第7章:協調と住み分け
用語
- 寝落ち
- PLがチャット中に眠ってしまうこと。
- W茶
- 「ダブルチャット」の略。2つのチャットに同時に参加すること。レスが遅れたり散漫になるなど実質的な害があり、しばしば問題になる。蔑ろにされていると強い不快感を覚える人も多く、注意が必要。2茶。複茶。
- 多窓
- (1) チャット中に他のウィンドウで別の作業をすること。気分的な害を感じる人も居るが、実質的な害がなければそれほど問題にならない。 (2) W茶のこと。
- 掛け茶
- (1) 複数のなりチャサイトに参加すること。 (2) W茶のこと。
- 多キャラ
- 一人のPLが複数のPCを使うこと。W茶と同様に、配慮が足りなかったり程度が過ぎると問題になる。
- 鵜飼い
- 恋人PCを多数作り都合よく利用する行為。またそのPL。後者は鵜匠とも。
- 粉かけ
- 「粉をかける」の略。性的関心を買うために言葉やそぶりで気を引くこと。主に遊び目的でモーションをかけることを指す。
配慮のテクニック
思いやりの気持ちを持つと急に気配りが行き届くようになるなら、本項は一行で済みます。しかし現実には、気付かないうちに粗相をしてしまったり、善意が空回りすることもあるでしょう。配慮には経験と学習の積み重ねが必要です。初心者の失敗は心の問題とばかりは言えません。
観察する
ログを観察すると、様々なヒントを得ることができます。相手が几帳面に不確定ロールを使うかどうか。「(笑)」などの括弧内略字や心理描写を使ったとき、相手が同じように返してくるかどうか。話に参加できていない人がいないかどうか。相手の嗜好やその場の雰囲気を読み取ることは、適切な配慮に繋がります。特に多様なスタイルが混在しているサイトでは、相手のスタイルを察し、互いに譲り合うことが大切です。
予測する
現実で人に不快感を与えがちなことは、ロールプレイでも基本的に同じです。人前でいちゃついたり他のPCをないがしろにすると、場が白ける恐れがあります。仕切りたがりや説教好き、知識をひけらかしたり自分のことばかり話すのも同様です。苦笑・嘆息・斜に構えた態度などは、人によっては気にします。適切な危険予測を行い、要所に注意力を振り分けることが必要です。相手が興味を失っている様子なら、話題を変えて下さい。
自制する
思いやりの気持ちを持つことは、それほど難しくないでしょう。しかし疲れている時、損をしている時、恥を掻いている時、嫉妬している時、怒っている時に思いやるのは難しいことです。例えば相手の話が全く面白くないと、気力を保つのが辛くなるかも知れません。そうした状況下では、意識的な努力が必要です。最低限の礼儀を忘れず、人に親切にすることは、サイトを明るく遊び易い場所にするでしょう。対人ゲームに忍耐は不可欠です。
PCの恋愛
友人と違い恋人の椅子は一つしかなく、恋人PCの放置や、告白されて返事をあまり伸ばすのは相手の迷惑になるかも知れません。またその気も無いのに思わせぶりな態度を取って傷つけないか、相手の身になって考えることが大切です。
恋人PCのPLに、自分のPCを大事にして欲しいと思うのは自然ですが、どのようにどの程度大事にして欲しいかは人それぞれです。スタイルの合った相手を選び、心配なら尋ねて見るのも一つの方法です。
例:(目を伏せて)あんまり会えなくても、好きでいてくれる?
配慮が少ないのとルール違反は違い、相手の親切は期待できません。相手のスタイルを見極めるなど、自分を守ることが重要です。嫌なことは意思表示をして、どうしても駄目なら別れるか諦めて付き合うかになります。ごねたり相手を責めることで解決するケースが全く無いとは言えませんが、それ以上にネット特有の苛烈なトラブルに発展しがちです。
スタイルの分化・相克・住み分け
W茶には、ロールの質が低下し必要以上に相手を待たせるという弊害があり、強い反発が存在します。「目を見て話す」というのは、言葉だけでなく意図や感情の流れを読み取ろうとすることでしょう。なりチャでもそうした集中力がないと、字面に対するレスになったり、受身な或いはワンパターンなロールになりがちです。しかし真剣にロールするスタイルを好む人がいる一方で、よりルーズで雑談的なスタイルを好む人も居ます。
このようなスタイルの差が開くと軋轢が生じます。なりチャが多様化し始めた時期には、同じサイトに様々なスタイルが混在し、宗教論争が繰り返されました。こじつけを駆使して、相手やそのプレイスタイルは程度が低い或いはモラルに反すると断じる、「なりチャの恥」にしかならない言い争いが珍しくありませんでした。
例2:多少待たされたからと言って騒ぐのは心が狭い。W茶を嫌うPLこそ忍耐力がなく自己中心的だ。そんな態度では誰にも相手にされなくなる。
トラブルの増加に伴い、なりチャでは「常識」が強調されるようになりました。多くの場合、とりわけルールの少ないサイトでは、「サイトルールになければ自由」ではありません。様々な人が集まる場でスタイルの衝突を回避するには、社会常識やネチケットをはじめとする「集団の標準スタイル」を尊重し、摺り合わせを行うことが必要です。それを極端に重視するサイトでは、参加の前に長期間ROMすることが好ましい態度とされます。
しかし有形・無形の制約が細かくなり、標準化圧力が強まると、息苦しさを覚える人が続出しました。個性や多様性を押さえ込むと、軋轢だけでなく変化や発展性も失われ、活気がなくなります。そこで、互いにゆとりを持って柔軟に向き合うことを参加者に求め、自由な気風を守ろうとするサイトも目立つようになりました。とはいえ譲り合いの精神だけでは根本的解決にならず、多く譲る者と少なく譲る者の間で摩擦が発生します。行き違いを消化できないまま短命に終わったり、やむなく方針転換する例もありました。
現在では「住み分け」が進み、以前のような衝突は珍しくなりました。サイトの数や種類が充実し、各サイトはトップページなどにスタイルを掲示するようになりました。また先入室者がプレイスタイルを明記し後入室者がそれに合わせる形態も生まれました。PL発言で後入室者とのロールを拒否できるサイトもあります。合わない相手と関わらずに済む環境を築き、不特定多数から特定少数へ移行した結果、個々のサイトや参加者のスタイルは狭くなった感もあります。しかし全体の多様性は増しました。
遅刻・寝落ち・崩れた日本語などが許される、くだけたスタイルを掲げるサイトも誕生しました。感情的にならず、他のスタイルにどんな合理性・需要・長所があるのかを考えることは、相互理解の手助けになり、学ぶことも多いでしょう。「常識とは18歳までに身につけた偏見のコレクションのことを言う」とは、アインシュタインの言葉です。