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作戦の第一段階ともいえるハッキングは成功している。
アクセス権限の全てを手中にしていると言う点で、
すでに政府のコンピュータはRiotの支配下にあった。
しかし、そこまでならば、誰にでも出来る。
遠く離れたアメリカからでも可能な事だ。
問題はいかにしてプログラムを妨害するか。
いや、今回のRiotの目的はプログラムを妨害するというよりも、
”プログラムを完遂させない”
と言い換えた方がわかりやすいだろう。
まず、すべてのアクセス認証を突破し、Rootアカウントを奪取した後、
典子はあるデータを狙う。
首輪情報を送受信する通信バンドの周波数帯。
この会場内の生徒全てに、一人の例外もなく
首輪が装着されている。
察しの通り、完全防水、耐ショック、の小型爆弾を登載。
さらには位置情報、心臓パルス計測、体温感知、音声マイク、も備え、
なおかつ、500g程度に軽量化。
コストにして一台約340万。
東亜の技術力によって開発された”最新鋭拘束具”だ。
政府のもつリモコンで内部起爆装置を停止させるか、
爆発する以外に外す方法はない。
その卓越された拘束力は、刑務所や凶悪犯護送時、
猛獣の輸送など多岐に渡って利用されている。
首輪で計測された心臓パルス、位置情報等は会場中に立てられたアンテナを介し、
暗号化され、無線で送られる。
政府は受信後に解析復元し、データを2次元のマップに展開。
そのマップ上で生徒達を管理、監視するのだ。
Riotは政府コンピュータに進入し、その周波数帯をコピー。
典子が暗号化された”それ”を冷静に解析し、政府と同様に復元する。
そのデータをもとに通信技術員が全生徒の首輪情報をリアルタイムで受信し始める。
つまり政府と同じ情報をRiotはモニターする。
ここまでが第一段階。
全生徒の情報を取得しただけではまだ何も出来ない。
ただマップ上に点滅するドットの生徒達を見つめるだけだ。
その生徒達のデータを短い時間ではあるが、監視し、解析し、行動をパターン化する。
あらかじめ用意していたアルゴリズムにパターン化されたプログラムを組み込み、
生徒達をプログラムの上で動かす。
擬似的に似て非なる、別の生徒達がサイバースペースの会場で行動する。
いくらかこちらからその行動を制御できるように、細かく組まれた思考ルーチンは
その辺のテーブルゲームのルーチン等問題ではないほどの精度を見せる。
2次元のマップ上であれば”ほぼ”見分けもつかずに現実の生徒を演じてくれる。
そしてその情報をテントから発信する。
秋也はその間、首輪情報を受信する政府の通信機器をハックする。
手早く政府側受信バンドの書き換えの権限を取得し、
こちらで用意していた、テントから発信する情報を受信するように書き換える。
その瞬間、”現実の生徒達”は政府の監視から完全に逃れる。
Riotは現実の生徒を監視し、
政府は仮想の生徒を監視する。
これがこの作戦のコードネームの由来。
Riotが作り出すdeceive(欺く) mirror(鏡)だ。
その後Riot実行部隊により、政府の監視を逃れた生徒を会場外へ連れ出し、
事実上プログラムへの参加を妨害する。
一人でも生徒がかければそのプログラムは完遂される事はない。
Riotの、秋也たちの目的はそこにあった。
国民に対し、団結や、反骨の精神を”プログラム”などの圧倒的な政治力で
牽制し、削いできた政府の牙城が崩れ去る。
その影響で起こり得るであろう、国民の国への反発。
それを煽る。
Riotの目的は紛れもなくソコだった。
国を、国民を煽り、揺さぶる。
必ず、その揺らぎを見逃ずに近隣の資本主義国家は動く。
あわよくば、この国の技術力、生産力を我が物としようと目論む国など、
いくらでもいた。
その代表が米帝であり、欧州だった。
武力で侵略されようが、政治的に呑みこまれようが、
今よりもまともな暮らしができるであろう。
少なくとも、自由を叫ぶ事が出来る。
小さな亀裂であろうと、必ずそのきっかけをつくるがため、
隆志は、Riotは富士にいるのだ。