5丁目 コンビニ

aoki3




ヤツ、宮地貴則は、俺達が通ってた小学校じゃあちょっとした有名人だった。
小学校4年生、ちょうどケイちゃんが今住んでるマンションに引っ越した時にヤツは転校してきた。
最初に騒ぎ出したのは女子。
カッコ良くって、頭も良くって、おまけにスポーツ万能。
これだけ揃ってれば騒がないほーがおかしいよな。
それに宮地はなんつーか、同じ年頃の他の男どもと比べて大人っぽいとゆーか達観しているとゆーか、その年頃にありがちなツッパったところや、乱暴さとかがまったくないヤツだった。
そーゆーところが女どもには気に入られたんだろう。
あっとゆーまに女子全員の憧れの的になってしまった。
まあ、理想の王子様ってやつだな。
面白くないのは男子だ。
その頃ウチの小学校ではわりときっちり男子と女子のグループが分かれていて、はっきり言えば仲が悪かった。
本当は仲良くしたくても冷やかされるのが恥ずかしいから女子と仲良くなんかできない。
優しくしたいのに、好きな女のコには照れくさくってつい乱暴にしてしまう。
まったく情けないことに男どもはそんなヤツラばかりだった。
そんなところに転校生の宮地がやってきて、ごく自然にすんなりと女子と仲良くなって人気者になってしまったのだ。
そりゃあ面白いわけがない。
愛に生きるオトコである俺から言わせれば、意地を張っている男どもが馬鹿なのだが、いかんせんお子様なヤツラは自分たちが女子に歩み寄ることをせず、女子と仲良くしている宮地に嫉妬の炎をメラメラ燃やしたようだった。
クラス内でいじめが始まり、男子達は宮地をハブにしたり直接的ないやがらせをするようになった。
しかし当の宮地は泣きを入れるどころか、いじめなんぞどこ吹く風って感じで動じることなく平然と学校生活を送る。
その態度が男どもをますます煽り、すわ学校全体を巻き込んでの大掛かりないじめ勃発か!?と思いきや、2学期にはパッタリと宮地いじめは無くなってしまったのだった。
なんでも夏休み中にバスケ部で一悶着あったらしい。
普段温和な宮地が絡んできた同じバスケ部のヤツに突っかかり、先生立会いのもとでレギュラー全員と試合して勝ってしまったんだとか。
メチャクチャ上手くて6年生でも誰も宮地にかなうヤツがいなかったそうだ。
その宮地に絡んできた相手ってゆーのが下級生に一番嫌われていた先輩だったもんだから、夏休み明けにはヤツはすっかりバスケ部のヒーローになっていたってワケだ。
一度とっかかりが出来てしまうと後は早かった。
そのうちに宮地のまわりには、女だけじゃなく男のとりまきも増えていった。
容姿端麗、成績優秀、運動神経抜群、そのうえ優しくて性格も良い。
そんな完璧くんの宮地は最上級生になる頃にはみんなの人気者になっていた。
と、まあこれはほとんどが情報通の俺のダチから聞いた話。
俺は6年になるまでクラスも違ったし、情報としてヤツのことは知っているって程度で別段宮地を意識してはいなかった。
なんてったって俺の世界はケイちゃんを中心に回っているのだ。
宮地がどんなヤツだろーとケイちゃんに関わってこなければアウトオブ眼中。
その頃のケイちゃんは新しく引っ越したマンションの『自分専用の部屋』と、新しく出来たこの町でただ一つの『コンビニ』に夢中だった。
そもそも天然さんであるケイちゃんは『別のクラスの転校生』である宮地のことなんて、周りがどんなに騒いでよーとぜんぜんさっぱり髪の毛一筋ほども興味なんて示すはずもなく。
とゆーよりは宮地が噂になっていることも、いや、転校生が来た事自体さえ知らなかったと思える。
4年生、5年生と俺達はそれまでと変わりなく甘々な蜜月を過ごした。
が、6年生になった時。
そう、今思えばあれが不幸の始まりだった。
俺達はなんとクラス換えで宮地と同じ組になってしまったのだ!

宮地はケイちゃんに近づこうとはしてこなかった。
ケイちゃんのほーも宮地のことなんて気にしてやしなかった。
俺はクラス内に俺よりもイイ男がいるのは気になったが、ケイちゃんの瞳は俺しか映していなかったから安心してた。
だけど・・・・・・・
いつの頃からだろうか。
見られてる。
そう感じた。
最初は気のせいかと思ってた。
視線は感じるのに、その送り主を特定することがさっぱり出来なかったからだ。
けど気がついたのは俺一人のときにその視線を感じることは無かったってこと。
学校で俺とケイちゃんが一緒にいるときだけ、その視線は纏わりつくように絡んでくるのだ。
俺は思った。
これはきっと不届きモノがケイちゃんに懸想しているに違いない!
すでに学校中が公認の俺とケイちゃんのスーパーウルトララブラブ甘々な仲を知っていながら、そんな目で俺のケイちゃんを見るヤツがまだいようとは。
俺は五感を研ぎ澄ませ、一体誰がケイちゃんを見ているのか必死になって探した。
けれど、ケイちゃんに対するヨコシマな視線には『超人並』に敏感な俺様のはずのに、その不届きな輩を見つけ出すことはやはり出来なかったのだ。
そして相変わらず視線は感じるものの、ケイちゃんに近づこうとするあやしいヤツは誰一人としていなかった。
だから安心してしまって・・・・・

俺はそのうちに視線の主を探す事をやめた。

それがいけなかったのだと思う。

その手のことに鈍いケイちゃんが、その視線に気付き、あまつさえその相手に好意を寄せるなどとは・・・・。

そんなことは、俺は夢にも思わなかったのだ。







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