第16話 学校とはなんだ(脚本:岡本 弘 監督:大原清秀)

岩佐校長の着任以来、学力向上のみを目指すその厳しい方針により、川浜高校の空気は異常なまでに緊迫したものに変わった。
岩佐「これから読み上げる部は、先日のテストにおいて部員たちの成績が実に惨憺(さんたん)たるものであった。よって当分の間部活動を停止する。では読む。相撲部、ハンドボール部、卓球部、演劇部、コーラス部、マンガ部。以上」ラグビー部の名は無かった。
柳先生「校長先生、私の部員たちの音楽の成績は抜群だったはずですが・・・」岩佐「他の科目がなっとらん。論外だ」三上先生「先生、卓球部の部員たちには、今後もうもっともっと言い聞かせますんで、部活動の停止だけはなんとかご猶予を」野田先生「マンガ部もです。なんせ内のクラブの子たちは、マンガを描いてないと生きた心地がしないって」岩佐「何がマンガ部だ!席に戻りなさい!」君たちはこの日本をどういう国だと考えてるのかね。この日本にはまるで資源がない。有り余ってるのは人間だけだ。その人間たちを勉強で鍛え上げ、激烈なる国際競争社会を勝ち抜いていけるビジネスマンを養成すること。それ以外に、この国の繁栄を維持発展させる方法があると言うならば、誰かそれを言ってみたまえ。次にラグビー部」賢治「私のところの部の生徒たちの成績は、大体平均点に達してるはずですが」岩佐「したがって 部の存続を認める。但し、条件付きだ」賢治「条件付きと申しますと?」岩佐「私は並みの成績では満足できない。そこで今度の中間テストで、部員たちが平均点70点以上の成績を修めた場合は部の存続を認める。もしそれが出来なかった場合は、他のクラブ同様部活動を停止する」賢治「校長先生・・・」平均70点。それはテストの難しさらみて、ほとんど不可能な数字であった。
岩佐「滝沢君。君は学業とクラブ活動とが両立できるという信念を持った男のはずだ。ならばお手並みを見せて貰おうじゃないですか」
部室にラグビー部員たちは集まって校長の話を批判していた。賢治「俺は全国大会に出場したいというお前たちの夢を、何としても叶えてやりたい。そのためには練習はもっとハードにせざるを得ないし、練習時間もいくらあってもたりん。それを一分一秒でも削るわけにはいかん。」森田「だったらどうすればいいんですか」賢治「今までよりもっと練習する。そして勉強ももっとする。それ以外に方法はない」春男「俺たち今でも精一杯やってます」賢治「あぁ。お前たちが練習でクタクタになった体に鞭打って、眠い目をこすりながら勉強しているってことは俺にもよく解っている。しかし、清川のことを考えて見ろ。清川は家の暮らしを支えるために働いているんだ。山崎だってそうだ。牛乳配達の他に新楽でも働いている。大木もこないだから働きだした。練習と勉強の他に仕事まで抱えた毎日がどんなに辛いか。それを思えばお前たちの辛さは物の数じゃない。それにどこの学校のラグビー部員だって、練習と勉強を両立させる辛さに耐えてるんだ。勉強ぐらいで音を上げてたら、全国大会の出場はおぼつかないぞ」大介「俺も勉強は性に合わねぇけどよ、やってやろうじゃないかよ。今度の中間テストでパーッといい点挙げて校長の鼻あかしてやろうぜ」明子「そうだよ。あたいもやるよ」清美「テストが何だったんだ」「高杉「そうだ。やるしかないな」森田「ラグビー部を潰してたまるか」大介「そうだよ。絶対ラグビー部は守ろうぜ」賢治「よーし。みんなよく言った。ラガーマンのファイトを見せてやろうじゃないか」一同「おおーー」この模様を岩佐は部室の外で聞いていた。
その日から部員たちにとって、練習に勉強に寸刻も気の休まる時はなくなった。部員たちの苦労を知りつつも、賢治は心を鬼にして練習をハードにせざるを得なかった。
賢治「おい!お前たちどうしたんだ。このぐらいで伸びてどうすんだ!」森田「よーし行くぞ」賢治もランパスに加わりボールを受け取ってから急に立ち止まった。左膝をおさえている。加代「先生、どうかなさったんですか」賢治「大丈夫だ。ちょっと足をひねっただけだ・・・。よし行くぞ。おっ来い」
賢治は平静を装ったものの、それは常人には耐え難い激痛であった。その箇所は賢治がかつてオールジャパンで活躍したころ、果敢なプレーで損傷した右足関節であった。
賢治は学校帰りに病院へ立ち寄った。レントゲン写真を見ながら医者は「ガタガタに痛んでますなぁ。走るなんてもってのほかですよ」
生徒たちにラグビーを教え続けられるだろうか?賢治は不安のどん底に叩き込まれた。
節子「先生は一週間は絶対に学校休まなくちゃいけないって」賢治「それは出来ん」節子「あなた」賢治「子供たちが今練習と勉強の両方を抱えて苦闘してるんだ。そうしろと言ったのはこの俺だ。その俺が少々に傷の痛みで休めるか」節子「せめて生徒たちと一緒に駆け回るのだけは止めてね」賢治「わかったよ」節子「ほんとよ。ほんとに約束よ」賢治「わかってるって。ほら見ただけじゃわからんだろ。お前が心配するほど、大したケガじゃないんだ」節子「あら?あれ圭子さんじゃない?」賢治「圭子さん。どうしたんだ傘もささないで」圭子はその場に倒れ込んでしまった。賢治「どうしたんだ。しっかりしろ。しっかりしろ圭子さん。しっかりしろ」賢治は圭子を自宅に連れ帰った。森田も駆けつけてきた。賢治「それじゃ三日前に、君の兄さんと名乗る妙な男が現れたってんだね」圭子「ええ。名村直って言う人です」
圭子は黒騎士のライブを見に行った。楽屋で直は「おお、みんな紹介するよ」圭子「私まだ約束を果たして貰ってないわ」直「圭子に、妹だって証拠を見せてやる約束だったな(直はギターケースから何やら取り出し)これがその証拠の品だ」と圭子に手渡した。それを開けようとする圭子に向かって、直「ああ、ちょい待ち。その前に俺が、どうやってそいつを手に入れてたかって話を聞いてもらわなくちゃくな。ついこの間のことだが、こいつが(仲間の一人を指し)アパート代払えなくて追い出されかけたんだ。何とかしてしてやりてぇと思ったが、俺も家をおん出た身分で金はねぇ。俺は家に金を借りに戻った。ところが表から訪ねたらまともに玄関払い食らってよ、しょうがねぇからオヤジの金庫から、黙って幾らか拝借するつもりだった。そこにあったのが、今渡した代物だ」その代物は写真である。裏には"第四子圭子"と書かれていた。直は父親に現場を押さえられた。直「オヤジ、この第四子圭子ってどういうことなんだ。俺の妹ってことか」父親は何も答えなかった。
直「オヤジの態度で俺はわかったんだ。お前は俺の妹なんだ。俺の兄貴たちはみんなエリート重役に収まっててよ、はみ出しもんの俺はいつも他人扱いだった。俺はいつもひとりぼっちでよ。そんな俺にも妹がいた。妹・・・何とも言えねぇ響きだ。いっぺんだけでいい、俺を兄さんと呼んでくれねぇか」(圭子:わからない。私は誰なんだろう?もし直さんの言う通りだとしたら、私のお母さんはどこの誰なのかしら?わからない。何もわからない)
圭子「やはり、私の父母はほんとは違うんじゃ」森田「よしてくれよ圭子!俺は、圭子が資産家の富田さんの娘だってことだけで、俺とは不釣り合いだと思ってんだよ。名村っていやぁ、日本でも5本の指に入る大財閥じゃないか。圭子がその娘だなんてことになったら、俺どうしたらいいんだかわかんないよ!」圭子「ごめんなさい。光男さんが今、ラグビーと勉強で大変だっていうことはわかってるんだけど、わたし、あたし・・・・・」賢治「圭子さん。確かに君の家庭には複雑な事情があるらしい。しかし、世の中には事情のない家庭なんて、ただの一軒もないんだよ。人間は過去に捕らわれ、後ろを振り返らなければ生きてはいけない。ちょうどラグビーのボールを後ろに投げるようにね。だけどラグビーだと同時に前に進まなきゃならないんだ。今の君はハッキリしない過去ばかりに捕らわれて、足が止まってるとしか思えないな。圭子さん。こう言うときは、すべてを忘れて何かに打ち込むのに限る。ラグビーに興味があるんだったら、学校の帰りに内のマネージャーの手伝いしてみないか?手は幾らあっても足りないんだ」圭子「先生」
練習前に賢治「おいみんな。今日から、臨時マネージャーをやってくれることになった富田圭子君だ。よろしくな」圭子「よろしくお願いします」一同「よろしく!」大介「森田さん、よかったっすねぇ。これからはずっと圭子さんと一緒だ」森田「バカ野郎!おんななんか目じゃねぇや」丸茂「またまた無理して」部員に冷やかされる森田。賢治「練習始めるぞ」一同「おっす」加代「じゃ圭子さん、早速だけどよろしくね」
練習中に清川がダウンした。大介「先生、こいつ練習と勉強のほかにバイトもしてんだろ。三つも掛け持ちしちゃバテるのも無理はねぇよ」岩佐「その通りだ。やはり、学業とスポーツと二兎追うものは一兎も得ずと言うことだな。(圭子を見ながら)君はよその学校の生徒だろ。勝手に学校へ入ってはならんと言ったはずだ」賢治「私が許可しました。校長先生、内の生徒たちは中間テストで必ず70点以上の点を取って見せます。それまでは多少のわがままは許して頂きます」岩佐「よーし。その言葉覚えておこう」賢治の前から立ち去った。清川「先生練習しましょう」賢治「お前少し休んでろ」清川「大丈夫です。俺、勉強も練習もちゃんとやって見せます」賢治「清川。よし俺も行くぞ」そう言って走り出したが、またしても立ち止まってしまった。この時賢治の右足関節には、絶え間なく激痛が襲っていた。だが、苦しみに耐えて戦っている生徒たちを思えば、休むわけにはいかなかった。
徹子とゆかりがグラウンドで賢治の走る姿を見ていた。賢治「お前たち何しに来たんだ」節子「あなた、生徒たちと駆け回ったりしないって約束なのに、うんやっぱり」賢治「ラグビーは幾ら口で説明してもダメなんだ。体で手本を示さなきゃ」節子「止めて頂戴。足がどうなってもいいの?」
部員らは厳しい練習を終えて部室に引き上げてきた。丸茂「あぁ〜。くたびれた」森田「よし、帰って勉強しよう」星「じゃぁ着替えましょう」
賢治は立てとは言えなかった。勉強に練習に部員たちの体力が消耗し尽くしていることを知っていたからである。しかし、このままでは中間テストの結果、ラグビー部は解散に追い込まれるのは目に見えていた。絶望が賢治の心を襲った。
ゆかり「パパ。お兄ちゃんたちみんなどうしたの?」節子「練習大変でしょ。その上ね、これから帰って夜遅くまでお勉強しなきゃならないのよ」ゆかり「お勉強って楽しいのになぁ」圭子「あのねぇ、ゆかりちゃんまだ一年生でしょう。高校の勉強は小学校よりもずっと難しいのよ」ゆかり「ゆかりのお勉強だって難しいよ。でもわかんないことがあったら、よっちゃんに聞けばすぐ教えてくれんもん」節子「よっちゃん?ああ隣の」ゆかり「よっちゃんが解らないことがあったら、ゆかりが教えてあげるんだ。そしたら何でも解ってお勉強楽しいよ」清美「ねぇみんな聞いた?あたいたちワンワン方法忘れていたんじゃない」大介「ワンワン方法?なんだよそれ」明子「ひょっとしてさ、それさOne for All All for Oneのことじゃないの」清美「それそれ、ひとりはみんなために。みんなはひとりのために」森田「そうか。俺たち一人一人別々に勉強してきたけど、練習だけじゃなくて勉強でも助け合えるんじゃないか」賢治「お前たちよくそこに気づいたな。勉強も一人でやるよりは、みんなでやる方が張り合いもあるぞ」森田「よし、着替えよう」ゆかり「ねぇどうして急にお兄ちゃんたち元気になっちゃったの?」
その日から部員たちは協力して勉強し始めた。上級生は下級生に教え、得意な科目がある者は不得意な者に教えた。
大三郎「おおやってるな。どうだ一息入れて焼きそばでも食わんか」春男「差し入れ済みません」夕子「ドケチで評判のこのウチがね、あんたらみたいながんもどきに差し入れするかいな。先生のおごりや」平山「あっ先生。どうも」賢治「俺は専門外の勉強のことは教えてやれんからな。出来るのはこれぐらいだ。みんな遠慮なく食ってくれ」平山「はい」一同「いただきま〜す」栗原「ダメです。この問題やってからです」大介「きついな。そりゃ俺はこん中で一番出来悪いけどよ」賢治「大木、お前そんなに勉強が苦手か」大介「あぁ、ラグビーの練習なら、富士山のてっぺんまで駆け上がれってんならやるけどよ。勉強がなきゃ学校もいいとこなんだけどな」夕子「なに言うてんねん。ウチのひとなんか、あんた勉強しとうても中学までしか行かしてもらわれへんで、調理師の免状ひとつとんのでも、えらい苦労してんで」大三郎「大木。勉強することができなくて、俺が一番悔しいと思うのはケンカが出来ねぇことだ」大介「ケンカならこいつ(拳)で出来るでしょうが」大三郎「世の中に出たら、こら(拳)通用しねぇんだよ。何かと戦おうと思ったら一番の武器は勉強だ。今のうちにやっとけ」大介「んー。勉強はケンカの武器か。ならやらなきゃな」食後も勉強は続いた。栗原「何遍言ったら解るんです。y=fxの逆関数は、yとxを入れ代えるんですよ」大介「ちょっと小便いってくる」栗原「こりゃダメだ」明子「何言ってんのよ。大木先輩は今夜は炉端焼きのバイトまで休んでやる気だしてんのよ」栗原「やる気があってもダメなものは」高杉「大木さえいなけりゃなあ」森田「おい。お前ら何言い出すんだ」高杉「みんなが協力してるから、勉強はドンドンはかどってる。これなら中間テスト平均70点も夢じゃありませんよ。だけど大木がいたんじゃ、だーんと下がりますよ」栗原「そしたらラグビー部は潰されます」森田「お前ら大木を切れってのか」高杉「部全体のためなら、それもやむを得ないじゃ」トイレから帰ってきた大介に聞こえてしまった。大介「高杉、栗原。お前ら俺がラグビー部のお荷物だってんだな」栗原「いや、そんな」大介「てめえ勉強がトップだからってな、でけえ面すんじゃねえよ」と殴った。大介「おめえもだよ」高杉も殴られた。森田が必死に止めた。圭子「大木君。栗原君の教え方が気に入らないんなら私が変わるわ。だから勉強しましょう」大介「やってられっか、こんなやつらと」森田「大木!」大木は森田の部屋を出て行ってしまった。
賢治、森田、加代らは大木の家を訪ねた。大介の母「大介も小さい頃は勉強の好きな子だったんです。それが父親が呑んだくれになってしまって。あの子の学用品代まで持ち出して呑んでしまう始末で。それからなんです。あの子が碌に勉強しなくなってしまったのは」賢治「それでお母さん今大介君はどこに?」母「昔の不良仲間とさっき出て行きました。先生。先生のお陰でやっと立ち直った大介も、今ラグビー部を辞めたら、元の"川浜一のワル"って言われたあの子に戻ってしまいます。どうか、連れ戻して下さい。お願いします」母親は必死に頼み込んだ。
大介は昔のように仲間3人と街で暴れまくっていた。警官に追われ逃げたところで賢治ら見つかった。賢治「大木!捜したぞ!」大介「先生よ、引き留めに来たんだろうが俺は金輪際部には戻らねぇぜ」高杉「大木、夕べは悪かった謝る」森田「大木、キャプテンの俺からも頼む」大介「よしなよ猿芝居は。何がひとりはみんなために。みんなはひとりのためにだ。そんなものが見かけ倒しだってことが身にしみてわかったぜ」賢治「そりゃ違う。俺たちは一人残らず仲間じゃないか」大介「けっ。俺さえいなきゃ中間テストは上出来でよ、ラグビー部は万歳なんだぜ。めでてぇ話しだよ」賢治「おい大木。部に戻るんだ。俺は例えお前の中間テストの点が悪くて、ラグビー部の一つや二つ潰れたところで一向にかまわん」大介「先生」賢治「俺たちはな、一人のお前が大事なんだ。これまで一緒にボールを追ってきたお前がな」大介「それほどまで言うんならよ、勝負で決めようじゃないか。こいつは(仲間の一人を指し)ハリーマクガイヤって言うんだけどよ、ハイスクールのアメリカンフットボールの名選手だったんだ。走ることじゃ誰にも負けたことがねぇって男よ。こいつに俺の代理をしてもらう。先生も足で鳴らしたラガーマンだ。これなら互角の勝負だろうが」
言うまでもなくその賢治の足は、到底全力疾走に耐えうる状態ではなかった。
大介「先生どうしたよ」賢治「よしわかった。勝負しよう」加代「先生そんなことしたら」賢治「君は黙ってろ。場所はどこだ?」土手までやって来た。仲間「ゴールはあそこの標識だからな」賢治「よしわかった」仲間「じゃ位置について」加代が涙ぐんだ。森田「おい、どうしたんだよ」加代「先生の足が・・・」森田「先生の足がどうしたんだよ」加代「絶対言うなって言われたんだけど、先生今凄く足の具合が悪いの」森田「えっ」加代「今走ったらどうなるかわからないくらいなの。それを承知で先生・・・」大介「バカ野郎!何でもっと早く言わねぇんだよ。(仲間に)おい待て」と言ったのと同時にスタートが切られた。
大地から伝わる衝撃が、激痛となって賢治の全身を駆け巡った。だが賢治は走った。勝負に負ければ、大木は間違いなく悪の泥沼に舞い戻る。何としてもそれをとどめたい一瞬で走った。賢治がこれほど全力振りを絞って走ったことは、現役から引退して以来初めてであった。賢治は走った。そして勝った。
先生、先生大丈夫ですかと全員駆け寄ってきた。大介「先生、足大丈夫かよ」賢治「あぁっ。大丈夫だ」大介「俺のために無理してくれてよ。先生、俺ラグビー部に戻るぜ」賢治「ほんとだな大木」大介「二度とラグビー部を離れないって誓うぜ」賢治はこの日から歩行困難となった。
翌日、賢治は松葉杖をつき学校へ行くと、岩佐「碌に歩けない体操教師なんてものは、ガスの切れたライター、雪で停まった新幹線。使い物にならんと言うことだよ。不良とかけっこして足を痛めるなんて、君は自分の肉体管理もできないのか」賢治「申し訳ありません」岩佐「役に立たん教師など学校に来てもしょうがない。君は一週間の自宅謹慎処分だ」賢治「校長先生」岩佐「別に君など居なくても地球は回る。学校は動く。いいな。これは職務命令だ」一週間後中間テストが行われた。
岩佐は賢治の家を訪ねた。岩佐「滝沢君。君は一体ラグビー部にどういう指導をしたのかね?」賢治「部員たちが何か?」岩佐「今度の中間テストで、部員たちの成績なんだが・・・。平均72点だった」賢治「あの子たちそんなに頑張ったんすか」岩佐「その程度の点じゃぁ私は驚かない。驚いたのは、部員の中に極端に点の悪い生徒が一人も居なかったと言うことだ。滝沢君、君は何と言って生徒を指導したんだ」賢治「いや私は何も言いません。ただ、ラグビー部には、他人を蹴倒して自分だけいい点を取ろうという生徒が居ないだけです。一人の脱落者も出すまい。何事もみんなで頑張ろう。それが言わず語らずの合い言葉なんです。生徒たちはそれを実行しただけです」岩佐「ラグビーのことはよく解らないが、少しはいいところがあるようだな。いや勉強にも役立つようだな」賢治「それではラグビー部の存続は?」岩佐「認めよう。今後は遠慮なくやりたまえ」賢治「校長先生、ありがとうございます」岩佐「滝沢君。君とは色々考え方も違う。これからも衝突することはあるだろうが、私としても生徒の幸せを願う心にかわりはないつもりだ。そのことをお互いに確認しとこうじゃないか」岩佐は手を差し出した。賢治「校長先生」賢治は校長と固い握手をした。岩佐「君は噂に違わぬ泣き虫だな」賢治「はっ」岩佐「じゃこれで」賢治「はい」岩佐「ああいいよ。無理するな。ガス切れライター」岩佐「奥さん。滝沢君を自宅謹慎にしたことは詫びます。しかし、ああでもしない限り、彼は静養するような男じゃありませんからね」賢治は岩佐校長の中に初めて人間を見た。岩佐は賢治の家をあとにした。
賢治がグラウンドに戻ってきた。森田「先生、もう足の方はいいのかよ」賢治「ああ。無理をしなければ大丈夫だ。大木!お前テスト頑張ったんだってな」大介「まぐれまぐれ。圭子さんの教え方が良かったから助かったようなもんでね」圭子「じゃ私教師になろうかな?」森田「止めとけ。安月給だぞ」賢治「なんだ?お前俺の顔見て言うことないだろう」みなアハハと笑った。そんな楽しい雰囲気の中に富田がやって来た。圭子「お父さん」富田「学校の帰り毎日寄り道して、一体何をしてるんだ。さ、帰るんだ」圭子「いやです。私もう子供じゃありません。好きにさせて」富田「圭子!父親の言うことが聞けんのか」賢治「お父さん。圭子さんは心底ラグビーが好きなんです。少しは彼女の自由にさせてあげて頂けませんか」富田「君は黙っていたまえ。圭子はわしの娘だ」直「よく言うよ。あんたと圭子は何の血の繋がりもねぇ」富田「誰だ貴様」直「名村の三男坊っていやわかるかな」富田「何!じゃ、名村さんのご子息の」大介「名村?」直「名村謙三は俺と圭子の父親だ」富田「違う。圭子は歴とした私の娘だ」直「そうかい。じゃオヤジを引っ張ってきて聞いてみようか?」富田「いや、それは・・・。圭子、ワシは用があって帰るが、この男の言うことなど信じるんじゃないぞ。いいな」直「見たか。富田義道が本当のオヤジなら、あぁあっさり帰るかね。なぁこれでわかったろ。だったら俺を兄さんと呼んでくれよ。まっ、俺は焦らねぇからよ。・・・・・・加代ちゃん、考えといてくれたこの間の話し?結婚」加代「冗談は止めて下さい」直「本気だよ。男と女、先に好きだと言った方が負けだが、君に一目惚れした」大介「おい。てめえ帰れ」直「なんだお前、ヤキモチか?」大介「そんなんじゃねぇよ。(圭子に向かって)あんたも帰るんだ」圭子「大木君」森田「どうしたんだよ。圭子には勉強教えて貰ったって、あんなに喜んでたじゃないか」大介「それとこれとは話が別だ。おい、帰れって言ったの聞こえねぇのかよ(直を殴り飛ばした)」賢治「おい大木!乱暴はよせ。お前どうしたんだ」大介「名村はな。こいつらのオヤジの名村謙三はな、俺の仇なんだ」賢治「大木・・・」
川浜高校ラグビー部に、かつて無い内紛が起ころうとしていた。だが神ならぬ身の賢治は知る由もなかった。

第17話 最後のグラウンド(脚本:長野 洋 監督:合月 勇)

この春就任した岩佐校長が、3ヶ月後ラグビー部に突きつけた過酷な条件に部員たちは必死に立ち向かった。それは正にラグビーの基本精神である、「One for All All for One」そのものの光景であった。そして、彼らは見事にこの難関を突破し、11月の全国大会県予選へ猛練習に打ち込んでた矢先
直「圭子の兄貴の名村直だ」大介「名村」(直を殴り飛ばした)賢治「大木どうしたんだ!」大介「名村はな。こいつらのオヤジの名村謙三はな、俺の仇なんだ」賢治「仇?」
名村直。日本屈指の大財閥の総帥、名村謙三を父の持つこの若者の出現が、また新たな波紋を巻き起こそうとしていた。
直「俺のオヤジが仇とはどういう意味だ」大介「てめえのオヤジは、人殺しだ!てめんとこの会社のために、どれだけの小さな商店や会社が潰された知ってか。どれだけに人間が首くくったかわかってんのかよ!」森田「大介、それじゃお前のオヤジさんも」直「なんだそんなことか」大介「そんなこととはなんだお前、この野郎!」直「確かにオヤジの企業がダンプカーみてぇな勢いで、中小企業を押し潰してきたことは事実だろう。だがな、そいつは俺とは何の関係もねぇことだ」大介「関係ねぇだと」超「ああそうだとも。俺は名村家を飛び出した男だ。ましてやここにいる圭子なんか、正式に名村家の娘とさえ認められていないんだ。文句付けるのは筋違いってもんだぜ」大介「そんな屁理屈が通用すると思ってんのかよ!てめえらが名村の血引いている限り、俺の仇であることに変わりねぇんだ」賢治「おい大木!押さえてろ」部員らが大介を押さえつける。賢治「君は帰って貰いたい。ここから出てってくれないか」直「あんたに指図される覚えはねぇよ」賢治「ある。ここは俺の職場だ。生徒たちの教室だ」直「放課後じゃねぇか」賢治「例え放課後であろうと教育の場であることに変わりはない。教育の邪魔をする者は排除する。それが教師の義務だ」直「教育の邪魔?排除?笑わせんなよ。たかがラグビーじゃねぇか。ラグビーのどこが教育だってんだよ」そう言ってボールをけ飛ばした。大介「貴様俺たちの」賢治「止めろ!待て!」と部員を制止した。直に向かって賢治は「ボールを拾ってこい。ボールを拾ってこい!」直「ラグビーのボールは蹴っちゃいけねぇかよ」賢治「確かにラグビーのボールは蹴ることもある。しかし、選手たちはその時それこそボールに魂を込め祈りを込めて蹴ってるんだ。だが、君のやったことは単なる足蹴だ。それはボールに対する、ラグビーに対する侮辱だ。君は確か音楽をやってたな。自分が大切にしてる楽器を足蹴にされて君は平気か。さあボールを拾ってきてみんなに謝れ」すると圭子がボールを拾いに行き、賢治のところへ戻ってきた。圭子「兄を許して下さい」直「圭子・・・」圭子「兄に変わってお詫びします。許して下さい」直「お前、やっと俺のことを」圭子「ええそうよ。あなたがそこまで言うんだったら、あなたはきっと私の兄さんでしょ。でもこれだけは言っておくわ。例え血が繋がっていてもあなたと私は所詮他人よ。あなたと私とじゃ生き方が違うわ。わかった?私は決してあなたの可愛い妹にはならないのよ」直「圭子・・・」圭子「帰って!さぁ帰ってよ!」直「やっぱりお前は俺の妹だ。意地っ張りなところがよく似てらぁ。まあいいだろうとにかく兄貴と言うことは認めたんだ。今日のところはその一言に満足して帰るとするか。だがな、俺は人に殴られっぱなしで引っ込むよな男じゃねぇんだ。必ず落とし前は付けるからな」大介「あの野郎」賢治「大木!それ以上騒ぎ大きくしたら試合が出来なくなるぞ。練習だ。おい練習だ。どうしたんだ県予選はもうすぐだぞ」丸茂「ええ練習はいいんですけど・・・」と圭子を見る。加代「なによみんな。圭子さんにも出て行けって言うの」森田「冗談じゃねぇよ。圭子を追い出すような真似絶対させねぇぞ」
これ以後、森田と大介は練習中もケンカが絶えなくなった。この現況を見た圭子は練習後賢治に「どう考えても私がいることは、ラグビー部にとってマイナスとしか思えないんです。そうでしょう先生」賢治「ん。確かに君の存在が、森田と大木の間をまずくしてることは間違いない。しかし、君が去っていったら亀裂はもっと大きくなるんじゃないのかな?森田は恐らくラグビーを辞めるだろう。大木にしたって君を追い出したという負い目から、練習に身が入らなくなるに違いない。そうなったらラグビー部はメチャメチャだ。いくら有望な新人が入ったからと言っても、いまの川浜ラグビーを支えてるのは森田と大木なんだ。あの二人の動きの咬み合って初めて、内らしいラグビーが出来るんだよ」圭子「じゃぁ私は一体どうしたらいいんですか?教えて下さい。私はどうしたらいいんですか?」
チームワークの乱れを誰よりも心配していたのは賢治であった。だが、賢治には今打つべき有効な手段が見出せないまま、苦慮を重ねていた。
帰宅した賢治に節子は「そんなにまずい空気になってるの?」賢治「あぁ。森田と大木だけじゃない。二人の険悪な空気が全員に伝染して、みんなの気持ちがバラバラになってんだ。だからと言って彼らが、ラグビー自体にやる気を無くしてるわけじゃない。みんなそれなりに練習は一所懸命やってるんだ。ただ、どうしても彼らの気持ちを一つに纏め上げることが出来ないんだ。このままじゃ勝てる試合も勝てなくなってしまう」節子「困ったわね。と言ってあなたの言うとおり、圭子さんが居なくなればもっと酷いことになるでしょうに」賢治「どうしたらいいんだ。どうしたらみんなの気持ちを一つに纏め上げることが出来るんだ」賢治が悩んでいるとゆかりが節子に「ママ。出来たよ」節子「そう。じゃあ後で見て上げますからね」ゆかり「ヤダ。今見てくれなければイヤ」節子「でも今パパと大事なお話しが」賢治「ゆかり、それなんだ?」ゆかり「絵日記よ」賢治「絵日記?読んであげよっか」賢治「ああ」ゆかり「6月2日、タミちゃんとさっちゃんと団地の砂場で遊びました。お城や山や川を作って、とっても楽しかったです」節子「あら?よくできたじゃない」賢治「ゆかり、毎日絵日記付けてるのか」ゆかり「そうよ。もっと読んであげよっか」賢治「ああ」ゆかり「6月3日、今日私はタケシ君とさっちゃんとかけっこをしました。私はビリでした。とっても悔しかったです。6月4日、今日もさっちゃんとタケシ君とかけっこをしました。さっちゃんには勝ったけど、タケシ君には負けました。少し悔しいです」ゆかりは寝てしまい、その後賢治が絵日記を読む。「6月5日、縄跳びで10回続けて飛べました。とてもうれしかったです」節子「随分熱心に読んでるのね」賢治「うん。なぁ、ゆかりいつの間にか字が書けるようになっていたんだな」節子「子供の成長は早いわよ。でも最初はおっくうがって大変だったのよ。何書いていいかわからないなんて」賢治「なぁどうやって書かせるようにしたんだ?」節子「とにかく、その日あったこと何でもいいから書きなさいって言ったの。面白かったことや、悲しかったこと。何でもいいから自分の思うとおりに書きなさいって。あの子、活発なようでも一人っ子だから、時々家にこもっちゃうことがあるのよ。でも日記帳を書かせるようになってから、自分の気持ちを発散させることが出来てきたみたい。どうしたの?」賢治「あいつらにもこの手が使えるかもしれん」
部室で賢治は部員に日記を書くよう言い渡す。大介「なにー。日記?」賢治「そうだ。今日からお前たち全員に日記を書くことを命じる」大介「冗談じゃねぇ。そんな女みてぇな真似できねぇよ」加代「あら?どうして日記書くのがどうして女みたいなの?」大介「そりゃあ・・・。とにかく俺は字書くの苦手だからよ」丸茂「読むのもでしょ」大介「うるせぇなぁ」森田「先生、なんで急にそんなこと思いついたんですか」賢治「自分を見つめ直すためだ」森田「見つめ直す?」賢治「そうだ。それからもう一つ。日記ならお前たち普段口に出しちゃいないことも、素直に書けるはずだ。例えばラグビーのあり方に関する不平や不満なんかもな。まぁ俺は今まで最善と思う方針で、お前たちを指導してきた。しかし、人間にはどうしても独りよがりというものがある。俺がベストだと信じていることでも、お前たちの間には俺に対して批判的な者も居るかもしれん。そう言うお前たちの素直な声聞きたいんだ。どうだそれで」部員A「先生にこの日記見せるんですか?」賢治「そうだ」栗原「それは無理ですよ」賢治「どうして無理なんだ」栗原「だって日記というものは、本来人に見せないものでしょ。それを先生に読まれると思ったら、格好いいことしか書かなくなると思います」一同「そうだよな」賢治「だがそれでもかまわん。初めは格好付けるつもりで書いていても、そのうち必ず本心が出てくるもんだ。もちろん俺はそれを読んだからといって、お前たちに対する態度を変えたりはせん。例えどんなにボロクソに書かれてもな。それだけは信じてくれ」清美「ねねね、交換日記ってのはどう?」大介「交換日記?」明子「あぁ、あれ結構面白いよ。以外と本音が出ちゃってさ」大介「バカ。それこそ女のすることじゃねぇかよ」賢治「いやそれは良いアイデアだ。それで行こう」森田「先生」賢治「お前たちが本音で書いてきたことに関しては、俺も必ず本音で応える。どうだそれで」大介「どうしても書かせる気かよ」賢治「あぁ、いいかこれはラグビー部員全員の義務だぞ」
その日から賢治と30冊に及ぶ、部員たちの日記との格闘が始まった。最初は妙に構えたものが多く、誤字脱字のたぐいも呆れるほどであったが、やがて少しずつ部員たちの隠された部分が現れ始めてきた。例えば、その日の田村二郎の日記にはこう書かれている。
(俺はいつも練習中、先生に怒られている。どうしてなんだろう?頭に来て返事をしないと、もっと素直になれと言われし、本当に俺はどうしていいかわからなる。このままでは俺は、スタンドオフのポジションを、1年生の平山に奪われてしまうんじゃないかと、不安でたまらないのだ)
賢治の返事(君は上手くなりたい、強くなりたい。そればかりを考えているんじゃないのかな。勿論誰だって、少しでも上達したいと願って、練習しているのに違いないが、そのためには、まず自分の弱点を知ることが大切だ。君の弱点は、第一にスタミナ不足。筋力の不足だ。これを補うためには、ランニングやタイヤ引きなどのウエイトトレーニングを人一倍やるしかない。辛いことかもしれないが、その課題を克服してこそ、初めて一流の選手になれるのだ。君のラグビーセンスは、決して平山に劣るものではない。自信を持って練習に励んで欲しい)
その日記が田村の手に戻った翌日、田村は早朝練習でタイヤ引きをしていた。それを見た賢治の胸に熱いものがこみ上げてきた。
森田の日記(俺は今、ハッキリ言って大介の態度に頭に来ている。圭子が名村財閥の娘らしいと判って以来、あいつの態度はまるで変わってしまった。名村財閥と大介の家の間に何があったか知らないが、この間先生が言ったように圭子とは何の関係もないはずだ。それなのに、あいつは今でも本心では圭子を憎み、圭子の恋人である俺にまで八つ当たりをしているのだ。あいつの態度は男らしくない。あいつ一人のために、チームワークが乱れるのはゴメンだ。それなのに何かと言えば先生は、大介の肩ばっかり持っている)
賢治は森田を部室へ呼びだした。森田「間違ってる?俺の方が悪いつーんですか?」賢治「いや、お前は誤解をしてるって言ってんだ。なぁ森田、俺は誰も依怙贔屓したりはせん。昨日お前を叱ったのは、明らかにお前の方がミスをしたからだ。森田。大介がこだわってるってのは、俺にもわかってる。しかし、お前はキャプテンなんだぞ。キャプテンの努めは何だ。チームを一つに纏め上げ、引っ張っていくのが仕事じゃないか。そのお前がそんな心の狭いことでどうするんだ。な!」と森田の肩を叩いたが、森田は部室を出て行ってしまった。
賢治の叱責は逆効果となった。その日以来、光男は日記を提出しなくなったのだ。
一方、大木大介は(6月17日、別に書くこと無し。6月18日、別に無し。6月19日、無し)これが日記の内容である。
賢治の返事(君はいつも書くことは何もないと言っている。本当に何もないのだろうか?人間として生まれてきた以上、日々の暮らしの中で感じることが何もないとは、先生には信じられない。君は名村財閥と君の家との詳しい関わり合いも話したがらなし、富田圭子君に対しても、決して心を開こうとしていない。イソップが死んでしまった今、君は最早誰にも心を開くつもりはないのか。先生はイソップの変わりにはなり得ないのだろうか?)これを読んだ大介は、イソップの墓へ行った。墓標に向かいたばこを取り出し火を付け「線香ねぇからよ、これで勘弁しな」と土に挿した。賢治「線香ならあるぞ」大介「まちぶせかよ」賢治「人聞きの悪いこと言うな」賢治は花を供えイソップの冥福を祈った。賢治「出せ。たばこだよ。ライターもな。お前、たばこ止められないのか。大介」大介「無理だよ俺にゃ。たばこのことじゃねぇ。先生、名村のこと話したくて待ってたんだろ。そのために日記やあんな誘い水かけたんだろ。大体日記の件にしたって、元々は俺の口を開かせるのが目的だったんだ。そうだろう。えっ!いいだろう。言いたいことは言ってやるよ。俺は森田キャプテンに別に恨みはねぇ。富田圭子にだって冷たく当たるのも筋違いだし、男らしくねぇってこともわかってるんだ。けど、けど俺は神様じゃねぇからよ。俺はあの女が名村の血を引いてると知ってしまった以上、今までみてぇに平気じゃいられねぇんだよ」賢治「大介」大介「大丈夫心配するなって。試合になりゃ何もかも忘れて、勝つことに全力尽くすからよ」賢治「ほんとにできるのか?」大介「やるっきゃねぇだろ。そのためにやりたくもねぇ試験勉強もしたし、毎日足腰立たなくなるほど練習もしてるんだ。これで負けたらアホみたいなもんだぜ」
だが、一旦予選が始まると同時に、川浜高校は破竹の勢いで勝ち進んだ。大介と光男のコンビを理想的に回転した。賢治の不安は喜憂に終わったかに見えた。職員室でも教員らが決勝進出に期待をかけていた。
賢治は新楽に立ち寄った。大三郎「どうやら心配するほどのことはなかったみたいっすね」賢治「はっ?」大三郎「光男と大介のことですよ。随分気揉んだでしょう?」賢治「はっ。ご存じだったんですか?」大三郎「光男は身内ですよ。圭子さんだってここで働いたことあるし、気が付かない方が、どうかしてしてまさぁ」賢治「はっ、確かにそうでした」夕子「ほんま、ええおましたなぁ。うちもねぇ、一時はどうなることかと気を揉んでましたんや」大三郎「そこがスポーツのいいとこよ。特にラグビーの場合は・・・」夕子「知ってる知ってる。One for One.All for・・・」大三郎「バカ!One for Allだろ」夕子「あーせやせやそのあのう、One for All.光男の寝言にまで出てきますさかいな」大三郎「まっ、案ずるより生むは易し。ね、この分だと花園も夢じゃねぇな」賢治「いやや、まだ油断は禁物ですよ。準決勝の富士見高校もかなりの強敵ですからね。それにここまでくると、選手たちもかなり疲れてますから」大三郎「なーに疲れの一つや二つ、あいつら平気ですよ」夕子「そう優勝間違いなしや」
二日後、順調に準決勝を勝ち挙がった川浜高校と相模一高が、全国大会への代表権をかけて戦うときが来た。グラウンドでは部員らがウオームアップしている。勝又が賢治の顔を見て歩み寄ってきた。勝又「滝沢さん」賢治「今日はよろしくお願いします」勝又「こちらこそ。(川浜15を見て)自信満々の顔ですね」賢治「はぁ」勝又「しかしね、この前はイソップ君の弔い合戦に燃えるお宅の闘志にやられましたが、今日はそうはいきません。花園にはうちが行かせて貰います。じゃ」賢治「どうも」これを聞いていた森田が「何いってんだよ。花園はこっちのもんだよ」大介「♪~~風は一人で吹いている〜」丸茂「よっ!出たね18番」星「試合もその調子で頼むぜ」大介「任せてとけって」しかし、賢治の顔色は冴えなかった。
確かに賢治は緊張していた。選手たちは自信に満ち溢れているように見える。それはかつて109対0の屈辱的大敗を喫して以来、どん底から這い上がっきた者の強みであり、どこよりも猛練習に耐えてきたという自信でもあった。だがその自信が一歩間違えば、過信となることを賢治は恐れていたのだ。試合は森田のキックオフで始まった。その日も、川浜高校の闘志は相模一高を遙かに上回り、圧倒的優勢のうちに試合を進めた。あっという間にトライを挙げゴールキックも決め6点を先取した。森田、大介ら選手たちは有頂天になっていた。だが、一高も押されながらよく耐え、僅かの隙をついて反撃に出た。前半を終わって6対3僅差の戦いである。ハーフタイムのホイッスルが鳴った。
賢治は渇を飛ばした「森田!大木!さっきのこれ(ピースサイン)は何だ。試合中にみっともない真似するな!」森田「すいません」大介「どうも。あーあ、それにしてもよもう少し点取れると思ったんだけどな」部員「フォワードがだらしないんだ。もっとちゃんと押してくれなきゃ」丸茂「お前、何言ってんだよ最初に点取ったの俺たちフォワードじゃねぇかよ」大介「バックスに回したって碌にまえ進めねぇからな」平山「冗談じゃないっすよ。そっちがボールなかなか回してくれないんじゃないですか」賢治「止めんか!お前ら相手を甘く見過ぎてるんじゃないのか。相手は相模一高だぞ」森田「そんなことはわかってますよ」賢治「わかってんだったらもっと気合い入れて行け!後半は風下になる。相手はハイパント多く使って来るぞ。いいな」一同「はい」
一高側も作戦を練っていた。勝又「ハイパントだ。パントを上げて敵の後ろを突くんだ。今日の川浜は個人プレーが目立つ。守りに回ったら必ずミスが出る。そこを突けばこの試合こっちのもんだ。気合い入れて行け!」一同「おーし」
後半に入って試合の流れががらりと変わった。相模一高のハイパント攻撃は、予想以上に川浜高校の陣形を乱し、選手たちを混乱に陥れた。賢治の最も恐れていたことが起こったのだ。川浜フィフティーンの自信は、いま音を立てて崩れ落ち始めていた。もはやチームはバラバラだった。15人の選手が各々勝手に動き始めては、到底勝利はおぼつかない。ノーサイドのホイッスルが鳴り戦いは終わった。(39対15)川浜フィフティーンが夢にまで見た花園ラグビー場は、まさに幻のごとく消え去ってしまったのだ。
会場の控え室で賢治は「なぜ負けた。なぜこんな無様な結果になったんだ。なぜなんだ。お前たち一人一人の技術は決して一高に劣ってない。ファイトも十分にあった。それなのにこの無様な結果はなぜだ。森田!大木!」
一瞬賢治の脳裏に、あの109対0の屈辱的大敗の記憶が甦った。だが、その日の賢治は殴らなかった。賢治は賭けたのだ。敗戦の原因を選手たちが自らの心に問いかけ、自らの手で答えを出すことに。そのことを、信じ、待ち、許そうと決意したのだ。
賢治「俺はこれ以上もう何も言わん。後は自分たちでよく考えろ」賢治は控え室を出て行った。
後日、森田が日記を持って職員室を訪れた。森田「読んで下さい」
森田の日記(11月18日。今日の試合で俺のラグビー生活は終わりました。何とも言えない気持ちで一杯です。試合が終わったとき、真っ先に先生のところへ飛んでいって、抱きついて泣きたかったです。だけど今年の俺はキャプテンだからみんなの前ではもう泣けません。でも負けて悔しかったです。ものすごく悔しかったです。帰って風呂に入ると勝手に涙が出て困りました。 [圭子から電話があり神社で待ち合わせた。悲しさ紛れに圭子の体を抱き寄せる光男]不意に俺の体の中に欲望が突き上げて来ました。[森田は境内の中に圭子を強引に連れ込む]何もかもメチャクチャにしてやりたい。圭子は全く無抵抗でした。その時、俺は初めて圭子の涙に気がついたのです。俺は急に自分のしていることが恥ずかしくなりました。こいつは俺の10倍も100倍も辛いことを背負っているのに、試合に負けただけの俺のために、すべてを与えようとしているのです。それから長いこと俺たちはじっと座っていました。その時俺は決心したんです。俺たちが果たせなかった全国大会出場の夢を、後輩の大介たちが果たしてくれたらこいつと結婚しようと。考えてみたら今日の試合に負けたのも、俺と大介の呼吸がピッタリ合わず、そのことがみんなにも伝染して、気持ちがバラバラになってしまったためだと思います。これはキャプテンである俺の責任です。俺はみんなに謝るべきだと思っています。でも、今日の屈辱を味わった2年生1年生たちは、この次はきっとやってくれると思います。1年には平山、清川、栗原らの有望選手もいるし、大介もまだあと一年残っています。先生、勝って下さい。来年こそ俺たちの果たせなかった夢をきっと果たして下さい。お願いします滝沢先生。森田光男)賢治「森田・・・」日記の続き(森田光男、心から云います。先生にめぐりあわなかったら、今日のおれはいません。本当にありがとうございました)[森田の日記より転記]賢治の涙はあふれ出して止まらかった。
賢治は部室で森田の日記を大介に読ませた。大介「俺たちが果たせなかった全国大会出場の夢を、後輩の大介たちが果たしてくれたらこいつと結婚しようと・・・」賢治「大介。大介」大介はものすごい勢いで部室を飛び出して行った。向かった先は校庭だった。校庭を見渡すとゴールポストの前に、ボールを抱えてラグビーに別れを告げている森田が座っていた。そこへ圭子もやってきた。大介は圭子の腕を掴み森田の横に連れていった。大介は土下座をし「キャプテン、圭子さん。俺が悪かった」森田「大介」大介「チームワークを乱した原因は俺だ。あんたのオヤジのことでいつまでもこだわって、あんたを苦しめたのもこの俺だ」圭子「大木君」大介「勘弁してくれ。この通り勘弁してくれ」大介は深々と頭を下げた。圭子「大木君」森田「大介、もういいんだ。さぁ立ってくれ」大介「キャプテン、俺たちは来年必ず勝つ!必ず勝って全国大会に出てみせる。そしたらよ、そしたら・・・あんたたち結婚してくれよな。頼む結婚してくれ。結婚して幸せになってくれよ」森田「大介・・・お前ってやつは・・・」圭子「大木君、ありがとう・・・」
賢治はその時知ったのだ。彼らは試合に敗れた。その中から確実に貴重なものをつかみ取ったのだと。

第18話 去りゆく君へ(脚本:長野 洋 監督:山口和彦)

全国高校ラグビー選手権大会への出場権をかけて、川浜高校が対戦した相手は、宿敵相模一高であった。試合は前半、川浜優位のうちに進められたが、後半に入り、風上に立った相模一高のハイパント攻撃によって攻守逆転し、加えてチームワークの乱れも手伝い、思わぬ大差の敗戦を喫したのである。滝沢賢治が、部員一同が、夢にまで見た花園ラグビー場への道は無情にも閉ざされてしまったのだ。その夜、激情に駆られたキャプテン森田光男は、恋人富田圭子の肉体を奪おうとしたが、圭子の涙を見て思い留まった。そして自分たちが果たせなかった全国大会出場の夢を、後輩たちが達成してくれたとき圭子と結婚しようと誓ったのだ。その身上を知った大木大介は「キャプテン、圭子さん。俺が悪かった」森田「大介」大介「チームワークを乱した原因は俺だ。あんたのオヤジのことでいつまでもこだわって、あんたを苦しめたのもこの俺だ」圭子「大木君」大介「キャプテン、俺たちは来年必ず勝つ!必ず勝って全国大会に出てみせる。そしたらよ、そしたら・・・あんたたち結婚してくれよな」森田「大介・・・お前ってやつは・・・」圭子「大木君、ありがとう・・・」その時賢治は、彼らが敗戦の中から貴重な体験をつかみ取ったことを知った。それは正しく愛であり、友情であり、信頼であった。そしてそれこそは、彼らのこれからの人生に於いて、何者にも代え難い財産となるはずであった。
翌日から、早くも1年後の全国大会を目指して猛練習が始まった。現役を退いた3年生も可能な限り練習に顔を出した。形は同じ扱き(しごき)であった。だがその内容は全く違っていた。扱く者と扱かれる者の間にあるものは、憎悪ではなく愛情であった。敵意ではなく信頼と言う太い絆であった。そしてここにも・・・。
加代「何これ?これでお洗濯したって言えるの?やり直し」明子「はーい」清美「出来ました!見て先輩。ほら。あっあれ?どうしちゃったんだ。あれれ」加代「あなたお裁縫したこと無いの?」清美「まいったなこりゃ」女子マネージャーたちも精一杯、部員たちが練習しやすいように努力していた。
森田は就職することに決断した。大三郎「えっ?」夕子「就職?」森田「あぁ」夕子「えぇっ。光男、お前大学行ってラグビーつづけるんじゃなかったんか?」森田「そう思ってた。だけど気が変わったんだ」夕子「えぇっ」森田「それは今でも大学行ってラグビー続けたいって気持ちはあるさ。なれるかなれないかわからないけど、一度はオールジャパンのサクラのマークを着けてみたいとも思ってた」夕子「いや、それやったらお前、何で就職するなんか」森田「圭子だよ」夕子「圭子さん?」森田「あぁ。こんなこと先生に言ったら叱られると思うけど、ハッキリ言って俺ラグビーより、圭子の方を大事にしたいと思うようになったんだ 」夕子「光男、お前」森田「圭子のオヤジさんがどんな大財閥か知らないけど、俺はどうしても圭子と結婚したいんだ。そのためには一日も早く一人前の社会人にならなきゃいけないと思ってる。だから、だから俺・・・。先生、俺の考え間違ってるでしょうか?」賢治「立派だよ。お前の選択は正しいと思う」森田「ラグビー捨てて怒らないんですか?」賢治「何で俺が怒るんだ。俺がお前たちにラグビーを教えたのは、何もお前たちを一流選手にするためじゃない。ラグビーを通じて、生きるための何かを掴んで貰いたいと思ったからだ。お前は圭子さんという素晴らしい人を見つけた。その人を幸せにするために、お前が考え選んだ道を、俺が反対するわけないだろう。それは、お姉さんも、お兄さんもきっと同じだと思うよ。そうでしょう」夕子「うんそりゃまぁ」大三郎「いいんじゃねぇかそれで」森田「ありがとう。ありがとうございます」大三郎「何言ってやんだい水くせぇ。ところで就職は良いけど、一体何やんだ仕事は」森田「コックだよ」大三郎「コック・・・?」夕子「ほんまかいな」森田「うん。川浜ホテルで見習いの募集やってたんで、もう決めてきた」大三郎「随分手回しの良いやつだな。おーえー」夕子「手回しよすぎるがな。人に相談も何もせんとからに。せやけどお前、コックになりたいんやったら、何もそんなとこ就職せんかて内の店手伝どったら」森田「俺はね、フランス料理のコックになりたいんだ」夕子「フランス料理?」森田「あぁ。そのうちに金貯めて、本場のフランスへ行って修行してくる」大三郎「フランスねぇ?」夕子「そんななぁ夢みたいな話しやのうて、姉ちゃんやっぱりな、ちゃんと大学行って、地道なサラリーマンなった方がええと思うのやぁ」圭子「こんばんは」森田「圭子、買ってきてくれた?」圭子は「はい」と言って森田にフランス語入門の本を渡した。森田「ありがとう」夕子「圭子さん。ほんならもー、光男がコックになること知ってはったんですか?」圭子「ええ。ですから私も一緒にフランス語勉強しようと思って」大三郎「おい母ちゃんよぉ、こりゃ今更反対したところで手遅れのようだぜ。ねぇ先生」賢治「はぁ。森田、お前のフランス料理、ご馳走してもらう日、楽しみにしてるぞ」森田「はい」賢治「うん」
暮れも押し詰まって全国大会の熱戦の火蓋が切って落とされた。部員たちは誰から途もなく、賢治の家に集まりテレビで観戦していた。賢治は部員らに的確なアドバイスなどを指導していた。森田は店を手伝いながらテレビ観戦していた。大三郎が出前から帰ってきた。森田に「あれ?お前今日先生んとこ行ってんじゃなかったのか?」森田「うん」大三郎「いやうんて。みんな集まってんだろ」森田「うんでもほら、俺もう現役じゃないからさ」夕子「うちが止めたんや」大三郎「なんで?」夕子「決まってるやないの。あんな狭い団地に、こんなんぎょうさん押し掛けてみーなぁ。奥さんてんてこ舞いやでぇ。それにやで、まさかあんたお茶一杯飲ませて、はいさいなら言うわけいかんやろ」大三郎「なるほど頭数減らしってわけか」夕子「そういうこと。これはね、家計を守る主婦同士の思いやりちゅーもんやね」大三郎「なるほどね。そう言われてみりゃ先生の奥さんも大変だな。よし!ここは俺が一丁・・・」夕子「差し入れあきまへんで。何かあるたんびに一々差し入れしたら家の家計が持ちまへんがな」森田「ケチ」夕子「あっケチや。うちがケチでなかったら、こんな店とーうに潰れとるわ。せやろあんた」大三郎「へぇごもっともで」
節子と加代はスーパーへ買い出しに出かけた。加代「あっそれも私が持ちます」節子「ああいいわ。あなたそんなにたくさん持ってるじゃない」加代「任して下さいって。力は奥さんの倍くらいありますから」節子「まぁ」そこへ玄治と勝が通りかかった。玄治「あはは、どうも」勝「こんちは」節子「あら」玄治「どうしたんです。そんなに買い込んで」
賢治の家ではみなが観戦に熱中していた。部員A「つくしょう気分いいだろうなこいつら」丸茂「行きたかったな花園に」星「行きましょうか。みんなで行きましょうよ。生で雰囲気を感じるだけでも、勉強なると思うんですけど」部員B「いいな。なぁ行こうぜ」丸茂「バーカ。隣の街へ行くのと訳が違うんだい。大阪までの旅費、宿代そういうの考えて見ろ、そう簡単に行けるかい」星「だったら行ける人間だけでも」大介「なんだと。それじゃ貧乏人は留守番してろってのか」星「いえ、そう言う意味じゃないんです」大介「そういう意味でなかったら、どういう意味なんだよ。えーっ」賢治「大介、よせ」
連れて行ってやりたいと賢治は思った。確かに雰囲気を味わい、強豪チームの戦い振りを見るだけでも、彼らにとって大きな糧となることは間違いなかった。だが、ラグビー部の部費に、とてもそれほどの余裕はなかった。
そうこうしているうちに買い物から帰ってきた。加代「ただいま」ゆかり「おかえんなさい」節子「ただいま。さぁどうぞ」ゆかり「こんにちわ」玄治「はいこんにちは。はい」ゆかり「どうもありがとう」玄治「いやおりこうさんだね」春男「オヤジ!」内田春男。玄治の次男である。玄治「なんだお前も来てたのか。いやお邪魔しますよ」節子「スーパーの前でお会いして、車で奥って頂いたの。おまけに差し入れまでたくさん頂いて」玄治「えへへへ」賢治「いつもどうもすいません」玄治「いやーなんたってワシは自称後援会長だからね。あははは」勝「春男、車にもう少しあるから持ってこい」春男「うん」賢治「こんな状態ですけど、まぁどうぞ」玄治「ああじゃちょっと失礼しますよ。うふふふ」節子「ゆかりお部屋行ってなさい」ゆかり「はーい」玄治「おーやっとるやっとる。来年は君たちがテレビに映る番だね。うーんそうだろ。どうしたんだみんな仏頂面して」賢治「いやなんでもありませんよ」明子が玄治にお茶を運んできた「あのう、粗茶でございます」玄治「粗茶?いやぁワシは出来るなら、粗酒の方が・・・」明子「粗酒?」
[裏話:玄治(坂上二郎)と明子(坂上亜樹)は実の親子である。しかしスクールウォーズ全26話の中で、役柄で会話をしたのはここだけである]
賢治「あっありますよ」玄治「あっいや冗談ですよ」賢治「まぁいいじゃないすっか。おい節子」節子「はい?」賢治「お酒の用意だ」玄治「いやーどうもすいませんね。じゃお燗なしで冷やで結構ですから」勝「オヤジ!」玄治「お前はダメだ。運転してんだから」勝「違うよ」玄治「いやすいません」賢治「お忙しんでしょう」玄治「いやいや、まぁお陰様で仕事の方は順調に行っておりますよ。うーん。今年もね、暮れから正月にかけて、突貫工事ってことになりそうですなぁ。あははは。ただね、この時期になると田舎に帰る人が多いもんでね。人手が足りなくて困ってるんだ。うーん。ふふふふ。いやね仕事はね、素人でも簡単に出来るんだよ。どっかに活きのいいのは居ないかねえー」賢治「内田さん!」玄治「なっなんです?」賢治「こいつら使って貰えませんか?」玄治「へっ」賢治「うちの部員たち使って貰えませんか?力仕事だったら、並の大人には負けないはずです」勝「先生、何でまた急に」賢治「花園に連れて行きたいんだ」玄治「花園?」賢治「ええ。ここです。ここへこいつら連れてって、生の雰囲気味合わせてやりたいんですよ」大介「先生。俺のためだったら・・・」賢治「お前は黙ってろ。(玄治に)どうですか?今から正月返上で働けば、準決勝か決勝戦には間に合うと思うんですが。もし働いた賃金で足りなければ、その分は私が何とかしますから」玄治「ははは。何とかと言ってもね、まぁ失礼だがあんたの給料じゃ・・・」勝「よし決めた!先生、その話引き受けますよ」玄治「勝!お前社長のワシを差し置いて」勝「いいじゃないか。春男だって世話になってることだし。第一、オヤジ後援会長だろ。ほんとだったらポーンとポケットマネー出して、全員花園へご招待と言ってもいいとこだぜ」玄治「冗談言うな」勝「おい春男ちょっと来い。お前、花園へラグビー見に行きたくないか?」春男「そりゃ行きたいさ。けど、行くんだったらみんな一緒がいいな」勝「ははは、ほら見ろ」玄治「よーしわかった!こうなったらな、みんな纏めて面倒みてやるよ」一同「やったー」賢治「どうもありがとうございます」玄治「いやー大丈夫だよ。うん」賢治「よろしくお願いします」節子「大木君・・・」大介「よろしくお願いします」勝「オヤジ」玄治「えっあっ、任しとけ」
こうして賢治も手伝い部員らはアルバイトに精を出した。現場に森田が飛んできた。「社長。俺も使って下さい」玄治「うん?」賢治「森田」森田「俺の分はカンパしますよ。よろしくお願いします」そこへOBの尾本と柏木もやってきた。尾本「俺たちも使ってくれよ」勝「尾本!柏木!」柏木「お願いします。専務さん」勝「専務?おいよせよお前」玄治「よーしこうなったらなヤケだ。何人でも使ってやるぞ。ヘルメットだしてやれ」賢治「おお尾本、柏木。お前たちせっかくの休みを・・・」尾本「へへ、先生相変わらず泣き虫だな」賢治「バカ野郎。お前たちが泣かせるような真似するからじゃないか」玄治「先生、泣いてたんじゃ仕事になりませんよ」賢治「はぁすいません」突然大三郎がやってきた。「へいおまっとう」岡持から料理を取りだした。玄治「おいおい、誰もそんな物は注文してないぞ」大三郎「こいつは俺のおごりよ」玄治「おごり?」大三郎「おう!自称後援会長がこれだけいい格好してんだ。自称副会長のこの俺も、少しは格好つけねぇとな」玄治「へー、後で母ちゃんに叱られてもしらんぞ」大三郎「冗談言っちゃいけねぇよ。こっちとら亭主関白よ」玄治「今だけな。はははは」
賢治は家に帰り晩酌を始めた。節子「じゃぁほんとに行けることになったの」賢治「ああ。一人一人の事情があって全員参加とはいかないんだが、大介始め主だった連中は大体行くことになったんだ。それも、夜行日帰りのかなりの強行軍だがな」節子「とにかくよかったじゃない」賢治「ああ。みんなのお陰だよ。・・・・・それにしても、ゆかりに淋しい正月にさせてしまったな」節子「諦めてるわもう。パパ私よりお兄ちゃんたちの方が大切なんだって・・・・・大丈夫よ。ゆかりはそれでもパパのことが一番好きだっーて、言ってるんだから」賢治「すまん」節子「そのかわり来年は私たちも行きますからね。来年は出場できるんでしょ?代表チームとして堂々と」賢治「節子」
賢治たちが花園ラグビー場に到着したその日は、準決勝の2試合が組まれていた。部員たちは初めて触れる大試合の雰囲気に身震いし、選び抜かれた強豪チームのプレー振りを、目をさらのようにして見守った。そして第2試合において、賢治はある人物と運命的な出逢いを果たすことになる。城南工業大学付属高校監督、江川恭司である。江川は現役時代は全く無名の選手であった。だが、城南工大高の監督として赴任するや、その卓越した指導力によって、同校ラグビー部をたちまち全国有数の強豪チームに仕立て上げたのだ。今大会においても、相模一高とのこの試合が事実上の決勝戦と、取りざたされていた。この男と戦うことになる。賢治の胸に、確信に満ちた予感が走った。結局この試合は城南工大高の勝利に終わり、余勢を勝った同校は決勝戦にも圧勝して、晴れのチャンピオンフラッグを手にすることになった。
川浜に戻った部員たちの猛練習が再開された。あまりの猛練習に倒れる者が続出した。中学時代からラグビーを始め、ハードトレーニングには慣れているはずの平山、清川らでさえ、時には音を上げた。だが、誰一人として止めると言い出す者はいなかった。それどころか入部志願者が来た。八木「よろしくお願いします」賢治「君、ラグビーやりたいのか?」八木「はい」賢治「しかし、君は相撲部だろう」八木「はい。だけど相撲部は3人しかおりません。それも二人は3年生だから、卒業すると俺ひとりになってしまうんです」賢治「んーそうか。八木君だったな」八木「はい。八木淳平です」賢治「相撲の練習もきついが、ラグビーもかなり辛いぞ」八木「覚悟してます。入れて下さい」賢治「よしわかった。がんばれよ」八木「はい!がんばります」賢治は手を差し伸べ八木と固い握手をした。賢治「がんばろうな」八木「はい」
八木がラグビー部に入部したのを、竹村教頭は岩佐校長に報告した。岩佐「また増えた?」竹村教頭「はっ。これは公立高校の一運動部としては異例のことです」岩佐「ラグビー部の連中の、学業成績の方はどうなんだ?」竹村「それが、下がってはおりません」岩佐は無言だった。
部員らは相変わらず集団勉強をしていた。森田の家では八木、春男ら8人が集まっていた。森田「いいか、わからんことがあったら何でも質問しろ」八木「これどう読むんですか?これ」森田「それか、それはな・・・おい圭子教えてやれ」圭子「はい。どーれー」八木「あっこれです」圭子「ああこれはね、S=90度っていうのがここのことでしょう。ね。だから・・・」春男「先輩、わかなんないんだぜ。くふふ」森田「うるせえなぁ。お前誰のお陰で勉強できると思ってんだ。えーっ」圭子「止めなさいよ。あなたも勉強しないと卒業できなくなるわよ」森田「はい」夕子「なぁあんた。内いつから学習塾なってんやろな」大三郎「ブツブツ言うなよ。塾やってんのは内だけじゃねえだろう」夕子「はぁ」
賢治の家でも集団勉強をしていた。丸茂「先生、すいません。マンガンの問4ってのをちょっと教えて貰いたいんですが」賢治「どれだ」賢治が離れると、大介は大あくびをした。するとゆかりに頭をぶたれた。大介「いて、何すんだよ」ゆかり「さぼっちゃダメでしょう!」大介「すいません」節子「ゆかり!お兄ちゃんたちの邪魔しちゃいけません!」ゆかり「邪魔してないもん」賢治「おいゆかりもう寝よう。な。おいで」ゆかり「はーい」賢治「はい、おやすみなさい」ゆかり「おやすみなさい。私これから寝んの羨ましいでしょう。ベーだ」大介は思わず苦笑いした。
その頃山崎加代は、卒業後の身の振り方について悩んでいた。部室で相談を受けた賢治は「やっぱり大学へ行くのは無理なのか」加代「高校へ通うだけでも精一杯でしたから」賢治「それで就職先は?」加代「いくつか受けてはみたんですが、やっぱり家庭のことで」加代の父親は数年前事業に失敗して以来、蒸発して行方不明となっていた。加えて病弱の母の体調が、最近更に良くないと言う。加代「いっそキャバレーのホステスでもなっちゃおうかな?」賢治「山崎」加代「ウソですよ。私みたいなブスがホステスになったって、売れっこないですもんね」賢治はただ加代の顔を見るだけだった。
話しが終わって職員室に戻ると、教員らが賑やかに喋っていた。柳先生が机に戻り「はぁーあ、ほんとにショックだわ」賢治「柳先生、どうかしたんですか?」柳はこれには答えず、野田先生が代弁した「事務の小沢さんがね、結婚するんで辞めるんだそうですよ」賢治「あぁあの一番若い」野田「ええ」甘利「それでね、柳先生としてはいささかショックを受けてるわけですよ」柳「だってあの子、まだ二十歳すぎたばっかりでしょう。それなのにもうお嫁に行っちゃうなんてさ」江藤先生「やっぱり若い方が売れ行きいいんですなぁ」柳「江藤先生!どうせ私は売れ残りのハイミスですよ」江藤「そうですよ」三上先生「江藤先生。柳先生もひがまないで、いまにねきっといい人が見つかりますよ」竹村教頭「そうですよ柳先生。焦ってカスを掴んじゃ元も子もないですからね」賢治「そうだ!小沢君が辞めるってことは、事務に一人欠員ができるってことですよね」野田先生「ええ、まぁそうですけど」賢治は「よし」と言って職員室を出ていった。賢治は岩佐校長に掛け合いに行った。
岩佐「山崎加代?」賢治「ええ、ラグビー部のマネージャーをしてる子です」岩佐「その子を事務職員に採用しろと言うのか?」賢治「お願いします。山崎は気だても良くて、なかなかしっかりした子です。確かそろばんも何級かの免状を持ってるはずです」岩佐「滝沢君。君はその子を手元に置いておきたい、何か特別な理由でもあるのかね?」賢治「はっ?」岩佐「例えば卒業後も、ラグビー部の面倒を見させるとか」賢治「校長」岩佐「図星だろ」賢治「いやそれは、確かに彼女が身近にいれば、後輩のマネージャーたちが困ったときに、何かと手助けしてくれるとは思います。しかし、私はあくまで山崎自身のために・・・」岩佐「わかった。考えとく」賢治「あのそれは関西流の考えておくですか?」岩佐「なんだ?」賢治「関西では考えておくと言うことは、断るってことを意味しますが」岩佐「私はただ純粋に考えとくと言っただけだ」賢治「そうですか。ありがとうございます」岩佐「まだ採用するとは決めとらんよ」
だが数日後、加代「ほんとですか?ほんとに採用して貰えるんですか?」賢治「ああ、君さえ異存がなければな」加代「異存だなんてそんな。どうもありがとうございます」森田「よかったな山崎」加代「ありがとう」清美「よかった。だってさ山崎さん居なくなっちゃったら、私たちどうしようかと思ってたんだもん。ねぇ」明子「ねぇ」大介「ほんとよかったぜ。こいつら二人っきりじゃ、かえって俺たちの方が面倒見なきゃならねぇもんな」明子「何言ってんのよ。あたいたちだってね、ちゃんと役にたってるんだから。ねぇ」清美「ねぇ」明子「そうでしょう」清美「そうよう」明子「ちょっと笑わないでよぉ」
加代は夕食の買い物をして家路についた。加代「ただいま」加代の母「おかえんなさい」加代の父「やぁ」蒸発していた父親が帰っていた。加代「父さん・・・出てって、出てってよ!5年も6年もほっとおきながら、今頃ノコノコ帰ってきて、また一緒に暮らそうだなんて虫が良すぎるわよ!父さんの顔なんか二度と見たくもないわ。父さんが居なくなったとき、タカシはまだ母さんのお腹ん中に居たのよ。そんな母さん見捨てて置きながら、今頃何よ。あんたに父親の資格なんか無いわよ!」母「加代!それは言い過ぎよ」加代「母さんは黙ってて。父さん、父さん一体今までどこで何してたのよ」父「方々転々としてな。3年前から和歌山の果樹園に居るんだ」加代「果樹園?」父「ミカン作ってるんだ。今じゃ仕事にもすっかり慣れたし、雇ってくれる人も信用し、ほとんど任さるほどんなったんだ。それで・・・」母「父さんね、みんなで和歌山行って暮らそうって言ってるのよ」父「向こうは空気もいいし、暖かだから母さんの体にもいいんじゃないかと・・・」加代「行かないわよ」母「加代」加代「母さん行きたければ行けばいいでしょう。でも私は絶対に行かないわよ」母「加代」と咳き込む母。父「大丈夫かい?」加代「母さんに触らないで」母「止めて、お願いだから。お父さんこれ以上責めるのは止めて。ね。お願い」加代「母さん・・・」父「母さん、大丈夫かい?」加代は家を飛び出し多摩川の畔まで走り続けた。加代は「バカ・・・母さんのバカ。母さんのバカ」と泣き崩れた。
翌日加代は部室で賢治に報告した。賢治「和歌山へ」うなずく加代。賢治「山崎」加代「仕方がないんです。母はどうしても父に着いて行くって言いますし、妹や弟たちも・・・。あたしは一緒に行きたくないんです。今更あの人を、お父さんと呼んでニコニコ暮らせると思いませんから」賢治「だったら君だけでも残ればいいじゃないか」加代「出来ないんです!母はあの通りの体ですし、妹や弟たちが一緒に行く以上、やっぱり私が面倒見る以外には・・・」賢治「そうか・・・」加代「せっかく校長先生に頼んで下さったのに、ほんとに申し訳ありません」賢治「そんなことはいいんだ。それより君が居なくなると・・・」加代「大丈夫ですよ。西村さんも、杉本さんも見かけよりはしっかりしてますから。ちゃんとマネージャーの仕事果たしてくれると思います」賢治「そうじゃないんだ。君が居なくなると淋しがる人間が大勢居ると・・・」加代「先生はどうですか?先生も、淋しいと思ってくれますか?」この娘の慕情は痛いほどわかっていた。わかっていても、どうしてやることもできない賢治であった。加代「先生!」と言って賢治に抱きつく加代であった。「お願いです。1分、1分だけこうしていて下さい」加代は泣きながら賢治の胸に体重を預けた。
賢治にとって教師として、3度目の卒業式が訪れた。会場での岩佐の祝辞の挨拶は「諸君は不肖この岩佐国安が本校に就任して以来、最初に送り出す卒業生である。この1年間、私は諸君の学力向上のために、敢えて過酷な試練を与えてきた。そのため部活動を停止になった、クラブも数少なくない。就中(なかんづく)運動部の諸君にとって、この岩佐は親の敵よりも憎いやつと写ったに違いない。しかし、これから諸君が世に出たとき、この試練は必ず役に立つものと、私はそう信じて疑わない」
甘利「自信満々ですね」と賢治に小声で言った。
岩佐「世の中は、弱肉強食を鉄則としている。スポーツの世界に於いては、勝者よりも敗者の方により拍手が送られる例を、間々見受けるが、実社会に於いて、そのような甘っちょろい考えは通用しない。敗者は勝者の餌食となって滅びるしかないのだ。では社会の勝者とは何か。これは、より高度の知的能力。平たく言えばより高い学歴を身につけた者だ。学歴社会を批判することはやさしい。しかし、その学歴社会を改革するためには、まず自らが高度の学歴を得て、社会の指導的立場に立たなければ、所詮は弱者の遠吠えとして、終わるのみである。私が、諸君たちに多くの勉学を課した理由はここにある。卒業生諸君"社会の勝利者たり"これが私の贈る言葉である」
式が終わってから、甘利「どう思います?今日の校長の話し。確かに一理あると言えばありますが、ぼくはどうしても、ああ言う考えには付いて行けませんね」賢治「ええ。私もあなたと同じ意見です。しかし、一つだけドキッとしたことがありました。スポーツの世界では、敗れた者により多くの拍手が送られると言う、あの行です」甘利「あぁ、甲子園の高校野球なんかを見てると、大体そうですよね」賢治「日本ではその傾向が強いようです。新聞の見出しなんかでも、"さわやかに散る"とか、"敗れて悔い無し"とか、でもね実際にやってる者にとっては、負ければやっぱり悔しいんです。必ずどっかに悔いが残るもんなんですよ」甘利「滝沢先生」賢治「勝負は勝たせなきゃウソです。やるからには絶対勝つべきなんです」甘利「滝沢先生」賢治「あ」賢治らが見たのは洗濯をする加代の姿であった。賢治「山崎、お前今頃何やってんだ」加代「お洗濯ですよ。これが最後ですからね」賢治「山崎」明子「山崎先輩」清美「せんぱーい」明子「ちょっと来て下さい」加代「何なのよ一体?」明子「いいから来て」二人は加代の両脇を掴みグラウンドへ引っ張っていった。そこにいたのはラグビー部員全員であった。加代が来ると、部員らは輪を作り加代はその中に閉じ込めた。
加代「どうしたのよみんな。まじめな顔しちゃって・・・。何なのよこれ?私お洗濯の途中だから」と輪を抜け出した。森田が追いかけ「山崎。俺たちラグビー部がここまで来れたのはお前のお陰だ。無論、滝沢先生が居なかったら、俺たちは永久にダメラグビー部で終わったろう。けど、その滝沢先生を陰で支えてきたお前の存在の大きさを、俺たちは忘れていた。改めて礼を言う"ありがとう"」森田は深々と頭を垂れた。部員一同"ありがとうございました"と礼を言った。賢治「あいつら・・・・・」賢治の目には涙が一杯溜まっていた。そして加代の目にも涙が・・・。加代「ちょっと止めて。何よみんな改まっちゃって。おかしいわよ」大介「一度ぐらい真面目に礼を言ったていいだろう」加代「大木君」大介「そいでよぉ、キャプテンたちとも相談したんだけどよぉ、何か送るっていっても、どうせ碌なもんはやれねぇし」加代「いらないわよ」森田「そう言うと思ったよ。だから俺たちは感謝を込めて、これからお前を胴上げする」加代「えーっ」森田「かかれ!」部員一同加代を一斉に胴上げした。甘利も涙ぐみながら「先生、山崎は勝者ですか?敗者ですか?勝ったんですよね。山崎は勝ったんですよね」賢治は居たたまれなくなって「おい!俺も仲間に入れてくれ。・・・山崎」加代「先生」賢治「ありがとう。ほんとにありがとう。よし行くぞ!」賢治の目は、涙が溢れる直前だった。
去りゆく君に、いま熱い感謝の気持ちを贈り、幾つもの手が一つの心となって、加代の体を、真っ青な大空へ突き上げていた。

第19話 友よ安らかに眠れ(脚本:大原清秀 監督:岡本 弘)


山崎加代の旅立ちを間近に控え、その日歓送会が行われていた。新楽にてラグビー部員ら一同で"惜別の唄"を合唱した。
賢治「しかしな、これでもう会えないって訳じゃ無いんだ。山崎の引っ越し先の和歌山と、花園ラグビー場のある大阪とはすぐ近くだ。我々が全国大会に出場さえすれば、山崎は必ず応援に来てくれるだろう。再び山崎に会うためにも、秋には何としても花園に行くぞ。いいな」
大介が音頭をとり加代を中心に円陣を組んだ「俺たちは絶対花園へ行くぞー!」一同「オー!」大三郎「さぁ切りのいいとこで、料理を出すぞ」大介「なぁみんな。加代さんの出発までにはまだ二日ある。世話んなった礼としてどうだろうなぁ、加代さんがして欲しいことは、どんなことでもするってぇのは」賢治「おい希望があったら言ってみろよ」加代「あたし・・・いえ、いいんです」森田「遠慮するなって、何だよ一体」圭子「あーっ、きっとあのことね。先生、加代さんはあたしによく言ってたことがあるんです」加代「圭子さん」圭子「いいじゃない。加代さんは一度でいいからみんなとプレーしてみたかったんですって」賢治「プレイを?」加代は、はにかみながら下を向いた。
賢治は改めて、マネージャーという仕事の淋しさを思った。それはあくまで下積みの仕事である。女性とはいえラグビーをこよなく愛する少女として、グランドを走ってみたかったのに違いない。
翌日賢治たちは加代を練習に加えた。清美「せんせーい。私たちもやらせてよ」と明子、圭子そしてなんと大三郎までやって来た。賢治「おお、いいぞ一緒にやろう。マスターもですか?」大三郎「俺だって応援ばっかじゃつまんないじゃないすっか」圭子「さ、いこ」明子「男に負けるな」賢治「お、行ってこい」加代、圭子、明子、清美とランパスの練習を始めた。大三郎「いいっすねぇ。グラウンドに花が咲いたみたいで。えっ」賢治「はっ」大三郎「加代ちゃーん。ハイパント行くぞ」加代「さぁ来い!」大三郎「そうりゃ」とボールを蹴り上げた。加代は見事にキャッチし、みなから拍手喝采を浴びた。加代は「いくぞ!」とボールを蹴り上げた。
練習後、加代は部室で練習日報を取り出した。そこへ賢治がやってきた。加代「先生、今日はありがようございました。部に入って一番楽しかったです」賢治「あっそうか。もっと早くやらしてやればよかったなぁ。あっそうだ。君は引っ越しの支度があんだろう。早く帰りなさい」加代「でも、これだけは書かないと」賢治「あぁ練習日報だったら、西村たちに書かせればいいじゃないか。君はもう卒業したんだし」加代「西村さんたちは、まだ書き方のポイントが上手く掴めないんです。明日までは私が書きます」そう言って書き始めた。「4月9日晴れ。バックスがゲインラインを突破できない」賢治「君はこの3年間、この記録を書き続けてくれた。俺はこれを見て、選手一人一人の健康状態、プレイの欠点をチェックすることが出来た。ほんとに助かったよ」加代「ほんのメモ程度のものですけど」加代「いや、もし君がこれを書くのを一日でも休んでたら、俺は練習プランを起てることさえ出来なかった。チームがここまで成長できたのも、君のお陰だ。ほんとにありがとう」加代「先生・・・・」
川浜高校へ加代を訪ね直が来ていた。加代「あたしと結婚したいというお話ですか?」直「あぁ。イエスなら俺がロックバンドを解散してもいい。関西に君を追っていく。ノーならきれいサッパリ諦める」加代「あたし、結婚するつもりはありません。あなただからではないんです。誰とでも、いまは・・・」直「なぜ?」加代「あたしが半人前の人間だからです。何をするにもあやふやだし、手にも、技術らしい者は何一つ無いし」直「それはお互い様さ。俺だってまだ半人前のアーティストだしさ、だけど半人前の男と女だって、お互い助け合えばどうにかなるんじゃないか?そうだろ」加代「いいえ、それは違います」直「違うって何が?」加代「ラグビーを見て貰えばわかります。先生はいつもおっしゃるんです。仲間を助けようと思ったら、まず自分のポジションをこなせる一人前のプレーヤーになることだ。それさえ出来なくて、どうして仲間をサポート出来るんだろうって。だから思うんです。半人前の、私とあなたがもし一緒になっても、本当の助け合いは出来ないんだって。相手に甘えるぶら下がり愛が生まれるだけだって。助け合いとぶら下がり愛は違うんです」直「まいったな、こりゃぁ。ハハ、ハハハ。助け合いとぶら下がり愛は違うか。全く先生は君をしっかり者に育てたもんだ。よし俺の負けだ。プロポーズは取り消し」加代「ごめんなさい」直「君が誤ることはないさ。ただ、お互い一人前になって、さぁ結婚してもいいなってことになったら、俺も結婚相手の候補の一人に残してくれないか?それぐらいいいだろう」加代「ええ」直「よし、じゃ君の門出のはなむけに何か歌うよ。何がいい?」加代「惜別の唄がいいわ」直「知らないな」加代「この間がみんな歌ってくれたの。とても心にしみて・・・」直「じゃぁ教えてよ。俺すぐ覚えるからさ」加代は歌い出した。グラウンドで部員に指導する賢治に、目を配りながら熱唱した。
この校庭も、今日限り見納めである。加代の胸に突き上げるのは、正に惜別の情であった。
直「古いものでもいい唄ってのはあるんだなぁ」そこへ大介がやってきた。「名村」直「よっ!」大介「何が"よっ"だ。てめえの顔見るとむかつくんだよ。帰んな」直は持っていたギターを立てかけ大介を殴った。直「この間俺にくれたパンチのお返しよ」大介「この野郎」大介は直に掛かっていった。加代「止めて!ねぇ止めてよ」森田「おい!止めろ!」大介は立てかけてあったギターを振り回し壊した。直「てめぇ俺のギターを。この野郎」ケンカは大きな騒動に発展した。賢治「おい!大木!止めろ!」森田「止めろ!」加代「止めてよ」賢治「止めんか」圭子「兄さん」大介「圭子さんどけよ!」森田「圭子に何するんだ」大介「あんたには関係ねぇだろ」ケンカは一向に止まらない。そこへ運悪く岩佐が通りかかった。「こら!静まれ!止めなさーい」やっとのことで騒ぎは静まった。岩佐「乱闘を起こすようなクラブの活動を認めるわけにゃぁいかん。滝沢君!事件の原因を究明して対策を起こしたまえ」岩佐は去っていった。
部室で話し合いが始まった。大介「先生よ、何故こいつが憎いか話すぜ。8年前だ。オヤジは小さな雑貨屋をしていた。家の前には原っぱがあって、俺はいつもそこで遊んでた。そんなある日だ。それは私鉄の駅を造って、その辺りをターミナルにするための調査だった。後でわかったんだが、名村財閥の会長、名村謙三の命令だった。まもなく原っぱは潰されてどでかいスーパーが出来た。目と鼻の先にそんなものぶっ建てられたんじゃ、俺のオヤジの店はひと溜まりもなかった。俺が許せねぇのは、名村の手先がそんなオヤジの足元を見て、うちの土地を徹底的に買い叩きやがったことだ。そんなはした金じゃ別の商売を始めることも出来ず、オヤジは酒浸りになり首を括って死んだ。そのために、貧乏のどん底に叩き込まれて俺がどんな思いを・・・。いや俺のことはいい。おふくろがどんな苦労舐めてきたと思う。何もかもこいつのオヤジのせいなんだ」直「大木。俺もお前のオヤジさんを気の毒だと思う。だからって俺にどうしようがあるよ。オヤジさんを生き返らせろとでも言うのか」大介「止せよ逃げ口上は。そりゃお前は直接関係ねぇ。だけどな頭ではわかってても、てめえが仇の名村のセガレかと思うと、俺の心臓が納得しねぇんだよ!いいか、二度とここへ来るな」直「兄貴が妹に会いに来て何が悪いんだ」大介「てめえ!」大介は直に飛びかかっていった。賢治と加代が止めに入った。大介「俺の気持ちはわかんねぇよ」加代「私はわかるわ、よくわかるわ!貧乏の苦しさ、親の居なかった辛さ、大木君の所と同じだもの。だから大木君と直さん仲良くしてくれとは言わないわ。でも、殴り合いだけは止めて欲しいの。直さんも、ねぇお願い」大介「だけどよ!」賢治「大木!お前この間なんて言ったんだ。山崎がして欲しいことは何でもしてやる。そう言ったんじゃなかったのか。山崎のささやかな願いをなぜ聞いてやれんのだ」大介「わかった。先生、俺と名村を二人っきりにしてくれ」賢治「どういうつもりだ?」大介「腹をブチ割って話ししてみてぇだけだ。男同士差しでな」賢治「いいだろう」この場の話は一応決着が付いた。
大介と直は二人っきりになった。大介「先生がなんと言おうと、てめえとは血を見ねぇ限り収まらねぇ。タイマン受けるだろうな」直「あぁ。そんなもんでお前の恨みとやらが水に流せるんならな。場所と時刻は」大介「明日の朝8時。富士見河原だ」この様子は、大木が遅くなったことでどうしたのかと思い、明子と清美が部室を覗いていたのだ。明子「えーっタイマンだよ」大介「お前たち」明子「先輩、よしなよタイマンなんて。校長の話し忘れたのかい?」清美「ばれたらラグビー部は廃部だよ」大介「シーッ。今の話し先生にも誰にも言うんじゃねぇぞ。もししゃべりやがったら、てめえらと縁を切るからな」明子「先輩・・・」ドアが開いて賢治らが入ってきた。賢治「どうだ。話しは終わったか?」直「ああ、もうゴダゴダは起こさねぇよ」直と大介は握手を交わした。圭子「よかった」
だが、賢治は異様なものを覚えていた。二人の対立がこのようにあっさり氷解するものであろうか。
帰り道に加代は賢治に「あたしもこのまま無事に済むとは思いません」賢治「まぁそう心配するな。どんなことがあっても、あの二人が傷つけあうような真似はさせやしない。約束するから君は安心して旅立ちなさい」加代「先生、ほんとにお願いします」賢治「あぁ」加代「あっ。先生ちょっと」賢治の肩に桜の花びらが載っていたのを加代は取り、それを賢治に見せた。賢治「あー夜桜か」加代「先生。桜がきれいだから、あたしここでお別れします」賢治「元気でな山崎」加代「先生もどうぞお元気で」
人は万感胸に溢れた時ほど、不器用な言葉しか出ないものである。この時の賢治もそうであった。
賢治「じゃぁ花園で会おう」加代「ええ。花園で。失礼します」加代は走って帰っていった。
翌日の賢治の授業中、江藤先生「先生。ちょっと」賢治「はっ」江藤「大木が居なくなりました」賢治「えっ」江藤「すいません。気付けてたんですけども」賢治「わかりました。みんな悪いなちょっと自習しててくれ」明子「先生・・・」清美「明子!ダメ!ダメ!」賢治は慌てて大介を捜しに行った。
どんなことがあっても、大木と名村直を戦わせてはならない。賢治は加代にそう誓った約束を果たしたかった。
その頃加代は、新横浜駅ホームにいた。節子、森田、圭子らが見送りに来ていた。森田「はい。これは列車ん中で。それとこれは暇つぶし」にと弁当と雑誌を加代に渡した。加代「すいません」新幹線がホームに滑り込んできた。ゆかり「おねえちゃん、さよなら」加代「さよなら」と言った途端、加代は"あっ"と立ち止まった。加代の母「何してるの。早く」加代「あたし、きのうの練習日報書き忘れたの」加代の父「練習日報?」圭子「ああ加代さん。きのうは大木君たちの騒動で、書く暇もなかったもんね」母「いいじゃないのそんなもの。ねっ、さぁ早く」加代「でも、先生にすまないの」賢治の回想「もし君がこの記録を書くのを一日でも休んでたら、俺は練習プランを起てることさえ出来なかった。チームがここまで成長できたのも、君のお陰だよ。ほんとにありがとう」 加代「あたし、ちょっと学校に行って来る。悪いけど1時間だけここで待ってて」父「おい加代」母「加代」加代は、両親の制止も顧みず学校へ向かった。
大介はタイマンの場所へ到着した。直「遅いぞ!大木」大介「うっせー!さあ、どっちかが死ぬまでやろうぜ」直「このあいだおめえがぶっ壊した俺のギターみてえに、バラバラにしてやるぜ」こうして二人のタイマン勝負が始まった。
一方、部室の前で、明子は「清美!さっきあたいが先生に話そうとした時、なんで止めたんだよ!名村直はともかく、大木の兄貴にもしものことがあったらあんたのせいだからね!」清美「今頃ガァーガァー言っても遅いよ!とっくに血を見ちゃってるよあの二人」明子「薄情者!」と清美に平手打ちした。清美「何すんだよ」と返した。部室の中で二人の話しを聞いた加代が血相を変えて飛び出してきた。加代「今の話しほんとなの!大木君と直さん決闘してるのね!」3人は学校を飛び出して、二人を制止すべく走り出していた。
大木と名村が決闘沙汰を起こせば、その結果ラグビー部が廃部に追い込まれるのは、火を見るよりも明らかであった。一時も早く何とかしなければ、その思いが加代を焦らせた。
加代は交通量の激しい道路を横断しようとした。清美「あっ先輩。あっちの歩道橋渡ろう」加代「大丈夫」そう言って渡りだした。しかし、車に跳ねられてしまった。
大介と直の決闘はまだ続いていた。二人ともボロボロ状態で戦っていた。やっと賢治が現場を見つけた。賢治「やめろ!いい加減にしろ!止めろ!」大介「離せよ!先生離してくれよ!」大介「お前ラガーマンだろ。戦うんだったら試合で戦え!」今度は直のところへ行き「君もだ!手を痛めたらギター弾けなくなるだろうが!」直「いいからほっといてくれよ!」賢治「俺は死んでもここを動かん!やるんだったら俺を殴り倒してからやれ!」こうして二人の戦いは終わった。そこへ大三郎がバイクで駆けつけた「先生!大変だ先生!」賢治「どうしたんですか?」大三郎「加代ちゃんが車に跳ねられて、いま病院に運ばれた」賢治「え」3人は唖然とした。
皆が川浜市立総合病院に集まった。医師「みなさんお願いがあります。出血多量ですので目下賢明に輸血を続けておりますが、ストックを使い果たして血が足りません。患者はAB型です。ABおよびO型の方はぜひ、血液をご提供下さい」賢治「私はO型です」直「俺も丁度ABだぜ」丸茂「俺はO型です」星「俺もABです」早速、皆から採血が行われた。賢治「もう200採って下さい」看護婦「大丈夫ですか」賢治「ええ」直「俺も400にしてくれ」大介は型が違うため、苦虫を咬んだ。しかし、何とかしたいと言う気持ちで一杯だった。
処置室の前で皆が加代の意識が戻るのを願っていた。加代の父「これだけして頂いたのに、血液がまだ足らないそうです」そこへ甘利、野田、柳先生がやってきた「滝沢先生!ぼくたちも協力しますよ」柳「血液型が合うのが、教師の中では3人しか居なかったもので。申し訳ありません」加代の母「いいえ。どうもありがとうございます」野田「生徒たちにも声をかければ、何人か提供者があると思うんですが」甘利「それがもう、みんな家に帰ってしまって、なかなか連絡が付かないんですよ」そこへ大介が仲間を連れてやって来た。野田「な、なっ、なんだ君たち」大介「先生、俺の知り合いこんな悪ばっかりだけど、訳話したら手貸してくれるってよ」賢治「ああ」不良少女「でもさぁ、あたいたちみたいな悪の血でいいの?」賢治「赤い血に、悪も善良もありゃしない。みんなありがとう」
多くの人々祈りが通じたのであろうか、加代が意識を取り戻したのは、その日の夜であった。
母「加代!お母さんよ。お父さんも来てるのよ」父「加代」賢治「山崎。よく頑張ったな」病室の外で待つ人々も喜びに包まれた。圭子「加代さん助かったのね」甘利「よかったな」大介と直までも無意識のまま握手をしていた。
加代「先生・・・」賢治「何も言わなくていい。まだ無理しちゃいかん」加代「先生・・・すみません」賢治「何を言うんだ。詫びることなんか何もありゃしないじゃないか」加代「ご迷惑かけて、すみません。すみ・・・・・」加代は目を閉じた。賢治「山崎、どうしたんだ?山崎」看護婦「プルス低下しました。60、55、50」医師「カンフル」酸素吸入も開始された。
その時容態が急変した。急性の肝臓障害を併発したのである。加代は再び、意識不明となった。
看護婦が処置室を出る。賢治「山崎。聞こえるか。山崎!!」ゆかり「おねえちゃーん」先輩、先輩と外で待機していた人がなだれ込んできた。森田「山崎!ファイトだ!」圭子「加代さん!頑張って!」先輩花園どうなるんですか。先輩。山崎さん頑張って!死なないで下さい!山崎さーん!しっかりしてください!皆が叫びながら加代に訴えている。しかし、無情にも加代には届かなかった・・・・・。
医師「お気の毒です」母「加代!かよー!」母は泣き崩れた。父も必死に堪えたがおえつを漏らした。賢治はただ信じられないと棒立ちだった。直「加代さん。俺はどんなことがあっても、一人前になってあんたと結婚しようと思ってたのによう。なんで。なんで・・・」
それは、あまりにはかない死であった。加代はもっと何かを言い残したかったのに違いない。深い悲しみの中で、その思いが賢治の胸に突き上げた。
賢治は加代の死を痛んでばかりはいられなかった。大木と直は依然として一触即発の状態であり、ラグビー部廃部の危機は、一向に去って居なかったからである。
加代の葬儀がしめやかに営まれた。圭子「加代さん。さよなら」大三郎「もういっぺん、ラグビーやりたかったのにな」清美「先輩。マネージャーの仕事、ちゃんとやります」明子「見てて下さい。この日報、ちゃんと付けます」賢治が練習日報の任意のページを読み始めた。
「1月13日雨。雨練習にてディフェンスをつけての練習。ラインプレー、二次攻撃のポイントが決まらない。フォワードへのボールの集中が遅い・・・」
賢治は改めて目を見張る思いであった。これらの文字の一つ一つを、加代はどんな思いで刻んだのであろう。練習、試合、遠征、ミーティング、どの日にも、どの場所にも加代は居た。勝利の時も、敗戦の時も、加代はラグビー部と共に居た。そこには男子部員に劣らず、ラグビーに青春のすべてを捧げ尽くした、乙女の熱い思いが込められていた。
「10月20日曇り。県立ラグビー場にて、相模一高と対戦。スコアは109対0。 加代の回想「先生!みんな、どういう気持ちで戦ってるんでしょうね。悔しいでしょうね。情けないでしょうね」
「6月3日晴れ。アタックにバラバラの面が目立つ。もっと当たりの基本練習をする必要がある・・・・・。(賢治は顔中涙だらけで、言葉にならない)申し訳ありません。これを書いた山崎が居ないと思うと、私にはもう読む気力がありません・・・・・・・・・・・・・・・・・・・山崎は最後にこう書き残してる」
「先生、皆さん、私がただ一つ心残りなことは、このノートに、たった4つの文字が書けなかったことです。それは、(加代の回想:花園出場の4文字です。今の部の状態は大木君と直さんが争いを起こせば、花園出場どころか廃部は目に見えている状態にあります。大木君、直さん、あなた方は二人とも私にはいい人です。あなた方は本当に敵同士なのでしょうか。お互いの立場に立って考えてみて下さい。本当の敵はもっと巨大な世の中の悪なのだと、私は思います。戦うのならその敵と戦って下さい。みんなが血と、汗と、涙で育て上げたラグビー部の芽を摘まないで下さい。これが私の最後のお願いです) 山崎は、僅かこれだけのことを書くために駅から引き返してきたんだ。これを聞いて何も感じないのか。大木・・・、直君・・・。もし何も感じないとしたら、君たちは人間じゃない。
大介は棺の前に土下座をし「加代さん、すまん!あんた殺したのはこの俺だ!俺が、昔の俺にこだわって、タイマン張ったばかりに・・・、あんた車に跳ねられて・・・。俺のせいなんだー!」直「それは違う。俺がくだらん意地で、お前と張り合わなければこんなことにはならなかった。悪いのはこの俺だ」大介「いや、俺だ」賢治「もう止せ。山崎の気持ちを生かしたかったら、もう二度と殴り合いなどしないでくれ。いいな」大介「ああ、俺は恨みは水に流す」直「俺ももうしこりは残さねぇ」賢治「よく言ってくれた。じゃぁ二人で握手してくれ」二人は固い握手を交わした。
加代は最後までマネージャーであった。その心が部の一つの危機を救ったのである。

一同は加代の墓前に集まっていた。直「加代さん。君と一緒に歌った"惜別の唄"を歌うよ」そう言って、皆で惜別の唄を熱唱した。そこへ校長がやって来た。賢治「校長先生」岩佐「いや、校長会議があったもんだから。遅れてすまん」大介「先生」岩佐「ん」大介「この間の殴り合いに火着けたの俺なんだよ。俺を停学にしてくれ。もう乱暴な真似しねぇからよ、ラグビー部だけは廃部しないでくれ。さ、早いとこ停学って言ってくれよ」岩佐「君はどうしてそう停学が好きなんだ。そんなに勉強が嫌いか。やることさえやっとけば、停学も廃部もありゃせん。それが私の方針だ」賢治「ありがとうございます」岩佐「それじゃ、拝まして貰おうか。さ君も」と大木の肩を叩いた。岩佐「あっ、君宛に学校にこれが来てた」内ポケットから加代からのはがきを賢治に渡した。
加代の手紙「先生いつかは一分間ありがとうございました。お陰で私はどんな辛いことがあっても、生きていけそうな気がします。先生どうぞお幸せに」

それは正しく、賢治への愛をいだいて旅だった加代の、心のほとばしりであった。人知れぬ形で残された、恋文であった。

ラグビー部は練習を再開した。賢治は練習日報を手に取り「これは山崎が残してくれたラグビー部の歴史だ。この先の何も書かれてないページを作るのはお前たちだ。山崎の願いだ。ここになんとしても、花園出場の4文字を書き加えようじゃないか」一同「オーース」
山崎加代の死を乗り越え、川浜高校ラグビー部のばく進が始まった。花園へ、花園へと・・・

第20話 我ら花園に立つ(脚本:大原清秀 監督:合月 勇)

秋、全国高校選手権、県予選の季節が巡ってきた。川浜高校は1回戦、2回戦、3回戦と相手を撃破し、準々決勝に駒を進めた。だが、賢治にはただ一つ、気がかりなことがあった。キャプテンの大木がなぜか不思議を極めていたことである。
ハーフタイムに賢治は大介に「どうしたんだ。気合いが入ってないぞ」大介「すいません」頼りない返事が返ってきた。
結局、その試合にも勝ち準決勝進出が決定したが・・・。賢治の心には不安が渦巻いた。大木がスランプから脱しない限り、以後の試合の勝利は、おぼつかなかったからである。
猛練習に励む部員たちにとって、時折訪れる名村直のギターは疲労を忘れさせた(部員一同がグラウンドで"青春時代"を合唱)
合唱が終わると賢治は「よーし練習だ!気合い入れてけ!」一同「ウォース」と各々グラウンドへ散っていった。
賢治「いやー楽しかったよ。どうもありがとう」直「いやーお粗末、お粗末。圭子、俺はちょっくら北の方へ一人旅に出るからな」圭子「これから寒いわよ。北国は」直「だからいいんだ。都会暮らしだと俺の音楽も、生ぬるくなっていけねぇ。おい、大木。決勝の頃には帰ってくるから頑張れよ」大介「あぁ任せとけって」直「加代さんのためにも、絶対に花園へ行けよ」大介はうなずいた。圭子「送るわ」直「あぁ、見送りならいいよ」圭子「そおぉ、じゃ兄さん気を付けて」直「ああ。お前たちも上手くやんな」と言って森田の肩を叩いた。賢治「何も言うな。そこまで送るよ」直「あのなぁ先生。圭子には音楽修行のためだって言ったけど、旅に出るほんとの訳は違うんだ」賢治「加代さんのことか」直「あぁ。あの子が死んでよく解ったんだ。どうしようもない甘ちゃんだったことがよ。北風に吹かれて、一回り大きくなりてぇんだ。だけど先生、大木のヤツどっか悪いんじゃねぇのか」賢治「いや、なんか心配事があるみたいなんだが、俺がいくら訳を聞いても"なんでもありません"と言うだけでな。行こう。」ふいに立ち止まる直に賢治は「どうしたんだ」と聞いた。直は一人の中年の男を見ていた。そして「おやじだ」賢治「えっ」直「おやじがここに用事があるとすりゃあ、圭子のこと以外考えられねぇ。おやじの目的は俺にもわからねぇ。ただ、おやじは日本の財界の"ドン"と言われる男なんだ。やるって決めたことは、金の力を使おうと何を使おうと、トコトンやる男なんだ。それで誰からも恐れられている。先生、圭子のこと呉々もよろしく頼むぜ」賢治「わかった。何があっても圭子さんには悪いようにゃしない」直「大木のことも頼むぜ」賢治「ああ」直「じゃあ俺はここで」賢治「元気でな」
名村謙三の出現が、今後の試合に決定的な波紋を呼び起こそうとは、この時の賢治は知る由もなかった。
大木は何故元気がないのか?その日賢治は思いあまって、執拗に大木に問いただした。
賢治「えっ、お母さんが」大介「先生たちに心配かけるといけねぇと思って、黙ってたんだけど。また心臓で入院したんです。今度は長引くらしい」賢治「よし、えーじゃ明日見舞いに行こう」大介「いいですよ。じゃ俺これで」森田「大変だな。これからお袋さんの付き添いか」うなずく大介。「先生、次の試合はお袋のこと忘れて頑張るよ」賢治「あぁ」大介「じゃ」
今してやれることは何一つ無い。賢治は大木の母の回復を祈るばかりであった。
賢治らが新楽の前まで来ると、賢治「じゃあな」と森田に言うのと同時に、大三郎がのれんを終いに出てきた「ああなんだ先生。先生と圭子ちゃんに会いたいって、さっきから待ってる人が居ますよ」賢治「はぁ」店にはいると、名村謙三「滝沢さんですね。名村謙三です」大三郎「あんたも悪い冗談よしなよ」謙三「冗談?」大三郎「名村謙三みてぇな大金持ちが、こんなところでメンマ肴に二級酒なんか飲むわけねぇじゃねえか」謙三「どうしてそんなことが言えるんです。圭子。いや圭子さんだね」圭子「はい」謙三「私のことは直から聞いてると思うが」圭子「ええ、あたしの本当の父親だって。でも私、信じられません」謙三「待ちなさい。私の話しも聞いて欲しい」賢治「圭子さん。わざわざ訪ねて見えたんだ 。お話を伺うのが礼儀じゃないのかな」圭子「はい」謙三「何から話せばいいのか。そういわゆる私のように"ブルジョア"と言われている人間は、遊び暮らしてると思われてる。しかし、事実は朝から晩まで会議、会議の連続だ。大臣との折衝、外国企業とのプロジェクト。責任ある立場の私は、一時も気の休まる時は無いんだ。確かに私は、形式的としては名村グループ傘下の従業員30,000人を使ってる。だが本質としては、彼らの生活を保証するための単なるロボットではないか。そんな気がしてならない。そう言う生活がもう何十年も続いてる。そんな私にとって唯一の息抜きだったのは、僅かな暇を見て一人で下町を歩くことだった。そこには私の生活にない、生き生きとしたものがあったからだ。20年前のそんなある日、(謙三はヤクザに金を巻き上げられる。そこへ愚連隊連中がやってきた)女「止めなよ。気質の旦那をいたぶるのは」ヤクザ「うるせえ」乱闘となり謙三を救った。彼女はの名を"ミヨシナツコ"と言った。ビジネスに忙殺されている私の寂しさと、早くから父親が居ないというナツコの寂しさが、心のどこかでふれあった。そして私たちはいつか、男と女の仲に。謙三「子供が出来た?」ナツコ「名村さん。あたし一人で産んで、一人で育てる」やがてナツコは女の子を産んだ。だが、ヤクザのお礼参りでナツコは殺された。私は子供を引き取って育てたかった。だが妻が承知するはずがない。例え強引に引き取っても、それは圭子の不幸を意味する。やむを得ず私は、当時子供を欲しがっていた部下の富田に、一切の事情を話し、自分の子供として育ててくれるよう頼んだ」圭子「それがあたしなんですね」謙三「圭子・・・。私は君のことを忘れたことは一度もない。富田から報告を聞いて大概のことは知ってる。先生のことも、それから光男君のことも」森田「だけどさ、20年近くも経って、何で今頃そんなこと言いに来たんですか!」謙三「圭子を引き取りたい。私の長男も次男も、重役にしてあるが、私が死んだら跡目を相続することしか考えてない。冷たい息子たちだ。三男の直は家(うち)を出たし。妻も先ほど亡くなった。広大な屋敷で私はいま一人ぼっちだ。圭子がそばに来てくれたら、どんなに私の心が・・・・・。来てくれるね圭子」圭子「名村さん。あたしの父親は、富田義道です。例え血が繋がっていないと判っても、私を育ててくれた人です」謙三「圭子・・・」大三郎「名村さん。ちょっと勝手過ぎんじゃねぇかなぁ」謙三「えっ」大三郎「今まで慣親しんだ水から、こっちの水槽に"ほい移れ"って言われて、"はいはいそうですか"言えますかい?圭子さん金魚じゃねぇんだ」謙三「いやしかし・・・。じゃこうして訪ねて来ることは」賢治「いやそれは止めて下さい」謙三「えっなぜだね」賢治「大木が居るからです」謙三「大木?」賢治「ええ、内の部員です。大木の父親は昔、雑貨屋をやっていましたが、あなたの傘下のスーパーの出店によって、自殺に追い込まれたんです。あなたには直接責任のないことですが、大木はあなたを恨んでます。もし顔を合わせたら最後、只で済むとは思えません」謙三のポケベルが鳴った。謙三「部下が呼んでる。帰らなければ。私はナツコを、君のお母さんを愛してた。これだけは解って欲しい」そう言って新楽を後にした。
賢治は名村の孤独を思った。だが、数日後に控えた準決勝の試合の対策に、心を向けねばならなかった。
森田と圭子が翌日、血相を変えて川浜高校職員室へ飛び込んできた。「先生!大変だ」賢治「どうしたんだ?」森田「テレビ、テレビ」森田はテレビのスイッチを入れた。ニュースレポーター「名村謙三氏が、突如失踪致しました。えーでは秘書の方にインタビューしたいと思います」秘書「ええ会長は夕べ、ここで待ってくれと言い残されて、どっか行かれたんです。それで私はずっとここでお待ちしてたんですが、それっきり帰って来られないんです」レポータ「そうですか・・・。えーなお、失踪の動機が全く見あたらないところから、警視庁では誘拐の疑いがあると見て捜査しております」名村謙三氏失踪の模様を、現場からお送りしました。
準決勝(桐島工業高校)に於いて川浜高校は前半、思いも寄らぬ10点のリードを許した。またもや大木の不振が原因であった。
審判のホイッスルが鳴った。「ハーフタイム」賢治は檄を飛ばした。「いいか後半気合い入れて行けよ!」一同「はい」賢治「弱気になんな!」一同「はい」
大木は母親の病気が心配なあまり、プレーに身が入らないのに違いない。賢治は到底叱る気にならなかった。スタンドからは、森田「オイ、ドンマイドンマイ」玄治「先生!大丈夫かね。大丈夫だろうね」賢治はスタンドに目を向け玄治に軽く会釈した。だが玄治の前に座っているのは・・・。それは紛れもなく名村謙三であった。賢治には何故彼がそこにいるのか、詮索する余裕はなかったが、それは名村が父と娘の平和な生活を求めて、すべてを捨てた姿であった。
賢治「いいか、普段の練習通りにやればいいんだ。いいな」一同「オーッス」円陣を組み「勝つぞー!オーッシ」と戦場へ向かった。
川浜高校は奮起し、後半は相手を完封した。審判「ノーサーイド」19対16で勝った。決勝の相手は、宿敵相模一高である。
試合が終わってから、勝又「滝沢さん」賢治「あぁ」勝又「失礼ですが、決勝は内が貰いますよ。お宅の大木君がああ不調では」賢治「いや、きっと立ち直ります」勝又「そう願います。立ち直って貰わないことには、内としても歯ごたえが無くて困ります。お互いベストで試合に臨みましょう」賢治「よろしくお願いします」勝又「よろしく」
大介が競技場から出てきた。大介「先生。俺ラグビー止めるぜ」森田「何言ってんだお前、決勝まで来て」圭子「冗談でしょう。ねぇ冗談よね」賢治「一体どうしたんだ」
場所を新楽に移して大木の退部について話し合われた。星「ミスしたからってよ、何も止めるこたぁねぇよ。なぁ」そうだよ、お前はお袋さんの付き添いで疲れていただけだよ」丸茂「お前の分は俺たちでカバーすっから、な、一緒に花園行こう」この様子を外から謙三が覗いていた。大介「夢にまで見た花園だ。そりゃ俺だって行きてぇよ。だけどしょうがねぇだろ、俺のポジションの替わりは何人もいるが、お袋に付き添ってやれんのは世界中で俺一人しかいねぇんだ」賢治「それでお前、ラグビーを捨ててまで、お母さんの面倒を見ようと」大介「厄介かけたからな。お袋には。じゃ、お袋が待ってるんで。退部届けは明日出します」そこへ謙三が入ってきた。
謙三「君。ちょっと話しがある」大介「誰だよあんた」謙三「近所に越してきた者だ。実は私も、少年の頃ラグビーをやっていた。だが親に、そんなものやっても一文の得にもならん。止めろと言われた。私は迷った。親に反抗しても続けるべきかどうかと。私は答えを自然の運命に委ねた。つまりボールが翌朝までそこにあれば、ラグビーを続けよう。もし、波にさらわれたらラグビーは止めよう。そんな賭けをしてみたのだ。そして翌朝。・・・・・・・・・・・そして私はラグビーを捨てた。だが、この年になっても考えることがある。あのボールはどうなってしまったんだろうと。今でもどこかの海を漂っているのだろうか。それとも海底深く沈んでしまったのか。いずれにしよ、もはや私の手には届かない。一度無くした青春の夢は、あのボールのように再び帰っては来ないんだ。どんな事情があるにせよ、捨ててはダメだよ。ラグビーにかけた夢を」大介「だけど夢を続けるにゃ、金がいるからよ」賢治「金?何のことだ」大介「医者が言うにゃ、お袋はすぐにでも手術しなきゃ危ないってんだよ。心臓の弁を二つも取っかえるとかで、300万いるってんだ。そんな金俺んところにゃ。お袋の心臓が悪くなったのも基はと言えば名村のせいだ。あいつのお陰で店を潰されて、苦労続きでその無理が来たんだよ。先生よ。いっそ銀行強盗でもやってお袋のために300万作ってやりてぇよ。呑気にボールなんか蹴ってられるかよ」捨て台詞を残し、大介は新楽を出て行った。
300万。それは賢治たちにとってどうにかしてやれる金額ではなかった。だが、なんとしても大木にラグビーを続けさせたかった賢治は、あらゆるつてをたどって借金に奔走した。
賢治は借りた金を帳簿に付けていた。だが到底300万はほど遠い。賢治「おい、へそくり・・・ないよな」節子「ごめんなさい。ねぇ内田さんにお願いしたらどうかしら」賢治「あの人はホラ吹いてるが台所は火の車だよ。とても頼めん」」ゆかり「パパ、ゆかりの貯金あげる」賢治「ありがとう。でもいいんだよ。持ってなさい。ありがとね」節子「決勝戦、大木君どうしても出る気になれないって言うのね」賢治「ああ。部を止めることだけは何とか思い留まらしたんだが、チームの中心のあいつが居なければ勝てる成算はない」賢治は苦悩するばかりであった。そして、花園出場を目前にして、その夢は正に断ち切られようとしていた。
思案する賢治と森田、圭子が河原を歩いていた。すると森田「先生あれは?」と指を指した。賢治「名村さん」賢治「ああいや、滝沢君」賢治「何をなさってたんですか?お顔の色が良くないですね」謙三「いや大木君に言われたことが気になって、夕べもよく寝られなくてね。部下がやったこととはいえ、彼の父親を死に至らしめたのは、トップの座にあった私の責任でもある。殴られてもいい、蹴られてもいい、私は彼の前に手を着いて、謝ろうと決心したんだ。だが今それをやれば、彼の気持ちが乱れてそれこそ、決勝戦どこじゃなくなってしまう。だから変わりにこれを渡して貰いたいんだ」と言って額面300万円の小切手を賢治に渡した。賢治「これは?」謙三「これを金に換えて、君が適当に工面したことにして、手術代に充ててほしいんだ。金で償えるとは思えんがほかに方法がない」賢治「名村さん、本当によろしいんですか?」謙三「今の私は、お金はそれほど必要じゃない」賢治「わかりました。じゃ確かに」森田「ありがとうございます。あいつ喜びますよ」謙三「そう。そいじゃ」賢治「どうも」圭子「おっ・・・」
翌日、大木の母親の手術が本決まりとなり、まずその準備として最終精密検査が行われた。
賢治「お母さん、気をつよく持って下さい」母親「はい。私はいいからお前、決勝戦は頑張るんだよ」大介「あぁ。母さんも頑張れよ」母親は検査室へ運ばれた。大介「先生、金は何年掛かっても返すけどよ、一体どこで都合したんだよ」賢治「まあいいじゃないか」大介「よかねぇよ。先生の知り合いに金持ちが居るわけねぇしな」賢治は学校に戻って練習を再開した。
圭子「あのう」謙三「えっ、何だね」圭子「私の母を愛していたとおっしゃいましたけど、母のお墓はどこにあるんですか?」謙三「深川のじょうみょうじと言うお寺だよ」圭子「私、お詣りしてきます。母のお墓をこの目で見て拝んだら、あなたを素直に"お父さん"と呼べそうな気がするんです」謙三「ありがとう。ありがとう」と握手を交わした。森田「先生、やばいですよ」賢治「すいません。大木の前で親子のそぶりは見せないで下さい」謙三「ん」大介「おじさん来てたのかい」謙三「おお」富田「会長!随分お探ししましたよ」秘書「会長がお留守のため、業務が停滞しております。どうか直ちにお帰り下さい」謙三「ご免だね。家出は別に犯罪ではないはずだ」富田「会長!少しは名村グループの・・・」大介「名村・・・。おい待て!てめぇ名村謙三だな。人をたぶらかしやがって!」賢治「待て大木」大介「この野郎」賢治「お母さんの手術代出して下さったのは名村さんだ」大介「なにー!」賢治「名村さんはもう十分に苦しまれた。その名村さんを殴れば、試合が終わった相手を殴るのと同じだ。大木、もうノーサイドにしろ」大介「だけどよ、首吊って死んだオヤジはどうなるんだよ!」部員一同「止めろ!止めろよ!」大介「この野郎!」富田「さぁ、会長お早く」謙三「いや、私は殴られて当然だ」秘書「会長。会長」謙三「君たちは手を出すんじゃない。滝沢君。君は大木君の恨みが理解できるはずだ。君も圭子も黙って見てて欲しい」そう言って大木の前に立った。謙三「好きにしたまえ」
賢治はただ一度だけ、大木が殴ることを黙認しようと思った。だが、それ以上は断固阻止せねばならぬと決意していた。
大介「うわーーーっ」大介は謙三を殴った。だが、倒れた謙三を大介は抱きかかえ起こした。賢治「大木・・・」大介「先生よ、俺もラガーマンだ。恨み辛みは残さねぇ。これでノーサイドってことにするぜ」賢治「大木・・・」大介「あの世のオヤジも、これでいいって言うだろう・・・・・。おい、練習行くぞ」部員一同「おー」
人の真心は遂に恨みを越える。賢治はその思いを深く噛み締めていた。翌日は待望の決勝戦であった。
遠征バスを降りると大介は依然元気がない。賢治「どうしたんだ」大介「ちょっと(賢治の腕時計を見る)今頃お袋手術の真っ最中だろうなぁ」賢治「心配するな。先生は大丈夫だと言ってた」大介「でも、万一ってこともよ」
皆控え室に集まった。賢治「普段通りでいいからな」一同「オーッス」森田「気合い入れてけよ」一同「オーッス」大介「ダメだ!やっぱりダメだ!先生、何も言わねぇで俺の代わりに試合にはこいつを出してくれ」賢治「大木・・・」大介「お袋の死にかけてる顔ちらつきやがってよ、どうにもファイトが出ねぇよ」
まもなく試合開始の時刻である。賢治は言うべき言葉を見失った。
謙三「大木君!君は、真の人生を放棄するのか」大介「真の人生?」謙三「そうだ。私がいい例だ。世間的には私は成功者だ。だが心の中は砂漠だった。いつからそれが始まったか。あの日からだ。ラグビーを捨てたあの日からだ。以来私は万事成り行き任せとなり、真に生きたと言えるのは、ナツコと知り合い、圭子が生まれたそのことだけだ。君は今お母さんの病気という荒波に心をさらわれている。だが負けてはならない。充実して生きてこそ青春だ。お母さんだって、君にきっとそれを望んでいられるはずだ」賢治「大木、今日の18歳の決勝戦は二度とは出来ないんだ。お前それを放棄して生涯後悔しないか」謙三「それでいいのか。えっ。いいのか、大木君」賢治「大木・・・」大介「わかった。俺は試合に出る」賢治「大木・・・」大介「先生よ、仇と憎んでた名村さんがここまで心配してくれるなんてよ」謙三「ラグビー捨てた私の分まで頑張ってくれたまえ」大介「よーしやるぞ。お袋のためにもよ!」
大介のキックオフで試合は始まった。
花園への栄光を掴むのは、川浜高校か宿敵相模一高か。遂に決戦の火蓋は切って落とされた。
大木は甦った。その姿はさながら、闘志が、人間の形と化した感があった。だが、鍛え抜かれた相模一高の底力も、また凄まじいものがあった。
そして、川浜高校わずか1点のリードのまま終盤を迎えた。ロスタイムを入れてあと30秒。その安心感が選手の心に一瞬の隙を生んだ。
相模一高の選手にボールが渡り、猪突猛進の如くゴールポストへ一目散に突っ走る。逆転だ。誰もがそう思った。これを必死に追う大介。だが、ゴールポストの直前で、大介はタックルをかけた。ボールは相模一高の選手の腕からポロリと転がった。ホイッスルが鳴り「ノーサーイ」のコール。勝った!勝った!
それは薄氷を踏む思いの勝利であった。選手たちの手によって大木が宙に舞う。これがかつて"川浜一のワル"と恐れられた、蔑まれた少年であろうか。彼はいま、ヒーローであった。
勝利の余韻が残る中、謙三は「私は帰らなきゃならんのです」圭子「帰るって、どこへですか?」謙三「元の生活へだよ」富田と秘書らが迎えに来た。森田「そうか。あんたたち無理矢理名村さんを連れ帰ろうって言うんだな」謙三「いや、そうじゃない。私から言い出したんだ。ここでは私は、必要のない人間だってことに気がついたんでね」森田「圭子さんにはあなたが必要です」謙三「いや圭子には君がいる。それから先生もいる。私がいなくても大丈夫だ」圭子「行かないで。お父さん。お父さん・・・」抱きつく圭子。謙三「圭子・・・。君の父親は富田義道だよ。富田君」富田「はっ」謙三「光男君はいい青年じゃないか。これからは心を広くして、圭子とのつきあいを認めてあげなさい」富田「わかりました」
直「大木、よく頑張ったな」大介「ありがとう」
勝又「負けました。おめでとう」賢治「ありがとうございます。一高さんに何度も胸を貸して頂いたお陰です」勝又「いやいや。それよりも大木君を立ち直らせた、あなたの見事な手腕には脱帽します」賢治「いやぁ、それは私の力では」そういい謙三を見、駆け寄った。
賢治「名村さん。本当に色々とありがとうございました」謙三「いや。花園でも頑張って下さい」秘書「会長。そろそろ参りませんと」謙三「圭子。私は忙しい体だ。もう会うことも無いかもしれないけれども、幸せにな」圭子「はい。お父さんも」謙三「ん。滝沢君。この子をよろしく頼みます」賢治「わかりました。名村さんも、どうぞいつまでもお元気で」謙三「それじゃ」
ただいまより、表彰式を行います。優勝旗授与。優勝、川浜高等学校。大介が優勝旗を受け取った。

賢治はスタンドの節子を見つめた。「あなた、おめでとう」「節子、君のお陰だ。どんな苦しいときも、支えてくれた」と心で通じ合った。
かくて川浜高校は、花園にその勇姿を現すことになった。そこに待つものは、嵐のごとき死闘である。賢治の胸に新たな闘志が燃え上がった。

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