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距離約4メートルで二人はにらみ合う。
お互いに照準は合わせたまま。
慶は腹部の打撃によりまだ呼吸が整ってはいない。
円を描くようにお互いの距離を保ったまま、少しずつ右へ移動する。
一歩。
一歩。
慶は考えていた。
どう有利にこの戦闘を展開するか。
そして一つの結論に達する。
次の戦術は受身だ。
一裕が向かってこなければ成立しない。
 挑発するか? と考える。
しかし、効果がないであろうことはすぐに想像がつく。
うっすらと笑みのようなものを見せているだけで
一裕から表情というものは読み取れない。
しかし、苛立っていた事は確かだ。
うまくそこをつきたいと考える。


「よぉ、丸木。そのシャツ。誰かの血だろ? 」


話し掛けて反応を見る。冷静な判断。


「そうだよ。真っ赤でキレイでしょ? 」


一裕も答える。お気に入りらしい。


「誰だ? 」


「教えて欲しい? 」


「ああ」


「山下さんと、増田さん。あと松島くんのだよ」


「派手にやってるな? 」


「そうかな? まだ、足りないよ。ハナムケには」


「誰への贐だよ」


「内緒。それよりひどい怪我だね」


「心配してくれんのか。意外だな」


「痛い? 」


「痛いよ」


「じゃ、楽にしてあげようか? 」


「テレビの見すぎだな。そのセリフ」


一裕は小さく、ふ、と鼻を鳴らした。
そして無造作に引き金をひく。


パァンっ


慶はさっと状態を屈める。
銃弾は慶の右後方の土を巻き上げる。
ちゅんっという小気味いい音が聞こえた。
同時に間を詰める一裕。


しめた。


と慶は唇をなめた。
予想通りだった。


銃撃での戦闘よりも一裕は接近戦を好む。
そう踏んでいた。
根拠は、そのシャツについた返り血、そして苛立ち。
恐らく一裕はちまちまとした遠方からの射撃などではなく、
暴力的に、強引に、相手をねじ伏せてきてのだろう。


その慶の洞察はなかなかのものだった。
もちろん“強引に”という部分がいくらか間違っている。
正解は“強引に”ではなく、“巧妙に”だ。


間を詰める一裕の顔には先ほどよりもくっきりと笑みが浮かぶ。
楽しそうだった。
慶はその顔に呑まれてしまわぬようにきつく唇を引き結ぶ。
そして、右足で地面を蹴った。
舞い上がる、砂。
砂を多く含んだ地面は慶によって蹴り上げられた。
もう目前まで迫っていた一裕は頭からその砂をまともに浴びる。


目潰し。


これほど上手くいくとは思っていなかった。
せいぜい足止めくらいのつもりだった。
慶は、顔を覆いひるんだ一裕の右腕を狙う。
左足で外へ蹴り飛ばす。
威勢良く弾かれる右腕からガバメントが飛ぶ。
慶は照準をあわせたまま落ちたガバメントを冷静に、更に遠くへ蹴り飛ばす。
そして3歩下がった。


一裕は顔を覆った腕を下ろす。
そして一言。


「やるネ」


慶は完全に優勢に立つ。


「まぁな」


それでも一裕の顔からは余裕が見えた。
笑みが消えてはいない。




[残り11人]

 


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