第11話 死と友情と(脚本:大原清秀 監督:岡本 弘)

賢治と加代が廊下を走っている。甘利とぶつかり怒られる。何をそんなに急いでいるかと言えば、強豪「相模一高」との練習試合が決まったのを、部員にいち早く教えるためである。知らせを聞いた部員は一同大喜びである。部員たちが猛練習を重ねてきたのも、ひたすら相模一高を倒したい一心からであった。109対0と言うかつての敗戦の屈辱を添う機会が目の前に迫ったのである。練習にはイヤが応にも熱が入った。だが賢治の心は今ひとつ晴れなかった。脳腫瘍に侵されながらも、まだそれを知らないイソップこと奥寺の存在が、つかの間も気にならない時はなかったのである。まもなく死を控えているやも知れんこの少年。なのにしてられることはこんな僅かなことしかない。賢治の胸に言い知れぬ悲しみが突き上げた。
翌日、森田ら部員の一部が相模一高の練習を盗み見しに言った。しかし、勝又監督に見つかってしまった。勝又「滝沢さんに頼まれてきたのか?」森田「いいえ、俺たち自主的にです」勝又「こっちは隠すことはない。見たかったらコソコソ見ないでそこで見ろ」部員らは一高部員の猛烈なタックルに圧倒されてしまった。
森田の姉夕子が祖父の面倒を見に帰阪したため、部員らは交代で新楽を手伝った。勿論イソップも頭痛を堪えながら頑張っていた。イソップの家の近所に出前注文が入った。イソップは母親(久保田民恵)が内職で昼食作るのが面倒だと聞いていたので、ついでに五目ソバを届けようと立ち寄った。家では母親が祈祷師を呼びお祓いをしていた。そこで、母親が祈祷師に言った話しを聞いてしまった。「お医者様は脳腫瘍の出来た場所が悪くて、手術の成功率は低いと言ってましたが・・・」イソップは持っていた岡持を落とし、「母さんの嘘つき!大した病気じゃないって言ってさ、僕脳腫瘍なんだね。僕死ぬんだね」母親「お前を苦しめたくなかったのよ。でも望みを捨てないで、あした手術を受けて!」イソップ「ヤダ!殺されに行くようなもんじゃないか。どうせ死ぬんだったら、僕自分で死ぬ」そう言い、イソップは家をとびだして行ってしまった。
賢治の家には圭子が来ていた。賢治「じゃぁ君、預けられてた親戚のうちを飛び出してきたの?」圭子「ええ、二度と帰りません」賢治「しかし、君言ってたじゃないか。森田と会わなくても我慢できるって」圭子「父が言い出したんです。見たこともない青年実業家と、私に婚約しろって。私に光男さんを忘れさせるためにです。先生、不躾なお願いですけど、ここに置いていただけませんか?私ほかに行く当てもなくて」節子「圭子さんは、しばらくの間、内に居させてもらえたら身の振り方を決めるって。かまわないでしょ?」賢治「ひょっとして君のお父さんは、富田義道さんじゃないのか?」圭子「そうです」森田「富田義道って、銀行やコンピュータ会社を経営している。あの大財閥の?」賢治「とにかく一度家に帰った方がいいよ」圭子「先生にはわからないんです。先生、さっき”ただいま”ってお帰りになりましたね。あの声を聞いたとき、私どんなに暖かい気持ちになったか」賢治「どこの親父だって帰ってきたときは、ただいま!って言うよ」圭子「内は違うんです。母は父の愛人です。父は月に1度来ればいい方で、私小さい時には父がたまに顔を出しても、お父さんとは思えなくて。母に、お母さん誰か来たよって知らせてたんです。そんな冷え冷えとした家なんです。ただいま、お帰り、そんな普通のやりとりが出来る家庭。私先生のところで少しの間でも、ほんとうの家庭の味に触れて見たかったんです」大富豪の娘。にもかかわらず、伺い知れぬ孤独があることを賢治は知った。賢治「そう。それほど言うんだったら、君はここにしばらく居ても、僕は迷惑じゃないよ」圭子「ほんとうですか」と喜んで言った。
翌日になってイソップの両親が学校に訪ねてきた。イソップが居なくなり自殺の可能性があると。賢治も今となってはイソップが、実は脳腫瘍に侵されてたという真相を、部員たちに告げるほかはなかった。その日賢治たちは、必死に奥寺浩の行方を探し求めた。しかし、要として手掛かりさえ掴めなかった。河原で少年の水死体が揚がったと聞き、賢治らは駆けつけた。死体はイソップではなかった。しかし、奥寺浩の消息は掴めぬままに、相模一高との対戦する日が訪れたのであった。部室に部員が集まっている。大介「冗談じゃねぇよ。試合ヤルってのかよ!イソップほっといてよ!」森田「俺たちだってイソップのことは気になる!だけど捜すだけ捜したんだ。俺たちが血ヘドを吐くような猛練習をしてきたのは何のためだ!打倒相模一高!それだけのために頑張ってきたんじゃないか。相模一高の練習試合のスケジュールはギッシリだ。今日の対戦を降りちまったら、いつ対戦できるか分かんないだぞ」部員「大木。行き帰りの時間を含めて3時間もあれば試合は終わるんだ。イソップはそれから捜そうじゃないか」大介「バカヤロー!その3時間の間にイソップが死んじまうことだってあるんだ!いや今のこの時だって!あいつはひとりぼっちで苦しみ抜いてるに違いねぇんだよ!呑気に試合なんかたってられっかよ!」加代「先生。先生のご意見を聞かせて下さい」賢治「みんな。俺たちは打倒相模一高を目標に心を合わせてきた。その思いはイソップも同じだ。しかし、イソップの居ない今、例え一高に勝ったとしても、喜びを分かち合うメンバーがひとりでも欠けていては、意味がない。俺は涙をのんで一高に試合の辞退を申し入れたい。しかし、この日のためにどんな猛練習にも耐え忍んできた、お前たちの試合をやりたいって気持ちは、痛いほどよく解る。そこで俺は決を採って決めたい。試合を辞退すべきだと思うものは手を挙げてくれ」手を挙げたのは大介と加代だった。賢治「ふたりきりか?お前たちそれほどまでして試合をやりたいのか?」採決で決まった以上、賢治にはどうすることもできなかった。一同は相模一高へ向かい、控え室に入った。部員の面々はバッグからニュージャージを取り出した。森田はニュージャージをじっと眺め「やっぱりダメだ。コイツ(ライジングサン)を見たらデザインしてくれたイソップの面がちらつきやがってよ、ボールに集中出来そうにねぇよ」部員「何を言ってるんです。一番頑張ったのは森田さんじゃないですか」森田「けどよ、俺たちはこれを着てプレーするんだぜ。お互いにコイツを眺めてプレーして、イソップのことを忘れることが出きんのかよ。なあみんな、手術さえすれば助かる可能性があるんだ。これからあいつを捜して手術を受けさせてやろうじゃないか」部員「でも今更試合辞めるなんて言ったら、先生がなんて言うか」賢治「いや、よく言ってくれた。お前たちはラグビーをする機械じゃない。人間なんだ。仲間の不幸が気に掛かるのは当然だ。実はな。俺はお前たちが、試合よりもイソップを選んでくれることを待ってた。俺は仲間思いのお前たちを、監督として誇りに思う。残念だが試合は辞退しよう。いいな」賢治はグラウンドに出て勝又に辞退を申し入れた。勝又「何ですって!試合を辞めたい」賢治「本当に申し訳ありません。こんな直前になって」勝又「滝沢さん。なぜもっと早く言ってくれないんですか?あなたという人は」賢治「すべて私の責任です。本当に申し訳ありません」勝又「いや何を言ってるんですか?私が怒ってるのは、あなたが水くさいからですよ」賢治「はっ?」勝又「内には150人以上の部員が居る。そのイソップって子を捜すのには、人数が多い方がいいでしょ。なぜ一言協力しろと言ってくれないんですか?私たちは同じラガーマンじゃないですか」賢治「勝又さん。ありがとうございます」そう言って固い握手をした。川浜高校と相模一高の部員たちは、コンビを組んで奥寺浩の捜索を始めた。それはチームとしての、対抗意識を乗り越えた麗しい姿であった。そして遂にイソップらしい少年が、郊外の方へフラフラと歩いて行ったのを見かけた者があることが判明した。部員らは森へ向かい更にイソップを捜し続けた。そして、大介が森を彷徨うイソップの足がかりとなる、新楽の上っ張りを見つけた。そこへ圭子と加代がやってきた。賢治「どうしたんだ君たち」加代「これ持ってきました」とラグビーボールを鞄から出した。森田「なんだこりゃ、俺たちはラグビーどこじゃないんだぞ」圭子「先生、私イソップ君の心の中を考えてみたんです。いつか光男さんから聞いたと思いますけど、私死のうとしたことがあります。だからイソップ君の気持ちが少しは解るんです。あれは2年前でした。その人は7人目の愛人でした。父は、自分の好みをその女に覚えさせるように、母に世話を命じていたのです」圭子の母「旦那様は着物がお好みですから、自分で着れるようになって下さいね」圭子「お母さん、止めてそんな情けないまね」圭子の母「こうしなければ、私たちは暮らしていけないのよ」痺れを切らした大介は「いい加減にしてくれ!この際あんたの身の上話が何の関わりがあるんだ」圭子「もう少し聞いて。母に他の愛人の世話まで命じる父。それにぶら下がって暮らす母。更に、それにぶら下がらなければ生きていけない私。私は何もかもイヤになり、死のうと決めたんです。イソップ君と同じように」賢治「そんな時だね、森田に出逢ったのは」圭子「あの時私は、なぜ死ぬのを思いとどまれたか。それは人波に押し流されるままに、死に場所を捜していて、たまたまラグビーを見たからです。助け合って戦う姿。それが、私に生きる勇気を与えてくれたんです。人間は誰でもひとりです。ひとりでは弱いんです。でも、自分のことを考えてくれる仲間が、ひとりでもいることを知れば人間は強くなれるんです。イソップ君は今ひとりです。四六時中、自分のことしか考えられないはずです。でもこれ(ラグビーボール)を見たらどう思うでしょうか?」賢治「よし解った。ラグビーを知らない君でさえ、ラグビーを見て生きる決意をした。ましてや、ラグビーを愛するイソップがこれを見れば、俺たち仲間のことを思い出して、生きる勇気を奮い起こしてくれるかも知れない。君はそう言うんだね」圭子「はい。だから持ってきました」加代「先生が苦労して購入したボールですけど、これをここに残していきたいんですって。いいですね」賢治「あぁ。よし、このボールをイソップの目の付きそうなところに置こう。それが、俺たちの”生きろ”って言うメッセージだ」
その夜、奥寺は山中を彷徨っていた。死に場所を求めて・・・・・・。奥寺は死を決意した![枝にロープを巻き付けるイソップ。学らんを脱ぎ、たたんで地面に置いた。その脇には・・・]イソップ「ボールだ。何故こんなところに?」イソップは賢治の言葉を思い出した。[お前、運動能力はともかく。ラグビーを愛する心は誰にも負けない。お前は立派なラガーマンだ]ボールのそばには書き置きもあった。[イソップすぐ帰れ!ラグビー部一同]イソップの脳裏に部員たちが帰ってくるように呼びかけた。イソップは部室に帰ってきた。まもなく賢治たちも部室にやってきた。加代「奥寺君」賢治「イソップ。よく帰ってきたな」勝又「奥寺君。私は相模一高の監督の勝又だ。滝沢さんに聞いたんだが、君はラグビー部の縁の下の力持ちだそうだね。そういう君を含めた川浜高校でないと、私は対戦する気がしない。だから待っていたんだ」大介「この野郎!心配掛けやがってよ」イソップ「心配して貰っても、何ともなりません」大介「なにー!」イソップ「同情して貰っても死ぬのは大木君でも、先生でもない。僕なんだ。僕はラグビーに最後の別れを告げに来ただけなんです!」そう言ってイソップは部室から飛び出し、屋上へと上がり、更に手摺りを昇り最上階に達していた。すぐさま賢治たちは追いついた。が、近づこうとする賢治にイソップは「先生、来ないで下さい!来たら僕飛び降ります」賢治「何言ってんだ。お父さんもお母さんも心配してる。戻って手術を受けるんだ!」イソップ「ヤダ!手術を受けたって、頭こじ開けられて、脳みそ引っ掻き回されて、僕は死ぬだけなんだ」加代「何言ってんのよ!手術受けなければ解らないのよ」
大介「他の連中も、お前が帰ってくるのを祈ってんだぞ!下を見てみろ!」[部員らがイソップ止めろ!と叫んでいる]勝又「みんな必死で君を捜していたんだ。試合も何も投げ売ってだ!男なら勇気を出せ!」イソップ「同情して貰っても何にもなりません。死ぬのは僕なんだ・・・。先生。僕先生が見守って下さってたら死ねそうです。今から飛び降ります!」[イソップが一歩前進した]賢治「バカヤロー!!死にたい奴は死ね!」それは賢治の賭けであった。賢治はイソップの中に残っている生存本能を、必死にかき立てようとしていた。万一、イソップが飛び降りれば賢治も責任をとり、共に飛び降りて死ぬ覚悟であった。賢治「何をグズグズしてる!最後の最後まで諦めないのがラガーマンだ!手術ひとつ受けられない意気地なしは、さっさと飛び降りろ!死んでしまえ!どうした!お前みたいな弱虫は、例えレギュラーになったとしても、一本のトライも挙げることは出来ないぞ!死にたければ死ね!」加代「先生ひどい!もうやめて!」大介「イソップ!」[イソップが更に一歩前進した]賢治「イソップ!最後にこれ(ライジングサンのジャージ)を見ろ!コイツをデザインした時、お前はどういう思いを込めた!どんなことがあっても戦おう。そう言う願いだろ!だから、俺たちはコイツを採用したんだ。ところが本人のお前がそれを裏切ろうとしている。俺たちを裏切るのは構わんが、お前は・・・お前は自分で自分を裏切ろうとしてんだ。お前なんか・・・お前なんか。みじめなドブネズミだ!![イソップの決心が一瞬揺らいだ隙に、賢治は一気に手摺りを昇りイソップを抱きかかえた]賢治「イソップ」イソップ「先生!」賢治「イソップ・・・イソップ」イソップ「先生・・・。俺、手術受ける」賢治「イソップ。ひどいこと言って悪かったな」イソップ「先生!」
加代「大木君。よかったわね」森田「おい、お前うれしくないのかよ?」大介「奴が助かりゃ俺は用はねぇよ。おれはベタベタってのが好きじゃねぇんだよ」
イソップの手術の日が来た。手術室の前でイソップは「先生。僕のために大事な試合流してしまってすいません」賢治「そんなことはいいんだ。それより早く元気になってな」イソップは手術室へ運ばれていった。
放課後練習している部員のところへイソップの父親がやってきた。父「お陰で幸いに浩の手術は無事に済みました」部員一同大喜びする。父は賢治に「色々ありがとうございました」賢治「僕ひとりの力でありません。みんなの、相模一高含めてひとりひとりの協力がなかったら、浩君は手術を受けられなかったはずです。ラガーマンとしての心の勝利です」父「本当にありがとうございました」そこに勝又も駆けつけ「お父さん相模一高全員の気持ちを代表し、イソップ君の快復を祈ってこれを」と花束を手渡した。勝又「滝沢さん勝負に日を楽しみにしてますよ」賢治「こちらこそよろしくお願いします」と固い握手をし勝又は帰っていった。そして部員らも練習に戻った。賢治も指導に戻り掛けたところ、父親に呼び止められた。父「実はその・・・・。こんなにまでしていただいたのに・・・。浩の命はあと半年、いやぁ長くて一年なんです」賢治「じゃ手術は失敗だったんですか?」父「失敗と言うより、腫瘍の場所が医者の想像以上に悪くて、全く手が付けられなかったんで、そのまま閉じてしまったんです。浩は、自分が良くなったものと喜んでます」賢治「奥寺さん・・・・」
賢治、大介、森田が新楽に入っていった。すると圭子がいた。賢治「圭子さん」森田は新楽の上っ張りを着ている圭子を見て「なんだよその格好」圭子「今日からあなたのお家で働かせて貰うことにしたの。あなたたちは練習一筋に頑張って、一日も早く相模一高をぶったおして頂戴」森田「止せよ。お前みたいなお嬢さん育ちに務まる仕事じゃ・・・」圭子が注文の品をお客にきちんと運ぶのを見て大介は「誰かさんよりは役に立ちそうだな」賢治がニヤリと笑った。大三郎「おい光男!圭子さんがな、いつまでも先生の家に厄介になってんの気兼ねだってんで、あいつ(夕子)が帰ってくるまでしばらく、ここで寝泊まりして貰うことにしたぞ」森田「へぇ〜そう!」大三郎「何だニヤニヤして。言っておくけどな、圭子さんにはお前の部屋を明け渡して貰う。お前は今夜っから俺の部屋に移ってくる。夜中になんかしようたって、俺が寝ないで見張ってるからな、そう思えよ」森田はちょっとふてくされた顔をした。そんな時店に客が入ってきた。圭子が賢治に父と紹介した。富田(高野真二)は賢治に近寄り「滝沢先生ですね。富田義道です」
圭子の父、富田義道の存在は川浜高校ラグビー部に対して、如何なる影響を与えるのか?賢治は大きな不安を感ぜずにはいられなかった。

第12話 愛は死線を越えて(脚本:大原清秀 監督:合月 勇)

「私は富田義道です。娘を迎えに来ました」そう言って秘書に合図をした。秘書は賢治に「第四秘書の景山です。どうぞ」賢治に封筒を渡そうとした。賢治「なんですかこれは?」景山「お嬢さんが2、3日あなたのお宅でお世話になったそうで、社長からほんのお礼です」賢治「ぼくはそんなつもりで」と富田を見ると富田は「君!人間死ぬとき以外は金が役に立つ。邪魔にはならんだろう」景山は「さあどうぞ」と言って、無理矢理賢治の内ポケットに封筒を押し込んだ。景山「お嬢さん何をしてらっしゃるんです。早くお着替えを」圭子は森田に隠れて「私帰りません」景山「お嬢さん。お父様はあなたのことを思えばこそ、わざわざこんなところまで足を運んでこられたんですよ」富田「あしたは津上君に引きあわせる」圭子「あぁ、写真でしか見たこと無いけど、あのにやけた青年実業家ね」富田「とにかく会ってみなさい」圭子「イヤです。先生、私光男さんのそばにいていいですよね?」賢治は押し込まれた封筒を、景山の内ポケットに返しながら「いや、君は一度家に帰るべきだ。ただね、子供が親のそばにいないのやはり不自然だよ。縁談がイヤだったら断る権利だってあるんだし、森田が好きならもう一度じっくりお父さんと話し合って、よく解って貰った方がいいじゃないか」富田「流石は先生。話が解りますな」大介がしゃしゃり出てきて「おっさん森田さんが点取り虫じゃねぇから、圭子さんと付き合うの気にくわねぇってんだろ。けどよ森田さんは立派な点取り虫だぜ。俺が保証する」富田「バカな。落第するような点取り虫がどこにいる」大介「ほんとだって。森田さんは点を取れるようになりてぇって、そりゃ頑張ってんだぜ。ばっちりトライ決めてぇってよ」富田「ラグビーの話か。あんなもんはバカのすることだ。昔っから相場は決まっておる。大体スポーツは頭の悪い奴がやるもんだ」賢治「それは断じて違いますよ!選手は自分にボールが来たらどうするか。相手のディフェンス、見方のサポートの状況、自分の位置、風向きまで一瞬で頭の中で読み切って、走るか、蹴るか、パスするかしなきゃならないんです。0.1秒ですよ。ラグビーは頭を使わなければ出来ないんですよ。ラグビーは綿密な判断力と、豹のような行動力が同時に要求されるんです。それを志してる森田が、どうしてバカなんですか!?」富田「君とラグビー談義をしている暇はない。景山、早く」景山「はっ。お嬢さん、車を待たせてあります」圭子「言ったでしょう。私は帰らないって」景山「さぁ早く支度を」と詰めよると大三郎が「ちょっとちょっと、営業妨害止めてもらえませんかね。おたくが社長で実業家なら、俺だってラーメン屋経営してる実業家だ。ここは俺の城だ。バタバタされると客の迷惑なんですよ」この隙に圭子が奥の部屋に逃げると、景山が「お嬢さん」と追いかけた。大三郎「そっから奥行くと住居不法侵入で訴えるぜ」景山「なにー!」富田がコップを割る。大三郎「器物破損。ますます問題だな」景山「社長。これは手間取りそうです。もう参りませんと」富田「圭子が素直に戻らんのは、あんた方が余計なことを吹き込んでるからに違いない。しかし、娘は必ず連れ戻す。連れ戻さなければ、私の責任が果たせない」賢治「責任って?圭子さんを連れ返さないと誰かが」富田「いや何でもない。君には関係ないことだ」景山を施して店を出で行った。
脳腫瘍の手術は行ったものの、何一つ手が付けられぬまま、確実に死が控えているというイソップ。面会時間は当に過ぎていたが、賢治は病院に駆けつけずに入られなかった。病院に着くと入口でイソップの父と出会った。父「わざわざどうも」賢治「あはっ。何もしてあげらるわけではないんですが、じっとしていられなかったもんで、それで浩君どうです?」父「はっ、今よく眠ってます。医者は1ヶ月もすれば退院できるだろうとおっしゃてました。しかし、問題はそれからなんですよ。浩は何ヶ月か先の死を控えたまま、生きることになるんです。先生、どんなことがあっても浩には知られないよう、約束して頂けますね」賢治「勿論です。事実を知れば浩君がどんなに苦しむか。僕は今まで通りごく普通に浩君と接するつもりでいます。残された日々を少しでも充実したものに。僕に出来るのはそれだけです」父「ありがとうございます」
イソップが帰ってきた。イソップはみんなの練習が何よりの快気祝いになると言った。イソップは練習を見ていて、大介がボールを途中で見放したのを叱責した。「大木君!どうしてボールを最後まで追っかけないんだ!」大介「今のはどうせタッチ割るってわかってたからよ」イソップ「ボールが生きてる間はベストを尽くさなきゃ。最後まで諦めちゃダメだよ」大介「うっせえなぁ、いちいち」イソップ「小さな一つ一つのプレーが大事なんだよ。先生がいつも言ってるじゃないか。どんなことがあっても諦めない心。それが大きな勝利に繋がるんだって。例え負けると解っている戦いでも、最後の最後まで戦い抜く。それが男だろ!ラガーマンだろ!」大介「参ったなぁ。以後気を付けます」賢治「俺が言いたかったこともイソップと全く同じだ。付け加えることは何一つ無い」イソップ「よし練習を続けよう」練習に戻りながら大介は「イソップの奴、手術で頭切ったら前より元気になりやがったなぁ」この少年は何ヶ月か後には、地上には居ない。賢治にはどうしても信じられなかった。
昭和54年12月20日。イソップは病院へ検診に行った。イソップ「じゃぁ明日から走り回って良いんですね」医者「ああ。運動したければいくらやっても良いよ。ところで今日から薬ちょっと換えるからね」看護婦「はいこれよ」イソップは渡された薬を見て愕然とした。この時、浩は知ったのである。自らの命が数ヶ月に過ぎないことを。イソップは賢治の家を訪ねた。しかし、賢治は勝又と会うため遅くなると、節子から聞き帰っていった。
賢治と勝又は喫茶店で練習試合の調整をしていた。勝又「レキザン高校との試合があるのですが、川浜さんとはその後どうでしょう?」賢治「じゃ一高さんにとってはダブルヘッダーじゃないっすか」勝又「ご心配なく。内の選手はタフですからね。ダブルヘッダーでもまだまだ川浜さんには。いや、しかし私も辛いですなぁ。又あなたを悔し涙に暮れさせるのかと思うと」賢治「ええ。泣かせて貰いますよ。勝ってうれし涙でね」勝又「あはは。それよりお宅のイソップ君良かったですねぇ。元気に退院したそうで」賢治「はぁ」
その頃イソップは河原で泣き崩れていた。ふと土手に目を向けると森田と圭子が仲むつまじく歩いている光景を見た。(森田たちの会話)森田「暴力団を使ってでも、君を連れ戻すって言うの」圭子「父は紳士よ。それほど野蛮じゃないわ。でも周りの者が気を使って、それくらいのことはやり兼ねないのよ」森田「くそー。圭子をどこへもやるもんか。俺は戦うぜ」圭子「そう。じゃ戦って貰おうかな?」二人は手をつないで土手を走るのであった。一度でいい。自分も恋をしてみたい。浩はそう思った。そして、ある人に告白しようと決めたイソップであった。
翌朝イソップはその人の前で告白した。イソップ「加代さん。僕あなたが好きです・・・・・・・。いつだって僕に優しくしてくれましたね。だから僕」加代「どうもありがとう。とってもうれしいわ。でもわたし・・・」イソップ「いいんです。ごめんなさい急に変なこと言っちゃって」加代の前から駈けだした。賢治とバッタリ出会った。「おお、イソップきのう家に来たんだってな。何か要か」イソップ「別に」賢治「別にって何か要があるから来たんだろう。なんだ?」イソップ「何でもありません」賢治「何でもないって時は、たいてい何かあるもんだ。話してみろよ」イソップ「お話ししたってどうしようもないことなんです」イソップは走り去った。賢治「おい!イソップ!」加代「イソップ何かあったんでしょうか?」
賢治は心配になり、甘利と一緒に奥寺家を訪ねた。賢治は父親に「今日は授業にも、練習にも出てきませんでした。退院してきた日には、あんなに張り切ってた浩君なのに。この変わり様は、ひょっとして自分の死期を知ったんじゃないでしょうか?それで思いあまって僕の家に来たのでは」父「先生。とぼけないで下さいよ」賢治「とぼけるって何をですか?」父「あれほど約束しておきながら、先生、浩に話したんですね」賢治「いいえ僕は絶対に!」父「だってその他に考えようが・・・」そんな時、イソップは母親の制止を振り切り、父親の財布を持って家を飛び出した。イソップは自暴自棄になり街でビールを飲み歩いていた。賢治と甘利がイソップの行方を追って街へ探しに来た。イソップは見つからないように物陰に隠れた。賢治たちが通り過ぎるのを見計らって歩き出すと、街の不良共に出くわした。父親の財布から金を抜き取られた。イソップは不良共の後を着いて行き、トルエン遊びにふけった。その夜、浩は帰らなかった。
イソップは部室に黙って入っていた。森田と加代に見つかると逃げ出すように部室を後にした。玄治の財布から一万円札が抜き取られていた。それを見たと言った森田に大介は殴りかかった。加代も同じことを賢治に話した。玄治はその場を繕うために間違いだったと部員らに言った。大介は賢治に「先生。イソップの脳腫瘍、良くなってねぇんじゃねぇのか?良くなるどころか、万一ってこともあるんじゃねぇのか?どうなんだよ。どうなんだよ先生!(無言の賢治を見て)やっぱりそうかよ。奴の近頃の様子は、どう考えたって普通じゃねぇよ。暗い目しやがって、俺にも碌に口も聞かねぇしよ」森田「俺もなんだか変だと思ってたけど、不良と付き合ってるって噂もあるし」加代はイソップが何故自分に告白したか今になって気づいた。加代「あの子、自分が死ぬと解って」森田「どうしたんだよ」加代「ううん。何でもない」
賢治、甘利、大介は明子と清美の情報から、トルエンを買うために金がいることが解った。大介はトルエン売っているところなら心当たりがあると、その店に出向いていった。外から覗くとイソップがカウンターに腰を下ろしていた。早速甘利が乗り込もうとすると大介は「先生、まだはええよ。トルエンの実物押さえなきゃ、今のイソップは、僕知りませんなんてとぼけるぜ」イソップは待ち合わせた男に金を渡すと、引き替えにコインロッカーのキーを受け取った。大介は「サツを警戒してブツは直には売らねぇもんなんだ」と言った。賢治らは駅に向かうイソップの後を尾行し、コインロッカーからトルエンを取り出す現場を押さえた。賢治はイソップに事情を聞いた。イソップ「放っておいて下さい。僕の体は冬なんです。おしまいなんです」賢治「誰に聞いたんだ?」イソップ「余り生きられないってことをですか?(うなずく賢治)死神にです」賢治「死神?」イソップ「病院でそう言うあだ名の患者さんに会ったんです。その人もう持病で3年も入院していて、他の患者が何人も死んで逝くのを見ているうちに、誰がいつ死ぬか予言できるようになったんだそうです」
回想シーン:死神「あの人、長かないよ。早くて一週間、持っても二月」イソップ「あんなに元気そうなのに?」死神「あの薬で解るんだよ。悪性腫瘍の患者で先のない者に限って、いつも医者があの薬を渡すんだ。専門的なことはワシも解らんが、この病院じゃ"K-16"って口調で呼ばれている。この秘密はな、ワシしか知らんのだ」イソップ「K-16」
イソップ「予言通り、その患者さんは十日後に亡くなりました。そしてその同じ薬が僕にも・・・・・。先生。僕、死ぬ覚悟は出来てます。でも、一つだけ教えて下さい。人間は何のために生きてるんですか?」それは賢治にとってあまりに強烈な問いかけであった。すぐに責任ある回答が出来る事柄ではなかった。イソップ「僕、安らかに死ねるものなら、いつ死んだっていいんです。でも、今まで何のために生きてきたのか、それが解らなければ、残された時間どうやって過ごしていいんだか解らないんです。甘利先生教えて下さい。教えて下さい」大介「先生たち困らせんじゃねぇよ。人間は生きてるから、生きてんだよ。犬や猫だって、生きてる理由なんて考えなくたって、立派に生きてるじゃないかよ」イソップ「僕は犬猫じゃない!訳の分からないまま死ねないんだ!」大介「俺はお前に何もしてやれねぇ。せめて残った日楽しく過ごせ」そう言ってトルエンを渡した。イソップ「大木君」イソップはトルエンを受け取り立ち去った。賢治「大木!」大介「あいつには希望ってもんが何もねぇんだ。先生たちだって、もうすぐ死ぬって言われたらどうするよ!何もかも忘れてぇって気持ちになるのも無理ねぇよ!」甘利「お前!トルエン漬けのままイソップ死なせたいのか!」大介「何のために生きてるかそれさえ応えらんないあんたに、そんなこと言えんのかよ!それでも教師かよ!」甘利「なに!」賢治「言い争ってる場合じゃない。イソップは生涯のすべてを賭けて、さっきの問いを話したんだ。我らにはそれに応えてやる義務がある」
職員会議でもこの議題で収拾が着かないでいた。山城は「みなさん。私もその昔死について考えさせられたことがあります。私はその時少年航空兵でした。私は、八紘一宇(はっこういちう)とか大東亜共栄圏とか、そんな標語のために志願したのではありません。ただ空襲から父母や兄妹たちを守りたかった。そして、解ったのです。人間は、正義とか人道とか言う、単なる抽象的な言葉のためには、絶対に生き死には出来ないんです。ですが、妻や子供たちのような手触りのある、具体的な愛する者のためになら死ねる。奥寺浩はこれまで何を愛してきたか。それは・・・ラグビーのはずです」賢治「じゃ先生は彼に、もう一度ラグビーに打ち込ませろ。そうおっしゃるんですか?」山城「最後の幸せな日々を送らせてあげる手だては、他に無いじゃないか!何としてもそれをやるんだよ!」
だが賢治は、イソップに何と言って働き掛けるべきか、とうてい自信がなかった。思案しながら帰宅すると、節子とゆかりが花壇で何かしていた。賢治は「おい。お前たち何やってんだ?」節子「ゆかりの金魚さんが死んじゃったの。・・・・・金魚さんの魂はね天国に行ったのよ」ゆかり「ママ、魂ってどんな形してんの?」節子「どんな形って・・・。うーん、目には見えないものだし」ゆかり「ゆかり知ってるもん。ボールみたいな形してんでしょ」節子「どうして?」ゆかり「ボールって玉でしょう。だから魂って言うんでしょう」節子「ゆかりったら」賢治はただ二人の会話を聞いていた。
圭子が出前の帰りに捕まり、景山から「社長があなたのお生まれのことで、重大なお話しがあるそうです。帰って頂きます」それだけ言って車に圭子を押し込んだ。
賢治はイソップを強引にグラウンドへ連れてきた。
賢治「イソップ。俺は人間の生き死にについて、ラグビーを基準にしてしか考えられん。いいか、このボールがお前の魂、お前の命だとする。座るんだ。いいか、このボールがこの線の内側にあるときボールは生きてるな。つまり生の世界だ。こっち側は死の世界だ。この線は生と死の境目ってわけだ」
イソップ「先生、何が言いたいんですか?」
賢治「人間は死なないってことをだ。死ぬにしてもほんの一瞬の間だって言うことだ。死ぬってのはな、ボールがこう、この線を越えるようなほんの僅かな間のことだ。しかし、人間は生きているうちから死を恐れるあまり、心まで死んでしまうんだ。今のお前がそうだ。イソップ。お前に命は今どのあたりにある。まだこのあたりだろ!」
イソップ「それが人間は何のために生きてるかって言うことの答えですか?」
賢治「その答えは、お前がすでに自分で出してるじゃないか」
イソップ「僕が?」
賢治「思い出して見ろ。こないだお前は言ったじゃないか」
イソップの回想「ボールが生きてる間はベストを尽くさなきゃ。最後まで諦めちゃダメだ」
賢治「お前はこうも言った」
イソップの回想「例え負けると解っている戦いでも、最後の最後まで戦い抜く。それが男だろ!それがラガーマンだろ!」
賢治「お前はラグビーについて言ったことを、生き方においてもやれるはずだ。俺は敢えて言う。人間の運命は生きることだ。そして何のために生きるか。それは、愛すべきものを愛して戦うためだ。少なくとも俺にとってはそうだ。だから俺は一生懸命生きる。イソップ、勝つと解っている戦いなら誰でも戦う。しかし、負けると解っている戦いに出ていく。そして最後まで戦う。人間は誰でも死ぬんだ。残された時間を燃焼しろ。そこにお前の命の輝きがあるんだ!イソップ・・・・」
イソップ「先生。僕ダメです」
賢治「何がダメなんだ?」
イソップ「僕、何よりもトルエンが気持ちよくなってしまってるんです。僕、もうどうだっていいんです」
不良共がイソップを迎えに来た。女「トルエンあるよー」
賢治「イソップ行くんじゃないぞ。(駆け出すイソップ)イソップ!振り返るんだー!!お前はこのボール。この命をどうするんだ。追わないのか。諦めていいのか」ボールがラインを転がる。するとイソップは必死になってボールをつかんだ。
イソップ「先生!僕、トルエン止めます」
賢治「イソップ」
不良男A「なんだいてめぇ」不良女「おいでよ。この味(トルエン)忘れたの?」
賢治「お前たちは帰れ!」不良男A「この野郎!ヤル気かよ」
大介「先生に手出すんじゃねぇ!ケンカなら俺が相手だぜ」
不良男A「大木!暴力事件起こしたら、ラグビー部は対外試合禁止じゃねぇのかよ」
不良男B「いいのかよ。そうなったら打倒相模一高もヘチマもねぇぜ」大介は辛抱し殴られた。しかし、我慢できず
大介「試合なんかどうでもいい」
賢治「大木止めろ!止めるんだ。仲間のことを考えろ。試合禁止だけは、どんなことがあっても避けねばならんのだ」
不良男A「何言ってんだよ!」男Aは賢治を殴り、蹴り飛ばしたが、賢治はビクともしなかった。賢治は唾を吐き
賢治「帰れ。お前たちは帰れー」男Aは賢治を角材で殴りかかろうとした。すると、バケツに入った水が不良共に浴びせられた。
大三郎「俺は手打ちラーメンを伸ばすのが商売だけど、人間叩き伸ばすのだってまんざら知らねぇわけじゃねぇんだ。学校のもんじゃねぇから、今俺がてめら叩き伸ばしたってラグビー部に迷惑は掛からねぇんだ。さぁ誰から掛かってくる」
男A「チキショー」と捨て台詞を残し、不良共はバイクにまたがって去って行った。
大三郎「先生ケガは?」
賢治「大丈夫です」
大介「マスターどうしてここへ?」
大三郎「いや、俺いつも銭湯行く時な、ここ通らして貰ってんだい」
賢治「(大介に)お前も大丈夫か?」
イソップ「先生。僕先生の話し聞いたら死ぬのが少しは怖くなくなりました。友達だっているし。僕死ぬまでには何かラグビーのプレイ、何かあと一つぐらい覚えられたらいいな」
賢治「イソップ・・・」
イソップ「これ(ボール)僕の命です。もう二度と離しません」
賢治「イソップ」
翌日から練習に戻ってきた浩の熱心さは、目を見張るものがあった。
賢治「イソップ。ボールはな、卵を運ぶようにそーっと持つんだ。いいな」
イソップ「卵ですね」
この時まだ数名を除いて、大半の部員たちは浩に死期が迫りつつあることを、ハッキリとは知らなかった。
部員A「何か変だな?先生イソップに付きっきりじゃないか」部員B「また一段と優しく教えてるしなぁ」部員C「イソップの奴何かあったんじゃないのか?」
イソップ「先生。みんなに気づかれます。僕もみんなと同じようにシゴいて下さい」
賢治「お前、みんなに心配掛けたくないんだな。よし解った。ビシビシ行くぞ!イソップ何遍言ったら解るんだ。何だその手つきは」
森田「足が遅いんだ。もっと走れ」
大介「何が鬼コーチだ。自分じゃそれぐらいしか動けねぇのか」
森田と大介は涙ながらに、イソップとランパス練習を続けている。
賢治「イソップ!気合いが、気合いが入ってないぞ」
負けると解っている死との戦いに、立ち向かおうとしている少年、奥寺浩16歳。賢治はそこに小さなヒーローの姿を見た。

第13話 力の限り生きた!(脚本:長野 洋 監督:岡本 弘)

光男の恋人富田圭子が拉致されてから一週間が経った。その間に光男は周囲の慰めと励ましを受け、ようやく辛い試練に耐え抜く勇気を回復しつつあった。そしてここにもうひとり、更に過酷な運命に完全と立ち向かっている少年がいた。奥寺浩。イソップとあだ名されるこの少年の命は長くて一年。一つ間違えばあしたにも消え去る運命にあったのだ。ラグビー部の中で、イソップの運命を知る者は、賢治、加代、光男、大木大介、そして他ならぬイソップ自身であった。山城が練習を見に来た。賢治に「おお、やっとるね。・・・・・どうしたんだ浮かない顔して」賢治「本当にいいんでしょうか?」山城「ん?イソップか・・・・・」賢治「ええ・・・。いくらご両親の希望だからと言っても、このままじゃこれじゃ、結局我々がイソップの命を縮める手伝いをしているような」山城「滝沢君」賢治「不治の病だからと言っても、例え一日でもいや一分一秒でも長く生きて貰いたいと思うのが、親の情じゃないでしょうか?違いますか校長」山城「確かにその通りかもしれん。だがね滝沢君、今彼からラグビーを取り上げたらいったい何が残るか。死への恐怖だけだ。そりゃ病院のベッドでじっとしていれば、あと一年ぐらいは持つかも知れない。だがねその一年間、来る日も来る日も死と直面して生き続けることが、果たしてイソップにとって幸せなことなのだろうか?」
賢治「校長」山城「滝沢君。ラグビーを続けることは今やイソップ自身の意志なのだ。そして今、我々が彼にしてやれるたった一つのことは、彼に輝ける死を迎えさせてやることだ」賢治「輝ける死・・・」山城「そうだ。16歳の少年の死はせめて、せめて輝ける死でなければならない。彼自身がデザインしたあのライジングサンのようにな」
イソップ回想「毎朝海から昇る太陽を見ているうちに思いついたんです。僕らもあの太陽のように真っ赤に燃えて昇って行きたいと」
賢治「校長」山城「行きたまえ。イソップに思う存分ラグビーを楽しませてやるんだ」賢治「はい」
賢治は帰りがけに玄治に呼び止められた。美味い地酒があるから寄って行けと言うのだ。賢治は酒に付き合いながら内田親子の会話を聞いていた。勝「よしなよ、ギャーギャー怒鳴んのは。又血圧が上がんぜ」玄治「てやんでぇ」勝「これですからね。俺が仕事するようになってから、すっかり怠け癖がついちまって、困ったもんですよ」玄治「へへへへ。何を偉そうに。お前に仕事を覚えさせようと思っている、このありがたい親心がわからねぇのか」勝「朝から晩までコキ使うのが親心かよ」玄治「それだけ丈夫な体に生んで貰ったことに感謝しろ」勝「はいはい。感謝してますよ」賢治はイソップのことを思いだしていた。賢治「内田。お父さんの言うとおりだ。丈夫な体に生んで貰ったことを感謝しないと罰が当たるぞ」そう言って賢治は帰路に向かった。
自宅に着くとゆかりは寝てしまっていた。今日は間に合うと思っていただけに残念がり、ゆかりの寝顔を見た。賢治は今度の日曜日は休むことにした。相模一高との練習試合も近いが、部員たちの疲れもピークに来ており、休養となりいい結果が出るかも知れない。たまにはゆかりを遊園地にでも連れて行かないと恨まれると思ったからである。
練習中に賢治宛に電話が掛かってきた。ひと月ほど前に、川浜高校のために練習試合を組んでくれた、東都体育大学の糸井永介からの電話であった。糸井「お前今度の日曜日空いてるか?」賢治「えっ!今度の日曜日ですか?」糸井の用件は、日本選抜チーム対スコットランドチームとの、対戦の解説者をやらないかという話しであった。糸井「実は俺が頼まれたんだが、急に用事が出来てダメになった。代わりにやってくれんか。なにがしかの謝礼も出るぞ」賢治「はぁ、申し訳ありませんが今度の日曜日はちょっと・・・折角声を掛けて頂いたのに、本当に申し訳ありません」賢治は電話を切るとグラウンドに戻った。グラウンドでは練習熱心のあまり、ボールが傷んで使えない状態になっていた。イソップが何とか修理をすると言うところへ賢治は「イソップ。お前練習してろ。ボールの心配なんかしなくていい」イソップ「でもボール足りないから」賢治「いいから俺に任せとけ」そう言って職員室に戻り糸井監督に電話をした。さっきの件を引き受けたいと。
帰宅すると節子に「やっぱり。きっとそんなことじゃないかと思ったわ」賢治「ゆかりには話したのか?」節子「話しといてダメになったら可哀想でしょ」賢治「すまん」節子「そのかわり解説、とちったりしないで下さいよ。二人でしっかりテレビ観てますから」賢治「ありがとう」
一週間後、賢治が受けたささやかな謝礼は、5個のラグビーボールに化けた。練習が終わって部員らが部室に引き上げると、真新しいボールを見て大喜びし、ボールを持って又練習に出ていった。が、イソップは行かなかった。賢治「イソップ。お前練習に行かないのか?」イソップ「可哀想だな」加代「えー?」イソップ「コイツ(古いボールを抱えて)もう誰にも見向きもされないなんて。(ボールを磨きながら)お前だってまだまだ役に立つんだよな・・・」来る日も来る日もボール磨きを続けてきたイソップにとって、誰よりも古いボールを愛惜しむ気持ちは当然と言えた。だが今、賢治と加代は、消えかかっている自らの命を、ボールに託しているイソップの姿を見る思いがしていた。加代はそれを汲み取り部室を出ていった。イソップ「僕、山崎さんに悪いこと言っちゃいました。(回想:加代さん僕はあなたが好きです)」賢治「イソップ」イソップ「どうしようもないってことは解ってたんです。言っちゃいけないことなんだってことも解ってたんです。でも僕、言ってしまったんです。先生!僕みたいな人間が、人を好きになっちゃいけないんですか?もうすぐ死ぬ人間が、女の人を好きになっちゃいけないんですか?」賢治「素晴らしいことじゃないか。恋をするってことは素晴らしいことだ。それだけ人生が豊かになる」イソップ「でも山崎さんにとっては、きっと迷惑だったと」賢治「迷惑?」イソップ「ええ。あの人、他に好きな人がいるんです。相手が誰か知りませんけど僕には解るんです。山崎さん誰かに恋してるって。でももういいんです。山崎さんには迷惑かけちゃったけど、僕、自分の気持ち伝えられてとってもスッキリしっちゃったから」賢治「イソップ」イソップ「でもやっぱり悪いこと言っちゃったかな?気にしないでくれるといいんだけど」加代はこの話しを聞いてしまった。加代は河原まで走って来た。賢治も河原までやって来た。加代「お話って何ですか?奥寺君。彼のことなんでしょう?」賢治「山崎。お前イソップのことを」加代「先生。私、彼にこう言ったんです。女の子だったら誰だって、好きって言われたらうれしいものだって」賢治「山崎」加代「ウソじゃありません。私だって彼のこと好きだし、出来るだけ優しくしてあげたいと思います。でも、私が好きだという意味は」賢治「解ってる。君には誰か、好きな人がいるんだってな。そうなんだろう・・・・・山崎」加代「私にどうしろって言うんですか?もうすぐ死んでいく人に、私もあなたのこと愛してるわって・・・。残酷です。そんなこと言ったら、かえって彼を傷つけるだけです。そうでしょう?私だって同じです。どんなに好きな人でも、その人が私のために、口先だけで愛してるって言ってくれても、きっともうれしくありません」賢治「山崎・・・・。君は」加代「奥寺君のことは心配しないで下さい。今まで通り振る舞うつもりですから」加代はそう言い残して帰っていった。
この光景を大三郎が見ていた。賢治「下田さん」大三郎「なんかあったんですかい?なるほどね。思う人には思われず。思わぬ人になんとやらって。世の中ままならねぇもんすね。でもね先生。あんたも随分鈍い人ですね」賢治「はぁ?」大三郎「はぁ?じゃねえでしょう。あの加代って子が本当に好きな相手は誰なのか、ほんとに解ってねぇんですか?」賢治「それは・・・・・」大三郎「そう。あんたですよ」賢治「でも私には・・・」大三郎「そう。あんたには立派な奥さんとかわいいお嬢ちゃんが居る。だからどうしようもない。そりゃあの子だってちゃんと解ってますよ」賢治「下田さん。私はいったい」大三郎「まぁ普通にしてりゃいいんですよ」賢治「普通に」大三郎「それしか手がねぇんじゃねぇんですか。まぁあっしに言わせりゃ、あの子が先生に寄せてる思いも、イソップがあの子に寄せてる思いも、本物の恋と言うよりゃ、あこがれに近けぇんじゃねぇんですかね。人間誰でも、若い頃そういう甘酸っぱい思いでの一つや二つ、持ってるもんでしょう。でしょ?そうやってみんあ大人になって行き、そのうち本物の恋の相手に巡り会って」賢治「しかし、イソップには・・・・。もうその時間はありません」
大三郎は加代に店を手伝って貰うようトレードした。
賢治は帰宅して相模一高との試合のシミュレーションを練っていた。節子「どう今度は少しは上手く行きそう?」賢治「難しいな。どうやっても歯が立つ相手じゃない」節子「そうやっぱりダメなの」賢治「しかし、選手たちの気持ちはこの間とまるで違ってる。技術面ではまだまだでも、精神面では決して引けを取らないはずだ」賢治「だったら、チャンスあるんじゃない?」賢治「チャンス?」節子「だって相手も同じ高校生だし、人数も同じ15人ずつで戦うんですもの。弱気にさえならなきゃ、きっといい試合するんじゃない?」賢治「そうだな。いい試合やって貰いたいよ。イソップのためにもな」節子「その子、本当に望み無いの?そう・・・・。ねぇ、その子を試合に出してあげるわけには行かないの?」賢治「試合に?」節子「ん。これまでずっと縁の下の力持ちで、部のために尽くしてきた子ですもの、せめて一度ぐらいは試合に」賢治「無理だ」節子「無理?」賢治「ん。出してやりたい気持ちは山々だが、そんなことをすれば相手のチームに対して失礼なことになる。試合をやる以上、ベストメンバーで望む。それが礼儀ってもんだ」イソップを試合に出してやりたいと思っているのは、賢治の妻節子のみならず、彼の病状を知る者にとって共通の願いであった。
大介「どうしてもダメなのかよ」賢治「ダメだ」森田「でも先生」賢治「ダメだと言ったらダメだ。イソップひとりのために、チーム全体のバランスを崩すことはできん。第一そんなことしてもイソップが喜ぶはずはない。もしイソップをメンバーに加えたとしても、それは同情。いや哀れみ以外の何者でもない」大介「哀れみ?」賢治「そうだ。そんなことをしてイソップが喜ぶと思うのか?」森田「そうか。かえって傷つくかも知れないな」大介「解った。要するに俺たちがイソップの分までがんばりゃいいってことだ」賢治「そうだ。それがイソップにとっての一番の喜びなんだ。解るな。さぁ練習だ。気合い入れてけ」森田と大介は練習を始めた。
イソップは部室で加代と一緒に、自らデザインしたライジングサンのマークをジャージに縫い付けていた。加代「結構やるじゃない」イソップ「小さい頃、家庭科の成績はいつも良かったんですよ」加代「へ〜」イソップが指に針を刺した。加代「はっ。大丈夫?」イソップ「ええ」加代「血が出てるじゃない!」加代はそう言ってイソップの指を自分の口に寄せた。加代は絆創膏を貼ってやり練習に行くように言った。イソップは部室から出ようとした途端に倒れてしまった。
イソップは集中治療室に運ばれた。賢治、加代それと校長が詰めかけた。イソップの父親が治療室から出てきた。山城が「お父さん、浩君は?」父「あっ、はい。もう一度手術をします」山城「再手術」父「ええ、望みは万に一つしかありません。しかし、このまま手をこまねいているよりはと」山城「そうですとも。万に一つの望みがある限りやるべきです。世の中に奇蹟ってものが無い訳じゃない。神様が浩君のようないい子を、お見捨てになるはずがない。そうだろう滝沢君。そうだろう山崎。みんなで奇蹟を信じようじゃないか。な。それで手術はいつ?」
賢治は学校に戻った。大介「今夜!イソップの奴、今夜もう一度手術するのかよ」森田「なんてこった。もう一日元気でいてくれたら、あしたの試合見られたのに」賢治「試合は見られなくても結果は報告してやれる。手術が無事に終われば、あしたの夜結果を報告してやることは出来るだろう。いいかこの間のようなみじめな試合じゃ、とても恥ずかしくて結果は報告できんぞ。今から最後の仕上げだ。いいな!」部員一同「はい!」練習が終わって賢治、森田、大介、加代が病院に駆けつけた。手術は長時間に及んだ。イソップを心配しみな帰ろうとはしなかった。しかし、あしたは相模一高との練習試合である。森田らの体を気遣い賢治も帰ることにし病院をあとにした。賢治は仮眠の中で夢を見ていた。イソップが相模一高との試合でトライを挙げた夢だ。それと同時に電話のベルがけたたましく鳴った。山城からの電話であった。「いかん。もう時間の問題だ」賢治「なんですって」賢治は病院へとタクシーを飛ばした。賢治「校長!」山城「滝沢君。遅かった。もう意識が・・・」賢治は居たたまれなくなって治療室に飛び込んだ。賢治はイソップに呼びかけた。
「イソップ、イソップ死ぬんじゃないぞ。死ぬんじゃないぞイソップ。(イソップの手を握り)もうすぐ試合が始まるんだ。聞こえるか?もうすぐ試合が始まるんだ。それまで頑張ってくれ。頼む。頑張ってくれ。イソップ。イソップ!イソップ!」父「止めて下さい。この子はもう何も見ることも、聞くことも・・・」しかし、賢治は必死にイソップに呼びかけた。「イソップ。目を開けてくれ。お前がデザインしたマークを付けた選手たちが、戦うのを一度でいいから見てくれ。イソップ!あのライジングサンのマークを付けた選手たちが、お前のために戦うんだぞ。イソップ」イソップは微かに反応した。賢治の手を握り返したのだ。「解ったんだなイソップ」そしてイソップは微笑みを浮かべた。母「笑ってるわ、この子笑ってるわ」賢治「イソップ」
それは一つの奇蹟であった。もはや全く意識の無いはずの少年が、賢治の必死の呼びかけに微かな反応を示したのだ。だが奇蹟はそこで終わった。賢治「イソップ。イソップ」母「浩、浩、浩」医者「ご臨終です」父「ありがとうございました」母「ひろしーーー」(死亡推定時刻は、昭和56年10月4日午前4時20分頃、治療室の時計より計算)
賢治はひとり、病院の屋上に上がった。イソップの死を悲しみ、そして悔やんだ・・・・・・。船の汽笛が聞こえた。朝日が昇ってきた。朝日に重なってイソップの言葉が甦ってきた。

回想:毎朝海から昇る太陽を見ているうちに思いついたんです。僕らもあの太陽のように真っ赤に燃えて昇って行きたいと。
賢治「イソップ」
山城「遂に奇蹟は起きなかったね」
賢治「奇蹟は起きます。きっと起こして見せます!相模一高に勝ちます!」
山城「滝沢君」
賢治「イソップのために、イソップのために必ず勝ちます!」
賢治は学校に行き部員らにイソップの死を報告した。そして「いいか。お前たち一人ひとりの後ろにはイソップついてる。苦しいときにはイソップの顔を思い出せ。歯を食いしばって、練習に耐えてきたイソップの顔をだ!いいな!」部員一同「はい!」賢治「じゃ出発する」

第14話 一年目の奇跡(脚本:長野 洋 監督:山口和彦)

「イソップ、イソップ死ぬんじゃないぞ。死ぬんじゃないぞイソップ。(イソップの手を握り)もうすぐ試合が始まるんだ。聞こえるか?目を開けてくれ。お前がデザインしたマークを付けた選手たちが、戦うのを一度でいいから見てくれ。イソップ!あのライジングサンのマークを付けた選手たちが、お前のために戦うんだぞ」
川浜高校1年、奥寺浩。イソップと呼ばれたこの少年が、あまりにも短い生涯を終わった日は、川浜高校ラグビー部が、強豪相模一高に戦いを挑む当日でもあった。
賢治「いいか。お前たち一人ひとりの後ろにはイソップついてる。苦しいときにはイソップの顔を思い出せ。歯を食いしばって、練習に耐えてきたイソップの顔をだ!いいな!」部員一同「はい!」賢治「じゃ出発する」拍手で教師たちに見送られる部員らであった。大介一人が正門の前で立ち止まった。加代「大木君」大介「先行っててくれ」加代「でも・・・」大介「時間までには必ず行く。頼む。ちょっとの間一人にさせてくれ」加代「わかったわ」大介は一人になった。
回想:賢治「お前の挙げるトライはイソップのトライだ。お前に決めるゴールキックはイソップのキックなんだ」大介は賢治の言葉を思いだしていた。
イソップの死は、彼を知るすべての人に大きな衝撃を与えたが、中でも最も痛烈な痛手を受けたのは、大木大介である。かつて川浜一の"ワル"と呼ばれた大介にとって、イソップは掛け替えのない心の友だったのである。
回想:イソップ「大丈夫?」大介「それよりお前の方こそケガしなかったか?」イソップ「僕は平気さ」大介「ふーん。しかし、お前も奇妙な奴だな。なんだってあんなとこに飛び込んできたんだ?」イソップ「さぁ?どうしてだな。自分でもよくわかんないけど、きっと君が可哀想になって」大介「なんだと!てめえ!俺があんな奴らに負けるとでも思ってるのか!」イソップ「そうじゃないよ」大介「だったら何なんだよ」イソップ「だから、どう言ってわかんないけどさぁ、君いつも寂しそうだから」大介「寂しい?俺が?」イソップ「君、いつもケンカばかりしているだろう。でもケンカに勝ってうれしそうな顔した君、見たことないもん。そんな君見ると、君も僕と同じ寂しい人間じゃないかと思って」大介「奥寺。お前も寂しいのか?」うなずくイソップ「お前勉強もできるし、先公や仲間の受けだっていいじゃないかよ」イソップ「受けがいいんじゃない!同情されてるだけさ。あいつはイソップ物語に出てくる、痩せたキリギリスみたいに哀れな奴だってね。そりゃ僕は小さい時から体が弱くて、腕立てや懸垂は一回もできなし、運動会じゃいつもビリッカスだった。でもだからといって人に同情されんのはイヤなんだ。ううん。同情何かじゃない。ほんとはみんな僕のことをバカにしてるんだ」
その言葉は大介の胸にグサリと突き刺さった。中学時代からすでに川浜一の"ワル"と恐れられた大介も、また彼を恐れるすべての人々が、心の底では彼を軽蔑しきっていることを、痛いほど感じ取っていたのだ。
大介「イソップ!どうやら俺とお前は似たもの同士らしいな」イソップ「そうだね」
大介が追憶に慕っていると、大三郎がバイクに乗ってやって来た。
大介「マスター」大三郎「何やってんだこんなとこで。そうか。イソップのことか?」大介「ああ。あいつがいなけりゃ、この学校に来ることもラグビーやることも無かったもんな」
回想:大介「お前川浜高校受ける気かよ?」イソップ「うん」大介「よっせよぉお前。あそこは川浜一柄の悪い、まぁ俺が言うのも何だけどよ評判の悪い学校だぜぇ」イソップ「知ってるよ。だけど川浜高校には滝沢賢治が居るんだ」大介「滝沢?誰なんだそいつ?」イソップ「ラグビーの元オールジャパンの名フランカーさ」大介「フラン?何だいそりゃ?」イソップ「フォワードのポジションだよ。滝沢賢治は現役時代、自分の守るサイドは一度だって抜かれたこと無かったんだぜ」大介「なんだかよくわかんねぇけどよ、とにかくそいつが先公の中にいるってんだな」イソップ「ああ、だから僕、川浜高校に入学したらラグビー部に入るんだ」大介「おい、お前気は確かかよ?ラグビーってぇのはすげえハードなスポーツだろうが。お前みたいな奴が入ったって、選手になれるわけねぇだろ」イソップ「そんなことは解ってるよ。でも僕はラグビーが好きなんだ。あれこそ男のスポーツだよ」大介「男のスポーツねぇ」イソップ「君も一緒にやんない?」大介「冗談じゃねぇよ。俺は高校に行く気なんてねぇし、ましてやラグビーなんてバカバカしいもの、やろうなんて気、かけらもねぇんだよ」イソップ「どうして?ケンカなんかより、ずーっとスカッとすると思うけどな」大介「バーカ。俺は別にスカッとしたくてケンカしてる訳じゃねぇよ」イソップ「じゃどうしてケンカ何かするのさ?」大介「よーく分かんねぇけど、やたらと腹の立つことが多いからよ。俺だって好きでぐれたわけじゃねぇよ。けど、親父が俺たち家族を捨てて蒸発してから、世間の奴ら色メガネで見るようになった。サツや先公もそうだ。何か一つ無くなると真っ先に俺のことを疑いやがる。だからよ、どうせそんな目で見られるんだったら、いっそご期待通りのワルになってやろうって決心したんだ。人目避けてコソコソ暮らすより、ワルでもいいから目立ってた方が気分いいもんな。と言うわけでもうすぐお前ともおさらばだ。なんだよそんな悲しい顔するなよ。解った。例え俺が高校へ行かなくても、お前が誰かにいじめられてたらすぐに飛んでいってやるからよ」イソップ「そんなことしてくれても、ちっとも嬉しくないや。僕は君と一緒に高校に行きたいんだよ」大介「無理だって。第一俺の頭で高校に入れるわけねぇだろ」イソップ「どうしてそんな負け犬根性になるんだ」大介「何だと!負け犬根性とは何だ!イソップ「だってそうじゃないか。やりもしないうちから、ダメだと諦めるのは負け犬根性だ」大介「何だと!(イソップの胸ぐらを掴む)」イソップ「殴ってもいいよ。でも、気の済むまで殴ったら、そのあと一緒に受験勉強しよう。ね」
結局あいつに馬馬と乗せられて、試験受ける羽目になったんだけどよぉ、まさか受かるとは思わなかったよ」大三郎「だがお前は受かって、イソップと一緒にこの学校へ入った。そして、ラグビー部にも入った」大介「ああ・・・。まるで俺はあいつの操り人形さ。何でもかんでもあいつの思い通りになっちまった」大三郎「操られたこと後悔してんのか?」大介「(首を横に振り)あいつがいなけりゃ、俺なんて今頃鑑別所暮らしよ。・・・・・・・・・・けど・・・、これからって時に。勝手に死んじまいやがってよ。ちきしょう。何だって一人でサッサとよ。バカ野郎。イソップのバカ野郎。マスター2・3発ぶん殴ってくれねぇか。このままじゃイソップの顔がちらつきやがってよ、試合にも何もなりゃしねぇよ。頼む思い切りぶん殴ってくれ」大三郎「いいだろう。但し俺の一発はかなりきくぞ」大介「頼むぜ」(大三郎が思い切り殴る。大介はすっ飛んだ)大三郎「どうだ(大介に手ぬぐいを渡す)」大介「目覚めたぜ(口から出た血を拭う)」大三郎は大介をバイクに乗せ相模一高まで送ることにした。
一高のグラウンドでは、各選手がウォーミングアップしている。勝又監督が賢治に歩み寄ってきた。「滝沢さん。イソップ君のことは聞きました。お気の毒です」賢治「どうも色々とありがとうございました」勝又「しかし試合は別です。同情して手を抜くようなことは絶対しませんから」賢治「勿論望むところです。こちらも力一杯ぶつからせてもらいます」大介が到着した。大介「遅くなりました」勝又「じゃ、始めましょうか」賢治「はい」握手が交わされ試合は始まった。
その日川浜高校の凄まじいファイトの前に、さしもの相模一高も苦戦を強いられていた。ノットリリースザボールで大介は反則をとられた。賢治「大介!一人でラグビーやろうと思うな!」
回想:イソップ「ラグビーの基本精神はね。One for All All for One なんだよ。ねえ解る?ラグビーに一人のヒーローはいらない。全員がヒーローにならなきゃ勝てないんだよ」大介「へぇへぇ。左様でございますか」
一高が最初のトライを挙げた。だが一旦試合の流れが変わると同時に、実力の差がハッキリと現れ始めた。前半を終わって10対0。あの109対0の屈辱の大敗に比べば、見違えるほどの善戦であったが、選手たちの気持ちは早くも重苦しく沈み込んでいた。
加代「何みんなしょげてんのよ。まだ前半終わったばっかじゃない。それもたった10点しか取られて無いのよ。この間なんて前半だけで67点取られてんのよ。それに比べたら上出来じゃない」森田「けど、俺たちが0であることにはかわりねぇよ。俺たちはいつまで経っても0だよ!」丸茂「チキショー。どうして勝てねぇのかな?」加代「何!そんな弱気でどうするのよ!」大介「俺が悪かったんだ。俺が先制のチャンス逃しちまった」賢治「その通りだ。お前が試合の流れを変えたんだ」加代「先生、そんな言い方したら大木君が可哀想です」星「そうですよ。誰んだってミスはあります」賢治「そうだ。誰だってミスはする。しかし、問題はそのミスを次にどう生かすかだ。だが今のお前たちは、たった一つのミスにもう戦う意欲をなくして、負け犬根性の虜になりかかってる。そんなことでどうするんだ。そんなザマじゃお前たちの0更新はいつまで経っても終わらん。イソップが泣くぞ。貴様らの情けない姿を見て、イソップが泣いてるとは思わんのか」大介「先生教えてくれ!どうやったら勝てるんだ。どうやったらイソップ泣かせずに済むんだよ」賢治「簡単なことだ。弱気にならずに、今までやって来たことをそのままやればいいんだ。大介。お前は自分のミスを認めた。たった一つのミスが、試合の流れを大きく変えることを知った。そうだな。だったら、そのミスを後半に生かしてみろ。いいか、今度ボールを持って走るとき、お前の後ろには14人の仲間がいることを忘れるな」大介「15人だ。イソップも俺の後ろを走ってる。いや俺と一緒に走ってるんだ。そうだろ先生」賢治「そうだ。その通りだ」大介「やってやるぜ。このまんまじゃイソップに会わせる顔ねぇよ」ホイッスルが鳴り後半戦が始まった。東亜日報の木村がやってきた。賢治「あっ木村さん」木村「頑張ってるじゃないか。差詰めイソップの弔い合戦ってとこかな」賢治「ご存じだったんですか?」木村「フフ、俺はブンヤだぜ。見せてやりたかったんだろうなこの試合」賢治「見てますよ。きっと」加代「いけー」賢治がグラウンドに目を向けると森田がトライを挙げた。一高からの初めてのトライである。惜しくもゴールキックは角度的に厳しく失敗に終わった。10対4。試合の模様は甘利によって、寺院に集まる先生、そしてイソップに伝えられた。居たたまれなくなった大三郎、玄治と勝はグラウンドに向かった。そしてまたも川浜高校がトライを挙げた。キッカーは森田。加代「先生。今度は森田君大丈夫ですよね」
キックに自信を失いかけている光男の目が気になった。そしてその不安は的中した。加代「ああやっぱり・・・」またしても試合の流れは相模一高に傾いた。10対8。大三郎らがグラウンドに到着した。そして残り時間5分を切った時、川浜高校は致命的とも言える、ペナルティゴールを奪われてしまったのだ。13対8。残り時間はロスタイムを入れて3分。しかし、闘志の燃える川浜フィフティーン(15)は最後まで諦めずに戦った。そしてスクラム戦で見事にトライを決めた。自信のない森田はキックを代わってもらおうとした。木村「キッカー代えた方がいいなじゃないか?」賢治は「内のゴールキッカーは森田です!」そう賢治は言い切ったが、森田は不安を隠せなかった。大介が森田に近寄り「森田さんよぉ。何ビビってんだよ。あんた体育大との試合じゃ見事に決めたじゃないか」
瞬間光男の脳裏にその日の記憶が鮮やかに甦った。その日、光男たちは東都体育大学の第4軍の胸を借りて戦っていた。勝敗は勿論問題外であったが、光男は恋人富田圭子の見守る前で、川浜高校唯一の得点であるペナルティゴールを決めたのだ。そして試合のあと
回想:圭子「蹴るとき何考えてた?」森田「なにも」圭子「なにも?」森田「ああ。悪いけど、あの一瞬は君のことも忘れてた。ただボールを見つめ蹴ることだけしか考えてなかったんだ。・・・・・怒った?」圭子「ううん。立派よ」森田「立派?」圭子「私よく分かんないけど、あの時他のこと考えてたらボール入んなかったんじゃない?無心よ。無心になれたからきっと入ったんだわ」
光男の心から迷いが消えた。蹴るんだ。ただこのボールを蹴ればいいんだ。賢治「うん。入るぞ」森田の蹴ったボールはゴールポストを越えた。川浜15は試合に勝ったように喜びをあらわにした。勝又「おい。諦めるな。まだロスタイムがあるぞ」試合は続けられた。
勝てる。そう思った瞬間、賢治の体に震えが来た。しかし、一高のフォワードが猛突進して来た。川浜勢は必死にタックルで抵抗したが、勢いは停まらない。ゴールライン直前でやっと押し倒すことが出来た。ボールは転がりラインの中へ。その時ピッピッピー。ジャッジマンはノーサイドを宣告した。勝った。勝ったのだ。あの相模一高に勝ったのだ。
13対14選手らは賢治の本へ走り寄ってきた。抱き合う選手と賢治。加代「イソップ!勝ったわよ!」
すぐさまこのことは寺院に詰めかけている先生らに報告された。山城「勝った」甘利「今連絡が入りました。13対14。土壇場で大逆転したそうです」節子「本当に勝ったんですか?」山城「奇跡だ。奥さん。ご主人はまさしく奇跡を演じました」節子「いいえ、奇跡を生んだのは選手たちの力ですわ。その力を与えてくれたのは・・・・・(イソップの遺影を見る)」
選手らは試合の後片付けを始めた。賢治は勝又へ挨拶しに走っていった。賢治「どうも」勝又「負けました。見事にやられましたよ。我々に油断があったとは思いません。技術的にも決して劣っているとは思いませんが、今日の川浜高諸君の闘志は素晴らしかった。心から敬意を表します」賢治「どうもありがとうございます。本当に素晴らしい試合をありがとうございました」勝又「じゃこれで」賢治「はい」勝又「明日のイソップ君の葬儀には出席させて頂きます」賢治「はい」勝又「それじゃ」賢治「どうも失礼します」
その夜、賢治と主立った部員たちは、イソップのそばで一夜を過ごした。大介は居たたまれず一人で寺院の外に出た。賢治が行くのを制止して、節子は大介の後を追った。空を見上げながら大介は「こんなスモッグだらけの街でも、星は見えるんだな」節子「そうね。小さい頃死んだ人は空に昇って、お星様になるんだって教えられたわ。イソップ君はどの星になったのかしら?あそこに小さく光って・・・」大介「やめてくれ。俺にはそんな少女趣味は合わねぇよ」節子「大木君」大介「イソップは星になんかなりゃしねぇ。あしたになりゃ焼かれて、灰とひとつかみの骨になるだけだ。そうだろう。え?それ以外に何が残るって言うんだよ」節子「思い出が残るわ」大介「思い出?」節子「そうよ。イソップ君は、みんなが胸の中に思い出として残している間は、生き続けていることが出来るのよ。それともあなた、彼の体が焼かれるのと一緒に、思い出まで焼き捨ててしまうつもりなの?イソップ君は、誰よりもあなたの心の中で生き続けたいと望んでたはずだわ。その願いをひとつかみの骨と一緒に、埋めてしまう気なの?」大介「俺は。俺は・・・」節子「泣きなさい。男の子だからって恥ずかしがること無いのよ。泣きたいときは泣くのよ」大介「チキショー!チキショー!イソップ、イソップ、イソップー!!」翌日イソップの葬儀がしめやかに営まれた。
賢治は弔辞で「イソップ!君は素晴らしいラグビー部員だった。恐るべき病魔と最後の一瞬まで闘い続けた、君の不屈の精神を我々は決して忘れはしない。イソップ。君は我々の誇りだ」
挨拶が終わると部員らは棺に花を入れた。そして彼のデザインしたジャージが加代の手によって「イソップ。あなたのジャージよ。一緒に持ってって」と納められた。賢治は部員の寄せ書きしたラグビーボールをそっと納めた。
山城「終わったね。これで一つの区切りがついた。だが本当に苦しいのはこれからだ。君はこの2年で、荒廃しきっていた我が川浜高校を見事に甦らした」賢治「でも私一人の力じゃありませんよ」山城「そりゃ勿論他の先生方や、PTAのみなさんの努力も見逃せない。しかしね最初に火を付けたのは君だ。そして君は弱体極まりないラグビー部を鍛え直し、彼らに勝つ喜びを与えた。そう、打倒相模一高の目標を見事達成したんだ。いや、しかしねぇ、相模一高もこのままむざむざと引き下がってはいまい。いや一高だけじゃないよ。県下に強豪と言われるチームは他にいくつもある。その一つ一つとの戦いがこれから始まるんだ」賢治「おっしゃるとおりです。私もほんとの戦いはこれからだと思ってます」山城「そうだ。我々の戦いは果てしなく続く。ラグビーだけじゃない。我が愛する川浜高校を、二度と荒廃の縁に立たせないためにも、我々は戦い続けねばならんのだ。頼むよ滝沢君。頼んだぞ」賢治「はい」
目標の「打倒相模一高」は達せられた。部の次なる目標は「全国大会出場!!」に貼り替えられた。
賢治「花園だ!必ず花園ラグビー場の土を踏むぞ!」部員「はい」更なる厳しい練習に励む部員らであった。

第15話 不良教師(脚本:大原清秀 監督:山口和彦)

その日は定年を迎えた校長山城晋平にとって、最後の卒業式であった。
山城「諸君、卒業おめでとう。諸君はこれから進学あるいは就職にと学園をあとにして巣立っていくわけであります。しかし、いづれの道を進もうとも、社会は諸君を暖かく迎えてくれるとは限りません。今希望に輝いてる諸君の瞳も、屈辱にまみれ絶望に暗く打ちひしがれることもありましょう。そういう折りは是非思い出して欲しいエピソードがございます。それは、我がラグビー部のことです。1年前、我がラグビー部は強豪相模一高と対戦して敗れました。109対0。これ以上は無いという屈辱的な惨敗でした。ところが先日の試合で我が校は14対13という僅差ながら相模一高を倒した。わずか1年にして奇跡としか言いようのない勝利です。この事実は何を物語っているか。そうです。やれば出来ると言うことです。己を信じ仲間を信じ、力を尽くせばそんな屈辱や絶望のどん底からも、はい上がれるということです。現にラグビー部の諸君が、この奇跡を血の滲むような猛練習の末に、身を持って示してくれたではありませんか。諸君。将来絶望的な壁にぶつかった時は、ことあるごとにこの事実を思い出し、何事も諦めることなく勇気を奮い起こして頂きたい。私はそう念願してやみません」
賢治の名こそ出さなかったが、送別の辞にラグビー部のことを取り上げてくれた、山城の温情を賢治は感じ取っていた。
職員室で山城は職員らと別れの挨拶をした。野田「先生。先生こそ真の教育者、真の校長でした」山城「あっいやいや、私はそれほどの人間じゃ。あのこれからも子供たちを頼みますよ」山城「滝沢君。君にはすまんことをした。君をこの学校に無理矢理に引っ張ってきたのはこの私だ。そのために君には大変な苦労をかけてしまって」賢治「何をおっしゃるんですか。私はここにきて本当に良かったと思ってます」山城「そう思ってくれるかね。ありがとう」外から校長先生、校長先生と声が掛かる。山城「どうしたんだ子供たちは?もうとっくに帰ってると思ったんだが」甘利「みんな待ってるんですよ。校長先生をお見送りするんだと言って」山城「私を?」校長先生、校長先生、山城先生とさらに生徒たちからお呼びがかかる。江藤先生「いやぁ校長先生の苦労の賜ですよ」竹村教頭「夢のような変わりようですな。以前は卒業式となると春一番が・・・」
春一番。それは卒業式の日に頻発する暴力事件を指す、教育界の用語である。川浜高校も数年前までは春一番の吹き荒れる高校であった。
生徒が校門前に整列して山城を見送る。生徒を代表して加代が「校長先生。お世話になりました」そう言って花束を贈呈した。山城「ありがとう。私も石をぶっつけられながら、去ることになると思っておったのだが、私は、日本一幸せな校長です」校長先生と言いながら、夕子と大三郎が慌てふためいて駆け込んできた。夕子「なんとかもうちょっとおれまへんのか?先生」山城「いやいや、私はもう校長先生ではありません。普通のおじさんです」大三郎「いやそんなことおっしゃらずに、またこれからもちょこちょこ家へ食べに来て下さい」山城「はいどうもありがとう。じゃみなさんこれで」山城は一礼した。職員、生徒らに拍手で見送られる山城。教室からも校長先生、さよなら校長先生とコールは続く・・・・。仰げば尊しが熱唱されゆっくりと校門に向かって歩き出す山城。ラグビー部員が駆けつけてきた。山城を円陣で囲み「校長ファイト!」とエールを送った。
山城「ありがとう諸君。どうもありがとう!」山城は心の中で賢治に「滝沢君。後は頼むよ」賢治も「わかってます。校長先生」と返した。山城は校門までたどり着くと深々と一礼して、川浜高校をあとにした。
賢治の胸をさながら慈父を失ったような、淋しさが吹き抜けた。しかし、山城が願った明るい学園づくりの志は守らねばならない。そう決意を新たにする賢治であった。
人は去り人は来る。その日、ラグビー部も新入部員たちを迎えた。新入部員は7人。その中でも中学時代から活躍している平山誠(四方堂亘)が素質優秀である。玄治の次男、春男(岩本宗規)も入部してきた。賢治は素質優秀なメンバーに「おお、こりゃ大変だ」と口にした。そこへ玄治と勝親子がやってきた。玄治は「大変だ大変だって、何が大変なんだね?」賢治「新入部員です」勝「また不良が入ってきたんですか?」賢治「そうじゃないんだ。中学時代から活躍してきた素質のいい選手ばかりでしてね。鍛えれば内のチームは間違いなく花園に行けますよ。そう思ったらなんかワクワクしてきて大変だって気にもなりますよ」玄治「ハハハ、それで一番いける子はどの子だね?」賢治「平山ですね。あいつは一種の天才ですよ。あいつならすぐにでも試合に使えます」玄治「次にいいのは?おおお、ワシの見たところではな、あの派手なジャージの、あの子がいいなぁ(春男を指さす)」賢治「そうですね。なかなかいい走りしてますよ」玄治「あはは、そうでしょう、そうでしょう。で、他にいいところは?」賢治「動きにリズムがありますね」玄治「そうでしょう、そうでしょう、顔だっていいでしょう。ハハハハ」勝「オヤジ、親バカもいい加減にしろよ」賢治「親バカ?」玄治「いや実はね、ワシのセガレなんですよ。勝の弟の春男です」賢治「えっ?そうなんですか」勝「オヤジは先生の大ファンでしょう。何が何でも川浜へ入ってラグビーやるんだって、弟の尻叩いて入れさせたんですよ」玄治「まぁそう言うわけで、今日はご挨拶に来たというわけでね。ハハハ」新入部員は選手だけではなかった。新女子マネージャーとして清美と明子も入ってきた。加代からマネージャーの仕事を教わっていた。「お洗濯でしょう、部室のお掃除でしょう、練習スケジュールの作成でしょう、道具の手入れ後片付けでしょう、ブランドの整備でしょう、部の会計でしょう・・・・」明子「ちょちょちょっと待って下さいマネージャーの仕事ってそんなにあんの?」加代「そうよう。それからスパイクの手入れでしょう、テーピングでしょう、あ、あのラグビーの用語はほとんど英語だから基礎はやっといた方がいいわ。困るわよ。それから〜」清美「もうもう結構です。こりゃタコのはっちゃんみたいに手が8本いる」
新任校長岩佐が着任した。岩佐「着任に当たって一言挨拶をしておく。私の見るところこの川浜高校は実にダメな学校である。根本的な改革が必要である」竹村教頭「あのう、ダメとおっしゃいましたが、内はほとんどもう暴力事件はありません」岩佐「では聞こう。学校とは何だね?君答えたまえ」そりゃ勉強するところではないんで・・・岩佐「そう、その通り。しかるに生徒たちの成績はどうだ。県下でもCクラスである。ここ数年来、東大への合格者はひとりもいない。暴力事件さえ起こさなければ、それで優秀な高校と言えるのかね?なにはともあれ勉強ができるようになることが子供たちの幸せに繋がるはずだ。そう信じて月謝を払っているのが親御さんたちの気持ちである。その期待を裏切らぬよう、生徒たちの学力のレベルアップを図る。それが新任校長の私の使命であるとそう考えておる。生徒たちの関心を勉強一本に絞り込むためには、徹底的なる管理が必要である。学業の向上を阻んでいる要因は何か、異性、ファッション、漫画への興味もさることながら、クラブ活動もまたそのひとつだと私はそう考えている。今日グラウンドでラグビー部の運動を見ながら、つくづく私はそう思った。ボール遊びをしたり、女子マネージャーと何やら騒いでる。そういう暇があるなら、英語の単語を一つ覚える。数学の公式を一つ覚える。その方が遙かにマシだと、私はそういう風に考えている」賢治「校長先生」岩佐「なんだ」賢治「子供たちは学業とクラブ活動を両立させようと、必死にやってます。成績だってご想像されほど悪くありません」「卓球部の部長やってます三上です。内のクラブの子たちも本当によくやってます」賢治「現に今年入った栗原昭(榊原晃)のように、成績がトップだっていう子さえいるんです」岩佐「そりゃ例外だ。とにかく成績に平均点を下回るような生徒たちに、クラブ活動をやる資格はない!そういう生徒たちには今後クラブ活動を一切禁止する」甘利「いや待って下さい。すべての決定は、職員会議で討議した上で決めるっていう慣例になってますが」岩佐「権限は校長にある。職員会議は校長である私の意思伝達の場にしか過ぎない。初日の挨拶はこれぐらいにしとく」
放課後、森田と圭子は待ち合わせをした。森田「俺に駆け落ちしろってのかよ」圭子「お見合いの話しイヤだっていうのに、父と母がどんどん進めてるの」森田「そんなの断りゃいいじゃねぇか」圭子「会うだけは会えって言われると、もう断りきれないのよ。いっそ二人でどこか遠くの街へでも行くしかないわ」森田「できねぇよそんな」圭子「大丈夫よ。私たち若いんだもん。働けばなんとかやって行けるわよ」森田「俺、姉ちゃんや兄ちゃんに心配かけたかない。それに先生と離れたらラグビーだって出来なくなるし」圭子「そうわかったわ。あなたは私よりもラグビーが好きなのよね」圭子は走って行ってしまった。森田「圭子!オイ待てったら」圭子「ほっといて!私喜んでお見合いするわ」森田「圭子!」そこにオートバイに乗った男がやってきた。その男は「よう圭子」森田は圭子に「誰だあいつ」圭子「しらないわ」森田「知らないって、やけに馴れ馴れしいじゃないか」圭子「ほんとに知らないのよ。2・3日前から私のことつけ回してるの」男「圭子。これ見に来いよ」そう言ってチケットを差し出した。森田がそれを取り「圭子は、ライブには興味ねぇんだよ」と言って破り捨てた。男「森田君。女の前だからって格好つけるのよしたまえよ」森田「なんで俺の名前知ってんだ」男「君は有名だからね。川浜ラグビー部のアホキャプテンとして」森田「なに!この野郎!」と男の胸ぐらを掴んだ。そこへ夕子が「光男!なにやってんのや」森田は手を離した。男「よかったなてめえ。入れ歯がいるようになったとこだぜ」捨て台詞を残して、オートバイにまたがった。ヘルメットのシールドをはずし「圭子!See you again」と言い走り去った。
岩佐校長の着任以来、連日のごとくテストが繰り返され、その結果は容赦なく公表された。
清美と明子は大介の成績が悪く恥をかかせまいとして、成績表のグラフをマジックインクで書き加えグラフを伸ばした。そこへ岩佐が取りかかった。あわてた清美はマジックインクを落としてしまった。二人は大木のグラフを体で隠したが、岩佐に見破られてしまった。岩佐「誰の仕業だ!」と怒鳴った。岩佐は二人に向かって「お前たちがやったんだな」と。大介「そいつらじゃねぇよ。おれがやったんだ」明子「大木先輩」大介「本人の俺が言うんだから間違いねぇよ」岩佐「よし。3日間の停学を命じる」大介「結構!だけど一言だけ言わせて貰うぜ。あんたこんなもん張り出して、勉強勉強ってあおり立てるつもりだろうけどよ、これじゃどんな仲のいいダチ公とでも敵味方になっちまうんだ。なんだこんなもの」そう言ってグラフを破りだした。岩佐「何をする!停学一週間」大介「停学が怖くて今時高校生が務まるかよ。なんだってんだよ!このゴリラ」岩佐「停学十日」大介「調子にのるんじゃねぇや。この野郎」と岩佐の胸ぐらを掴む。駆けつけた賢治が止めに入った。賢治「それ以上やったら無期停学だぞ」大介は堪えた。
職員室で賢治は岩佐から「見たまえ。これが森田の答案用紙だ」賢治はその答案用紙を見た。答案用紙には"圭子"の文字が殴り書きされていた。「お話にならん答案だね。なにか散らしとるね、圭子、圭子と。彼はいま明らかに女にうつつを抜かしておる。大木といい森田といい、部員に君はいったいどういう指導をしとるのかね」賢治「どうも申し訳ありません」岩佐「森田を当分部活動か外して、勉強に専念させたまえ」賢治「いやそりゃ出来ません。彼はキャプテンです。チームの中心なんです。彼が居なくては練習も試合も成り立ちません」岩佐「ラグビーなどどうでも。受験にラグビーなどと言う科目は、ない」賢治「あの校長先生。お願いします。今回だけは森田をどうかお願いします。お願いします」岩佐は軽くうなずいた。
賢治は森田の家へ出向ていった。賢治「森田。敢えて言うが叶わぬ恋なら、圭子さんのこと諦めろ」森田「えーっ!」賢治「お前はキャプテンなんだぞ。お前がシャンとしてみんなをリードしなければ、ラグビー部はどうなるんだ」森田「先生は俺が、圭子のことを好きにならなければ良かったと思ってんだろ。先生も今度の校長と同じだ!」賢治「俺が?」森田「そうじゃないか!校長は勉強に女は邪魔だって言う。先生もラグビーをやるには、恋なんかしない方がいいと思ってんだ」
図星であった。賢治はラグビーのことのみしか念頭になかった己を恥じた。
夕子「せやけど、しっかりしてほしいな。ちょっとあんたからビシッとどやしたってえや」大三郎「俺は、今の光男には何も言えねぇ。男は仕事だってよく言うだろう。だがそりゃ外面だ。仕事や勉強が本当の生き甲斐だって男が、世の中にどれ程いるよ。男には女。陰で支えてくれる女が必要なんだ。その女がいなくなったら大抵の男はメロメロになら。たかが女のことって、俺は光男を笑えねぇ」夕子「せやー。光男にアフリカの写真見したろ」大三郎「アフリカ?何の関係あんだい?」夕子「ほら、アフリカの飢饉で苦しんでる人らの写真が、どこぞ載ってたやろうなぁ。へーっと。あーあったった。これやこれや。こんな飢えのね辛さに比べたら、恋の辛さなんてものの数やないで。それちょっと光男に教えたろ思って。あれどこやったかな。へーっ!」大三郎「なんでえ」夕子「ちょっと光男!ちょちょちょっと光男これ見てみ。これこれ」と写真週間雑誌を持ってきた。森田「この間の男」賢治「誰だ。誰なんですか?」夕子「いま読みますよってんな。近頃世の中変なのが多い。この兄ちゃんもそうなのだ。何と彼は大財閥名村グループの総帥名村謙三氏の三男坊。姓は同じで下の名前は直くん。親の七光りで遊んで暮らせるご身分で、家を飛び出し目下ロックバンドのリーダーだとさ。その心境を聞いてみるに「七光りはオヤジの禿頭でたくさんだ。俺は実力で勝負するぜ。ロックに家柄なんて関係ねぇからよ」そう答えていた。
翌日のラグビー部の練習は悲惨であった。賢治「なんだ練習に出てきたのは二人だけか」加代「ええ、大木君はまだ停学中で、街でケンカばかりしているって話しですし、高杉君他5人はテストが平均点以下で部活を禁じられました。他の人たちも、あしたのテストの勉強が心配だからって休んでしまったし」賢治「これじゃ練習にならんな」加代「先生、校長先生の処分は厳しすぎます。もう少しラグビーを理解して貰えるように、お話しして頂けませんか」賢治「あぁ、何度も話しては見たんだが・・・」岩佐「学生の本分は勉強するにあり。滝沢君。この方針のどこが間違ってると言うのかね?」賢治「あれを持ち出されると俺も何にも言えん」加代「先生」賢治「いや、俺だってみんながどんなにラグビーを心の支えにしてるか解ってる。しかし」加代「いいえ、先生はお解りになってません。例えば清川君は・・・」賢治「清川がどうかしたのか?」
加代「清川君のお父さんはギャンブルに狂って、サラ金に凄い借金をこしらえて碌に働かないで、ブラブラしてるんです。そんなお父さんに愛想尽かしたお母さんは逃げてしまうし、清川君一人で暮らしを支えてるんです。朝は新聞配達、それが終わったら駅で働いて、夜は夜で駅弁の会社でバイトです。二人の妹や弟たちの世話も、清川君の肩にかかっています。そんな疲れ切った体でも、ラグビーをやりたいって清川君は入部したんですよ。その清川君に碌に練習もさせられないで、引っ込んでいるんですか先生は」賢治「それは何とかしてやりたい」加代「だったら校長先生にもっと・・・」賢治「君は僕を買い被りすぎている。僕はただの平教員でしかないんだ。僕が何を言おうと学校では、校長の権限が絶対なんだ」加代「先生もサラリーマンなんですね。生徒の前では威張っていても、上役の校長先生には逆らえない。滝沢先生だけはそんな先生とは違うと思ってました」加代はそう言って立ち去った。
ある休日、賢治は酒を呑んでいた。節子「あなた昼間からお酒なんて」賢治「お前に俺の気持ちが解るか。やっと相模一高も破った。有望な新人も入ってきた。これで全国大会に出場するチームができる、そう思った矢先にこのザマだ。校長の無理解、森田の恋、そのどちらに対しても打つ手がなんだ。ここまで育て上げてきたラグビー部ももうお終いだよ」節子「あなたちょっとそこまで付き合って」そこは山城が工事現場の道路警備員として働いている場所だった。節子「この間買い物帰りにお見かけしたんだけど、なんだか声をかけづらくて。でも今のあなたの相談に乗って頂けるのは、校長先生しかいないと思うの」山城「おぉ滝沢君。ハハ」賢治「先生、どうもしばらくです」山城「やぁ元気そうだなぁ。いやぁ奥さんどうも」ゆかり「こんにちは」山城「こんにちは。・・・とうとうばれたか。私もまだまだ楽隠居できる身分じゃないもんでね。・・・そうか君も色々と大変だね。しかし、君も岩佐さんも勉強ってものを少し狭く考え過ぎてるんじゃないのかな」賢治「と、おっしゃいますと?」山城「うんーどう言ったらいいのかな。あーあっそうだ。君、板の上を歩いてくれんか」賢治「はぁ?」山城「いやいや、ホラそこの板の上だ」そう言って20cm幅くらいの板を指した。賢治は板の上を歩き「こうですか?」と聞いた。山城「そんなものは誰でも渡れると思うだろう。しかし、その板がもしも千尋の谷に架かっていたらどうだろう。はははは、運動神経抜群の君でもまず落ちるね。それはなぜか。足では踏まない板の周りの大地が、しっかりと人を支えてくれるってことなんだ。つまり、学校の勉強なんてものは、その板の幅くらいの狭いものなんだ。人はそれだけでは生きられん。人と人の付き合い方、異性の愛し方、思いやり、勇気。そういうテストでは測れないものが、大地のように人を支えてくれるんだ。
賢治「先生は、ラグビーでも恋愛でも広い意味では勉強だと、そうおっしゃるんですね」山城「ラグビーでも恋愛でも、ドンドンやらせればいいんだよ。子供たちはそれらを通じて必ず豊かになる」賢治「校長先生、どうもありがとうございました」山城「ははっ、いやいや山城さんでいいよ山城さんで。この前も言ったはずだ。私はもう普通のおじさんだって。滝沢君頑張れよ」賢治「はい」
この時賢治は校長と衝突して、その結果転任あるいは辞職になろうとも、生徒たちにラグビーを取り戻してやりたいと決意していた。
部室で賢治は「森田。この間は済まなかった」森田「なんのことですか?先生」賢治「お前に圭子さんを諦めろと言ったことだ。恋人が居たら邪魔になるほど、ラグビーはケチなものじゃないはずだ。お前もそんなに圭子さんが好きなら、うじうじしてないで好きな女を奪い取れよ。な!」森田「先生。はい」
翌日は圭子の見合いの日であった。見合いの席に森田は圭子を奪いに来た。森田は圭子を連れて必死に逃げたが、富田の秘書影山らに捕まってしまう。そこへ名村が手助けをした。森田、圭子を乗せ車で逃走した。名村「おまえな、女を奪うときゃ車ぐらい用意しくもんだぜ」森田「お前俺の敵か、味方か」名村「さぁね。なぁ圭子頼むから俺たちのコンサート見に来てくれよ」森田「しつこいね。いつまでも圭子につきまとうと承知しねえぞ」名村「勘違いするな。俺は女としての圭子を追いましてたんじゃねぇ。圭子は俺の妹だ」圭子「あなた、今なんて言ったの?」名村「お前は俺の妹なんだ。だから挨拶代わりに俺たちのロックを一度聞いて欲しいんだ。な、これから一緒に来いよ」圭子「お断りよ」名村「圭子。俺たちのコンサートはあと一週間やっている。いつでも来ればお前が妹だって証拠を見せてやる」と言い残し車で走り去った。森田「まさかあいつの与太話信じた訳じゃないだろうな」圭子「信じないわ。でも気になるわ。あの人の目、うそを言っている目じゃなかった」森田「圭子・・・」圭子「なんだか私の知らないところに、深い事情が隠されてるって気がするの。光男さん。私怖い」圭子は森田に抱きついた。森田「何言ってんだよ。圭子らしくないぞ。よう、なに震えてんだよ。しっかりしろよ」そこへ運悪く岩佐が通りかかった「馬鹿者!勉強もせんで昼間っから女の子と抱き合ってるとは何事だ!」森田「あのう俺たちは別に・・・」岩佐「校則第十条。男女交際は清潔を旨とすべし。君は停学十日だ」
賢治、大介らが停学中の森田の家を訪ねた。賢治「何でお前練習に顔出さないんだ」森田「だって俺停学中だから」大介「停学なんてくそくらえだ。俺は先生に言われて今日から顔を出すことにしたぜ。クラブ活動を停止されているみんなもだ」森田「だけど校長先生の命令に背いたら、先生に迷惑がかかる」賢治「俺はかまわん。それよりもキャプテンのお前が来ない方が、みんなによっぽど迷惑かかるんだ。森田、花園に出たいんだったら、処分なんかはね除けて、何が何でも練習するんだ」森田「はい。やります」みなグラウンドで練習を始めた。
グラウンドに岩佐がやって来て賢治を呼びつけた。「滝沢君!なぜ勝手に生徒の処分を解除した」賢治「校長先生。思ってることを全部言わせて頂いてよろしいでしょうか?」岩佐「よし、聞くだけ聞こう」賢治「これだけは絶対に許せないってことを生徒たちがすれば、注意をするのが当然だと私も思います。時には生徒たちを殴ることさえ、やむを得ない場合もあるでしょう。しかし、校長先生は許せることさえ罰しています。森田や大木や他の誰かが人間として、絶対に許せないってことを何か一つでもしたでしょうか?」加代「先生・・・」岩佐「私の処分が不当だというのか」賢治「校長先生は生徒たちの一挙手一投足に目を注いでおられますが、そうなさらないと気が済まないと言うのは、生徒たちを信用していないからではありませんか?」岩佐「今時の出来の悪い生徒が信用できるか」賢治「生徒の出来に今も昔も違いはないと思います。確かに校長先生は教育熱心な方です。でも、熱心であればそれでいいんでしょうか?勉強も大事ですが、彼らは恋愛もしたいし、ラグビーもしたいんです。それが青春です。それを学校でも家庭でも勉強勉強と絞り上げたら、生徒たちの安息の場は一体どこにあるんです。校長先生が理想となさってる学校は、軍隊もしくは刑務所に近いもんです。岩佐「なに!」賢治の頬をひっぱたいた。大介「先生・・・」校長に食ってかかろうとする大介に森田は「よせ、よすんだ。よせ!お前が何かしたら先生の首が飛ぶぞ!」岩佐「君は校長である私に逆らった。君はまさしく不良教師だ!」加代「酷いわ校長先生」賢治「私は生徒たちのためなら、不良教師にでも何にでもなります。みんなが待ってます。もう行ってもよろしいでしょうか」賢治は生徒の本へ走り寄った。森田「先生大丈夫ですか?」大介「あんな校長殴り返してやりゃよかったのによ」丸茂「ゴリラは動物園でも行けっていうんだよ」賢治「そんなこと言うもんじゃない。心は力なりという言葉を忘れたのか。俺は校長先生を信じる」森田「だけど先生俺たちのために体張ってくれてよ」加代「先生、すいません。この間、私、先生疑ったりして」賢治「何を言ってるんだ。さぁ花園目指して練習だ。行くぞ!」一同「ハイ!」
この時岩佐校長は、これ以上問題を起こせばラグビー部を廃止にしようと思い定めていた。賢治の道のりには、更なる苦難が待ち受けていたのである。

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