望-太陽- 2

感じているのは恐怖。
私を囲む人に対してと、これから起こるであろう事に対して。
薄暗い狭い部屋。
私の口はタオルで塞がれていて、腕は後手に縛られ。
頭を、肩を押さえつけられて。
上着は剥ぎ取られて、シャツはボタンを千切られて、
両方の足は開かれて固定するように押さえられ。
囲む4人のうちの1人が、私の胸を撫でつけ、口付ける。
「…んっ」
聞いたことはある。少しだけなら垣間見たこともなくはない、行為。
ズボンのボタンが外されて、手が入ってくる。
(嫌だっ…)
生理的な、嫌悪感が背筋を這い登る。
男同士が嫌だとか、感じたことはない。
生家が傭兵隊を持っていた私は、小さい頃から傭兵達と一緒にいた。
どうしても男の多いそこでは、同性同士が付き合うということが多々あった。
だから珍しくもなかったし、偏見もなかった。
だけど、自分の身に。しかも知らない相手からされる行為は…気持ち悪いとしか思えない。
「先にイかせてやるよ。その後は俺達を気持ちよくさせてくれよな」
「大人しくしてたら、嫌って言うほどよくしてやるからさ」
「天国へイきっぱなしにさせてやるよ」
「後で口でしてくれよな」
「俺は綺麗な顔にぶちまけたいなぁ」
気持ちよくなんか、なれるわけがない。
撫で回される手も、身体を舐め回す舌も、全部…嫌だ。
嫌なのに。
「…ぅぁ…」
「そろそろ後ろも慣らし始めるか」
後ろ…。嫌だっ!
そこを触られてるのも、身体を触れられてるのも、全部全部、嫌なのに。
何で?どうして?
知らない相手にどうして、こんなことされなきゃいけないんだ?
小隊長に近づくなって、嫌がらせされるならわかるけど。
こんな、こと。騎士のすることなのか?
『影月』でだってこんなこと、許されない。
どうしたら、逃げられる?相手は4人。
両手も両足も押さえられてて、声も出せない。
1人は私にのしかかってる。
逃げるなら…彼らが私を自由にしたと思った後。
1回か2回か…きっと入れられた後には、私が観念したと思うはず。
手足の拘束を解いて、猿ぐつわを解いて。
口で、させるって言ったっけ?
そうしたら、逃げられないまでも反撃ぐらいは出来る。
1人2人は、2、3日使いものにならないぐらいにするくらい…
そんなことを考えていたら、扉が大きな音を立てて蹴破られた。
「子供相手に、何をしている」
低く、声が響いた。
…小隊長の声。すごく怒気を孕んだ声だった。
「え…」
「は、ハルスフォード」
「ぎ、銀の狼?」
「それが、私の部下だと知っての所業か?」
「さ、誘ったのは、こいつの方だ!」
誘ってない!
「そうだとも」
「女も知らない子供に笑顔を向けられたぐらいで誘われたと思ったと?」
し、知らないけど。どうして小隊長が知って…
「何を…」
「このまま帰るなら、何も言わないがどうする?」
「お、おい」
「判ったよ。だが、覚えてろよ!」
隊長の殺気を感じてか、ばたばたと足音が去る。
たす、かった…
「大丈夫か?エドウィン」
小隊長が私の横に膝を付いて、口のタオルを外してくれる。
「たい、ちょう」
でも、でもどうしてここへ…?
「もう大丈夫だ」 手を縛っていた縄を解いてくれる。
「どうして…」
「ああ、フィルが見ていたようで。教えてくれた」
小隊長を呼んでくれなかったら…ホントにあのまま…。
あの嫌な感覚を思い出して身震いする。
「お礼…言わなきゃ…」
私は隊長を見上げて、どうにか…作り笑いを浮かべられた、と思う。
震えが止まってないのも、怖いのも…出しちゃいけない。
「お前…少し自覚した方がいいな?」
隊長がじっと私を見て言った。
「え…?」
自覚って、何を…?
「今日は、止めておくが…。立てるか?」
「はい…」
立たなきゃ。震えてるのを、止めて。力をちゃんと入れて。
そう思いながら立ち上がったけど、力が入りきっていなくて、よろめいた。
「っと…」
「す、すみません。力、入ってない…みたいで」
「俺の方こそ、すまない」
隊長に腕を支えてもらった。
まずい。震えが止まってないの、わかった筈だ。
「もう、大丈夫です」
強がりでも何でも。弱い所を見せる訳にはいかない。
こんなことで、泣くわけにもいかない。
「着ていろ」
ばさりと。
背中に隊長が上着をかけてくれる。
「…」
「お前のは、役に立たなくなってるからな」
「…ありがとう、ございます」
大きくて、あったかい。
「行こう」
隊長はそう言うと、私の肩を抱えるようにして支えてくれた。
正直、恥ずかしいけど、まだ足がしっかりと地に着いていない感があるから、有り難い。
少しあるいたところで、隊長が唐突に
「今日は、俺のところへ来い」
俺のところ…って
「え…?」
「万が一、ということもある」
「…すみません」
大丈夫だとは思うし、自分の宿舎でも鍵をかければ大丈夫だとは思うけど。
少しだけ…1人でいたくない気持ちがあるから…
私は隊長の言葉に甘えてしまった。
…駄目だな私は。
あんなことに、自分で対処もできないで隊長の手を煩わせて。
助けてもらって、家に泊めてもらって…
だけど…気持ち悪かった。嫌だった。
他人に触れられるのがあんなに嫌だと思ったのは初めて。
怖い。
あんな風にされるのは。
どんな感情であんなことをするんだろう。
私が何かしたんだろうか?知らないうちに。
だから、父さん達は私にあんなに釘刺したのかな。
どこかで私は甘えをいろんな人に見せてたのか?
だからあんな事をされたのかな。
気をつけなきゃ。感情、出しちゃいけない。
そう言われてたのが正しかったんだよな。
隊長と一緒に仕事できて嬉しくて、楽しくて。
きっとずっと私はそんな風にしてたんだろうな。
隊長にも迷惑、かけてしまったし。
…言われたように、あまり近くに寄らないようにしないと…いけないんだな。きっと。
私なんかが一緒にいちゃ、やっぱりいけないんだ。
…一緒にいるなら、もっともっと強くなって、周りに認められるぐらいじゃなきゃ…
頑張っても、そんな日は…くるのかなぁ…
そんなことを考えながら、私は浅い眠りに落ちていった。
眠ってはあの嫌な感覚を思い出して眼を覚まして。
目を閉じて、眠ってはまた思い出して―――。
気がつくと陽が昇りはじめていた…

2010/11/25

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