ガールズ・ファイター外伝

ジャンヌ2奮闘中!(第2話)

 

原案:ファイターGT(新谷)

:逃げ馬

 





 空軍・北九州基地
 
 村田中佐が退職して数日が経った。
 北九州基地の整備班では、村田の片腕だった服部少佐が整備班長に就任していた。
 石部は格納庫で、新しく受け取ったF−2を見つめていた。自然に顔が笑顔になっていく。確認するように機体を掌で撫でていると、
 「よう! 嬉しそうだな!!」
 「アッ・・・米村さん・・・」
 「しまらない顔をしていたぞ・・・よっぽど新しいF−2が来たのが嬉しいようだな!」
 米村はニコニコしながら石部の横に立って、格納庫の照明をキラキラと反射させている真新しいF−2の機体を見上げた。石部は米村の横で彼をじっと見つめている。
 「こいつはF−1とは・・・ものが違うからな。戦闘機パイロットなら一度乗ってしまえば、やはりF−1よりはF−2だよな」
 米村が石部を見つめながら微笑む。そんな米村を見つめている石部は、ちょっとドキドキしていた。
 「米村さん!」
 格納庫の前からファルコン飛行隊の“ファルコン2”に乗る浅原が声をかけた。
 「どうした?」
 「朝倉司令官がお呼びです。高村や僕にも一緒に来いと・・・」
 「わかった、すぐに行くよ!」
 米村は石部に向き直ると、
 「それじゃあ、また後で!」
 米村は浅原と一緒に歩いて行く。石部は眩しそうに歩き去る米村の後姿を見つめていた。

 「失礼します!」
 米村と浅原が朝倉司令官の部屋にやって来た。ドアを開けた瞬間、米村は息を飲んだ。中には司令官の朝倉をはじめ幕僚全員とユニコーン隊のリーダーの梶谷、ジャンヌダルク隊のリーダーの正美が揃っていた。
 『どういうことなんだ・・・』
 米村たちも部屋に入った。
 「これで揃ったな・・・」
 朝倉が立ち上がった。
 「話と言うのは他でもない・・・」
 朝倉が米村を見据えた。
 「もうすぐ発令されるが、米村君! 今度の人事異動で君を大佐に昇進させた上で、この基地の作戦参謀になってもらうことになった」
 居合わせた全員が米村に注目した。複雑な表情を浮かべる米村。浅原や高村・・・ファルコン隊のパイロットたちが不安そうな表情を浮かべている。
 「それは・・・」
 米村が厳しい表情で朝倉や幕僚たちを見つめている。
 「自分に・・・ファルコン隊のリーダーから外れろと言う意味でしょうか?」
 米村が抑えた声で尋ねた・・・感情を必死に抑えているようだ。朝倉が頷く。
 「君も、もう幕僚配置に付いてもいい時期だと思うよ・・・過去の戦いで得た経験を、今度は司令部で活用して欲しい」
 朝倉が鋭い視線で米村を見つめている。緊張感が部屋に漂っている。やがて、米村が静かに尋ねた。
 「それは・・・このウイングマークを手放せと言う意味ではないのですね?」
 米村が制服の襟に付いたパイロットだけがつけているエンブレムを指差した。
 「もちろん君はこれからもパイロットだ・・・私だって手放してないからね・・・おかげで資格を満たすのが大変だが!」
 朝倉が笑った。
 「これを手放す時期は・・・パイロット自身が決める問題だ・・・私はそう思っているよ」
 正美は心配そうに米村の横顔を見つめている。ファルコンのリーダーから外れる・・・それは、今の米村にとっては事実上ファイターパイロットを辞める事を意味していた。戦闘機隊から外れれば、パイロットのライセンスを持っていても、戦闘機で空を飛ぶのはその資格を維持するために必要な操縦時間を満たすためだけに飛ぶことになるだろう。今の正美には、その寂しさ、空しさは想像もつかなかった・・・たとえ、いずれ自分にもその時が訪れるとしても・・・。
 米村が小さくため息をついた。
 「わかりました・・・」
 「そうか・・・ありがとう!」
 朝倉がニッコリ笑って頭を下げた。驚く米村。
 「司令官! そんな・・・」
 「いや・・・私は嬉しいんだ。君の実戦経験と判断力は、空軍全体を考えてみても是非必要だと思っていた。もちろん操縦や射撃の技術も素晴らしいが、今、空軍全体で君にどちらを求めるか考えてみるとね・・・」
 朝倉が苦しそうに笑った。
 『俺の・・・ファイター・パイロットとしての経歴も・・・これで終わり・・・か・・・』
 米村も苦しそうに笑う。
 朝倉の心中を察したのか、参謀長が大きなお腹を揺すりながら前に進み出た。
 「君の後任のファルコン飛行隊の飛行隊長には、浅原大尉に就任してもらうことになっている」
 「エッ? 僕・・・ですか?」
 驚く浅原、高村も浅原の顔と参謀長を交互に見つめている。参謀長は頷くと、
 「君も、高村君も今まで米村君にしっかり鍛えられてきたはずだ・・・これからはそれにさらに訓練を重ねて強力な部隊に育てていってくれたまえ!」
 
 夕日の差し込む格納庫に米村がやって来た。
 彼は格納庫に置かれたF−2・・・ファルコン飛行隊・リーダー機を見つめていた。
 「こいつとも・・・お別れか・・・」
 米村は小さくため息をつくと、F−2の機首を手のひらで優しく撫でた。
 「米村さん?」
 後ろから聞こえた声に振り返ると、作業服姿の圭子がこちらに歩いてきた。
 「よお!」
 米村は無理に笑顔を作ると、圭子に向かって手を上げて笑った。
 「聞きましたよ・・・大佐に昇進されるそうですね!」
 圭子は飛び切りの笑顔で米村を見つめている。
 「おめでとうございます!」
 「ああ・・・ありがとう!」
 米村が複雑な笑みを浮かべる。
 「・・・どうかされたのですか?」
 圭子が心配そうに米村の顔を覗き込んだ。
 「・・・いや・・・・」
 米村は圭子を振り返らずにそのまま機体につけられたステップを登るとF−2のコクピットに座った。操縦桿やスイッチを無骨な手で触る米村。そこは第一次・第二次紛争を通じて米村が戦ってきた戦場でもあった。苦楽を共にしてきた愛機のF−2・・・そのコクピットに座って米村は小さくため息をついた。
 『・・・戦いで死んでいったパイロットも多い・・・俺も38歳・・・ファイター・パイロットとしては良く飛んだ方か・・・』
 操縦桿を握って前を見つめる米村・・・鋭い視線で前を見つめながら、ファイター・パイロットとして空を飛んだ日々が次々と彼の脳裏に甦ってきていた。
 「・・・米村さん・・・」
 圭子はコクピットに座ったままの米村を見上げながら呟いた。
 ようやく圭子にも米村の気持ちがわかってきていた。大佐に昇進し、作戦参謀になるということは米村にとっては・・・?
 『・・・米村さん・・・まだ飛んでいたいんだ・・・』
 寂しそうにコクピットに座る米村を見つめる圭子の瞳も涙に潤み始めていた。
 『・・・寂しいだろうなあ・・・』
 圭子は機体の下からじっとコクピットに座る米村を見つめていた。やがて、米村はコクピットから降りてきた。小さくため息をつくと、
 「やっと・・・決心がついたよ!」
 圭子の瞳を見つめると、ニッコリ微笑んだ。米村を見つめていた圭子も頷いた。米村は再び愛機を見つめた。小さくため息をつくと、
 「今日は、この後予定でもあるのかい?」
 圭子は小さく首を振った。
 「良かったら、一緒に食事でもどうかな?」
 米村が圭子を見つめながら微笑む。
 「エッ? 本当ですか?」
 「ああ・・・君さえよければ・・・」
 「もちろん、御一緒します!」
 圭子がニッコリと笑った。米村も頷いた。
 「よし・・・じゃあ、帰ろうか・・・」
 「ハイッ!」
 二人が格納庫を出て歩いて行く。そのとき、彼らの後ろから石部が走ってきた。
 「・・・!」
 米村に声をかけようとして思わず言葉を飲み込む石部。米村の横で楽しそうに話をしているのは・・・?
 「・・・圭子さん・・・」
 石部は歩き去る二人の後姿を見送った。堅く唇を噛んだまま、歩き去る二人の後姿を見つめていた・・・。



 翌日・空軍・北九州基地

 石部と奥田のF−2が訓練を終えて基地に戻ってきた。滑走路に着陸すると誘導路をエプロン(駐機場)に移動してきた。正美は微笑みながら格納庫の前で2機のF-2を見つめていた。
 「正美さん!!」
 石部がキャノピー(風防)を開けたコクピットから、ジェットエンジンの轟音に負けないように大きな声で正美を呼ぶと笑顔で手を振っている。正美もニコニコ笑いながら手を振った。
 「どう? 新しいF-2は?!」
 正美がエンジンの轟音に負けないように大きな声で叫んだ。
 「最高です!!」
 石部がコクピットから大きな声で答えた。コクピットで石部が何かを操作している。やがて、エンジンが止まってあたりは静かになった。整備員が手早く車輪を固定する。石部は確認を済ませるとステップを降りてきた。ヘルメットを取ると、
 「もう、最高ですね!!」
 自然に笑顔が出ていた。
 「先に機体をいただいて・・・ありがとうございます!!」
 石部は正美に頭を下げた。
 「いいのよ・・・」
 正美が笑う。
 「F-1とF-2では・・・性能がまるで違いますからね・・・離陸のときの加速感なんてぜんぜん違いますよ!」
 ジャンヌ5に乗る奥田もこちらに歩いてくると話に加わった。
 「正美さんの機体は・・・いつこちらに届くのですか?」
 奥田が心配そうに正美を見つめている。
 「早ければ来週くらいに届くそうだけどね」
 正美が肩を竦めながら微笑む。石部は、複雑な表情で正美を見つめていた。
 『正美さん・・・来週まで旧式のF-1に乗るわけか・・・』
 「正美さん・・・」
 「うん・・・どうかしたの?」
 「わたしのF-2・・・お使いになりませんか?」
 石部がおずおずと声をかけた。
 「何を言っているの・・・」
 正美が微笑む。優しい眼差しで石部の顔を見つめている。
 「ですが・・・」
 石部が心配そうに正美を見つめている。
 「あなたたちは、そんなことは心配しないでしっかり訓練をしてあの機体に慣れてもらうのが今の任務なのよ」
 微笑みながら二人に微笑みながら優しく声をかけた。
 「正美少佐!」
 突然、後ろから整備員に声をかけられた。3人がそちらに視線を移す。
 「朝倉司令官がお呼びです。司令官室に来てくれと・・・」
 「わかりました!」
 正美は小さくため息をつくと、二人に微笑んだ。
 「ちょっと行ってくるわね!」
 二人に軽く手を振ると正美は司令部のある建物へ走っていく。走ってくる正美を見た整備員たちが正美に敬礼していた。
 「あのうわさ・・・本当なのかなあ・・・」
 奥田が正美の後姿を見ながら呟いた。
 「何かあるの?」
 石部が奥田の横顔を見つめた。奥田は少し考えた後、言い難そうに、
 「変な噂があるんです・・・正美さんが・・・海軍に行くんじゃないかって・・・」
 「エッ?」
 驚いて奥田の顔と正美が入っていった司令部の建物を交互に見る石部。
 「でも・・・戦闘機のない海軍に正美さんが行っても・・・」
 石部が首をかしげると、
 「そうですよねえ・・・だから変な噂なんです・・・」
 奥田がおっとりとした口調で言った。
 「ご苦労様!!」
 二人に誰かが声をかけた。二人が振り返ると作業服を着た圭子が走ってきた。
 「アッ・・・圭子さん!」
 奥田がにっこり笑って軽く手を上げた。
 「どう? 新しい機体は?」
 圭子が二人に微笑みかける。
 「もう! 最高ですよ!!」
 奥田がおっとりとした口調で圭子に言った。満足そうに頷く圭子。しかし・・・。
 「・・・?」
 石部は右手にヘルメットを持って待機所に向かって歩いて行く。
 「石部さん?」
 呟く圭子。
 「大丈夫・・・何もトラブルはなかったわ・・・」
 そう言うと、石部は振り返りもせずに歩いて行く。圭子は首を傾げると石部の後を追った・・・。

 石部は待機所に隣接したブリーフィングルームで整備班長の服部に機体の状態を説明していた。説明を終えると服部が差し出したボードに留めてある書類にサインをした。
 「ご苦労様!」
 服部が微笑みながら声をかけた。目尻の細かい皺が深くなる。
 「では、お願いします!」
 服部に向かって石部は飛び切りの笑顔を見せた。軽く手を上げるとロッカーに向かった。
 「さあ、シャワーを浴びて今日は上がろうかな?」
 石部がロッカールームのドアに手をかけたその時、
 「石部さん?」
 圭子が声をかけた。
 「アッ・・・お疲れ様」
 石部はさりげなく挨拶をした。
 「・・・どうか・・・したの?」
 圭子が尋ねた。
 「なにが?」
 石部が首をかしげた。
 「だって・・・」
 圭子が言うと、
 「昨日・・・楽しかった?」
 圭子の言葉にかぶせるように、石部は微笑みながら尋ねた。
 「エッ?」
 驚く圭子。
 「・・・米村さんと・・・出かけたんでしょう?」
 「うん・・・でも、食事をして帰っただけ・・・」
 圭子が俯いた。
 「そうなんだ・・・でも、米村さん・・・圭子さんのことが気になっているんじゃないかなあ・・・」
 石部が微笑んだ。
 「エッ?」
 「だって、大佐に昇進してファルコン隊のリーダーから外れる・・・そんなある意味で寂しいときに圭子さんにそばにいて欲しかったわけでしょう?」
 圭子は戸惑った。彼女はそこまで深く米村のことを考えてはいなかったのだ。
 「そんな・・・たまたまよ・・・」
 頬を赤く染めて俯いてしまう圭子。
 「そうかな・・・?」
 複雑な表情で苦笑いする石部。
 「それじゃあ、わたしは・・・帰るから・・・」
 石部は軽く手を上げるとロッカールームのドアを開けた。圭子は黙ったまま石部を見送った。
 石部が後ろ手にロッカールームのドアを閉めた。
 「フ〜ッ・・・なに言ってんだろう・・・わたし・・・」
 石部はドアにもたれたまま、大きなため息をついていた・・・。



 数日後・空軍・北九州基地

 基地はいつものように活気にあふれていた。たくさんの戦闘機、輸送機がエンジン音を響かせながら離発着を繰り返している。
 正美は、格納庫で自分の乗るF−1支援戦闘機の整備状況を確認していた。
 「さすがに機体が古いですからねえ・・・」
 若い整備員がチェックリストを見ながらため息をついた。
 「こんなことを言うと失礼ですが、この機体・・・真田少佐だから飛ばすことが出来るんですよ・・・普通のパイロットなら、たちまち壊してしまうんじゃないですか?」
 正美の見た目・・・まだ20歳前後に見えるからだろうか?・・・若い整備員は、日ごろから正美を旧姓で呼んでいた。ある整備員などは、
 「言っちゃあ悪いけど、正美さんは梶谷リーダーにはもったいないよな・・・だって腕が違いすぎるもん」
 などと言っている始末だった。
 
 「でも・・・新しい機体が来るまでは安全に飛ばさないとね・・・大変だろうけどお願いね!」
 正美が可愛らしい笑顔を向ける。
 「わかりました!!」
 整備員も笑顔を浮かべると機体のチェックをはじめた。
 「正美君!」
 格納庫の扉の前に、朝倉司令官が立っていた。
 「アッ・・・司令官!!」
 正美がサッと敬礼をした。整備員たちもそれに習って敬礼をした。
 「ご苦労だな・・・諸君!」
 朝倉は整備員たちを労うと、
 「正美君、これを・・・」
 朝倉は1通の電文を正美に手渡した。
 「空軍、北九州基地所属、司令官朝倉雄一、ジャンヌダルク飛行隊長梶谷正美、明日、国防省空軍部に出頭を命じる・・・」
 正美は声に出して電文を読むと、
 「司令官、これは・・・」
 朝倉は精悍な顔を曇らせて小さく頷くと、
 「とにかく、午後から東京に行こう・・・準備をしてくれたまえ」
 そう言うと格納庫を出て行った。



 「あれ? あの機体は・・・?」
 エプロン(駐機場)でF−15イーグルに乗り込もうとしていた梶谷は、見慣れない形の機体が飛んでくるのを見て思わず見入っていた。
 「あれ・・・?」
 格納庫から出てロッカーに向かう正美もその機体に気がついた。思わず足を止めた。
 3機の飛行機が着陸態勢に入っていた。そのうちの1機は、この基地でも使われているC−130輸送機だ。しかし、2機の戦闘機は見慣れた機体ではなかった・・・外観は、この基地でも使われているF−2B・・・F−2戦闘機の2人乗りタイプにそっくりだ。しかし、一つだけその機体を大きく特徴付けているものがあった。F−2の機体の下にあるジェットエンジンへの空気取入れ口の下・・・そこに下向きに大きな補助翼が取り付けられていた。
 次々と3機の飛行機が滑走路に着陸した。誘導路を駐機場へ向かって移動してくる。
 「あれは・・・F−2なんですか?」
 いつの間に来たのか、ファルコン隊のパイロット、高村が正美の横で呟いた。正美は首を傾げると駐機場に停止した2機の戦闘機に向かって走って行った。
 3機の飛行機が駐機場に停止した。整備員が車輪止めで車輪を固定していた。2機の戦闘機の周りには既にユニコーン隊やファルコン隊、ジャンヌダルク隊のパイロットたちが集まって興味深そうに見つめていた。輸送機のドアが開くと一人の将官が整備員や技術者を従えて降りて来た。
 「あれ・・・あの人は・・・」
 正美がその将官を見つめながら呟いた。
 「お〜い・・・朝倉。いるか?!」
 将官が大きな声で朝倉を呼んだ。
 「よう・・・来たのか?」
 朝倉がニコニコしながら将官に近づいていくとガッチリ握手をした。
 「朝倉さん・・・あの人と知り合いなのか?」
 梶谷が正美の耳元で囁いた。正美は首を傾げた。
 「でも、あの戦闘機・・・変な形ですけど、ここに何をしに来たんでしょうね?」
 石部が正美に尋ねた。苦笑いしながら、
 「さあ・・・どうなんだろうね?」
 首を傾げる正美。その視線の先では、朝倉が輸送機に乗ってやって来た将官と談笑していた。
 「これがおまえの開発した新型機か?」
 「ああ・・・今までのF−2に比べるとはるかに性能がアップしているぞ!」
 将官が眩しそうに2機の戦闘機を見つめている。
 「司令官、その方は・・・?」
 奥田が尋ねた。
 「ああ・・・すまんすまん・・・」
 朝倉が苦笑いしながら頭を掻いた。隣に立つ将官の方を見ながら、
 「こいつは小松崎徹と言ってな・・・私の国防大学時代の同期生なんだ・・・今は、岐阜にある航空技術本部の実験航空団の指揮をとっているよ」
 朝倉がニコニコ笑いながらみんなに紹介した。
 「小松崎少将のお名前は存じあげています」
 正美が敬礼しながら、
 「F−2の開発を中心になって進められた方だと・・・」
 「ハハハッ・・・」
 小松崎が横に立つ朝倉を見て笑った。
 「僕はこいつと違って戦闘機の操縦が上手くなかったからね・・・航空工学に興味があったのでそちらの方にね・・・」
 正美に視線を移すと階級章を見て、
 「君があのジャンヌダルク隊の指揮官・・・真田正美少佐か?」
 「ハイ!」
 「そうか・・・ちょうどよかった・・・」
 小松崎が微笑んだ。
 「今日ここへ来たのは・・・」
 小松崎が視線を移す。その先には、白と赤2色でカラーリングされた2機の戦闘機があった。
 「あの新型機を君たちにテストしてもらおうと思って以前から朝倉に頼んでいたんだ・・・その許可をもらえたのでね」
 「あれは?」
 ファルコン隊の浅原が小松崎に尋ねた。
 「F−2CCV・・・F−2の機体を元に新しくCCV技術を取り入れて性能をアップしたんだ・・・」
 「へえ〜・・・」
 石部が眩しそうにF−2CCVを見つめている。
 「エンジンも高性能なものに換装したから、速度性能もイーグルにだって引けは取らない・・・」
 「CCVと言うのは?」
 石部が小松崎に尋ねると、
 「うん・・・簡単に言うと、例えば水平飛行をしながら機首を下に向けたり、バンクをとらずに旋回して相手に機首を向ける・・・さしずめ相手から見ると、まるでカニが横歩きをしているように見えるだろうな」
 小松崎が小さく笑った。
 「そういった運動が可能になったことで対地・対艦攻撃の精度が従来のF−2より遥かに上がるし、また、相手に機首を向けながら旋回できるので空戦時の相手への攻撃機会も増える・・・まあ、難点はCCVを搭載したことで重量が増えて速度性能が下がることだが、それはエンジンを換装することで補ったよ」
 小松崎が吸気ダクトの下についた補助翼を指差した。
 「このダクトの下に付けた補助翼やすべての翼をコンピューターで制御することで、そういう無理な姿勢で飛行が出来るわけだ」
 「さすがだな!」
 朝倉が笑った。
 「司令官!」
 米村が後ろから朝倉に声をかけた。
 「ああ・・・わかった!」
 朝倉は小松崎に向き直ると、
 「久しぶりだからもっと話をしたいのだがな・・・私は正美君と一緒にこれから東京に行かなければいけないんだ・・・」
 小松崎の表情がちょっと真剣なる。
 「あの件か・・・?」
 朝倉の目を見ながら尋ねた。
 「ああ・・・」
 「そうか・・・」
 小松崎が苦笑いする。
 「おまえも大変だな・・・」
 「お互いにな!」
 朝倉と小松崎が笑う。
 「朝倉・・・それならこいつに乗って行けよ!」
 「エッ?」
 驚く朝倉に、
 「”石川の騎馬武者”に乗ってもらえると僕としても嬉しいよ・・・おまえの意見も聞きたいしな!」
 小松崎が朝倉の肩をポンと叩いた。朝倉の顔に笑みが浮かぶ。
 「ありがとう!」
 朝倉はそう言うと司令部のある建物に駆け足で走っていく。正美も小松崎に一礼すると朝倉の後を追った。石部は正美と朝倉の後姿をじっと見つめていた。
 やがてパイロットスーツを着た朝倉と正美がこちらへ戻ってきた。
 「じゃあ、早速借りるよ!」
 「ああ・・・気をつけてな!」
 小松崎はコクピットに乗り込もうとしている朝倉の肩を笑いながらポンと叩いた。朝倉もにっこり笑うとステップに足をかけた。
 「エッ? 司令官が操縦されるのですか?!」
 石部が心配そうに朝倉を見つめている。
 「正美さんが操縦したほうが・・・」
 奥田がおっとりした口調で言った。
 「大丈夫よ!」
 正美はニコニコ微笑みながらステップを登って後部座席に座った。ヘルメットを被ってシートベルトを締める。
 「正美君・・・準備は、いいかい?」
 インカムから朝倉の声が聞こえた。
 「はい! いつでもどうぞ!」
 「了解!」
 朝倉はF−2のエンジンを始動させた。ジェットエンジンの轟音が正美を包む。風防を閉めると朝倉は整備員に合図を出した。整備員が車輪止めを手早く外していく。小松崎が朝倉に、にっこり笑って右手の親指を立てた。朝倉も笑顔で敬礼を返す。
 「大丈夫かなあ・・・」
 石部が不安げにF−2CCVを見つめている。その石部の前をF−2CCVが移動していく。後部座席から正美が手を振っている。石部も軽く手を振った。
 『いざとなれば正美さんが操縦するだろうし・・・大丈夫よね・・・』
 不安を打ち消そうとそう思っていた。
 「司令官が操縦するのが心配なのか?」
 米村が石部の顔を見つめながら笑っている。
 「エッ? まあ、司令官は最近はあまり操縦されていませんし・・・」
 「なるほどな・・・」
 米村は滑走路を離陸していく朝倉が操縦するF−2CCVを見つめていた。軽快なジェットエンジンの音を響かせながら離陸していく。
 「・・・おまえはあまり朝倉さんのこと・・・知らないからな・・・」
 米村は悪戯っぽい笑顔を石部に向けた。それを見て胸がキュンとなる石部。戦闘機に乗っているとき、いつも厳しい顔で鋭い視線を向けていた米村のそんな笑顔を彼女は見たことがなかった。
 「わたしがここに来たときには、朝倉さんは、もう大佐の作戦参謀でしたから・・・」
 石部は小さくなって青空に溶け込んでいったF−2CCVをいつまでも見つめている。
 「おい・・・ちょっとこっちに来いよ! 面白いものを見せてやるよ!」
 米村がまるで悪戯っ子のような笑みを浮かべながら、石部を手招きしている。石部は走っていく米村の後を追って、司令部の入っている建物へ走った。
 


 日本海上空・F−15、F−2・北田・新谷・岡村・内田機

 F−15とF−2が2機ずつ編隊を組みながら晴れ渡った日本海の空を飛んでいる。
 「まったく・・・なんで俺たちが2位なんだよ!」
 北田がF−15イーグルのコクピットでブツブツとぼやいている。
 「仕方がないじゃないですか・・・あそこで北田さんが落とされちゃうから・・・」
 新谷が並んで飛ぶ北田の機体を見ながら口を尖らせながら言った。
 「おまえ・・・先輩に向かって!」
 「だって本当のことじゃないですか・・・」
 北田と新谷の間で言い争いが始まった。
 「やめてよ!」
 岡村が叫んだ。
 「そうそう・・・みっともないですよ! 北田さん。油断したのは北田さんなのですから・・・」
 内田が笑いをこらえながら言った。
 「・・・・」
 北田は黙り込んでしまった。
 
 この4人は、石川基地で行われた戦技競技会に参加していた。各基地の飛行隊の代表で争われたこの競技会で、北田たちユニコーン隊は2位の成績だった・・・そして1位は・・・。

 「『俺たちに勝てば、帰ってからパフェを奢ってやる』はずでしたよね・・・北田さん♪」
 岡村の声が弾む。そう・・・岡村と内田は正美の期待に応えて1位の成績を収めていた。
 「ウグッ・・・」
 北田が答えに詰まる。
 「まったく・・・北田さん・・・強気になってあんなことを言うから・・・」
 新谷が大きなため息をつく。
 「ウフッ・・・パフェ・パフェ♪」
 二人のインカムに聞こえる内田の声が弾む。
 「ハア〜ッ・・・」
 北田が大きなため息をついたその時。
 「北田・・・聞こえるか?」
 4人のインカムに米村の声が響いていた。



 日本海上空・F−2CCVコクピット

 日本海の上空を青空をバックに赤と白・・・2色で塗り分けられたスマートな戦闘機が飛んでいる。
 「さすがは小松崎の開発した戦闘機だな・・・」
 朝倉が操縦桿を倒す。F−2はそれに反応して機敏に旋回する。しばらく左右に連続して旋回させたり急上昇、急降下を繰り返した後、朝倉は機体を水平に戻した。
 「なかなかいい機体みたいですね・・・」
 正美が後部座席から言うと、
 「ああ・・・しかし、戦闘機は実際に空戦をしてみないと真価はわからないよ」
 朝倉は操縦席で笑った。そして・・・、
 「オッ?」
 前方を見ながら声をあげた。4機編隊で反対方向に向かって飛ぶ戦闘機。
 「北田君たちみたいですね・・・」
 正美が後部座席から声をかけた。



 F−15・北田機コクピット

 「いいのですか? こちらは現役のファイターパイロット、しかも戦技競技会の1位から4位で機数も4対1なのですよ?!」
 北田は北九州基地にいる米村と交信していた。新谷や岡村、内田はインカムでそれを聞いている。
 「ああ・・・日頃のおまえたちの訓練の成果を見せてやればいいんだよ!」
 「しかし・・・」
 「相手は新型機に乗っているんだぞ・・・まあ、普通のF−2に乗っていたとしても、おまえたちで相手になるかどうか・・・」
 「まさか・・・」
 北田が笑う。
 「そう思うのなら、ちょっと悪戯をしてみろよ・・・」
 北田の顔に笑みが浮かんだ。前方・・・少し上方に赤と白・・・ツートンカラーの飛行機が見えた。
 「了解! どうなっても知りませんよ!!」


 空軍・北九州基地

 『どうなっても知らないのはおまえたちの方だがな・・・』
 作戦室でインカムを付けて通信をしていた米村はそう思った。
 「米村さん・・・本当にこんなことをしても・・・」
 石部が不安そうに米村を見つめている。
 「まあ、見てろって!」
 米村が笑う。不思議なことに、作戦室のレーダーや通信を担当しているオペレーターたちもニヤニヤ笑いながら情報パネルや米村の顔を見つめている。
 「F−2CCV・・・間もなくコンバットエリアに入ります!」
 管制官の声が少し笑いを含んでいる。米村の顔にも笑みが浮かんだ。
 『さあ・・・お手並み拝見と行きますよ・・・朝倉さん!!』

 

 F−2CCVコクピット

 朝倉はコクピットから北田たち4機の動きを見つめていた。前を飛ぶF−15が速度を上げた。後ろを飛ぶF−2はしだいにお互いの間隔を空けていく。朝倉の顔に笑みが浮かんだ。
 「そういうことか・・・」
 呟くと同時に酸素マスクをつける。
 「正美君、酸素マスクをつけろ! 飛行データ記録システムON!!」
 「了解!」
 正美は後部座席で酸素マスクをつけながらコンピューターを操作していく。
 「どういうことなのかなあ・・・」
 正美も後部座席から4機の動きを見た・・・もちろん、おおよそのことは察しがついていたが・・・。
 「どうやら、遊んでくれるようだな・・・」
 朝倉の操縦桿を握る手に力が入った。
 「驚くなよ・・・正美君・・・」
 朝倉が笑う。
 「”石川の騎馬武者”の腕・・・しっかり見せてもらいますよ!」
 正美も後部座席で笑った。



 日本海上空

 北田はF−15のコクピットからF−2CCVの動きを見つめていた。向こうも、こちらに気づいているはずだが、まっすぐ東へ向かっている。
 「俺は後方、新谷は右、内田は左、岡村は正面から攻撃する!」
 北田はインカムで指示を出した。一呼吸おいて、
 「俺たちの腕を司令官に見せてやろうぜ!!」
 力強く叫ぶ。
 「「「了解!」」」
 3人がすぐに反応した。
 「攻撃用意!!」
 4人は酸素マスクをつけていく。
 「さあ・・・行くぞ!」
 新谷は呟くと同時に手袋を付け直して操縦桿をしっかり握った。鋭い視線でF−2CCVの動きを見つめている。
 「フォーメーション・オープン!!」
 気合のこもった声で、北田が指示を出す。
 「全機、突撃!!」
 4機の戦闘機は編隊を解くと、四方から猛スピードで朝倉の操るF−2CCVに迫っていった。

 「編隊・・・散開しました! 4方向から接近します!!」
 正美がレーダーと肉眼で北田たちの位置を確認する。朝倉の顔に笑みが浮かぶ。
 「了解!」
 朝倉はF−2CCVを水平飛行させたまま正面から迫る岡村のF−2を見つめていた。
 「しっかりつかまっていろよ・・・正美君!」
 充分に岡村たちをひきつけたところで、朝倉はスロットルレバーを開いた。

 岡村は正面から朝倉の操るF−2CCVに迫っていた。
 「司令官は現役を離れてずいぶん経っているしね・・・」
 呟きながら、朝倉をスコープに捉えようとした。ガンカメラに捕らえたと思った瞬間、
 「・・・?!」
 岡村の視界から、F−2CCVがかき消すように消えた。

 朝倉が、F−2CCVのスロットルを開くと同時に、F−2CCVはまるで後ろから蹴っ飛ばされたように急激に速度を上げた。朝倉と正美の体は急激な加速で背中がシートに押し付けられる。同時に朝倉は操縦桿を思いっきり引いた。

 「消えた?!」
 F−2のコクピットで岡村が呟いた。
 4機の戦闘機が、さっきまでF−2CCVがいたはずの空間ですれ違った。
 「どこに行ったんだ?!」
 北田が叫ぶ。
 「北田さん?!!」
 インカムに新谷の悲鳴のような声が響いた。
 「上を・・・上を見てください!」
 4人が上を見た。遥か上方をF−2CCVがすばらしいスピードで、ほとんど垂直に上昇していく。
 「なんてスピードなの・・・」
 内田が呟く。
 そしてF−2CCVは彼らの遥か上空で垂直に上昇する姿勢のまま静止した。朝倉は地球の重力とF−2CCVのエンジンの推進力をつりあわせることでF−2CCVを空中で静止させたのだ・・・高等テクニックだった。
 やがて、F−2CCVがまるで後部からバックをするように高度を下げてくる。
 「テールスライド・・・? なぜ司令官があんなテクニックを?!」
 北田が驚きの声を上げた。

 「編隊が乱れています・・・イーグル2機は固まっています・・・」
 正美が北田たちの状況を朝倉に知らせた。
 「了解・・・行くぞ!」
 朝倉はF−2CCVの機首を下に向けると同時にアフターバーナーを全開にした。

 「来るぞ!」
 F−2CCVが加速したのを見た瞬間、新谷が叫んだ。狙われたのは・・・?
 「北田さん!!」
 朝倉のF−2CCVは、まっしぐらに北田のF−15をめがけて急降下してくる。
 「速い!!」
 北田がコクピットから後ろを振り返る。彼のイーグルも既にアフターバーナーを全開にして加速している。しかし、朝倉のF−2CCVは見る見るうちに後ろに迫ってきた。
 「クソッ!!」
 北田は機体を左右に振って逃げようとするが、朝倉はなかなか離れない。
 「ユニコーン2を“キル”!!」
 北田のインカムに朝倉の声が響く。
 「クッ・・・」
 悔しそうに後ろを見る北田。
 朝倉の操るF−2CCVの後ろに新谷のイーグルが迫る。
 「負けられないよ・・・司令官には・・・!」
 鋭い視線でスコープの中を動く鮮やかなカラーリングのF−2CCVを追う。

 「やるな・・・新谷!」
 朝倉がコクピットの中で笑った。
 「後ろにつかれます!」
 正美が朝倉に注意を喚起する。
 「見てろ・・・」
 朝倉が操縦桿を右に倒す。F−2CCVは鋭い旋回で新谷のイーグルを振り切る。
 「エッ?!」
 新谷が驚いている間に、朝倉は新谷のバックをとった。
 「ユニコーン3を”キル”!」
 インカムに響く声に驚く新谷。
 「?!」
 F−2CCVの横から猛スピードでスカイブルーとダークブルーの迷彩塗装をしたF−2が迫る。朝倉は機体を横転降下させてかわした。降下していくコクピットの上をF−2が通過した。上を見上げる正美の目には、F−2の機首にペイントされた猫のイラストが太陽の光を反射してキラキラ光るのが見えた。
 「ハハハッ!」
 朝倉が楽しそうに笑う。
 「彼女たちもなかなかやるな・・・正美君!」
 「ハイ!」
 正美も後部座席で笑う。
 朝倉は、今、直接部下と模擬空中戦を戦うことで彼ら(彼女ら?)の成長を実感していた。

 「かわされたか・・・正美さんでもこの突っ込みは簡単にはかわせないのに・・・!」
 岡村が悔しそうにコックピットの中に付けられたミラーで後方を見つめている。降下してかわした朝倉のF−2CCVは姿勢を立て直して上昇してくる。
 「新型機だからじゃない・・・朝倉さん・・・すごい腕だ・・・」
 岡村が呟く。彼女の中で、朝倉に対する意識は確実に変わっていた。
 今まで彼女の中では、朝倉はジャンヌダルク隊を設立した人間であり、彼女たちのよき理解者だという考えしかなかった。元はファイターパイロットであったということは知っていたが、朝倉自身がそのことを話さないということもあって、『むかし飛んでいたんだ』という程度の認識だった。それが、今、新型機に乗っているとはいえ、わずか1分足らずで2機を“落とし”ている。
 「ジャンヌ7! ウッチー! 2SHOT攻撃・・・行くよ!!」
 岡村が叫ぶ。
 「了解!!」
 内田もコクピットから鋭い視線で朝倉の鮮やかなカラーリングの機体の動きを見つめている。
 岡村が朝倉に向かって行く。2機が猛スピードですれ違うと、朝倉は旋回して岡村を追う。
 「食いついた・・・」
 岡村がコックピットでミラーを見ながら微笑む。彼女は左右に微妙に機体をずらしながら、朝倉にロックオンされないようにF−2を飛ばしている。

 「やるな・・・」
 朝倉がコクピットで笑っている。
 「内田君はどこかな?」
 「レーダーには映りません!」
 正美が後部座席でレーダーを見ながら言った。
 「そういうことか・・・」
 朝倉の目が鋭く光る。

 「来た!」
 岡村がコクピットで微笑む。
 彼女の正面から内田のF−2が猛スピードで迫ってくる。今、朝倉の視界には内田のF−2は見えないはずだ。1機が囮になり、もう1機が仕留める・・・正美と梶谷が、前の戦いで“死神”と恐れられていたミグ29を仕留めた戦法だった。
 正面衝突をしそうなコースを、内田が猛スピードで迫ってくる。ミラーで後ろを確認する。朝倉のF−2CCVが岡村を追っている。
 「今だ!」
 岡村がF−2を急旋回させた。朝倉の正面には内田のF−2が現れたはずだ・・・。
 「もらった・・・?」
 岡村が急旋回するのを見た内田はスコープに朝倉のF−2CCVを捕らえようとした。しかし、彼女の前には誰もいない・・・青い空が広がるだけだった。
 「いない?!」
 内田が呟く。
 「エッ?」
 岡村も周りを見回す。しかし、朝倉のF−2CCVは見当たらない。見渡す限り、青い空が広がるだけだった。
 「そんな・・・しっかり後ろをついて来ていたのに・・・」
 呟く岡村。その時、
 「ジャンヌ3を”キル”!」
 インカムに朝倉の声が響いた。
 「エッ?」
 驚く岡村の操るF−2の横を、鮮やかなカラーリングのF−2CCVが上昇して行った。
 「やられた!」
 唇を噛む岡村。
 朝倉は、岡村が旋回すると同時にF−2CCVの速度を落として失速させて急降下したのだ。
 『すごい・・・』
 岡村は遠ざかって行く朝倉のF−2CCVを見ながら思った。しかし、彼女たちは現役のファイター・パイロット・・・朝倉に負けるわけにはいかなかった。
 「ウッチー! なんとかして!!」
 叫ぶ岡村。

 内田はF−2を全速力で飛ばしていた。
 「こうなったら・・・」
 内田は正面に見えるF−2CCVを見つめながら呟く。1分半で3機が“落とされ”た。
 「ここまでですよ・・・朝倉さん!」
 鋭い視線でスコープを睨む内田。
 
 正面衝突をしそうなコースを内田が猛スピードで飛んでくる。
 「一撃離脱戦法・・・か・・・」
 朝倉が呟く。
 「よし・・・CCVを使ってみよう!」
 朝倉が操縦桿の脇に設置されたスイッチを入れて機体を旋回させた。

 「エッ?!」
 内田が呆気にとられた。
 彼女の目の前で、F−2はまるでカニが横に歩くように機首をこちらに向けたまま横に動いたのだ。
 もちろんF−2CCVが真横に動いたのではなく、機首を内田に向けたまま旋回したのだが・・・。
 「ジャンヌ7を”キル”!」
 朝倉の声がインカムに響いた。コクピットの中で朝倉の機体を見たまま呆然とする内田・・・。

 「さすがは新型だな・・・」
 朝倉は小さくため息をついて呟いた。
 「さすがは、“石川の騎馬武者”ですね! まだまだ現役で飛べますよ!」
 正美が笑った。
 「ハハハッ・・・」
 苦笑いする朝倉。
 
 「たった2分で4機が・・・」
 呆然としている北田の耳に、朝倉の声が聞こえた。
 「久しぶりに楽しめたよ・・・この機体のデータも取れた・・・ありがとう!」
 朝倉がコクピットで手を振った。後部座席では正美も手を振っている。F−2CCVは翼を振ると、速度を上げて東の空に消えていった。


 
 空軍・北九州基地

 4機の戦闘機が次々に着陸してきた。
 誘導路を駐機場に移動してくると、整備員が車輪を固定し、ステップを機体に取り付けていく。
 パイロットたちがステップを降りて来た。基地に帰ってきたという安堵感はない・・・重い足取りで4人が集まった。
 「何なんだよ・・・あれは・・・」
 北田が大きなため息をつきながら言った。
 「新型機だから・・・」
 新谷が言おうとすると、
 「いや・・・あれは朝倉さんの腕ですよ・・・」
 岡村が言った。
 「でも、あの戦闘機も・・・」
 内田が悔しそうに呟く。
 「どうだ・・・わかったか?」
 米村がニコニコしながら歩いてきた。石部も一緒に歩いてくる。4人は呆然と米村を見つめていた。
 「どういうことです?」
 北田がようやく言うと、
 「司令官はな・・・5年前の第1次紛争では、石川基地で“石川の騎馬武者”と呼ばれるほどの撃墜王だったんだ・・・」
 言葉が出ない4人・・・ようやく内田が、
 「そんな・・・現役を離れて4年もたっているのに・・・」
 「そう・・・」
 米村がニヤリと笑った。
 「その4年も現役を離れているパイロットにおまえたちは敵わなかった・・・」
 脇で見ている石部が笑いをこらえている。
 「まだまだおまえたちは、司令官の腕には及ばないと言うことだな・・・」
 米村が大きくため息をついた。ニヤリと笑うと、
 「明日からしごくぞ!」
 米村はにっこり笑うと歩いて行く。
 北田たちは呆気にとられながら4人で顔を見合わせていた。



 ガールズ・ファイター外伝
 ジャンヌ2奮闘中!
 (第2話) 終わり





 こんにちは、逃げ馬です。
 いろいろ忙しくてなかなか出せなかった、ジャンヌ2奮闘中の第2話がようやくできました(^^)
 今回の主役は、朝倉司令官です。GFでは、落ち着いた指揮官のイメージが強かったですね。「元はファイターパイロット」と書いたので、じゃあ、どの程度の腕かというのを今回のテーマにしてみました。
 もうひとつの主役は新型戦闘機F−2CCV! 実は、このサイトでは後でアップする予定の“ファイナル・オペレーション”の正美さん専用機として設定していた戦闘機です(^^;;;
 現実のF−2にも、CCV機能が一部取り入れられているそうですね。でも、フルCCV化は見送られてしまったそうです。ガールズ・ファイターの世界でも、本編の方では、書いていてややこしくなるので登場させませんでした・・・こちらでも“幻の戦闘機”になるところでしたが、外伝を書く機会が出来たので、せっかくなので“スーパー戦闘機!“として登場してもらいました(^^)
 さて、石部さんと米村さん、そして圭子さんとの関係はいかに?! それはまた第3話で!!
 では、最後までお付き合いいただいてありがとうございました! 

 なお、この作品に登場する団体・個人などは、実在する団体、個人などと一切関係のないことをお断りしておきます。

 2002年4月 逃げ馬



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