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典子はふとタスクトレイに表示される時計を見る。
午後12時56分。
午後1時よりRiotによる作戦は静から動へ転換される。
文字通り動くのだ。
配置された実行部隊は作戦を遂行するために移動を開始する。
当然、動き出せばもうこの作戦を止める事はできない。
”本当に準備は整っているのか?”
と、何度も典子は確認した。
秋也もすこし強張った表情ではあったが、しっかりとした目でじっとインターフェースを睨む。
典子の視線に気付いても、もう微笑みかけたりはしない。
典子はきゅっと唇を引き結ぶ。
はじまるんだ。
私たちの第2ラウンドが・・・。
秋也も同じように唇を真一文字に引き結び、体をイスの背もたれに預ける。
中学生だったころよりも、かなり短く刈られた頭を軽く撫でた。
鼓動は先ほどよりもいくらか速く鳴る。
緊張というよりも高揚。
敵討ちという考えはもたないように決めてはいたが、どうしても川田の顔が浮かぶ。
イスに体を預けたまま、テントの天井を見上げた。
そして、深く息を吐いた。
息を吐くと同時に体の力が少しだけ抜けていくのを感じた。
ぶっ壊す。
クソみたいな政府を。
カウンターじゃない。
先制だ。
「秋也。」
秋也はそう呼ばれ、首だけで降り返る。
そこには腕を組み悠然と立つ、千成隆志がいた。
秋也は頷く。
時間がきたのだ。
”その”時が。
「秋也。」
典子が声をかける、秋也はその意味を確認する前に
目の前の端末のリターンキィを叩く。
スタンバイ状態であったノートパソコンが低い唸り声をあげ、
ブラックアウトした画面を一転させる。
もう一度リターンキィをたたき、典子を見た。
目が合い、二人は頷く。
典子は向き直り、キィを叩き始めた。
秋也は左から右へ伸びていくインジケーターを睨んだ。
隆志は腕を組んだまま、その二人の背中を見つめた。
まだ、隆志は動かない。
待つのだ。