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右手の焼けるような痛み。
指がおかしな方向に捻じ曲がっている。
感覚は先ほどよりも薄れてはいたが、その痛みはまだはっきりとしていた。
苦痛に歪む口元は苦しそうな息を漏らす。
―痛い―
その言葉だけが慶の頭をぐるぐると回る。
左手にはグロック。
小さいその銃ならば片手でも銃撃戦に耐えられるだろうという判断だ。
ゆっくりと山道を歩く。
宛ては、無い。
あるのはひとつの決意。
―このゲームを自分の手で終らせる。
そして、芽衣のもとへ帰る―
そして、慶は自らの命を絶つつもりだった。
その左手に握られたグロックで。
当初の目的など関係なかった。
そうしなければきっと、罪の意識から逃れる事は出来ないだろう。
永遠に。
生きていく事への絶望。
生き続けて行くことへの失望。
自己嫌悪。
それらが導き出した、 ネガティブを絵に描いたような慶の結論。
誰も彼を否定することは出来ない。
きっと誰しもが、このゲームで感じる事だから。
問題は右手の怪我だった。
痛みでまともな思考は出来ない。
当然、なんの策も用意してはいない。
ただ、ふらふらと彷徨い。
見つけたクラスメイトを撃ち殺す。
あまりにも単純で稚拙な判断。
さきほどの井上慶の策士振りは見る影もなかった。
衰弱した精神と、疲労した体、付け加えて右手の激痛。
それでも、殺意だけがぎらぎらと光る。
H−2を南へ向かい、ゆっくりと歩く。
生い茂る雑草に足をとられながらもゆっくりと。
胸にはかすかな胸騒ぎ。
ほんの数分前から突然湧いてきた。
細胞全体がざわつくように、慶を急かす。
―なんだ? ―
まるで誰かに見られているような圧迫感。
――何か、いる。
そう、思った瞬間に背後に気配を感じた。
心臓をきゅっと締め上げ、慶は振り向く。
同時に左手のグロックを前に出す。
慶の背後にいたのはうっすらと笑顔を浮かべた、
丸木一裕だった。
慶は驚かなかった。
こうなる事を望んでいた。
撃ち殺す。
口には出さないまでもアタマの中で確認した。
一裕は取り立てて銃を構えるでもなく、ただ、ソコに立っていた。
文字通り、ただ。
慶を追ってきた訳でもないだろう。
息を切らしてはいない。
うっすらと浮かべた笑顔が不気味だった。
一裕は赤いシャツを着ている。
どす黒い赤いシャツを。
「井上慶くん、みーっけ」