第一話:訪問者
話は1ヶ月前に遡る―
深夜2時を回った頃。女は自室でいまだ帰らぬパートナーにやきもきしていた。
「僚のやつ、また遊び回りやがってー!帰ってきたらただじゃおかないからなーっ」
女が自身の拳を握り締めたその時、そのパートナーの部屋の窓がけたたましく割れる音がした。
「何?僚?でもこんな時間に帰ってくるはずないし。・・・ま、まさか幽霊?そんなばかな・・・ねぇ。」
女はハハハと力無い笑い方をした。
「あ、あたしだってシティハンターなんだから・・・・。た、確かめなくっちゃ。」
そう自分に言い聞かせると、女は勇気を振り絞ってパートナーの部屋へと向かった。
女は護身用に銃を持ち自身の気配を殺しながら、そっとその部屋のドアに近づいた。
そしてドアノブに手をかけた瞬間、中から人が転げ出てきた。
とっさに身構え女は叫んだ。
「!!!誰?!」
転げ出た本人は女を見上げ、驚きの表情でつぶやいた。
「カオリ・・・・?!」
(え・・・・?!)
あまりの衝撃に女は驚きの声をあげることすらできなかった。
転げ出ててきたその人物は青い瞳にブロンドの白人で天使と見まごうばかりの美しさをたたえていた。
のみならず、自分の名を呼んだのだ。
その天使は肩からおびただしい血を流していた。
「!!・・・ちょ、ちょっと待ってて!!」
そう強く言い放つと女はパタパタとどこかに消え、また戻ってきた。
手には救急箱を携えていた。
突然の訪問者に戸惑うことなく女は手早く止血処置をした。
「応急処置はしたけど、安心はできないから。病院で診てもらわなきゃだめよ。
何か困っているのなら話して、力になれるかもしれないわ。」
そう言って女は再び訪問者の顔を見た。
透き通るような白い肌をした白人の男性であった。
しかし、女にはこの訪問者が誰なのか皆目検討がつかなかった。
「アリガトウ。ダガ、スマナイ・・・。」
男の言葉を聞くと同時に女はみぞおちに激痛を覚えた。女は意識を失った。
―翌朝早朝
女はパートナーのベッドの中で目覚めた。
(夢だったのかしら・・・・)
女は一瞬そう思ったが、風通し良く血痕の残るその部屋は昨晩のことが夢ではなかったことを証明していた。
肝心のパートナーはまだ帰宅していない。
記憶の糸を辿ったが、腹部に残る痛みにかき消されてしまった。
思い出す作業を諦め、ざっと掃除を済ませ時計をみると6時を回っていた。
「あんのやろー、今日という今日は許せん!!」
女は昨晩のことなど一瞬にして忘れ、ハンマーを握り締めた手を怒りに震わせ、勢いよく玄関を飛び出して行った。
そんな一件もパートナーに話す間もなく、1週間が過ぎた。
いつもながらの淡い期待だけを胸に、女は伝言板へと依頼の確認に向かった。
一通りざっと伝言板に眼をやり、今日も無しかと諦めかけた瞬間伝言板の隅にXYZの文字を発見した。
「う・・・・嘘・・・・。い、依頼だぁ・・・・。」
女は涙ぐんでひざまずき、しばし放心状態に陥った。
「いかんいかん、つい依頼に感動してしまった。情けない・・・・。えーと、なんだか女の字みたいだなこりゃ。
ま、経済状態からいって引き受けないわけにはいかないわね。とほほ・・・。」
先々の不安に心を痛めつつ女は手帳にメモした。
「12時にKホテルのラウンジね。久々にちゃんとしたものが食べられるかも〜。」
明らかに浮き足立った様相を呈しつつ女は新宿駅をあとにした。
「槙村香さんですか?」
Kホテルのラウンジで女は呼びかけられた。
「二階堂さんですか?」
そういって振り返るとそこにはメガネにスーツ姿の長身の男性が立っていた。
女は驚いた。
二階堂という名には不釣合いな白人の男性がそこに立っていたからである。
男の目にも女が驚いていることは明らかだった。
「あ、二階堂というのは母方の姓で、日本にいるときは便利なので母方の姓を名乗っているんです。」
「ごめんなさい、てっきり日本の方だと思っていたので・・・。」
「僕は日本国籍をとったので日本人なんですよ。」
そう言って男は女に微笑みかけた。
女は度重なる自分の失礼を恥じ、赤面した。
「ふふ・・・っ、変わっていないんだね。」
男は女に笑いかけた。
「え?」
「本当に覚えていないの?悲しいなぁ・・・。結婚の約束までした仲なのに・・・。」
男の言葉に女は困惑した。
男はじゃあ種明かしをしようかという素振りをみせ、メガネを外してみせた。
するとあの夜の訪問者が現れた。
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