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トランスかくれんぼ
(第2話)
作:逃げ馬
男たちが、信じられないという表情で、足音高く校舎の廊下を走っている。
その後ろから、体操服姿の少女と、制服姿の少女が追いかけてくる。
「岩原! 正気になれ!!」
小川が必死に叫ぶが、体操服姿の少女はその顔に微笑みを浮かべて彼らに向かって走ってくる。
「やばいぞ!」
根岸が歯軋りしながら言った。
校舎の入り口が見えてきた。
小川が息を切らしながら駆け寄ると、ガラスドアを開けようとするのだが、ガチャガチャと音が鳴るだけで、扉は開かない。
「くそ!」
根岸が叫ぶ。
「ひとまず、別れましょう!」
僕はそういうと同時に僕はロビーの階段を駆け上がり、校舎の上に向かった。根岸も僕の後を追いかけてくる。
小川は扉をこじ開けるのをあきらめると、校舎の一階の廊下を懸命に走る。
二人の少女”は、小川の後を追っている。
2階の階段から下を見ていた僕と小川は、その様子を見てホッと溜息をついた。
小川は懸命に廊下を走る。
曲がり角を曲がると、廊下に置いてあったロッカーの陰に大きな体を隠した。
身を隠した小川の視線の先には、二人の少女がいる。
二人はしばらくあたりを見回したいたが、小川を見失ったようだ・・・・辺りを見回しながら歩き去っていく。
小川はホッと一息つくと、床に座り込んでしまった。
「なんてこった・・・・」
小川勝は、吐き捨てるように言うと同時に右手の拳をロッカーに打ち付けた。
誰もいない廊下に大きな音が響き、ロッカーがへこむと同時に扉が開き、中からモップや箒が派手な音を立てながら廊下に散らばった。
「・・・・クソッ!」
小川が頭をかきむしった。
小川と女の子にされてしまった岩原は、大学の同級生だ。
柔道部で好成績を上げる小川と、アメフト部で勇猛果敢ぶりを評価されている岩原。 クラブは違っても飲み仲間であり、お互い刺激しあうライバル”だ。
その岩原が、可愛らしい女の子になってしまった・・・・それも、自分の目の前で?!
小川にすれば、まるで悪夢を見ているようだった。
悪夢ならば目が覚めると現実に戻る”が、この出来事は果たして・・・・?
「・・・?!」
足音がこちらに近づいてきた。
小川は大きな体を縮めて、ロッカーの陰に隠れて息をひそめている。
柔道で鍛え上げた心臓の鼓動が高鳴っている。小川は思わず目を閉じた。
足音は近づいてくると、小川の前で止まった。
小川は目を開けると、少しずつ顔をあげていく。そこに居たのは・・・・・?
「・・・岩原・・・・・」
そこに立っていたのは、体操服とブルマ姿の美少女・・・・そう、さっきあの少女によって女の子にされてしまった岩原俊哉だった。
「岩原・・・・・大丈夫か?!」
小川は思わず立ち上がって、すっかり小さく・・・・華奢になってしまった岩原の肩を揺すった。
「クソッ?! 鍛え上げてあんなにがっちりとした体だったお前が、いったい・・・なぜ・・・・?!」
吐き出すように言う小川を、少女になった岩原は怪しい光を宿した瞳で見つめている。
小川はポケットからスマートフォンを取り出した。
「はい、井上です」
僕はポケットから携帯電話を取り出すと、耳にあてた。
『小川だ・・・今、岩原を見つけた・・・・』
「そうなんですか?」
僕は、傍らに立つ根岸に目で合図をした。
根岸はあたりに視線を走らせながら、あの少女が僕たちを追いかけてこないか警戒している。
奴が来たら・・・・僕たちは、陸上部で鍛えた足でこの廊下を突っ走り逃げるだけだ。
『岩原の奴・・・・・すっかり変わっちまって・・・・・』
見る影もないよ・・・・悔しいがな・・・・小川が言った。
その時、電話から女の子の声が聞こえた。
彼女はこう言った。
『あなたも、女の子になればいいじゃない』・・・・と・・・・・。
僕は背筋に冷たいものが走った。
「小川さん?!」
『岩原、やめろ?!』
電話の向こうから、小川の叫び声が聞こえる。
「小川さん、どうしました?!!」
「岩原・・・・正気に戻れ!」
小川は鋭い視線を体操服姿の美少女、岩原に向けている。
手にしたスマートフォンからは、小川を心配する井上の声が聞こえている。
岩原だった少女は、微笑みを浮かべながら、
「あなたもわたしに捕まれば、わたしと同じようになれるのよ」
岩原が小川を捕まえようと細い腕を伸ばす。
小川は柔道で鍛えた動きで、その腕を寸前でかわして廊下を走り出した。
岩原だった少女も、小川の後を追う。
小川は懸命に走りながら、スマートフォンを耳にあてると、
「井上! 岩原はすっかり奴の仲間になっている! いいか、岩原には近づくなよ!」
僕は自分の耳を疑った。 先輩の・・・・あの岩原さんが、小川さんを襲って”いるというのか?
「小川さん、早く逃げて!」
必死に叫ぶ僕の横顔を根岸は怪訝な表情で見つめている。
『お前たちだけでも逃げろ! いいな!!』
「小川さん!!」
僕が叫んだその瞬間、電話の向こう側から男の叫び声が聞こえた。
それが・・・・少しずつ、女性の・・・・少女の叫び声に変わっていく。
「小川さん? 大丈夫ですか?!」
僕は電話に向かって叫び続けた。
蛍光灯の明かりが廊下を照らしている。
掃除が行き届いた廊下に、スレンダーな体つきの美少女が仰向けに・・・・天井を見つめながら倒れている。
彼女は純白のスクールブラウスと、赤いリボンタイ、そしてブルーのチェック柄のプリーツスカートをはいている。
細い足には濃紺のハイソックスとローファーの革靴を履いている。
彼女は細い太腿をこすり合わせ、なだらかな胸のラインが呼吸をするたびに上下している。
つぶらな瞳はどこか虚ろで、天井につけられた蛍光灯の明かりを見つめているが・・・・焦点は定まらないようだ。
時折、ふっくらとした唇から、悩ましげな吐息を漏らしている。
『先輩?・・・・小川先輩!!』
廊下に転がっているスマートフォンから声が聞こえる。
少女は気怠そうに上半身を起こし、スマートフォンに視線を向けた。
彼女のツインテールにまとめた黒髪が揺れる。
彼女の瞳に、怪しげな光が宿り、その可愛らしい顔には微笑みが浮かんだ。
彼女が立ち上がると、スカートのすそが揺れた。
『小川さん?!』
彼女は、自分の仲間”の声が聞こえるスマートフォンをじっと見つめていた・・・・・。
小川勝は、制服姿の女子高校生に変身。
残りは二人。
トランスかくれんぼ 第2話
(おわり)
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