わたしが脱力して頭を垂れているとカヲル君が──。
「うむむ、何か言ってるみたいだけど・・・・・・この窓は防音が効きすぎているねえ。何が何だかサッパリだよ」
わたしが顔を上げると、相田は手を振ってると言うよりは何やらブロックサインのようなものを出している。あ・・・・・・あれって・・・・・・。
「ええと・・・・・・マ・ド・ヲ・ア・ケ・テ・ク・レ・・・・・・“窓を開けてくれ”・・・・・・?」
「おや、マナ君は彼のジェスチャーゲームが解るのかい?」
「・・・・・・あれは、戦自のハンド・シグナル。なんで、アイツが知ってるんだか」
わたしは苦笑を浮かべながら窓のロックに手を掛ける。・・・・・・相田が拝むようにしてペコペコしている。カラカラと、窓を開けると、相田が廊下に転がり込んでくる。相田は細い方の紐を引っ張って身体を吊していたロープのフックを上から外すと手繰り寄せクルクルと束にしながら、言った(ちなみに正規訓練の教本通りだ)。
「助かったあ・・・・・・霧島、ありがとな。むっ・・・・・・ヤバイ、追っ手が来る・・・・・・じゃあ、後でな」
きょろきょろっと通路を確認しながら廊下の向こう側にある非常階段口の方へ移動していく様は、とても中学生には見えない・・・・・・って、いうか・・・・・・・・・マニアの域を越えているような気が・・・・・・(汗)
わたしが呆れ笑いを浮かべながら窓を閉めると、ちょうど階段を、だだだだっと女生徒が沢山降りてくる。たぶん、C組のコ達だ。カヲル君を見て一瞬、ドキマギしてるが、それでも、わたし達に声を掛けてきた。
「ねえっ、3−Aの相田、見なかった? アイツ、屋上からロープで下りて逃げちゃったんだよ」
「・・・・・・アイツ・・・・・・また、何かしたの?」
「いつもの覗き撮りよ。プールの更衣室、覗かれたから屋上まで追いつめたんだけど」
・・・・・・もお、何やってんだか!! わたしは呆れ果てると、タメ息混じりに相田が逃げってった非常階段の方を指さした。
「あっちね! 行くわよ」
彼女達は、わたしの指さした方に走っていった。その姿を見送りながらカヲル君が、のほほんと言った。
「平和だねえ」
教室に戻って授業の準備をしていると、ボコボコにされた相田が戻ってきて、わたしの隣に座った。
「あ、さっきは窓、開けてくれてありがとな。しかし・・・・・・非常階段でハサミ撃ちに合うとは戦略負けだ。折角、新しいF2.0の望遠レンズの威力が確認できると思ったんだが」
「全く・・・・・・いい加減にすればいいのに」
「うーむ、そう言われるとそうなんだけど・・・・・・普通じゃ撮れないショットが欲しいんだよな」
ぱかん
「いってー、何するんだよ。下敷きのカドで叩くなよ」
「だからって、覗き撮りしなくてもいいでしょっ!!」
「・・・・・・何で、霧島がそんなにプリプリ怒るんだよぉ」
・・・・・・そ、それは・・・・・・だって・・・・・・何か、イヤなんだもんっ。もお、知らないっ!!
そんなこんなで、ドタバタしながらも、ひとまず授業は終了。部活も、ぼちぼちとこなして、夕方には学校を出る。・・・・・・半分以上、上の空だった所為もあって、あっという間に学校が終わっちゃった・・・・・・たはは。
カバンを背負って、部活の道具などを入れたスポーツバッグをブラブラさせながら校門に向かう。今日は一人で帰る・・・・・・って、言うのは部活の連中が『今日のマナは絶対、おかしい。話半分で上の空だし・・・・・・何か・・・・・・怪しい』って雰囲気になってきちゃって、テキトーに誤魔化して逃げてきちゃったんだ。
まあ、あの連中とも一緒に居る時間も結構、長いしねえ・・・・・・なんか、こういういらんコトばかり鋭いカンが働くのは何なんだ、もお。
そんなコトをボケッと考え・・・・・・それから、明日の必要なもの思い出して何か買っとかないといけないものはないか、頭の中で確認をする。そういや、アスカん家の近くに輸入雑貨のお店が2〜3軒あったよなあ・・・・・・思ったよか部活も早く終わったし、食事当番のリツコさんも家には、まだ帰ってきてない筈だし・・・・・・遠回りだけど、ちょろっと覗いてみるかな。
・・・・・・ほら、お店に行ってみたら思い出すかもしんないし、ね。
そんなんで、最近はいつも右に曲がる十字路をまっすぐ進む。そういや、こないだまでは・・・・・・シンちゃん家まで遠回りして、この道を良く通ってたっけ・・・・・・。へえ、やっぱ全然・・・・・・景色とか見てなかったんだなぁ・・・・・・。
こんなトコにタバコ屋なんかあるの憶えてないよ・・・・・・あはは。
・・・・・・うーん、結構・・・・・・スッキリしちゃったから、かな。アスカとシンちゃんと時々レイと4人で歩いて・・・・・・色んなコト話して、笑ったり、アスカがシンちゃんひっぱたいたり、レイが真剣な顔で凄い天然ボケかましたり・・・・・・一杯、思い出すことがあるんだけど・・・・・・なんか全然、平気。って、言うか平気なのが逆にちょっと寂しいくらい。
ついこないだまでの日常だったんだけど・・・・・・すごく昔のことのような感じ。
・・・・・・うーん、アスカん家って行ったことないんだけど・・・・・・部活の後輩に聞いたとおりの場所にお店があるなら、こっちでいいハズ・・・・・・。
お、アスカの住んでるマンションは・・・・・・あれかな? 目の前の住宅地の町並みの向こう側から、にょきっと高層マンションが突き出しているのが見える。なんでも高さに制限のある住宅地──4階建てまでだったかな──に特別に10階建てくらいのマンションがネルフの幹部用に幾つか離れて建っているんだって。だから、ここから見える高層マンションと言ったら葛城さんのところしかない。
バラバラに離れているのは、一度に爆破されたりしない為。そりゃそうだよね・・・・・・碇司令と冬月副司令と葛城さんとリツコさんが一度に狙撃できるようなところに住んでたら現実問題として物騒でしかたない。第3東京自体を攻撃できるような大規模な勢力ってのは今の処ないみたいだけど、小規模なテロ活動を抑止できる訳じゃないしね・・・・・・(その為に加持さんとか頑張ってる訳だけど・・・・・・)。
アスカの住んでるマンションの大分近くまで歩いてくる。いつも、この辺で、わたしとアスカとシンちゃんは、それぞれ別れて家路につくんだけど・・・・・・と、道すがら空き地に差し掛かる。いや、ちょっと前にあった古い家屋が解体されて更地になって雑草が伸び放題のコレと言って何でもないような空き地なんだけどね・・・・・・。ただ、異様なのは・・・・・・ウチの女生徒が、草むらにしゃがみ込んでいるんだ。
それも・・・・・・あれは、間違いようもなく・・・・・・レイだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・はっ、いかん。呆然としちゃったよ。だいたい、こんなところで、何をしているんだろう? むー、何か、真剣にゴソゴソやってるみたいだけど背中をこっちに向けているせいか、良く見えないや・・・・・・。そろそろと近づいてみると、あれれ・・・・・・牛乳パックとかソーセージの空き袋とかがレイの足下に散らばってる。お肉・・・・・・食べられないんだよ・・・・・・ね?
もうちょっと近付いて、声を掛けてみる。
「・・・・・・ねえ、何してるの・・・・・・?」
「・・・・・・・・・・・・!!」
こっち、見たまんま鮮やかな紅い瞳が見開かれ・・・・・・レイは固まってしまった。・・・・・・と、レイの足下で“みゃあ”という、か細い声がしてくる。覗き込むと、小さな仔猫が段ボール箱の中で丸まっている。
「わぁ可愛いねえ・・・・・・この黒猫・・・・・・捨ててあったの?」
「・・・・・・そう」
あ、それで、牛乳とかソーセージとかあったんだ。わたしもスカートの裾を膝に挟むとレイの隣にしゃがみ込んだ。あれ・・・・・・でも・・・・・・
「レイってさ・・・・・・授業終わったら、すぐ帰ったんじゃなかったっけ?」
「・・・・・・・・・ええ・・・でも、通りかかったら鳴き声がして・・・・・・」
「ええっ、じゃあ・・・・・・ここで3時間以上・・・・・・猫の世話してたの?」
こくり、とレイは頷くと、仔猫を見つめたまま呟くように言った。
「・・・・・・この子、放っておけない」
うーん、確かに放っておけないけど・・・・・・困ったなあ、このままじゃ日が暮れちゃう。しかし、こんな可愛い子を何で捨てるかなあっ。
「でもさ、ここでレイが、ずうっと世話する訳にはいかないし・・・・・・この子、寒そうだよ」
わたしは、スポーツバッグから乾いてるタオルを引っぱり出して、くるんでやる。仔猫はタオルに頬ずりするように丸まると琥珀色の瞳を細めて嬉しそうに“みゃあ”と鳴いた。
「ねえ、レイん家って猫・・・・・・ダメなの?」
悲しげにレイが首を横に振る。ウチに連れていってもいいんだけど・・・・・・リツコさん、異様に猫好きだし・・・・・・でも、前に飼っていた猫が死んじゃって、飼いたくないって言ってたからなあ・・・・・・。うーん・・・・・・・・・・・・。
そんな話をレイとして、二人して途方に暮れる。わたしも余り詳しい事情は知らないんだけど・・・・・・どうもリツコさんとレイって何か確執があるらしく、少ないレイの口振りの中にもウチに連れていくのは、ちょっと遠慮したがってる雰囲気が何となくあったり・・・・・・。
まあ、妙案もないからこそ、レイもずっとここにいたんだろうし。
あ、そうだ。
「あのさ、アスカと葛城さんに相談してみるのは、どうかな?・・・・・・すぐそこだしさ。 ほら、あそこの家はペンペンもいるしペット大丈夫かもしれない」
レイの顔が微かに明るくなる。携帯で電話してもいいんだけど・・・・・・電話口で断られちゃっても他に相談するアテもないから、ホントに申し訳ないんだけど、いきなり押し掛けちゃえ。もう、夕方になっちゃうし、ひとまず、もう少しこの子が寒がらない所に移動したい。
「・・・・・・いいのかしら?」
レイが何となく不安げな面もちで段ボールを抱えて立ち上がると呟いた。
「んー、まあ何とかなるでしょ」
わたしはレイの散らかしたゴミを片づけるとレイのカバンと自分の荷物を持って、葛城さん家に向かった。
葛城家のあるマンションの前にやってきた。以前にアスカやシンちゃんが同居していたコンフォート17とは違うんだけど・・・・・・警備が厳重なマンションらしいので、逆にオートロックもついてない。
レイは仔猫の様子に集中していて普段より更に口数が少ない・・・・・・。わたし的には黙ってるコトの方が労力を必要とするので、ちょっと辛い、かも・・・・・・あははは。
んーっと、確か8階だったよなあ。二人してエレベーターに乗る。
「そういや、アスカん家、来るの初めてだなぁ・・・・・・レイは?」
「・・・・・・・・・・・・3回目」
「あれ、レイも余り来ないの?」
「・・・・・・ええ、用事ないから」
・・・・・・確か、引越祝いの宴会の時も部屋が全く片づいてなくって──葛城さんもアスカも掃除や片づけが全然できなかったしね・・・・・・アスカは最近は大分マメになったらしいけど──近くの居酒屋だったもんなぁ。
ドアの前に来て、インターフォンを押す。・・・・・・いてくれるといいんだけど。
──ピンポーン!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・うー、どうかなぁ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
『はぁい』
ちょっと、気取った声がスピーカーから響く。あっ、いたっ! アスカだ。よしっ・・・・・・・・・・・・。
「あ、マナだけど。えっと・・・・・・ちょっと、相談したいコトがあってレイと来たんだけど」
『あら、どうしたの? ・・・・・・って、レイも一緒なの? 何か珍しい組み合わせだわね。ま、いいわ。今、開けるから』
ややすると、プシュッ、とロックが外れる音がして、ドアが開いた。
「いらっしゃい・・・・・・ほら、たいした所じゃないけど、あがってよ」
「おじゃましまぁす♪」「・・・・・・おじゃまします」
意外とキレイに片づいた玄関をあがると、リビングの方から声がする。レイの抱えた箱に野生のカンが働いたのか、ペンペンがそそくさと自室の冷蔵庫に籠もってしまう。
「おかえりー。あれ、アスカ・・・・・・お友達? おろ、ヒカリちゃんじゃないの?」
葛城さんがひょいっと顔を出す。あれっ、今日はネルフは休み・・・・・・なのかな?
「あら、マナちゃんにレイじゃない。いらっしゃい、あがって、あがって。マナちゃん、ひっさしぶりぃ♪」
「あ、葛城さん。ご無沙汰してます」
「ミサトでいいって言ってるじゃん。どお、リツコんとこ? イジメられたりしてない?」
「えー、良くしてもらってますよぉ。リツコさんのゴハン美味しいし」
「ふーん、どっかの誰かと違って、家事能力ある保護者はいいわよねぇ」
「ぐぅ・・・・・・アスカ、キッツい事言うわねえ。あ、マナちゃん、レイ、座って。ねぇ、アスカぁ、お茶のみたいなぁっと」
わたし達がソファの端に、ちょんと座ると、アスカは呆れ笑いを浮かべてキッチンに向かいながら言った。
「ほらね・・・・・・まったく、グラスを出して冷蔵庫のポットからアイスティーも注げない人が、ネルフの幹部だなんて信じらんないわよね」
「うぅ〜、ごみんねぇ。だって、コップ、どこにあるか判らないんだもん」
と、言う割には、目の前のテーブルにエビチュビールの空き缶が既に4、5本転がっている。
「そりゃ、アンタが食器片づけないからでしょ、もお〜。マナだって呆れてるわよ。このコだって、アタシより全然、家事出来るんだから」
「え、いや、そんな、わたしなんか大したことないけど」
そういうと、キッチンから戻ってきたアスカは、それぞれの前にコースターを出し、アイスティーの入ったグラスを置く。からん、という氷の涼しげな音がする。
そして、それまで黙っていたレイの膝の上に抱えられた段ボール箱が“みゃぁ〜お”と鳴いた。
「・・・・・・なるほどねえ。話はわかったわ」
ソファの上に胡座をかいて腕を組んだミサトさんは、難しいカオをしている。わたしはおずおずと口を開くと言った。
「・・・・・・あのぉ、ここで飼って欲しいって言うんじゃないんですよ。ただ、誰か──例えば、ネルフの職員さんとかで猫が欲しいヒトいないかなあ、とか相談しに来たんですよ」
わたしの言葉にレイもコクコクと頷く。アスカは、別にいいんじゃないかって顔をしているけど、やっぱり世帯主はミサトさんなのでアスカもミサトさんの表情を伺っている。
「うーん、心当たりねえ・・・・・・ちょっち、思いつかないなあ。あたしは飼ってもいいしアスカも嫌って訳じゃなさそうだし・・・・・・ここのマンションが猫はNGって訳でもないんだけど・・・・・・・・・・・・実は、ペンペンがねえ」
「ペンペン・・・・・・猫、ダメなんですか?」
アスカがパッと何か思い出した表情になると言った。
「あ、ヒカリの処で預かってもらってた時に・・・・・・野良猫とケンカして引っ掻かれたって・・・・・・」
「アスカ・・・・・・気付いてた? ペンペンの奴、TVに猫が映っただけでも機嫌悪くなるのよ」
うへ・・・・・・こりゃあ、ダメかなぁ・・・・・・。
「うーん、やっぱリツコさんに相談してみようかなあ」
わたしが呟くように言うとミサトさんが──
「あたし、今日は遅番だから家にいるんだけど・・・・・・リツコなら引き継ぎがてら、ウチに寄るって先刻さっき、電話があったけど・・・・・・そろそろ来る頃じゃない?」
「えっ、そうなんですか?」
わたしは、ポケットから携帯を取り出すと短縮ダイアルを押しながら言った。
「あ、じゃあ、リツコさんの携帯に電話してみます・・・・・・」
何度か呼び出し音が繰り返された後、リツコさんが電話に出た。
『・・・・・・もしもし? マナちゃん、どうしたの?』
「えと・・・・・・今、ミサトさんの家に寄ってるんですけど・・・・・・この近所で仔猫を拾っちゃって──」
『なんですって!?』
うわ、怒られちゃう・・・・・・のかな・・・・・・。
「いや、あの・・・・・・見つけたのはレイなんだけど・・・・・・空き地に誰かが捨てちゃってたみたいで・・・・・・放っとけなくて・・・・・・」
『・・・・・・許せないわ・・・・・・』
「この子、飼いたいって訳じゃないんだけど、誰か引き取って──」
『猫の種類は? 身体の大きさはどのくらい? 鼻水は垂らしてない!? 目ヤニは出てる!? 舌の色は赤い!?』
「・・・・・・へ? ・・・・・・えっと、真っ黒な毛の短い普通の仔猫だよ。尻尾は長いかな・・・・・・大きさって、頭から尻尾までで20cmくらい・・・・・・病気って感じじゃないけど・・・・・・」
『わかったわ。今、ミサトの家にいるのね? すぐ行くから』
──プツッ!
「あ・・・・・・切れた」
携帯のやり取りが洩れ聞こえていたらしく横でミサトさんが笑いを噛み殺している。
「リツコの奴、猫絡みだと人格変わっちゃうからのよね。昔から──あ、でもね、マナちゃんのコトになると、もっと取り乱すわよん」
「うそお? あのリツコが?」
心底、意外そうにアスカが驚く。レイも声には出さなくても驚いている様子だ。
「そぉよお。こないだ・・・・・・っと3日前くらいに、マナちゃん、連絡なしでどっかに寄り道したでしょ?」
「・・・・・・へ? あっ・・・・・・ええ、ちょっと・・・・・・」
・・・・・・相田と山に行ったこと、何でミサトさんが知ってるの!?
「給湯室で、一人でオロオロしちゃってて・・・・・・あんな狼狽えてるリツコは付き合い長いけど、初めて見たわ。『け、携帯は通じないし・・・・・・留守電にも何も伝言入ってないのよぉっ・・・・・・ゆ、ゆ、誘拐なんて事ないわよね・・・・・・私、ど、ど、どうしたら・・・・・・』とか言って」
レイとアスカは目が点になってる・・・・・・ミサトさん、いくらなんでも、それって大袈裟だよう、絶対。って、思ったりもしたんだけど・・・・・・わたしは何だか、思いっきり気恥ずかしくて・・・・・・でも、ちょっぴり嬉しいような・・・・・・何も言えなくって、黙って俯いていた。うう、頬が熱くなってるぅ・・・・・・。
──あたしがバラしたの内緒よ、とかミサトさんが言ってると、玄関のベルが鳴る。
「命名、このコの名前は『ジジ』に決定」
レイが差し出した箱を覗き込んだ瞬間、リツコさんは開口一番、そう言った。その場の全員がポカンとしているとリツコさんは、ちょっと焦ったように言った。
「な、なに? ウチで引き取ったらマズいの?」
全員が首を、ぶんぶんと横に振る。わたしが、おずおずと訊く。
「あの・・・・・・リツコさん、もう猫は飼わないって・・・・・・」
「・・・・・・だって、放っとけないじゃない」
照れくさそうに笑うリツコさんのセリフに、がくがくと全員が脱力する。・・・・・・・・・・・・悩んで、損した。ミサトさんが呆れ笑いを浮かべてポツリ呟いた。
「しっかし・・・・・・『魔女の宅急便』って・・・・・・歳が知れるわよねぇ」
・・・・・・それって、確か昔のアニメ・・・・・・?(汗)
わたしが大体の事情をリツコさんに話す。所々でレイがポツポツと補足する。なんか、仔猫用のバスケットやミルクなどを紙袋から取り出して、お湯で絞ったタオルで仔猫を拭いている。どうやら、ここに来る直前に買ってきたみたい・・・・・・確かに、ミサトさんの言うとおり、人が変わってるかも・・・・・・ははは。
リビングの向こう側で段ボールの中に新しい新聞紙を敷くとレイと一緒に熱心に世話してる。
その様子をソファに座って眺めているとミサトさんが、わたしの腕を突っついて小声で言った。
「あのさ・・・・・・あの二人だけ先に帰して、マナちゃんだけ残ってくれないかな? アスカと話があるとか理由つけて」
「・・・・・・・・・・・・? 別にいいですけど?」
自分の名前が出てきたので、アスカもこちらに顔を向ける。
「ちょっち、あの二人・・・・・・昔、嫌なことがあって未だにギクシャクしてるのよ。ちょうど『ジジ』ちゃんの世話で二人の距離が縮まるなら悪い事じゃないでしょ・・・・・・」
「・・・・・・あっ、なーるほど」「ふうん、ミサトにしちゃ気が利くじゃない」
「・・・・・・ま、そんな感じでお願いねん♪」
ぴっ、と片手で拝むと、ミサトさんはウィンクした。・・・・・・う・・・・・・ミサトさんて、こういうのピシッと決まるんだよなあ。
と、向こう側の方の会話が・・・・・・。
「・・・・・・なるほどね。確かに私が見たところ病気のような兆候もないし・・・・・・洗っちゃいたいところだけど・・・・・・」
「ごみんっ! お風呂場に『ジジ』ちゃんの臭いが残っちゃうとペンペンが・・・・・・」
ミサトさんが手を合わせて謝る。
「仕方ないわね・・・・・・。引き継ぎの書類は、置いておくから目を通して。この子、ウチに連れていってお風呂に入れるから、お暇するわね・・・・・・レイも来る?」
レイは、こくんと頷く。
「・・・・・・じゃ、シンジ君に電話しておきなさい。心配するから。マナちゃんも行きましょう」
携帯電話を取り出すとレイは自宅かシンちゃんの携帯かに電話をしてる。わたしは、先刻話し合った通りに言った。
「ちょっと・・・・・・アスカと話したいことあって・・・・・・そんなに遅くならないから、もうちょっと居てもいいでしょ?」
「うーん、そうね・・・・・・わかったわ。レイを車で送ったら、こっちに寄るって事でいいかしら? 明日も早いんだから、程々にね」
「はぁい」
ミサトさんが、ニコッて笑うのが見えた。・・・・・・ま、アスカとおしゃべりして時間潰すだけだしね。
そんな訳で、ミサトさんはネルフに出勤、リツコさんとレイは『ジジ』を連れて早速ウチに向かった。残されたわたし達はアスカの部屋に移動して、ぼーっとクッションに座っていた。
「なんだか、急に押し掛けてきて、どたばた騒がせちゃってゴメンね」
「気にしなくっていいって。みんな・・・・・・なんて言うか『一人で捨てられた子』ってのにトラウマがあるから、放っておけないのよ」
「あ・・・・・・そっか、そうだよね」
「・・・・・・アタシの部屋はペンペンあんまり入ってこないから、この部屋で良ければ飼ってもいいかな、って思ってたし。ただ、この部屋だけじゃ、狭くて仔猫には可哀想だとか思ってたの」
そう言うと照れくさそうに笑うアスカは、とっても綺麗だった。
「・・・・・・そういや、アスカん家に来たの初めてだなぁ」
わたしが部屋の様子を、ぐるっと見回しながら言うと、ちょっと小首を傾げてアスカは言った。
「ウチの保護者があれだとさぁ、ちょっと友達呼びづらいのよ」
「ふぅん・・・・・・そお? ミサトさん、いいじゃん。気さくそうなお姉さんって感じで」
アスカの部屋は初めて来たけど、結構、落ち着いた雰囲気で、所々に可愛い小物なんか飾ってあったりて割と女の子っぽい部屋だった。
「あれは気さくっていうより、だらしないって言うのよ」
「あはは♪ でもねぇ・・・・・・ウチだって、前に商店街で買いものしてた時にクラスの女子と会ったことあってね・・・・・・リツコさん見て、ガチガチに緊張してたよ」
「くくくっ・・・・・・リツコも昔に比べれば随分、人当たりが柔らかくなったとは、言ってもねぇ・・・・・・。あ、飲んで」
アスカが、グラスをわたしの方に押す。わたしは、冷たい紅茶を一口啜る・・・・・・んんーっ、やっぱ、アスカの紅茶、美味しいなぁ。
「あー、おいし・・・・・・。ところで、リツコさんって・・・・・・昔・・・・・・そんなにキツかったの?」
「えー、言っちゃっていいのかなぁ。そりゃあ、もお・・・・・・凄かったわよ。冷血ヒス女って感じ」
アスカもアイスティーを飲みながら、かなりキツイことを、さらっと言う。
「うそお・・・・・・やっぱ、信じらんないよぉー」
「アタシだって今のリツコの方が信じらんないわ。絶対、別人よ、別人。・・・・・・ま、今の方が、ずっと感じいいけど」
アスカは笑いながら言う。確かに、第3東京に戻ってきたとき、同じ人だって気付かなかったもんなぁ。
「わたし・・・・・・ああいうヒトが、お母さんだったらなあ、なんて良く思うけど・・・・・・」
「へぇ、マナって、ホントに良くして貰ってるんだ・・・・・・。良かったじゃん」
そう言ってニッコリ微笑むアスカは・・・・・・決して妬んだりしてる訳でもなく、素直に喜んでくれてる・・・・・・多分、アスカも昔とちょっと違うんじゃないかな・・・・・・。
「・・・・・・うん、ホント良くしてもらってる。この話・・・・・・同級生にするの初めてなんだけど・・・・・・・・・・・・戦自に居たときにね・・・・・・実戦の前に・・・・・・特別な訓練があったんだよ。サバイバル訓練でさ。着の身着のままで、ジャングルみたいなトコに一人でほっぽりだされて・・・・・・で、教官達が追って来るんだ・・・・・・殺しに・・・・・・1ヶ月生き残ったら、訓練終了なんだけど・・・・・・って、あれ?」
アスカが呆然と、わたしの事を見ていた。ありゃ、話のフリはマズったかな・・・・・・。
「・・・・・・ちょっと、待ってよ、マナ。それって、いくつの時?」
「うーん、10歳かな・・・・・・・・・」
アスカが深刻な顔で考え込んでいる。うーん、戦自とネルフの協定で、わたし自身にも守秘義務が課せられているんだけど・・・・・・一応、セカンド・チルドレンという立場上、アスカ自身がネルフの最高機密だしねえ・・・・・・。
「アンタ、生まれた時から戦自にいたんでしょ? つまり、選択の余地はない・・・・・・」
「そりゃ・・・・・・そう言うことになるかな。命令拒否なんて、あの頃には考えたこともなかったけど」
アスカは、わたしの顔を覗き込みながら、心配そうに言った。
「・・・・・・アタシとマナは、割と境遇が似てると思っていたのよ。でも、アタシは少なくとも志願したのよ・・・・・・チルドレンになりたいって。だけど・・・・・・アンタは・・・・・・。そうね・・・・・・レイに近いのかもしれないわ」
「確かに・・・・・・言われてみればそうかも・・・・・・。だけど、候補者は100人以上いたらしいんだよ・・・・・・だから宿舎は結構、賑やかだったし・・・・・・あんまり、一人ぼっちだった記憶ないなぁ。もっとも、最後は3人になっちゃったけど」
「3人って・・・・・・他の子は死んじゃったってこと?」
「うん、そう。だって、最初から出生届けとか出してない子ばかりだから、何人、死んでもわからないしね・・・・・・」
ぎり・・・・・・って音がした。アスカの歯ぎしりだと気付くのに少し時間がかかった。本気で・・・・・・アスカ、怒ってる・・・・・・。グラスを持つ手が小刻みに震えている。
「・・・・・・ゆ、許せない・・・・・・・・・・・・」
「あ、それは、そうなんだけど・・・・・・これは話のマクラ・・・・・・前置きだから・・・・・・」
「・・・・・・え・・・・・・? アンタ、そんなことされて恨んでないの? レイだって・・・・・・自分の事、釈然としていないわよ」
アスカが、ちょっと脱力した様子で、わたしのことを見てる。ははは・・・・・・ごめんねぇ。
「うーん、そういう風に考えたことはないなぁ・・・・・・ただ、そのまま、その時のサバイバル訓練のこと、夢を見るんだ──」
「どんな?」
「森の中を肉食獣に追われて逃げているんだ・・・・・・風下へ風下へって走るんだけど、どんどん、追いついてくる。何度も転んだりして、逃げるんだ。それで、疲れ果てて動けなくなって、それでも気配が近付いてくるから、手探りで木によじ登る。
真っ暗闇の中で木の枝にしがみついて震えてるんだ、わたし。足下で虎か熊か・・・・・・大型の肉食獣がうろついている息づかいや足音がするの・・・・・・時々、わたしのいる木の幹を爪でひっかく音や振動が伝わってくる・・・・・・・・・・・・
そんなのが永遠に続いたかと、思うと、目が覚めるんだ・・・・・・」
わたしは、いつの間にか自分の身体を抱きしめるようにして、震えていた・・・・・・。アスカがわたしを抱きしめると言った。
「マナ!・・・・・・もう、いいからっ! ね? ・・・・・・顔、真っ青よ」
「・・・・・・あ・・・・・・ぁ・・・・・・ごめんね・・・・・・アスカ・・・・・・」
やっぱり、わたしの中で絶対的な恐怖として・・・・・・身体に染みついているのかも・・・・・・。わたしが落ち着いてきたのを見計らって、アスカが身体を離す。
「・・・・・・大丈夫? マナ」
「うん・・・・・・もう、平気・・・・・・。ホントに夢に見ちゃったときは・・・・・・もっと酷いんだ・・・・・・家にいる時だと、リツコさんが部屋に駆けつけてくれるんだけど、リツコさんの顔を見ても、判らないの、誰だか・・・・・・。それで、今のアスカみたいに落ち着くまで延々と抱きしめてくれて、いっつも赤ちゃんみたいに泣いちゃうんだ・・・・・・でも、リツコさん文句一つ言わずに、わたしに付き合ってくれる」
アスカが驚いた顔してる。わたしは普通に座り直すと、ちょっと照れ笑いを浮かべて言った。
「あー、もお、ヘンな話しちゃったよ。ごめんねぇ」
「うぅん、ちょっとね・・・・・・リツコにそうして貰ってるマナが羨ましかった。あ、でも、ミサトも頑張ってるかなぁ・・・・・・そういうトコでは」
「そなの?」
「アタシのママの事は・・・・・・知ってるわよね・・・・・・」
・・・・・・あんまり、良い思い出とはいえないけれど、確かにアスカの過去は内偵したから・・・・・・ある程度は知っている。正気が保てなくなって、アスカと人形の区別がつかなくなり、人形を娘と思い込んで・・・・・・そして、アスカのことを何度も、殺そうとした。馬乗りになって首を絞めていた記録もあった。そして、最後はアスカの目の前で首を吊って亡くなった・・・・・・。
「その事が、やっぱり何処かで引っかかっててさ・・・・・・寝ぼけてミサトのベッドに潜り込んじゃうの。夜中に・・・・・・泣きながら。そん時だけはチャカしもせずに、どんなに眠いときでも、アタシのこと赤ちゃんみたいに、あやしてくれるんだ。ちょっとビール臭い時あるけどね」
わたしは、ふと思いついたコトを口にする。
「ねえ・・・・・・やっぱり、ミサトさんのおっぱい吸っちゃったコトある?」
「ええっ、そ、そ、そ、そんなコト、いくらなんでも・・・・・・し、し、ないわよ」
アスカの狼狽えぶりからして、どうみても、これはしたことあるな・・・・・・くふふ。
「へぇー、したことあるんだぁ」
「あーっ、もおっ、あるわよっ! ありますっ! 絶対、ナイショだからね! 誰にも言わないでよっ!」
「言わないよ・・・・・・だって、わたしもリツコさんのおっぱい吸っちゃったことあるし」
わたしのセリフに呆れ笑いを浮かべながらアスカは言った。
「なんだかなぁ──。15歳にもなって、二人揃って保護者のおっぱい吸ってりゃ世話ないわ」
「ま、確かにそうなんだけどねー」
何となく、二人して苦笑いを浮かべると天井見上げる。アスカが急に下らないことを、わたしに聞く。
「あのさ・・・・・・リツコのおっぱいって、おっきいの?」
「あははは、急に何、言っての? アスカぁ」
どういう興味だかわかんないけど、興味があるらしく結構、真剣な目つきだった。わたしはアスカの方に身を乗り出すと小さい声で言った。なぜだかコソコソ話になってしまう。
「それがねえ・・・・・・結構・・・・・・あるんだよ・・・・・・」
「まじ?」
「うん・・・・・・さっき、ミサトさんのタンクトップ姿、初めてみたけど・・・・・・カップサイズだけなら・・・・・・同じくらいあるよ」
「うそぉ・・・・・・ミサトって、Fくらいあるわよ。リツコって、あんまり、なさそうにみえるじゃん」
「アスカってば、白衣着てるとこしか見たことないでしょ」
「うん、そうだけど」
「リツコさんね、ウェスト細いよ・・・・・・わたしより、ちょこっとあるかな・・・・・・こんなもんだよ」
「げ・・・・・・アタシと変わんないじゃん」
「だからさ、バストサイズは、多分86くらいなんだけど、アンダーがすんごい細いんだよ」
「ひー、知らなかった・・・・・・」
「背丈もあるから、あんまりわかんないんだよ。丁度、アスカが大人になったらあんな感じじゃないかな」
「ええっ、いくらアタシでも・・・・・・そこまで・・・・・・」
「アスカって、いま何カップなの?」
「・・・・・・んと・・・・・・最近、Cがキツいかな」
「うわあ、いいなあ・・・・・・わたし、まだAだよ」
「何言ってのよ、アンタは背丈気にしてるけど、背が低い方が、おっきく見えるのよ」
「そうは言ってもさぁ、もうちょいあっても、いーじゃん」
ヒソヒソと身振り手振りを交えて二人で話し込んでいると後ろから声を掛けられる。
「──ウェストがどうとか、カップがどうとか・・・・・・何の密談してるんだか」
「「わぁっ!」」
思わず、二人して同時に叫ぶと慌てて飛び退く。戸口の所にミサトさんが薄笑いにジト目でこっちを見てる。
「もおっ、ネルフに行ったんじゃなかったのっ!? 勝手にドア開けないでよねっ! いつも言ってんでしょ!!」
「やぁーねぇー、ノックしたわよん。返事がないから開けたんじゃない。ちょーっち、リツコの書類、忘れちゃってさ・・・・・・じゃ、マナちゃんも、またねん」
ヒラヒラと手を振ると玄関に消えてゆく。にしても・・・・・・わたしもアスカも、それなりの訓練を受けていて普通よりは他人の気配に敏感なんだけど・・・・・・さすが、ミサトさんの方が一枚上手と言うことなんだろう。わたしとアスカは脱力したまま、ミサトさんを送り出した。
「「いってらっしゃ〜い」」
そのあと、暫くアスカと下らないおしゃべりをしたりしていたら時間は、あっという間に過ぎちゃって、リツコさんが迎えに来た。ジジは落ち着いたらしく眠ってしまったのでレイも一安心して帰ったみたい。
葛城宅をお暇するとリツコさんのエレキカーに乗って帰路につく。ジジの話などをして、ウチに近付いてきたきた頃・・・・・・助手席に座っている、わたしにリツコさんが言った。
「・・・・・・レイと二人きりにしたの・・・・・・ミサトの入れ知恵?」
「あっ・・・・・・えへへ、バレちゃった?」
わたしがペロッと舌を出すと、ちょうどウチの駐車場に車が滑り込む。リツコさんは微笑みながら言った。
「ふふふ、ミサトのやりそうなコトだわ。・・・・・・でも、感謝しているのよ。レイとちゃんと話もできたし・・・・・・」
わたしが、ほっとしているとリツコさんは言葉を続ける。
「私ね・・・・・・あのコに本当に酷いことをしてしまった。人として赦されないことを・・・・・・・・・」
車のモーターも止めずに、宙を見つめながらリツコさんは言った。・・・・・・わたしは、ネルフで何があったかは、知らない・・・・・・敢えてわたしが聞く事じゃなさそうな気がしたし・・・・・・レイなりリツコさんなりが、わたしが知っていても良いと思ったら、話してくれるだろうし。無理に聞き出すような事じゃないような感じ。
「自分のやってしまった事の恐ろしさに・・・・・・私は・・・・・・あのコと向かい合うことを避けて来たんだわ」
「・・・・・・大丈夫。リツコさんなら大丈夫」
わたしは感じたことを素直に口にした。リツコさんが振り向いた。
「わたし・・・・・・若いリツコさんに、こう言っちゃ失礼かもしれないけど・・・・・・リツコさんが本当のお母さんだったらなって・・・・・・よく思う。レイは、ちょっとだけ不器用だから、外見はあんな感じだけど、本当はすんごくいいコだよ」
「・・・・・・・・・マナちゃん」
「うん。だから、大丈夫だと思う。何があったか知らないし、時間掛かるかも知れないけど・・・・・・リツコさんだから、大丈夫」
わたしがニッコリ笑うと、リツコさんは目元に涙を浮かべながら微笑んだ。 「・・・・・・ありがと・・・・・・マナちゃん」