永遠の子供 <the eternal child>
<X>
「なあ、あの後―――どないなった?」
「ああ。すっかり時間を取り戻した黄莉ちゃん―――いや、黄莉さん、か。頻繁に紅莉さんの所に面会に行ってるらしいってさ」
「そりゃあ、良かったなあ」
「”紅の乱舞”を燃やされて絳河センセイはすっかり創作意欲を失ったし、一番弟子の剣司さんはセンセイの元を去って”紅の業師”も有名無実。ただ、珠明さんだけは残って頑張ってるってさ」
「そんなら紅莉サン、結局復讐は成し遂げた、ちゅう事になるわな」
「それはそうだけどさ……」
「心配なんか?殴られて死にそうにまでなって。優しいのー工藤は」
「あれは、俺が急いて事を進めたせいもあるし」
「やから、俺来るまで待っとけ言うたんや」
「はいはい。何度も聞いたって」
「何度でも言うてやる。全く、お前と居ると命が幾つあっても足りん位楽しいわー」
「……だから、悪かったよ。サンキュ」
「ん。―――工藤」
「何?」
「―――あんま、無茶すんなや」
優しい声に息が止まった。
「………」
「工藤?」
「―――そ……そういえば、服部」
「何?」
「………」
「……何?工藤」
問いかけられる声に体温が上がる。
「……な―――何でもねーよ!おやすみ!」
「ちょ、」
口が勝手に会話を閉じた。
併せてケータイのボタンを力一杯押し、通話を切る。
(あーもー、俺何言う気になってんだよ……)
言わないで済んだ事への安堵と、僅かばかりの後悔の狭間で狼狽えていると、
メールの着信音に心臓が跳ねた。
『さっき何言いかけたん?』
夢だったのだろうか。
朧に覚えているあれは、夢だったのだろうか。
返信画面を呼び出す。
『お前、俺にキス、した?―――』
なんて聞ける訳がない。赤面しながら布団の上に携帯を投げ、ぱたりと一緒に倒れた。
(そういえばあの朝、アイツすぐ側で眠ってたっけ―――)
近い距離に、無性に安心してまた眠ってしまった。
なんて事も、絶対に言えない。
結局、メールが来なかった事にして携帯の電源を切ってしまった。