのまま洗濯機の前に行く。バッグをもう一度床に置くと、中から湿ったTシャツや下着やらタオルの入ったポーチを取り出す。すると──
ごとっ・・・・・・・・・・・・
「ん・・・・・・何?」
何か重い音がして、ポリ袋の包みが転がりだす。──あっ、これは・・・・・・・・・・・・相田の・・・・・・。
あらら、袋の口が開いて、中から何か飛び出してる。・・・・・・ん、何だろ。わたしは手を伸ばして、それを拾い上げる。
あ・・・・・・フィルム・・・・・・?
カメラのフィルムだった。今の時代、デジカメが主流で、現像サービスでもフィルムを扱ってるところは殆どない。わたしも戦自で見たきりだ。
デジカメやメモリカードは強電磁波とかに弱いし、手荒く扱われる関係で、軍とかの記録用には未だに機械式のフィルム・カメラが主流で使われているんだよ。
・・・・・・にしても、何かゴチャゴチャ入ってるなあ、もお。フィルムを戻そうとして、中を覗き込むと、ぴっちり詰め込まれていたのが崩れちゃって・・・・・・あーっ、袋が包めないよ。
うーん、他人の荷物を勝手に開けるのは気が引けるけど・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
えいっ、全部出しちゃえっ。
がさがさ・・・・・・うわ、すんごいフィルムの数・・・・・・ん・・・・・・「花1」「花2」・・・・・・「花8」まであるよ。ああ、鈴原が花の写真を撮ってるって言ってたっけ。あと、あまり見慣れない電池・・・・・・のようなものが何本か・・・・・・
んしょっと・・・・・・わたしは折り畳みのパイプチェアを引っぱり出して座る。ん?・・・・・・何でイスがあるのかって? メイクしたり髪をセットしたり、何か洗い物したり、長時間、洗面台の前に立ってると疲れるじゃない・・・・・・なんだって。これ・・・・・・軽いし邪魔だったら畳んで仕舞っておけるし・・・・・・その割にシートが回転する。確かにねぇ・・・・・・あると、便利だよ。
洗面台の脇に、袋から出てきたアイテムを並べていく。うーん、まだ出てくるよ・・・・・・それから、ディスクが何枚か・・・・・・メモ書き──撮影メモかな──の束か・・・・・・あと、メモリースティックが1枚・・・・・・
うわぁぁん、やだあーっ・・・・・・体育の時のTシャツが入ってるよお・・・・・・。
もおーっ、なんで大事なフィルムと一緒にしとくかなあーっ。
わたしは、真っ赤になると、丸まったTシャツを広げる・・・・・・・・・・・・と・・・・・・
「・・・・・・・・・・・・あ・・・・・・」
ふわあっ、と相田の匂いが鼻腔をくすぐる・・・・・・。ああ・・・・・・これって・・・・・・デパートのエレベーターん中の時と同じ・・・・・・匂い・・・だ・・・・・・。あの時は・・・・・・人に押されて・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・ドキドキドキ
かああっ、て一気に体温が上昇して、なんか身体が熱いよ・・・・・・あ、あれっ?・・・・・・おかしいな・・・・・・何・・・・・・この感じ・・・・・・。──あぁあっ! うそ・・・・・・あの時の感じだよ・・・・・・これって・・・・・・。
あぁあん、もお・・・・・・あの時のコト・・・・・・思い出しちゃったよお・・・・・・。
・・・・・・あの後、わたし・・・・・・濡れちゃって・・・・・・トイレで・・・・・・・・・・・・しちゃい・・・そおに・・・・・・。ぶんぶん、と振り払うように首を振る。・・・・・・ああっ、もお、何でぇ・・・・・・。払いのけようと、すればする程、わたしの身体は高ぶっちゃって・・・・・・。
そ、そんなに沢山・・・・・・一人えっち、したことなんて・・・・・・ないけど、いつもは・・・・・・もっと、こう・・・・・・頭の中で、イメージが先行して、何だか段々──って感じなんだよ。こ、こんな、カラダだけ先に・・・・・・洗面所で、その気になっちゃうなんて・・・・・・。わたしは真っ赤になって俯いた。
──しちゃおうよ・・・・・・。ね? ・・・・・・別に誰かに迷惑かける訳じゃないんだし・・・・・・躯が自然に求めてることなんだよ・・・・・・。とっても気持ちいいんだからぁ・・・・・・ほらぁ・・・・・・ねえ・・・・・・しようよ──
わたしの中で誰かが囁く。わたしはパイプチェアに腰掛けたまま洗面台の鏡を、のろのろと見上げた。
鏡の中のわたしは──Tシャツをかき抱き・・・・・・胸元まで桜色に上気して、切なそうに半開きになって微かに震える唇、トロンと潤んだ瞳で──とても自分だとは思えない自分が、わたしを見つめ返していて・・・・・・。
・・・・・・ちょっと・・・・・・だけ・・・・・・なら、いいよ・・・・・・ね・・・・・・
ぼやけた思考回路の中で、わたしは思った。鏡の自分の手が、素肌の上を胸へと滑っていくのを、ぼーっと見ていた。
「・・・・・・んぅ・・・・・・」
ふにっ・・・・・・って汗ばんだ感触が自分の手のひらに伝わり、胸に・・・じわあっ・・・・・・って熱い感覚が広がる。小さいわたしの手にも、すっぽり収まっちゃうくらい小っちゃい・・・・・・もっと大きくなんないかなあ・・・・・・。それでも、やわやわと弄んでいると、手のひらの中で次第に熱を帯びてきて、ゾクゾクするような感覚が背筋を走る。
「・・・はぁふ・・・・・・・・・・・・」
思わず、ちょっと甘い吐息が洩れちゃう・・・・・・。ぴくんっ、て身体が震える・・・・・・ああ、やだぁ・・・・・・わたし・・・・・・嬉しそうなカオしてる・・・・・・。鏡の前で、自分の姿を見ながら・・・・・・するのなんて・・・・・・初めてで、それだけでもドキドキしちゃう。
「・・・・・・あ・・・・・・ぁ・・・ん・・・・・・」
鏡の前で──なんて話、聞いたことは、あるけど・・・・・・そんなの出来るわけないじゃんって、思ってた。だけど・・・・・・こんな・・・・・・感じちゃって・・・・・・クセになっちゃったら、困る・・・・・・。手の中の乳房は熱く張りを増して、敏感な先端が──普段は、陥没してて、この歳になると、ちょっと恥ずかしいんだけど──固く屹立してくるのがわかる。繊細な快感が胸から広がって・・・・・・腰の奧に、じいん、と響く・・・・・・。
「・・・・・・あ、あ・・・・・・うっ・・・・・・」
わたしの身体は火照りだして、胸を触っている腕で冷たく湿ったTシャツを胸元に押さえつけると、空いてる手をお腹のあたりに滑り込ませる。肋骨をなぞり、焦らすようにお臍のまわりをゆっくりなでる。ゾクゾクとした快感が身体を駆け上ってきて、わたしの息は段々と荒くなってくる。
更に下へと手を滑らせていくと、中指がパンティーの縁に触れる。少しだけ脚を開いて、そのまま布越しにゆっくりと下へ降りてく・・・・・・。実は、あまり・・・・・・じ、直に触ったコト・・・・・・ないんだ・・・・・・気持ちいいより、痛い方が強くって・・・・・・。パンティーが・・・・・・汚れちゃうの・・・・・・ヤなんだ・・・・・・けど・・・・・・。
「・・・・・・んっ・・・・・・う・・・う・・・・・・ぁあ・・・・・・」
閉じ合わさってる花弁の縁を撫でると、声が出ちゃう・・・・・・腰に甘い感覚が走って、思わず前屈みになる。汗で湿ったパンティーの、そこを円を描くように指先で揉む。
「ふぁあっ・・・・・・うう・・・・・・ああぁ・・・・・・」
びりびりーっ、って腰から背筋に電気のような快感が走り、身体が仰け反ってしまう。鏡の中のわたしは、──ヤラシイ雑誌とかのモデルと同じような──すっごくエッチな顔をして・・・・・・よがってる・・・・・・。色気から程遠い、わたしでも・・・・・・こんなカオに・・・・・・なっちゃうんだ・・・・・・。
「んんっ・・・・・・ん・・・ふぅ──っ・・・・・・」
じわぁ・・・・・・って、腰の奧から熱いものが溢れ出してくるのを・・・・・・感じる・・・・・・ああぁ、濡れて・・・・・・きちゃった・・・・・・。意識に甘いモヤがかかりはじめて、腰に響く快感に震えていると・・・・・・指先にヌルッって熱い感触が広がる。
「はんぅっ・・・ん・・・・・・」
くちゅくちゅって、パンティーの布地がぬかるんでくる・・・・・・。自然と脚が緩んで・・・・・・開いてきちゃう。わたしは蕩けたカオをして・・・・・・うぅ、気持ちいいよぉ・・・・・・こんなの、初めて・・・・・・どうして・・・・・・。
ぶるっ、ぶるっ、って汗が滲みだした身体に震えが走る。熱く充血した花弁が自然とほころんで、指先に小さな固い粒のような感触が伝わる──
「あっ、ふ、ぁああっ!!」
頭の中が一瞬、真っ白になる。わたしは、無意識に反対側の胸に手を伸ばす・・・・・・。Tシャツごと胸を掴む。
「・・・・・・ああぁ・・・・・・ううっ・・・・・・」
止まんない・・・・・・止まんないよお・・・・・・。シャツの上からでもそれと判るほど、ツンと突き出した乳首を指で挟み、手のひらで熱く張りつめた脹らみを揉む。
「く・・・ふ・・・・・・ぅうう──っ」
先っぽがカチカチに固くなってる・・・・・・。ビリビリと痺れるような快感が身体の中を駆け回る。・・・・・・腰が・・・・・・勝手に跳ねちゃう・・・・・・。
どろどろと奧から溢れてくるのが自分でも・・・・・・わかる・・・・・・。
びくんっ、びくんっ・・・・・・!!
「ふぁあっ・・・・・・ああっ・・・・・・ああああっ」
腰の奧が──きゅうっ──って何度も収縮を繰り返す。自分の声とは思えない恥ずかしい声が、その度に口をついて・・・・・・。あそこをなぞる指は・・・・・・こんな・・・・・・濡れて・・・・・・手のひらにまでこぼれて、べちょべちょに・・・・・・。
「はあっ・・・・・・はあっ・・・・・・はあっ・・・・・・」
本能が命じるままに、何も考えずにパンティーから片足を抜く。抱きしめたTシャツが、何故か肌に熱い・・・・・・。
びくんっ!!
「あふぁううっ!!」
何もしてないのに身体が跳ねTシャツの裾を太腿で挟み込んでしまう。快感に震えながら頭の片隅で理性が訴える──こんなの、ヘンだよ・・・・・・今まで、こんなにエッチじゃなかったよ・・・・・・
くちゅ・・・・・・Tシャツ越しにお尻の方から、あそこの溝に指の腹を宛う──
「あ、あ・・・あぁん・・・・・・」
熱くぬかるんだ、そこを上になぞりあげる・・・・・・ああっ・・・だめ・・・・・・腰が、がくがく震えちゃうよお・・・・・・。
「あああっ・・・・・・あああっ・・・・・・あ、ああっ・・・・・・」
思わず、鼻に抜ける喘ぎ声が、わななくように洩れる。溝の端に近付くと指先がコリッとした突起に触れ────
「あ、あ、あううっ!!・・・・・・っく、う、うあぅ・・・・・・うううう──っ・・・・・・!!」
物凄い衝撃が腰から脳天に突き抜ける。頭の中が一瞬、真っ白になって──何が起きたかわからない──弾かれるように仰け反ると全身が硬直したままブルブルと震える。あられもなく叫んでる。どろっ・・・・・・と、奧から熱いものが溢れてくる・・・・・・。
「はあっ・・・・・・んっ!・・・ん、は・・・ぁうっ・・・・・・うぅんんっ!」
指先で固く腫れた突起をこね回す──どろどろに熔けた溝の奧で、ちゅるちゅると滑って指から逃げ回る。だけど、腰の奧に・・・・・・ずんっ、ずんっ、って・・・・・・何度も・・・・・・響くのっ・・・・・・こっ、こんなの・・・・・・すごいっ・・・・・・気持ちいいよおっ・・・・・・
「あぁ──っ・・・・・・あぁ─っ・・・・・・あ、はぁ、う、んん──っ・・・・・・!!」
わたしは、掻き回す指を止められなくて、止めたくなくて──もっと、したくて一心不乱にヌルヌルになった指を擦り付ける。・・・・・・熔けちゃう・・・・・・熔けちゃうよぉ・・・・・・だって、こんなの・・・は、初めてだよおっ。
「あく、ううっ・・・・・・あっ、あっ、あ、あああ────っ!!!」
あそこが、きゅうううっ、て激しく収縮する・・・・・・なのに、何か忙しなく奧で蠢いてるのを感じる。・・・・・・その感触が・・・・・・また、気が遠くなるほど、すっごく気持ちよくて・・・・・・わたしは何度も叫んでいた。
「ぁあああっ!! ああぁぁっ!! あっ、ああぁあっ!!」
すうっ、と無重力のような・・・・・・身体が浮いてるような・・・・・・ああ、何か・・・・・・来ちゃう、来ちゃうよ・・・・・・。怯えと期待が入り交じった気持ちがわき上がって、思わず震える指に力が入っちゃって──
つるり、と突起の中から何かが飛び出して・・・・・・剥き出しになったソレは、途方もなく敏感で・・・・・・指は止まらなくて、それを指の腹で強く押し────
「ひぅっ!!!」
痛いのか気持ちいいのかも、わからない。ただ、ものすごい衝撃に貫かれ、身体の中で何かが爆発した──。
「うぁ、あ、あああ────ッ!!!」
わたしは大きく仰け反ると、汗まみれの身体が、そのまま硬直し痙攣するように震えた。頭の中で幾つもフラッシュを焚かれているように無数の閃光が弾け、脳裏が真っ白に焼き尽くされる。括約筋が、ぎゅううっ、て引き絞りられて・・・・・・身体の奧から、迸るように熱い液体が噴き出すのを感じる。
あまりに気持ちよくって──わたしは絶息したまま口をパクパクさせ声にならない声を絞り出そうとしていた。つま先から指先に至るまで、ビリビリと痺れて、動かすこともできない。
びくんっ!! びくんっ!!
何度も身体が痙攣したかのように勝手に跳ねる。切れ切れに喘ぎ声が口をついてでちゃう・・・・・・。
「あっ・・・か、く、ぁううっ・・・・・・ん、んんっ、く・・・・・・ふ、あぁっ、うう・・・・・・!!」
そのまま、わたしは洗面台の縁に突っ伏して肩で息をする。時折、ぞくぞくっ、って何かが背筋を走り抜け、身体が勝手に跳ねる。
「はあっ・・・・・・はあっ・・・・・・し、しちゃっ・・・・・・たぁ・・・・・・」
汗が噴き出して、たらたらと流れ落ちる。右手の指先を目の前に持ってきて眺める。うわ・・・・・・こんなヌルヌルに・・・・・・なって・・・・・・。今の・・・・・・何?・・・・・・こんな、すごいの・・・・・・初めてだよ・・・・・・。今のが「イク」ってことなら、今まで一人えっちは・・・・・・。
身体を起こそうとすると、あそこが、きゅっ、て収縮して最後の残滓が零れだす。ぶるっ、て震えると、腰を浮かせたまま、身体が固まって──
「ふぁあ・・・・・・ぁんっ・・・・・・」
全身が敏感になってて・・・・・・くすぐったいような、甘い感覚が走って、思わず熔けた声が洩れちゃう・・・・・・。
一息ついて呼吸を整え・・・・・・何とか鎮めて身体を起こす。はだけたブラウスの右肩は半分脱げてて、肩が剥き出しになって・・・・・・半裸の赤く染まった肌には汗が滲んでる。
パンティーには大きなシミができてて・・・・・・うう、恥ずかしいなあ・・・・・・べったり、張り付いてる。ブラウスを脱ぐと、パンティーを引き下ろす。まだ、腰の奧の方に、甘い痺れが残っている・・・・・・こんなコトも・・・・・・初めてだ・・・・・・。
頭を振って気持ちを切り替え・・・・・・洗濯ネットに下着を入れて、他の服と一緒に洗濯機に放り込む。
洗濯の忘れ物がないか、見回すとパイプチェアの脇にTシャツが落ちている・・・・・・。これ、洗っといた方がいいのかな・・・・・・どうしたもんかなあ・・・・・・。拾い上げると、目の前に広げてみる。
うっわああああっ・・・・・・!! ど、ど、どおしよお!?
頭の中のモヤモヤが吹っ飛んでしまった。Tシャツのお腹のした辺りに楕円形に・・・・・・・・・その・・・あの・・・・・・わたしの・・・・・・シミになっちゃってるよぉ・・・・・・。
次の日の朝になっても、正直言って身体は何だかだるいし・・・・・・。学校に来たものの・・・・・・授業を受ける気分じゃなかった。相田の忘れ物預かってるし(Tシャツは、学校に来る途中のコンビニで似たようなものを買った)・・・・・・。
教室に荷物を置くと、そのまま、何となく屋上に来ていた。・・・・・・わたしは自分の身体を持て余してる。こんなに・・・・・・エッチだったなんて・・・・・・。
今日は日差しも弱いし給水タンクの上で昼寝でもしようかな。スチール製の梯子に手を掛けると、のろのろ登り、タンクの天辺に寝転がる。ふう・・・・・・参ったなあ・・・・・・。まだ、身体の芯に・・・・・・残ってる・・・・・・欲しがってる・・・・・・。
ごろん、と仰向けになる。やっぱり、それでも眩しいことは眩しい。腕で日差しを遮る。もう一方の手を下腹部に当ててみる。──なんか、どくんどくんって、奥の方で脈打ってる感じがする。ふーっ、て息を吐いて気を静める。下手をしたらこのまま、ここでひとりエッチしかねない。・・・・・・そんなの、シャレになんないよ。
もっとも、こんな処で若い娘が悶々としてる事自体、かなりシャレになんないけど。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・あれ、誰か屋上に来たのかな・・・・・・?
首だけ起こして、ペントハウスの方を見る。うそ、カヲル君と・・・・・・シンジ君だ・・・・・・。さすがに冷水を浴びせられたように一気に身体がシャンとして、モヤモヤしたものが吹っ飛ぶ。いま、顔を合わせたくないナンバー1とナンバー2だもん。
「シンジ君・・・・・・今日はいい天気だねえ」
「え・・・・・・ちょっと、雲が多いけど・・・・・・?」
「ははは、気分の問題さ。ココロが晴れ晴れとしていれば、どんな空模様だって清々しいものだよ」
「ふーん、そんな・・・・・・もんかな。ところで、カヲル君・・・・・・僕に話って、どんな用?」
──何言ってんだあ、ってカヲル君にツッコミたくなるけど、ガマンする。って、言うか出るに出れない状況じゃない・・・・・・これって。
わー、どうしよう・・・・・・盗み聞きっていうのも趣味じゃないし──。
「あまり、2人になれる機会は少ないからね。まったくアスカ君は心配性だな」
「ははは・・・・・・そうだね。何か、ヘンに疑っているみたいだから──」
確かに、この二人が話し込んでいる姿は、ある種、ハマっちゃってるんだよね。部活の後輩に見せられたレディコミのような雰囲気あったりするし──アスカが大袈裟に心配する気持ちも、わからなくもないんだけど・・・・・・、わたしは苦笑を浮かべながら、二人の様子を眺めていた。
・・・・・・と、わたしの眼下の手すりに寄りかかって、二人は何やら話を始める。
「まあ、今日は僕ら2人が、朝っぱらからネルフに呼び出されていたし──ただ、あそこはプライベートな会話をするには、やや不向きな場所だからね。それで、ここにした訳さ。次の授業まで時間もあるしね」
「プライベートな・・・・・・会話?」
背を向けた二人の表情は全く見えない。あちゃあ、参ったなあ・・・・・・下に降りるタイミングを完全に外したよ・・・・・・。
「ごくごく、個人的な事で──レイの事さ」
「・・・・・・・・・・・・!!」
「リリスやアダム絡みの事は抜きにして──1人のヒトとしてのレイ個人の事・・・・・・シンジ君はどう思っているんだい?」
・・・・・・・・・・・・。熱気を含んだ風が屋上を吹き抜けてく。二人の間に沈黙が続く──シンジ君、答えに詰まってる・・・・・・。わたしにはイマイチ話が見えないんだけど。
「な、なに言ってるんだよ・・・・・・カヲル君──レイは、妹に・・・・・・決まってるじゃないか」
「それは──遺伝子情報に基づいて、後付けされた定義にすぎないよ。僕が聞きたいのは、君の気持ちだ」
・・・・・・また、沈黙。『後付けされた定義』──って、どういうこと? 生き別れの妹・・・・・・みたいなイメージでいたんだけど、今のカヲル君の言い方って、ちょっとニュアンス違うよね・・・・・・。さっきより、だいぶ長い沈黙の後、シンジ君がポツリと呟いた──。
「・・・・・・・・・・・・わかったよ」
わたしは、ごくりと唾を飲み込んだ。何だか聞いちゃいけない話題のような気がする・・・・・・。
「正直に言うよ。・・・・・・多分、最初は憧れていたんだと思う──父さんのこと、独り占めしてると思った。羨ましかった・・・・・・でも、惹かれていた。今から考えると、綾波の中に、母さんを見ていた・・・・・・んだ・・・・・・。無条件に僕を受け入れてくれる存在として。綾波の事、何も知らなかった僕は、何も考えずに憧れていた。だから、本当のことを知ったとき・・・・・・恐くなった。僕の中で思いが大きかった分、恐かった」
カヲル君は黙って聞いている。いつの間にか「レイ」から「綾波」に戻ってる・・・・・・それだけ真剣ってこと、かも・・・・・・。一息つくとシンジ君は言葉を続ける。
「それで、サード・インパクトが起こって──僕は気が付いたんだ・・・・・・一番大事な存在・・・・・・いや、一番大事な他人は誰かって」
「ふうん、だから、あの時、アスカ君は溶け合わなかったんだね──おっと、話が逸れたね」
──シンジ君の・・・・・・一番大事な・・・・・・他人・・・・・・。やっぱり、わたし・・・・・・じゃない・・・・・・んだね。
「うん。綾波の事は・・・・・・大事だと思ってる・・・・・・だけど、違うんだ。他人じゃない・・・・・・元々、1つだった存在・・・・・・別れ別れになった僕自身・・・・・・そんな、感じ」
また、暫く沈黙が訪れる。ふと、カヲル君が優しい口調で言った。
「なるほどねえ。キミは・・・・・・レイ君を無条件で受け入れ、アスカ君を絶対条件として受け入れる──言ったところかな」
「う、うん。そうかな・・・・・・そんな感じだと、思う」
「じゃあ、ひとつ──。シンジ君は、レイ君が悩んでいるのに気付いているかい?」
「──えっ?」
わたしも驚いた──。レイが悩んでいる・・・・・・? どういうこと・・・・・・。
「その様子からすると、気付いていないようだね。安心した・・・・・・見て見ぬ振りをしていたとハッキリしていたら、幾ら僕でも殴っていたかもしれないよ・・・・・・この件に関してだけは、昔ほど物わかり良く済ませられないんだ」
もっと、驚いた・・・・・・って言うか・・・・・・茫然自失。この時のカヲル君の声音は、あまりにも苦しげで辛そうだった。こんなカヲル君は今まで見たこともない。
「こんなこと、シンジ君に告白したくはないんだけれど・・・・・・・・・僕には今のところ手に負えない。歯がゆいばかりさ」
「・・・・・・まさか・・・・・・でも、綾波が・・・・・・」
「その、まさかって奴で正解だね。君への思いが断ち切れていない」
「そんな・・・・・・だって・・・・・・」
「僕とレイ君とアスカ君は、数少ないサード・インパクトの外側にいた人間だ。あの時に補完された訳じゃない。少なくともアスカ君は君という伴侶を得て、ある意味で補完された。僕は──僕はリリンというものに目覚めて、そしてレイ君に惹かれた。先のことは解らないけれど、少なくとも、この片思いっていう気持ちは僕を潤してくれている。この世界に生まれて本当に良かったと今は思えるよ」
・・・・・・どういうこと? 話の意味自体は、わたしには知らないことが多すぎて、よくわからない。だけど──ちらと、カヲル君の横顔が見える──うわ、本当にマジだ。こんなカヲル君はみたことないよ・・・・・・。
「しかし、レイ君は・・・・・・ヒトとして目覚める前に君と惹かれ合ってしまった。そして、目覚めた。それまで、知らず知らずの内に大きくなってしまった気持ちを『今日から妹だ』と言われて、簡単に割り切れるかい?」
・・・・・・話の経緯(いきさつ)はピンとこないけど・・・・・・レイが悩んでるポイントだけはハッキリ解った。・・・・・・そんなの、簡単に割り切れる訳がない。『妹』という立場は、もっとも近くて、もっとも遠い。ずっと気楽な立場の、わたしでさえ・・・・・・どっかで割り切れてないもん・・・・・・。
「・・・・・・そう、そうだよね・・・・・・。僕は・・・・・・アスカが立ち直ってくれて・・・・・・みんなが、ようやく少しずつ幸せになってきて・・・・・・それに浮かれて、綾波の事は──」
「いやいや、別にね・・・・・・シンジ君に何かして欲しいって訳じゃないんだよ。シンジ君に今以上に優しくされても彼女にとっては辛いだけじゃないかな」
「・・・・・・へ? じゃ、一体・・・・・・今の話は──」
「僕が言うのもなんだけど・・・・・・『家族』として・・・・・・知っている事が大事だと思ったんだ。惚れた女の子のことぐらいは自分で何とかするよ──加持さんの受け売りだけどね」
うわあ、カヲル君・・・・・・それ、反則だよう。カッコよすぎ。・・・・・・でも、カヲル君の真剣な口調には、ある種の覚悟が秘められているのは、わたしにも、はっきりわかる。・・・・・・にしても、なんだかなあ、カッコよすぎるのも問題あるよねぇ。
「うん。わかったよ・・・・・・。教えてくれてありがとう。それから・・・・・・レイのこと、よろしくね」
「そう言ってくれると、嬉しい限りだよ。まあ、僕なりにやってみるさ。──ところで、別の話なんだけど・・・・・・」
「・・・・・・ん? なに?」
「シンジ君は気に病んでいるのかい? サード・インパクトのこと」
シンジ君が凍り付いたような表情になる。カヲル君・・・・・・何、言ってるの・・・・・・それって、どういう・・・・・・こと?
「ふうん、やっぱり。海から戻ってこないヒトも多いから仕方ないかもしれないな。でも、シンジ君、少なくとも僕はキミが間違った決断をしたとは思ってないよ」
「でも・・・・・・あそこに残ったままの人達は・・・・・・」
「戻ってこないのは彼らなりの価値観で彼ら自身が決めたことだ。シンジ君の所為じゃないよ。それに昔のヒトの言葉で──『10人の真の賢者がいれば人類は救われる』──というのがあるけど・・・・・・この世界──みんなのATフィールドが何パーセントか弱くなった世界は同じように、『救われた世界』だと僕は思うよ」
「カヲル君・・・・・・」
「キミは繊細だ・・・・・・納得できないかも知れないけれど、この世界で一生懸命生きている人達の顔をよくみてごらん。そんなに捨てたもんじゃないよ。シンジ君・・・・・・キミは間違ってない」
「・・・・・・うん・・・・・・うん、ありがとう」
「・・・・・・おっと、湿っぽくなっちゃったな。よし、話はこんなところだね。もう、いいよ、マナ君。そこじゃ暑いだろう。降りておいで」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・へっ!?
カヲル君が、見上げるようにこっち・・・・・・見てニッコリ笑ってる・・・・・・。うわあん、気付いてたのっ!? 何か、知らないことを沢山聞いて、頭の中がグルグルしてたんだけど──全部、吹っ飛んじゃったよう。
「あはは♪ ごめんねえ。盗み聞きするつもりじゃなかったんだけど・・・・・・タイミング失っちゃって」
「き、霧島さん・・・・・・全部、聞いて・・・・・・たの?」
のこのこと俯きながら下に降りると、シンジ君も呆然としてる。わたしもさっきは、こんな顔してたかも・・・・・・。
「マナ君になら、聞かれても問題ないよ・・・・・・ところで、君はあんな処で何してたんだい?」
「え、いや、ちょっと、色々とあって・・・・・・自主的に授業をキャンセルしてました・・・・・・あははは」
ぼりぼりと、頭を掻きながら正直に言う。
「しかし、マナ君は高いところが好きだねえ・・・・・・こないだもここにいたし」
「・・・・・・それって、バカってこと?」
「ははは、察しがいいコは好きだよ。好意に値するね」
「ふーんだ、そーゆー風に気安く誰にでも『好き』とか言ってて、レイに嫌われても知らないもんね」
「うっ・・・・・・痛いとこ、ついてくるねえ・・・・・・」
大袈裟に胸を押さえるカヲル君は、全然、応えた風もなく苦笑いを浮かべる。と、随分、時間が経ったのか終了のチャイムが鳴る。今まで沈黙して何かを考え込んでいたシンジ君がポツリと呟く。
「・・・・・・・・・実は、レイも満更じゃないかも・・・・・・嫌いじゃないって言ってた・・・・・・ホント珍しいんだ──」
シンジ君は、その後、『──よ、カヲル君』とか言うつもりでいたんだろう。だけど・・・・・・
カヲル君は────固まっていた。あのカヲル君がだよ!?
わたしもシンジ君も・・・・・・あまりにも珍しいカヲル君の様子に暫く言葉を失ってしまった。
少し先に立ち直った、わたしは背伸びをして、カヲル君の顔の前で手を、ひらひらさせる。───反応なし。レイが、誰かのことを好き嫌いと口にするコト自体が珍しい。基本的にとことん無関心だから・・・・・・なのに──。
レイに一番近いシンジ君の言葉だからこそ、頭の回転の速いカヲル君は却って思考回路がパンク──しちゃったのかなあ。
わたしはシンジ君の方を向くと首を左右に振る。シンジ君は、困った様子でわたしに話しかけてくる。
「霧島さん・・・・・・ど、どうしよう・・・・・・」
わたしは、小首を傾げると思案する・・・・・・・・・・・・。ま、悪い話じゃないし──カヲル君にも糸口があるってことだもんね・・・・・・。
「シンちゃん・・・・・・教室戻ろっか♪」
「え、カヲル君は・・・・・・」
ペントハウスに向かって、トコトコ歩いてく。後ろからシンジ君が──固まったままのカヲル君のことを気にしながら──ついてくる。
鉄扉を閉めるとき、カヲル君はブツブツ言いながら、まだ固まったままだった。
「ほらほら、早く教室に行かないとアスカが心配しちゃうよお。赤鬼モードの仁王立ちで『きーっ!どこで油売ってんのよっ!!』とか言われちゃう」
「ははは──いくらアスカでもそこまでヒステリーじゃないよ」
ちょっと、笑いながら階段を降りてると、ふと、シンジ君が言った。
「──でも、カヲル君って・・・・・・意外と免疫ないのかな・・・・・・」
「あはは♪ 他ならぬお兄さんの言葉だからじゃないの? 重さが違うって言うか」
「そういうものかな・・・・・・。それにしても・・・・・・なんか、すごく珍しいもの・・・・・・見ちゃったね」
「うん、うん、そうだねえ・・・・・・思い出したら可笑しくなってきちゃったよ・・・・・・くくくっ」
シンジ君も、つられて笑い出す。・・・・・・あ・・・・・・シンジ君と・・・・・・こんなに喋ったの、久しぶりだ・・・・・・。それに気付いた途端に表情が変わっていたかも知れない。
「霧島さん・・・・・・?」
「え、あ・・・・・・うん、こういうの・・・・・・久しぶりだなって・・・・・・」
「・・・・・・あ・・・・・・・・・・・・うん・・・・・・そうだね・・・・・・」
ちょっと、無言で階段をおりてゆく。でも、そんなに痛い沈黙じゃない・・・・・・。ちょっと、わたしは意を決して口を開く。
「・・・・・・あのさ、アスカにも言ったんだけどさ・・・・・・シンちゃん・・・・・・わたしの告白、ちゃんと断ってくれて・・・・・・ありがと・・・・・・。今は感謝してるんだ・・・・・・」
「うん・・・・・・。その・・・・・・霧島さんが落ち着いたら・・・・・・いつでもいいんだけど・・・・・・また良い友達になれると・・・・・・ホントは嬉しいな・・・・・・」
はにかんだように笑いかけるシンジ君をみて、わたしは、心の中の重荷が、すうっと軽くなった気がした。そうか・・・・・・何が引っかかってるか・・・・・・ようやく解った気がする。色々なヒトのお陰で──余計なモノが洗い流されて、本当に最後の部分がハッキリしてきた。
たぶん、ここの答さえ出れば、全部スッキリできる・・・・・・気がする。シンジ君に聞けば簡単にその答が──
・・・・・・・・・・・・。
だめだよ、聞けないよ・・・・・・聞いたからって、わたし・・・・・・納得できるの?
自分で答えも捜さずに、人に聞くのは・・・・・・しちゃいけないよ・・・・・・。
わたしは踊り場からシンジ君を真っ直ぐ見上げると、自分に対しての覚悟も込めて・・・・・・シンジ君に言う。
「・・・・・・わたしのコトなら大丈夫。自分で自分の気持ちにはケリをつける。わたしも、友達でいたいから」
「こう言える立場じゃないのは十分判ってるし、言っても嘘臭くなっちゃうけど──霧島さんが、納得できるといいなって・・・・・・ホントに思ってるよ」
「・・・・・・好きになったのが・・・・・・シンちゃんで、ホント良かった。ありがとうね♪」
と、踊り場をくるっと回ると────
「・・・・・・あああっ!! こらあっ! どこで油売ってんのよ!!」
ア、ア、ア、ア、アスカが仁王立ちで階下から見上げているう。わたしとシンジ君は同時に声をあげた。驚いた。
──アスカがいたことにも驚いたんだけど・・・・・・さっき、言ったイメージのまんま・・・・・・なもんだから。
「「わあっ、アスカ!?」」
「もおっ、随分前にネルフは出たっていうし──なに、二人で仲良くしてんのよっ!!」
ぷうっとふくれっ面で、文句を言う──なんで、言ったまんまでいるのよ。シンジ君を見ると・・・・・・シンジ君も笑いを堪えてる・・・・・・。だあって、屋上出るときに冗談で言ったのに──ホントに仁王立ちで・・・・・・まじで赤鬼だ・・・・・・くくくっ。だめだめ、笑っちゃ・・・・・・アスカに悪いよ・・・・・・笑っちゃ・・・・・・。
が、シンジ君の方が先に臨界点を突破した。
「あははははははっ! アスカ・・・・・・そこまで・・・・・・同じ・・・・・・あははは!!」
「ひー・・・・・・もおっ、だめっ・・・・・・ガマンできないよお・・・・・・あはははははっ!!」
「な、な、何よお? アタシ・・・・・・変なこと言ってないでしょ・・・・・・」
わたし達の様子が、あまりにも意外で、急に語尾が不安そうに尻窄みになってく。
「アスカは悪くないんだけど・・・・・・タイミングが・・・・・・ははは」
お腹を抱えたシンジ君が、そう言いながらアスカの肩をポンポンたたく。
「もお、何なのよ・・・・・・人がせっかく心配してりゃあ・・・・・・こらぁ、マナまでバカ笑いするな!」
「まあまあ♪ 友達でいようねって、シンちゃんと話してただけだからさ」
「ふぅん・・・・・・それならそれで、いいけどぉ・・・・・・」
釈然としていないアスカの向こう側を、小脇にパン屋の紙袋を抱えた相田がとっとこ通り抜ける。
「お、どうしたの? みんな揃っちゃって・・・・・・あ、シンジは今、登校か」
「うん・・・・・・ちょっとネルフでね・・・・・・。今ちょうど教室行くところなんだ」
みんなで歩き出す。アスカはシンジ君と並んで、わたしと相田が後からついていく格好になった。相田が苦笑いを浮かべながら言った。
「おい、霧島・・・・・・サボるならカバンも持ってけよな。呼び出されて説教されても知らないぞ」
「え? あはは♪ 忘れちゃった・・・・・・」
・・・・・・ま、そんな、しょっちゅうサボってる訳じゃないし。あ、相田の忘れ物──!!
「そうだ! 写真部の部長さんから、相田の忘れ物預かったんだよ──昨日の放課後」
「え、そうなの・・・・・・あっ、そういや部室に──」
思い出して口にしたのは良いけど・・・・・・Tシャツのコト・・・・・・な、何て・・・・・・言えばいいのよおっ。だからって、黙ってる訳にもいかないし・・・・・・と、取り敢えず、汚してダメにしちゃったことだけ言って、謝っとこ。
「・・・・・・そ、それでね・・・・・・入ってたTシャツ・・・・・・その、あの・・・・・・汚しちゃって・・・・・・ダメになっちゃって・・・・・・。替わりの買ったんだ」
「へ? ああ、別に大したもんじゃないし、却って悪いコトしたな」
「ううん、わたしが悪いんだし・・・・・・ほんとゴメンっ!」
「・・・・・・いいって、いいって。そうそう──」
全然、気にしてない様子に、ホッとする。あ〜、良かったぁ。・・・・・・と、小脇に抱えた紙袋をごそごそやってる。
「購買のおばちゃんに・・・・・・こないだのドーナッツの話をしたらさ、喜んじゃって・・・・・・これ、お前にだってさ」
「へ? あ〜ぁ、あの美味しいヤツ・・・・・・わぁ、粉砂糖かかってるぅ♪」
渡されたビニールには、ピンポン玉くらいのドーナッツが6個も入ってた。思わず、顔が緩んじゃう・・・・・・うへへ。
「うふふ・・・・・・うん、そおだ・・・・・・お弁当の後に、紅茶かなんかで食べよっと・・・・・・その方が絶対、美味しいもんね」
「なんかね、フルーツソースが入ってるのがあるんだって・・・・・・それの感想も聞きたいってさ」
「う〜・・・・・・お昼が楽しみだなあ・・・・・・くふふ」
・・・・・・と、アスカが「紅茶」に反応して振り向く。
「紅茶なら、アタシ持ってきてるけど・・・・・・飲む?」
「ホント? いいの? ・・・・・・わあい、やったっ!」
アスカは、時々、紅茶の葉っぱと沸かしたミネラルウォーターを水筒に入れて持ってくるんだ。すっごい、美味しいんだよ。くふふ・・・・・・食後が楽しみだなあ・・・・・・。
「しっかし、デザートでここまで幸せそうな顔するか・・・・・・?」
「・・・・・・確かにねえ・・・・・・なぁんにも悩みなさそ、に見えるわよねぇ」
相田とアスカが、しみじみとわたしの顔を覗き込みながら言う。う・・・・・・な、なによお・・・・・・。
「・・・・・・別に、いいじゃない・・・・・・もおっ」
「美味しいものを美味しいって思えるのは大事なことだよ」
わたしが、文句を言おうとしたら、シンジ君がフォローしてくれた。不思議な説得力・・・・・・さすがに料理名人の言葉は重みが違う。
「あら、シンジにしては珍しく、言い切るじゃない」
「・・・・・・え、いや・・・・・・受け売りなんだ・・・・・・父さんがね・・・・・・『旨い物を食べるのは幸福の第一歩だ』って──」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・父さん・・・・・・・・・・・・って・・・・・・・・・・・・・・・・・・
しばらく沈黙が続く・・・・・・。相田もアスカも、眉間にシワを寄せ考え込んでいる。わたしもきっと、そう。相田がおずおずと尋ねる。
「・・・・・・・・・・・・あの碇司令・・・・・・だよな・・・・・・・・・・・・?」
にっこり、頷くシンジ君を見ながら、それでも、あの厳めしいおじさんが、どんな時にどんな風にそんなコトバを口走ったのか全く想像できないでいた。