第二話:再会


「あなた、あの晩の・・・。」
「そう、それも正解。でも本当の正解じゃないよ。これが最大のヒントかな・・。」
そう言って男は小さなロケットのついたペンダントを取り出した。
そこにはまだあどけない少女だった頃の女の写真が収められていた。
「・・・・・テッド・・・?本当に?」
「やっと思い出してくれた?もうこれを見せても思い出してもらえなかったらどうしようかと思ったよ。」
男はあどけなく笑った。
「そんな・・・信じられない。こんな奇跡みたいなことってあるの?もう一生会えないと思ってた・・・。」
女は懐かしさと感動で涙ぐんだ。
「僕もだよ。君に会えた事も嬉しいけど、君があのときのままでいてくれたことがもっと嬉しいよ。」
「何よそれー、成長してないってこと?失礼ねー。」
そう言って女は膨れっ面をした。
「ハハハハ。いや、変に擦れてなくて優しい君のままでいてくれて嬉しいって意味だよ。」
「ありがとう。良い方にとっておくわ。で、今は何をしているの?」
「外資系の会社でシステムエンジニアとして働いているよ。」
「そう。・・・で、何故裏の世界へ?」
一瞬にして女の顔は懐かしさにほころんだ表情から、その美しさを際立たせた冷たい表情へと豹変した。
「ふふ。さすがだね。あの冴羽のアシスタントだけあるよ。
 ・・・簡単に言えばもともと僕は裏の世界の人間なんだよ、香。
 ただ、裏の世界の人間にも、表の世界の人間にも僕の正体を明かした事はないけどね。
 いうなれば実体が無い霧のような存在なんだよ僕は。正体を明かしたのは君が初めてだよ、香。」
そう言うと男は女の瞳を凝視した。女はその青く冷たく澄んだ瞳に飲み込まれる感覚さえ覚えた。
「そ、それで・・・依頼内容は?」
女は男のペースに巻き込まれまいと必死に言葉を切り出した。
「無い。」
「ない?」
「正直、君に会う口実が欲しかっただけなんだ。それに依頼ではなく正確に言うと交換条件かな。」
「交換条件?」
驚く女を尻目に男はゆっくりとコーヒーを口へ運んだ。
「それはそうと香、僕と結婚してくれるって言ったこと覚えてる?」
「な、何よ急に。覚えてるけど・・・・、そ、そんなの小さなときのことだし・・・・。」
女は気恥ずかしさに下を向いた。
「ひどいなぁ、僕は本気だったのに・・・。」
「私だってあの時は・・・・。」
そう言いかけて顔を上げるとそこには憂いを帯びた男の顔があった。
「もう一度、本気で考えてくれないか?大人として・・・・。」
「そ、そんなこと、久しぶりに会っていきなり言われても・・・・。それにあなたも私もあの頃とは違ってしまっているし。」
「いや君は変わっていないよ。僕はだいぶ変わってしまったけどね・・・。
 でも、君の前では昔の僕でいられるような気がするんだ。昔君が僕にくれた安らぎと同じものを、あの晩感じることができた。
 僕には君が、今君が必要なんだ!君に再び出会えたことが運命のようにさえ感じるよ!
 神がくれた最後のプレゼントだとも思える!!」
男の力説ぶりに女は呆気にとられた。
「あ、ありがとう。私にそんな風に言ってくれる人がいるっていうだけで嬉しいわ。・・・でもごめんなさい。
 ・・・・気持ちは本当に嬉しいんだけど・・・。」
「やはり冴羽のことを愛しているんだね。」
男の言葉に女は肯定も否定もせず俯いた。
「さっきの交換条件の話だけど・・・・。」
女の様子に男は冷たく言い放った。
「僕も冴羽と同じ職業を生業としていてね。冴羽を殺して欲しいって依頼が入っているんだ。」
「え?!」
女は男の言葉に驚き、顔をあげた。
「僕は依頼があるとね、実行を以ってその依頼を受けたことを依頼人に示す。
 依頼人は僕が実行後、契約上の金額を支払うってことになってる。
 だから誰も僕を知らない。神のように言われることもあるよ。」
「そんな・・・。依頼人が約束を破ったら?」
「無論、死を以って償ってもらうよ。」
そのフランクな口調とは裏腹の悪魔のような男の顔に女は震撼した。
「で、冴羽殺害の依頼だけど、もし香、君が僕のもとに来てくれたら依頼は受けない。
 でも、冴羽のもとに残ると言うなら僕はこの依頼を受けるつもりだ・・・。交換条件とはそういうことさ。」
「そ、そんな・・・・。テッドやめて。自殺行為よ。僚に敵うわけないわ。」
「ふ・・っ、見くびられたもんだな。その君の優秀なパートナーに聞いてみると良いよ。"ミスティ"って名を知っているかってね。
 これでも結構名前は知られているんだ・・・。
 答えは急がないよ。君の心の整理がつき次第でいい。」
予想もしない男の言葉に女は戸惑いを隠せなかった。
女が冷え切ったコーヒーを口に運ぶ姿を見ながら男は最終手段ともとれる決定的な言葉を投げかけた。
「君が大好きだった兄さんは冴羽のせいで亡くなったんだってね・・・。かわいそうに。」
「ち、違う!僚のせいじゃないわ!」
「ま、直接的ではないにせよ、冴羽は自分が君の兄を死に追いやったと思っているんじゃないのかい?
 そんな大切な人を奪った自分を憎んでしかるべき人間を手元に置いておくのはやはり君を愛しているからかい?」
「・・・・・・・・。」
女は返答に困った。
確かに大切にはしてもらっている自信はあった。
だが、それが恋愛感情によるものか、同情から生まれた慈愛に似たものなのかわからなかった。
それを見透かしてか、男は決定打を放った。
「君がそばにいる限り冴羽はずっとその罪悪感に苛まれながら生きていくことになる。
 同時に表の人間だった君をこの世界に引きずり込んでしまったことにも負い目を感じているんじゃないのかな。
 この世界で女を守り通すことは難しい・・・。その事自体がウィークポイントにもなりかねない。
 そんな危険を香、君は愛する人にさせているんだよ。
 君は自分のせいで愛する人が毎日苦しい思いをしているのに耐えられるかい?
 それが君の愛し方か?
 ましてや、淡い思い出のある君の幼馴染を撃ったと知ったら、彼、どうするかな・・・・。」
女は一瞬にして自身のパンドラの箱を男にこじ開けられた気分に陥った。
自分でも分かっていたが決して見ないようにしていたことをあっさりと見透かされたのだ。
一気にいろいろな感情が女の中に噴出した。
(私は僚から安らぎを奪っているというの?!パートナーとして・・・・私は・・・私は・・・・?!)
「混乱させてしまったようだね。今日はもう退散するよ・・・。
 もし僕と連絡を取る気になってくれたらここに連絡してくれ。」
そういって男は女に名刺を渡した。その紙は男の表の世界での顔を表していた。
男は会計を済ませるとホテルをあとにした。女は暫く困惑したまま、微動だにしなかった。

「もっと違う形で再会できていたら・・・・。やはり私についているのは悪魔か・・・・。」
男はひとりつぶやき天を仰いだ。


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