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「ゲームは楽しんでる? 」


 一裕はまるでこのゲームの主催者かのように言う。
ガバメントは依然、慶の鼻先5cmのところでその銃口を除かせていた。
微動だにしないその銃口は一裕の表情そのものだといってもいい。
対照的に、慶のグロックは小刻みに揺れる。
やはり、一裕の鼻先5cmの位置で。
 ひょうひょうとした態度ではあったが、慶は確信している。
この男のひりつくような殺意を。


自分は殺されるのだ、と、感じる。


 草加南中学校3年3組プログラム。
開始されてから、丸一日が過ぎようとしていた。
すでにその生徒数は3分の1以下にまで減り、
尚そのペースは衰えを見せない。
例年のプログラムをとってみても非常に優秀な部類に入るだろう。
結局のところ、ゲームは滞りなく進み、佳境を迎えている。
クラスメイトを欺き、生き延びた慶と一裕。
二人は互いに銃を向け合い対峙する。
引き金を引けば必ず当たる位置で。



 慶は、ふ、と気付く。
トントンという音。
それが何なのかは確かめる必要もなかった。
慶のすぐ足元で規則的に鳴る、音。
一裕のつま先が立てる音だった。
いつからこの音がしていたのかその記憶は全くなかった。
しかし、気付いた時、既にそれはそこに存在していた。
一瞬、自分の目で確かめようかと迷う。
しかし慶はそのまま一裕の平坦な目を見つづけた。
この状態で、この男から目を離すことで
導かれる結果は考える必要もなかった。
理由はわからないが、この状態を保てばとりあえず引き金は引かれない。
そう感じていた。


トントントントントン。


 慶はそういった事にアタマを巡らせながら、少しずつ冷静さを取り戻している事に気付く。
そのきっかけは右手の激痛だった。
変わらずに、時にうずくように、時に燃えるように痛みはそこにあった。
脂汗が浮き出るのを肌で感じ、唇をなめる。
一裕は先ほどからぴくりと動かない。
銃口を突きつけ、突きつけられ、つまさきで地面を叩く。


トントントン。


考えている事は当然読めない。
それでもひとつだけ一裕の感情らしきものに、慶は気付く。


苛立ち。


 恐らくは丸木一裕は苛立っている。そう睨む。
理由はわからないが、つま先がそれを証明し、示している。


何故苛立っているのか? 
それともタダの癖なのか? 
何故、引き金を引かないのか? 
何かを待っているのか? 
それとも、その銃にはもう弾丸は詰まってないのか? 


あらゆる可能性を見出そうする。
しかし、そのどれもが根拠のない仮説に過ぎない。
つま先の奏でるリズムは少しずつテンポを上げる。
慶の左腕もそろそろしびれてきていた。


動くなら、いまだ。


そう思う。
苛立ちという感情のぶれた状態。
奇襲をしかけるならチャンスだった。


 慶は何の前触れもなく、その視線を一裕から外す。
一裕の左、慶の右。
ちらり、と目線だけで見る。
まるで物音がしたから、見た、といわんばかりに。
一裕は考える前につられてその視線を追う。


ここが慶の作り出した好機だ。


すかさず痛みのある右手でガバメントを上に弾く。
激痛と同時に轟音。

ぱぁんっ

という銃声が慶の頭上で聞こえた。
弾丸は入っていた。
慶はまだ右を向いたまま、視線を前に戻すと同時にグロックの引き金を絞る。
照準はデタラメだ。
しかし、一裕がいない。
一裕は弾かれた手を頭上に残したまま、上体を低く屈めていた。
視線を落とす。
慶と一裕は目をあわす。
笑っていた。
グロックの照準を下げようとした瞬間、右腹部に鈍痛。
すかさずみぞおちにもう一発。
慶は呼吸する事が出来ないまま、ぐらりと体制を崩す。
が、しかしグロックの照準は諦めない。
ふところにいる一裕の頭部めがけて撃つ。


パンッ!


一瞬早く、一裕は首を曲げそのまま左へ飛ぶ。
被弾なし。
 一裕は再び、にやりと笑う。
 




[残り11人]

 


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