第二章・火の車の悪組織!


 

 住宅と商店が点在する街中を、重たそうな鞄を持って本郷夫婦は歩いていた。勿論、その中には現金五千万円が入っている。
 まだ昼を回って間もない。
 辺りは穏やかな空気に満ち、至って平和だ。
 どこからか、鶯の鳴き声が聞えてくる。
 暫らく黙って歩いていた二人だが、パン屋の角を曲がった時、一文字が口を開いた。
「すまん…」
 本郷の足が止まる。
「何がだ?」
 本郷の数歩先で止まり、一文字は振り返った。端正な顔に、普段見られない憂いの色が見え隠れする。
「…何がだ?」
 振り向いたまま答えようとしない一文字に、本郷は重ねて問う。一文字は表情を変えないまま口を開いた。
「…茂が誘拐された」
「それで何故、隼人が謝るんだ」
「……………」
「小沢署長も言っていただろう。茂を誘拐したのは【衝撃団】だ。悪いのは奴等だ。隼人じゃない」
 歩を進め、本郷は一文字の隣に立った。
 一文字の肩に手をおく。
「茂が誘拐されたのはお前のせいじゃない。それに、今から茂を助けに行くんだ。そんな顔してたら助けられる者も助けられないぞ」
「…………」
「茂を助けたいんだろ?」
「……ああ…」
 本郷は、彼特有の力強い笑顔を見せた。
 一文字も本郷に微笑を返す。
「…そうだな。解った。力を合わせて茂を助け出そう!」
「うむ!」
 二人が再び、受け渡し場所に向けて歩き出した時、今度は後ろから二人に声をかけてくる者があった。
 振り向く一文字の目に、走ってくる男性が映った。
 長身の、黄色いエプロンを身に着けた好青年風の男性に、本郷夫婦は見覚えがあった。
「洋先生…」
「本郷さん、一文字さん―――すいません!」
 いきなり謝りだす、城茂の担任=筑波洋に面食らう二人。とにかく、頭を下げたまま上げようとしない筑波に、頭を上げてくれるように言う。
 が、筑波は頑として上げようとしない。
「このたびは本当に…。……何て言ったら良いのかわかりません…。何を言っても許してもらえるような事では無いと思います。解ってます…。でも―――」
「先生?!」
 筑波は更に頭を下げ、叫ぶように謝罪した。
「本当にすいません!オレがちゃんとしていなかったせいで、茂君が誘拐されてしまいました!本当にすいません!すいません!」
 何度も繰り返し謝る筑波。
 筑波には、三人の年の離れた弟がいて、その中には茂と同い年の子もいる。その為、余計に心を痛め、責任を感じているようだ。
 本郷と一文字は顔を見合わせ、微笑した。
 謝り続ける筑波の肩を、一文字がそっと触れる。筑波は言葉を飲み込み、化石のように動かなくなった。
「……………」
「筑波先生…」
 と、本郷。
「はい!」
「先生は、今、仕事の最中じゃないんですか?」
「―――あっ!?」
 本郷の言葉に、筑波は自分が保育園児達をバスで送迎中だった事を思い出した。慌てて顔を上げ、後ろを振り向く筑波。数十m先には、困った顔でこちらを見ているらしい運転手が、保育園バスの運転席から見えた。
「しまった!」
「早く行ってあげて下さい。貴方の仕事です」
「…一文字さん」
 一文字を見下ろし(筑波洋の方が、頭ひとつ分程身長が高い)、筑波は口を引き結んだ。
「子供達が待ってますよ。あの子達を無事家まで送り届けてください」
「―――はい!」
 筑波はもう一度二人に頭を下げると、猛ダッシュで保育園バスへ駆けて行った。
その後姿を見送る本郷と一文字。
 筑波がバスの中へ消え、バスが角を曲がり行ってしまうと、一文字は本郷の背中を思いっきり叩いた。
 驚く本郷。痛そうに背中を擦る。
「…隼人?」
 一文字の顔を覗き込む本郷に、一文字は笑顔を向けた。先刻見せた微笑とは違う、彼の本当の笑顔だった。
「行こう、本郷!」
「―――…ああ!」
 二人は真剣な表情になると、受け渡し場所に指定された、町外れの工場跡へ向かって力強く歩き出した。
 その頃、本郷夫婦の数十m後方で、なにやら怪しい動きを見せる子供達がいた。
 言うまでもなく、両親の後を追う兄弟四人だ。
「どうやら工場へ行くみたいだ…」
 発信音波受信機を見ながら、結城丈二は言った。緑色の画面に、ピコピコと点滅する光が映っている。
 風見志郎が横から覗き込む。
「工場は今使われてないから、きっとそこに父さんと母さんを呼び出したんだ」
「工場のまわりには人家もないし…、絶好だな」
 と、頷く結城。
「早く行こう!」
 後ろから、神敬介とアマゾンも覗き込み騒いでいる。
 と、唐突に四人に衝撃が走り、よろけた。誰かが兄弟に体当たりしてきたのだ。慌てて体制を整える四人。
 振り返った兄弟の目が驚愕で開かれる。
「イ…イチロー!」
 と、敬介。
「ジロー?」
 と、アマゾン。
 本郷家兄弟下三人が通う、早川東英保育園に、同じく通う光明寺兄弟の次男・イチローと三男・ジローがそこにいた。
「よっ!お前らなにしてんだ?」
 イチローが、どうやら四人に体当たりしたらしい。楽しそうに笑っているイチローの隣で、ジローが困惑気味な表情で立っている。
「兄さん…」
「なんだよジロー」
 そんな兄を咎めようと口を開いたジローに、イチローは膨れっ面の顔を見せた。
 この二人のいつものやり取りだ。
「アマゾン君たちはおとうとがさらわれて大変なんだから、からかっちゃダメだよ」
「そんなのわかってるよ!」
「だったら…」
 イチローは、ジローの目の前で人差し指を立てた。それをリズミカルに左右に振って見せる。
「だ・か・ら、おとうとを助けにいっしょに行くんだろ!俺達も」
「へ?」
 イチローの言葉に五人の声がハモる。
「君は自分が言ってることをわかってるのか?」
 志郎が皆を代表して恐る恐る尋ねてみると、自信満々なイチローの笑顔が返って来た。
「あたりきしゃりき!」
 深く長いため息が吐き出される。
 頭を押さえ、ジローがイチローの説得にかかった。
「に…兄さん、ぼくたち子供なんだからそんなこと出来ないよ。それに危ないよ?ミツ子さんやみんながしんぱいするよ?」
「なんだ、ジローは弱虫だな。お前は茂がしんぱいじゃないのか?」
「それはそうだけど…」
 イチローは、ジローの肩を掴むと真正面から瞳を覗き込んだ。驚くジロー。
「だれがなんて言おうと、俺は茂がしんぱいだから助けに行く!それにな、俺は子供だからってあきらめるのはイヤなんだ!」
 イチローは強い意志の持ち主で、一度こうと決めたら頑として他の事は受け入れない。そして、イチローが人を押しのけて言い張る時は、大概に置いて良心的な事を主張する。
 その為、ジローが折れる事が多い。
「兄さん…。わかったよ。僕も茂くんをたすけるためにがんばるよ」
「そうこなくっちゃな!」
 イチローは、ジローに満面の笑みで答えた後、成り行きを見守っている本郷兄弟達の方を向いた。
 ジローに見せたのと同じ笑顔を見せ、
「っと言うわけで、よろしくな☆」
「あのなぁ―――」
 抗議の声を上げようとした志郎の腕を、結城が引っ張った。怪訝そうな顔で振り向く志郎に、声を落として結城が囁く。
「ぼくたちはたしかに子供だから、人数は多いほうがなにかといいと思うよ」
「………それもそうだな…」
 結城の言葉に思い直し、志郎は光明寺兄弟を、共に連れて行くことにした。敬介もアマゾンも異論は無いらしい。
「とにかく、目的はしっかりカクニンしておく」
 路上で円陣を組み、志郎は念を押した。
「さらわれた茂をたすけだす!それだけだ!」
「おお!」
 志郎の言葉に五人が声をそれえて答えた。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「……………」
 薄暗い牢屋の中で、城茂は目を覚ました。
 相手が年端もいかない子供なだけに、茂には手錠もかけられてなければ、縄で縛られてもいない。
 目が覚めた茂は、自分がどうなっているのか良く分らなかったが、とにかく、今自分を取り巻く空気に嫌な物しか感じないので、ここから出たいと思った。
 茂は他の子供達と、ちょっと違う。
 小さい手で頑張りながら、茂は手袋を外した。
 いつも両手にしている黒手袋。
 それは取らぬようにと、茂は両親からきつく言われている。何となくではあるが、その理由を知っている茂は、故に、耐電性黒手袋を取った。
「…ぐー…ぐー…」
 茂を見張るように言われた戦闘員はうたた寝をしていて、茂が目を覚ました事に気付いていない。茂はそっと、檻にもたれかかるように寝ている戦闘員に近付き、銀色に光る腕を伸ばした…。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 一条薫は、物陰から子供達を見守っていた。
(新しく加わったあの二人の子供は、あの子達の友人か?)
 一条は、本郷家のお隣・氷川家のその又隣に、夫の五代雄介と共に住んでいる。故に、本郷家の五人兄弟は何度か見て、知っている。
 が、五代家にはまだ子供がないので、一条が早川東英保育園に行く事は殆んどない。故に、一条は光明寺兄弟の事を知らなかった。
 一条の夫=五代雄介ならば、妹の五代みのりが早川東英保育園で働いているし、子供好きなのでよく保育園に出かけるので、光明寺兄弟の事も知っているのだが…。
(…これは、私一人では無理だ…。もう一人くらい署長に頼み、連れてくるのだった…)
 険しい表情で一条は自分を叱咤した。
 子供は六人いる。
 とても一条一人で守りきれるものではない。
 一条は懐中から携帯を取り出すと、すぐさま小沢澄子特英署署長に電話をかけようと、リダイヤルボタンを押した。
 異変が起きたのはその時だった。
「わっ!」
「なんだなんだ!」
 子供達の悲鳴に近い声に、一条は子供達からそらした視線を慌てて戻した。
「!?」
 いつの間にか、子供達を取り囲むように全身黒タイツの男達が現れた。
 ざっと見て、十五人はいる。
 男達は子供達に襲い掛かった。
 一条は携帯電話で簡潔に状況を述べると、電話を切り、懐中にしまいなおしながら、子供達を助けるべく走り出した。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 町外れの工場跡に人気はなかった。
 辺りを用心深く窺いながら、本郷と一文字は歩を進めた。日はだいぶ西に傾き、空の色も橙色に変わりつつある。
 辺りは静かだ。
「…静か過ぎはしないか?」
 と、囁くような声で一文字。
「うむ。俺達が本当に二人だけで来たのか、様子を見ているのかもしれん」
「…そうだな…」
 二人は尚も、奥へと進む。
 胸が緊張と興奮で高鳴る。
 ちょうど二人が、工場跡の端に着いた時だった。
 急に辺りの雰囲気が変わった事に、本郷と一文字は気付いた。常人ならば気付かなかったろう。そこは、武道で鍛えた本郷夫婦の芸当だ。
 身体に染み付いた癖で戦闘態勢を取った二人に、どこからともなく声が響いてきた。
『よく来た!』
 それは紛れもなく、本郷邸に電話をかけてきた男=ゾル大佐の声だった。
 声は続ける。
『さぁ、持って来た物を見せてもらおう!―――そうだ。そこに置き、鞄を開いて―――…ふん。まぁ良いだろう』
「約束だ!茂を返せ!」
 見えぬ敵に本郷が吠える。
 その隣で、一文字も抜け目なく辺りを探る。
(何人か潜んでいる…。少なくとも二十人…)
 その中にゾル大佐もいるに違いない。
『ふふん。こちらの用件がまだ終っていない。全て済めば返す!』
 本郷と一文字は目配せをした。端から簡単に返してもらえるとは思っていない。
 声は続ける。
『本郷猛。知能指数六百を越すといわれる天才科学者であり、日本にも、世界にも名の知られたオートレーサー』
「………?」
 いきなり自分の紹介をされて、本郷は戸惑った。困惑気な表情で一文字も本郷を見る。
 ゾル大佐は続けて一文字の紹介までする。
『一文字隼人。柔道五段。空手六段の腕前を持ち、五ヶ国語を操るフリーカメラマン。数年前までは世界を股にかけて活躍していた』
「一体何が言いたいんだ?!」
 相手の意図が全く解らず、本郷は問う。
 ゾル大佐はそれに笑って答える。
『はははは!二人とも並みの人間では無い。更に二人とも親からそうとうな遺産を相続した。本郷は造形技師だった父親から。一文字は外交官だった父親から』
 ここまで来て、本郷と一文字はなんとなしに相手が何を欲しがっているのか見当が付いた。
 つまり、
『そこでだ、息子の命が惜しければ我等【衝撃団】の仲間に入れ!』
 強制的な勧誘だ。
 何かと人材の不足しがちな悪組織は、いかなる時も使えそうな人間を探している。体力・知力ともに常人よりずば抜け、更に国内外、どこにいても怪しまれない、頼りになる人物…。
 本郷と一文字はまさに適任。
 大幹部候補にもなれる逸材だ。
 そこで、軍資金を補充するのと同時に、この有能な人材をも手に入れてしまおうと【衝撃団】首領は考えた。
 故にゾル大佐に、
『うむ…。だが気は抜くな。この計画は、我が組織にとってひどく重要なモノだ』
 と、言ったのだ。
 本郷と一文字は開いた口が塞がらない。
「貴様等悪党に誰が組するか!」
 何とか気を取り戻した本郷が叫ぶと、一文字も同じように、
「冗談も休み休み言え!」
 と、叫んだ。
 しかし、ゾル大佐は余裕綽々とした風で答える。
『冗談ではない。忘れてもらっては困る。子供はこちらの手の中だと言う事を…』
「…っく!…」
『ふん。吠えるな。我等の仲間に入れば子供の安全は約束しよう』
 だが、
(悪党の約束など当てにならない)
 と、本郷も一文字も思っている。
 実際、【衝撃団】は二人が仲間に入ろうとなかろうと、茂を毒牙に掛けるつもりでいる。
(教育を施し、仲間に仕立てる…)
 ゾル大佐は既に他の四人の子供達も攫うよう、戦闘員数名に命令を下していた。隙を見て、残りの四人も攫い、彼等にも教育を施すつもりだ。
(【衝撃団】少年隊の結成だ…)
 物陰に隠れて、本郷夫妻を見ているゾル大佐は、胸中でほくそ笑んだ。
 本郷と一文字は、今だに姿を見せない敵にイラついていた。茂の身が心配でならない。
「茂の無事を確認する!ここへ今すぐ連れて来い!」
 一文字が言った。
『……ま、良いだろう…』
 短く返事をすると、ゾル大佐は近くにいた戦闘員に、城茂を連れて来るよう命令した。
 と。
 そこへ、ボロボロになった戦闘員が一人現れた。茂を監視していた戦闘員だ。
 よろけながらゾル大佐の近くに跪く。
「何だ!その格好は!」
「こ…子供に逃げられました…」
 短い報告に、流石のゾル大佐も言葉をなくした。まさか、たった二歳の子供があの牢屋から逃げおせようとは…。
「莫迦者が!で、子供は今どこに―――」
 慌てるゾル大佐の耳に、一文字の声が飛び込んで来た。
「茂!」
 すぐさま見るや、城茂はゾル大佐が隠れている反対側の工場の屋根の上に立っていた。
 そちらの方へ駆け寄る本郷夫妻。
「茂、今そっちに行くから動くなよ!」
「うむ。どうやら逃げて来たようだ。なかなかやるなぁ、ウチの末っ子も」
 と、茂を見上げ嬉しそうに微笑する本郷。
「そんな事を言っている場合か!」
 一文字は、工場の横に積み上げられたドラム缶等に足をかけ、屋根に飛びつこうとした試みた。が、それは失敗に終った。彼を邪魔する者があったからだ。
「お前達が茂を連れ去ったんだな!」
 一文字の足首を掴み引っ張っていた黒ずくめの戦闘員を殴り倒すと、本郷はいつの間にやら現れた十数名の戦闘員に鋭い視線を投げた。
 本郷は一点に視線をとめた。
 ある男を凝視する。
「…むぅっ…、貴様が親玉か」
 軍服を着、鼻の下に髭を生やし鞭を持ったゾル大佐が、戦闘員達より心持ち後方に立っている。左目は眼帯で隠されているが、右目からは異様な怒気が迸っている。
「………ふん」
 ゾル大佐は本郷に構わず、とりあえず足元に転がる、五百万入った鞄を持上げた。
 鞄を戦闘員の一人に預けながら、ゾル大佐は本郷親子を睨んだ。
「おい、貴様―――」
「俺は【衝撃団】の大幹部。俺の姿を見た以上、仲間にならなければ殺す!」
 凄みのきいた声で言うゾル大佐に、本郷と一文字は知らず緊張した。
(…この男、危ないな…)
 何とか屋根に這い上がり茂を抱き上げた一文字は、下でゾル大佐達と対峙し、戦闘態勢を取っている本郷へ目配せをした。
 もうここに長居する必要は無い。
 何とか十数名もの男達を振り払い、せめて、人通りの多いところまで…。
「……っくぅ…」
 ゾル大佐は、自分の失態に歯噛みした。彼が【衝撃団】に入ってから随分と経つが、こんな事は初めてだった。
(何もかもこいつ等のせいだ!)
 二人を、息子共々殺してしまおうかとも思ったが、下手な事をして首領の怒りを買ってはまずい。
(なら、せめて!)
 ゾル大佐は、戦闘員に「多少痛めつけても構わないから取りあえず三人を生け捕りにせよ」と命令する為口を開いた。
 その時…―――。
「はなせ!」
 ボロボロになった戦闘員十数名が、縄で縛った暴れまくる子供六人と、大人一人を連れてゾル大佐の後方に現れた。
 本郷と、今だ屋根の上の一文字は瞠目した。
「志郎!結城!敬介!アマゾン?!…それにイチロー君にジロー君まで…?」
「む?一番左端で捕まっているは、うちに来ていた刑事さんじゃないのか?一体どうして捕まっているんだ?」
「父さん…母さん…」
 本郷兄弟はすまなさそうに両親を見やった。
 子供達を命がけで守ろうとした一条も、その瞳に自分への無念さが滲み出ている。
 結局、応援は間に合わなかったのだ。
 ゾル大佐の瞳が鋭い光を灯した。
 縄で体の自由を奪われ、更に戦闘員にがっしりとつかまれているというのに、今だ戦闘意欲満々の本郷兄弟と光明寺兄弟を見やり、ゾル大佐は勝ち誇ったように笑う。
「本郷猛!一文字隼人!貴様達の子供は、見て分るように我々の手中にある!貴様達に選択権は無い!大人しく我々の仲間に入れ!」
「………くっ…」
「………」
 流石にどうしようもない。
 仕方なく、一文字は茂を抱いたまま屋根から下り、本郷の横に立った。本郷も構えていた両手を横にだらりと下げ、戦闘態勢を解除した。
「…お父さん、…お母さん」
 と、敬介。
「ぼく達のせいだ…」
 と結城。
「…………」
「本郷と一文字には手錠をかけろ。子供の方も縄で縛っておけ」
 ゾル大佐の命令で、戦闘員が本郷と一文字に手錠をかけようと、二人の近くに寄った。
 思わぬ事態が起こったのはその時だった。
 バキィ…ン!
 突如、遠方から金属同士が激しくぶつかり合う音が響い来たのだ。その音は何度もし、次第に大きくなり、ゾル大佐や本郷達がいる場所へと近付いて来た。
「何だ?!」
「解りません!」
 皆が自分の置かれた状況を忘れ、その音が聞こえてくる方へと視線を移した。
 やがて、
「……あれは…???」
 数人の男女がその場に現れた。
 悪趣味な装飾を施した黒のロングコート着用し、白を紫に染めた髪を振り乱しながら、少々化粧の来い初老の男が、スッポンのような体型をし、頭の禿げ上がった眼鏡中年男の手を振り切って、高校生くらいの子供五人に、持っている杖で攻撃を仕掛けていた。
「おのれぇぇええぇぇ、久保田ぁぁぁああぁぁ!」
 暖かな陽気の下、悪趣味なコートの男が吠える。
「鮫島!落ち着け!この子達は関係ない!」
「五月蝿い!貴様にはワシ以上の苦渋を舐めさせてやるのだ!目の前で我が子を殺され、地獄の苦しみを味わうが良い!」
 鮫島と呼ばれた男の目の色は、既に狂人の域に達している。
「おい!アンタ!さっきから聞いてりゃ、自分勝手な理屈ばっかりほざきやがって、テメェは一体何様だ!俺達を殺せるもんなら殺してみやがれ!」
 と、久保田博士の次男=伊達健太は業を煮やし、鮫島に食って掛かった。
「こら健太!相手を挑発するんじゃない!」
 それをたしなめる長男・遠藤耕一郎。
「そうよ。ただでさえ、あんなに怒ってるんだから」
 と長女=城ヶ崎千里。
「これ以上怒らすと、何をしでかすか解らないぞ?」
と三男=並樹瞬。
「そうそう。それに、こんな事は早く済ましてゲーセンに遊びに行こうよ☆」
 最期に末っ子=今村みくがお気楽に言った。
 その台詞に激怒する鮫島。
「き…貴様等ァァアアァァァ……!」
 どす黒いオーラを放出し始めた鮫島を見て、久保田の顔色が青くなった。
 子供達を叱る余裕も無く、久保田は鮫島を後ろから羽交い絞めにし、その間に子供達を逃がそうと試みた。
しかし、毎日毎日研究室に閉じこもり研究にいそしんでいる久保田には、毎日毎日復讐する事しか考えず、とにかく身体を鍛えている鮫島を押さえつけておく事など、到底無理な話だった。
「はぁぁあぁなぁあぁぁせぇぇぇえええっ!」
「―――わぁっ!」
 鮫島に力任せに降り飛ばされ、久保田はそこら辺にあったドラム缶に激突した。
「博士!」
「おっさん!」
 心配して久保田に駆け寄ろうとする子供達。
「くくくく…」
 その前に立ち塞がる鮫島。
 子供達の顔に緊迫した表情が走る。
 しかし、健太は不敵な笑みを浮かべると、鮫島に指を突きつけた。大声で言い放つ。
「へ!面白れぇ!お前の相手をしてやるぜ!」
「……こうなっては仕方ない」
「よくも博士に酷い事したわね!」
「そうよそうよ!覚悟しなさいよ!」
「皆行くぞ!」
 瞬の台詞を合図に、久保田兄弟達は両手を前に突き出した。左手首につけているデジタイザーを作動させる。
「インストール!メガレンジャー!」
 その声と共に、久保田兄弟達の身体は光に包まれた。光が収まると、そこに兄弟達の姿はなかった。
 その代わり―――、
「電磁戦隊メガレンジャー!」
「ふふふ…、そうこなくては面白くない…」
 洗練されたカラフルな五色のスーツを身につけポーズをとった五人一人一人に、鮫島は鋭い視線を放った。
「久保田のくだらない科学が生んだ不完全品を、この私が粉々に打ち砕いてくれる!行くぞ!」
「望む所だ!」
 両者は激しくぶつかった!

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

(しめた!)
 本郷は、隣に立っている一文字に肘で合図を送った。
(よし!)
 突如現れた鮫島と久保田一家のやり取りに、【衝撃団】の面々も、捕らえられている兄弟達や一条の気もそれていた。
 狡猾なゾル大佐でさえ、彼等の戦闘に目を奪われている。
(この隙に皆を助けよう!)
 本郷は一文字に瞳でそう告げた。一文字も同じ思いらしい。一文字は茂を静かに片手に持ちなおした。
 鮫島とメガレンジャーの戦いは、次第にヒートUPしていく。衝撃音・爆発音が他の物音を消し去った。
 二人は同時に動いた。
 目にも止まらぬ速さで、二人の拳や足が戦闘員に吸い込まれていく。
「わぁ!」
「ぎゃっ…」
「なっ?!」
 既に遅し。
 ゾル大佐が二人の行動に気付いた時には、子供達を捕まえていた戦闘員の半数は地に伏していた。
驚きうろたえる戦闘員。
 一条も、自分を捕まえていた戦闘員に蹴りを入れた。本郷達の猛攻撃に気を取られていた戦闘員は、あっさりと急所にソレを食らい、倒れた。
「くぅっ…!」
「形勢逆転だな」
 と、本郷。
 ゾル大佐に対峙する彼の後ろには、一文字により縄を解かれ、自由の身になった子供達と一条が立っている。
 一条が本郷の隣に並んだ。
 ゾル大佐を真正面から睨みつける。
「秘密組織【衝撃団】。幼児誘拐容疑で逮捕する」
「ほざけ!貴様等に私が捕まえられるものか!」
「―――それはどうかしら?」
 その場に女性の凛とした声が突き刺さる。
 ゾル大佐は、一条の肩越しに声の女性を凝視した。
 ゾル大佐の視線を追い、一条と、本郷家・光明寺家の面々も振り向く。
 一人の女性がゆっくりとこちらに近付いてくる。
 一条は思わずその人の名を口にした。
「…小沢署長」
「観念しなさい。貴方達は既に包囲されてるわ。逃げられないわよ」
 小柄な体からは信じられない威圧感を発し、小沢澄子特英署署長はゾル大佐に告げた。その台詞を合図に、ゾル大佐と戦闘員を取り囲む形で、五十数名もの警官隊が現れた。
 その中には氷川誠もいる。
「…………」
「どう?これでもまだ逃げ切れると言うのかしら?」
「観念しろ。そして罪を償え」
 と、こちらも只ならぬ威厳を発し本郷。
 じりじりと警官隊が―――小沢・氷川・一条。そして、本郷と一文字もゾル大佐達に近付く。
 ふと、ゾル大佐は笑った。
「?」
「…ふ。罪を償えだと?」
 ゾル大佐の片目から殺気を含んだ光が放たれた。
 思わず立ちすくむ一同。
「笑わせるな!」
 ゾル大佐は勢い良く、持っていた鞭を振り上げた。
「?!」
 そのままの勢いで、鞭は、コンクリートで舗装された地面に向かって振り下ろされた。
 ボ…ン!
「なっ?!」
 爆発音を辺りに響かせ、戦闘員とゾル大佐は灰色の煙に包まれた。

 

 


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