*****
依頼人の女の事務所は、男と女が住む町の西側、オフィス街の真ん中に位置していた。
「へえ、こんなところに事務所設けるなんて、よっぽど儲かっているんだ。」
男が感心して言うと
「それだけトラブルが多いってことです。」
依頼人の女はそう言って一層真剣な面持ちでビルの中に入って行った。
「じゃ冴羽さんはここで。私はこの部屋にいますから。」
「え〜っ、やっぱり危ないしさ〜。」
「約束しましたよね。」
「ほーい。わかりました。ここでガードしましょう。」
男は渋々承諾した。その様子に安心した依頼人の女はドアの内側へと入って行った。
依頼人の女は机に座ると、オーディオのスイッチを入れた。軽快なジャズが流れる。
「さてと、どうするかな〜。」
依頼人の女はそうつぶやくとロングヘアーを慣れた手つきで纏めた。
丁度その頃女は部屋の掃除をしていた。
(美香さんの探している人って一体どんな人なんだろう・・・。)
ぼーと考え事をしながら掃除機を走らせていると、掃除機のヘッドにカツンと何かが当たった。
フロッピーだった。
(僚のかしら・・・?)
女はフロッピーを拾い上げると、掃除の手を休め自身のパソコンを立ち上げた。
(変なものだったら・・・。)
不安が過ぎったが、意を決しフロッピーをパソコンに入れ起動させた。
「何・・これ・・・?」
思わず女は声を上げた。
画面に現れたのは僚に関する詳細な情報だった。
******
「冴羽さん、あの・・・。」
依頼人の女がドアを開け男に声をかけたその時、男は事務所の女の子をナンパしている最中だった。
「あれ?美香ちゃん仕事終わったの?」
悪びれもしない男の様子に依頼人の女はフッと口元に笑みを宿した。
「出かけます。ガードしていただけますか?」
「もちろん。」
男は颯爽と歩く依頼人の女の後ろをへこへことついて行った。
「美香ちゃんこれからどこへ?」
「今担当している訴訟の資料集めに。色々なところ梯子しますよ。」
「はいは〜い、お供しまっス。」
男がへらへらとした表情を呈した次の瞬間男の顔色がサッと変わった。
「美香ちゃん危ない!!」
そう叫ぶや否や男が依頼人の女を突き飛ばした。と同時に銃声が耳を劈(つんざ)いた。
男の聴覚を掠めたのは撃鉄を上げる音、足元を掠めたのは鉛玉。
依頼人の女は瞬間の出来事に呆然とした。
「美香ちゃん、本当に狙われてるんだ・・・。」
「さ、冴羽さん嘘だと思っていたんですか?」
「いや〜、何となく・・・ね。」
その頃女はフロッピーを片手に呆然としていた。
そのフロッピーにはサエバアパートでの生活以外のパートナーの詳細な情報が詰め込まれていた。
それは男がわざと流している情報でもあったのだが、綿密なデータ収集の痕跡が見受けられた。
(誰が・・・こんなものを・・・。)
心当たりは一人しかいなかった。無論依頼人の女である。
(・・でも、何故・・・?)
女はろくに調査もせず依頼人を信じこの仕事を引き受けた自分を責めた。
(調べなくっちゃ・・・。)
女は意を決したように自室へと戻っていった。