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沢木俊哉は、15歳の中学校3年生の男子だ。
彼の容姿は平凡。学業成績はクラスの真ん中。そしてスポーツをするわけでもなく、面白いことが言えるわけでもない。
そう、彼はクラスでは周りに埋もれて、目立たない生徒だ。
そして今は、中学3年生・・・・・大切な受験を控えた夏休み。
だが俊哉は、『いつもと同じ夏休み』を過ごしている。



そんな、ある日・・・・・。




2014年の夏休み

作:逃げ馬



8月13日


俊哉は、カーテンの隙間から射し込む光で目を覚ました。
目覚まし時計を見ると、時間はすでに9時を過ぎている。
ベッドから出ると、パジャマのまま階段を降り、台所に向かった。
台所では彼の母親が、朝食の後片付けをしている。
母親は彼を見ると、呆れたように、
「もう・・・・・休みだといって、いつまで寝ているのよ・・・・・」
「うん・・・・・」
彼は、母親の小言には反応しなかった・・・・・パンをトースターに入れて、スイッチを入れ、マグカップにインスタントコーヒーを入れた。
母親は、ため息をつきながら、洗い物を続けていた。

朝食後・・・・・いや、時間は10時を過ぎているから、朝食というには遅すぎるかもしれないが、食事を終えた俊哉は、自宅近くの古本屋に向かった。
この店は、ゲームソフトの中古品も置いているので、学校の男子たちのたまり場になっている。
自転車に乗って走っていると、
「おい・・・・・沢木じゃないか?」
「アッ・・・・?」
俊哉は自転車を急停車させて振り返った。
その様子を見て、笑いながら彼を見ていたのは、中学校の数学教員。天野成美(あまの しげよし)だ。
彼は大学卒業後、俊哉たちの学校に来て2年目の24歳。
授業での指導力も高く、そのうえ高身長でイケメン・・・・・『ジャ○ーズのタレントです』といわれてもおかしくない容姿を持っている。
当然?学校の女子たちの人気も高い
しかし、なぜここにいるのだろう・・・・・俊哉はそう思ったのだが、天野はそれを察したのだろう。
「君たちは休みでも、僕たちはいろいろ仕事があるんだよ」
笑いながら、彼の自転車に近寄ると、
「どうだ、宿題は進んでいるか?」
「はあ・・・・・」
彼は、生返事で答えたが、
「全く進んでいません・・・・・といった感じだな」
天野が苦笑すると、俊哉は頭をかきながら、すいませんといった。
「さっき、大森と会ってな・・・・・彼女も心配していたぞ」
そうですか・・・・・と、俊哉が答えると、天野は、ちゃんと宿題をしろよ・・・・・といって、歩いて行った。
俊哉は一礼してその後ろ姿を見送ると、再び自転車に乗って走り始めた。
『大森さんが・・・・・僕のことを・・・・・?』
天野が言った『大森』というのは、彼のクラスメイトの『大森理恵』の事だ。
俊哉は、自転車を漕いでいる。
クラスメイト・・・・・そう、大森さんは、僕の『クラスメイト』だ。
しかし、彼女はアイドルグループに入れば、間違いなくセンターをとるだろうというほどの美少女。
しかも学業成績優秀、スポーツ万能と、いつも人の輪の中心にいる女の子。
その彼女が、なぜ僕のことを・・・・・?
俊哉の頭の中には、彼女のかわいらしい笑顔が浮かんでいた。

夏の太陽は、既に真上に来ていた。
古本屋でゲームソフトを見たり、本の立ち読みをして過ごした俊哉は、家に向かって自転車を漕いでいた。
家に戻れば昼食だ・・・・・そんなことを考えていたその時、
「?!」
俊哉は急ブレーキをかけ、自転車のハンドルを切った。
危うく転びそうになり、右足を踏ん張り体を支えた。
突然、建物の陰から、道路に女の子が出てきたのだ。
「危ないじゃないか?!」
「ごめんなさい・・・・・」
驚いて立ち尽くしていた女の子は、天野が話していた彼のクラスメイト、大森理恵だった。
「大森さんだったのか・・・・・」
よかったよ・・・・・ぶつからなくて・・・・・俊哉は、大きくため息をついた。
「わたしこそ、ごめんなさいね・・・・・」
夏らしい水色のワンピースを着た、スレンダーな体のロングヘアの髪の少女・・・・・大森理恵は、申し訳なさそうに謝った。
「いいんだ・・・・・僕も、スピードを出していたし・・・・・」
理恵が微笑んだ・・・・・この笑顔を見れば、どんな男の子だって、彼女を好きになるだろうと、俊哉は思った。
「沢木君は、家に帰るところなの?」
「うん・・・・・」
「わたしも帰るところ・・・・・」
一緒に帰ろうよ・・・・・そう言うと、理恵は歩き出した。
俊哉も、慌てて彼女の後を追うと、二人は並んで歩いていく。
「沢木君は・・・・・宿題はどこまで進んだの?」
理恵の質問を聞いて、俊哉は天野の言った言葉を思い出していた。
「・・・・・あまり・・進んでないかな・・・・・」
ためらいがちに言った俊哉の答えを聞いて、理恵は、クスクスと笑いだした。
「さっき、天野先生と会ってね・・・・・沢木と一緒に勉強をしてくれないか・・・・・と言われたの」
明日、沢木君の家に行っていいかな?・・・・・言われた俊哉は、驚いて理恵の横顔を見た。
「・・・・・うん・・・・・」
「本当に?」
理恵の大きな瞳が、俊哉を見ている。
「うん・・・・・」
「よかった!」
明るく笑う理恵の顔を見ていると、俊哉も気分が明るくなった。
「じゃあ、明日の朝、沢木君の家に行くからね!」
それじゃあ、また明日・・・・・そういうと、理恵がワンピースの裾を揺らしながら走っていく。
俊哉は、夢を見ているような気分で、その後ろ姿を見送った。









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