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綾は、動けなかった。目の前で銃が火を吹いたのだ。





比呂くんと、丸木くん。丸木君銃を持ってた・・・。
そして撃った。
比呂くん。
殺されそうになってた。
もう始まってる。
プログラム始まってる。
殺し合い始まってる。
私も殺される。
誰かにころ・・・・。






「綾!」


比呂がそう呼ぶまで綾はぼーっと宙を見つめていた。
目の前で起きたことが頭の中でうまく整理できない。
出口を出てからあてもなくさまよっていきなり出くわした戦闘。


「比呂くん・・・」


綾は、泣き出した。
この恐怖に耐えられなかったのだろう。
その場でうずくまってしまった。


「綾・・・。」


比呂は何も言えなかった。
ただ綾を見つめていた。
みんな不安定になっている。
バスの急停車から本部、そしてプログラム。
満足に声をあげることも規制され、クラスメイトは撃ち殺された。
はじめて感じる緊張感。気が変になりそうだった。


比呂はふっと思い出した。


―― しまった!和彦は!?出口の方向に向き直り時計を見る。
あれから3分・・・・。しまった――


出口に人影が見えた。
上村未央(女子3番)だ。
駆け足で反対側の林に駆け込んでいく。
和彦はもう出発してしまっている。


――くそっ。どちらの方向に行ったかもわからない。
いや、銃声が聞こえたのだから警戒して反対側に進路を取ったかもしれない。――


どちらにせよ、合流する絶好のチャンスを逃したのは事実だった。





「比呂くん・・・・・・。」


綾はもう泣き止んでいた。
しかし、目は真っ赤にはれている。


「おう・・・大丈夫か・・・・。」

「ん・・・大丈夫。ごめんね・・・・。」

「ああ・・・・。」

「比呂くんは・・・・丸木君・・・・殺そう・・・・と・・・してなんかいないよね?」


綾は確認を求めた。
―― おれを警戒してるのか?


「何言ってんだ!見てただろ?!アイツガ・・・おれに銃を突きつけていたの」

「うん・・・ごめん・・・。ちょっと確認しておきたかったの・・・。
大丈夫だよね・・・。比呂くんは。和くんの相棒だもんね。」


― え?


良く意味がわからなかった。


―― ・・・・要するに、和彦は信用できる、その和彦のお友達って事でおれも信用するってことかな?
良かったな和彦。噂は本当だったみたいだよ。――


「信用してくれてありがとう、和彦に御礼を言わなきゃな。」

そう言いながら蹴り飛ばしたベレッタを拾いにいった。

「あ・・・・・・そう言う意味じゃないの!・・・・ほんとに・・・」


――耳が真っ赤ですよ、お嬢サン。


ちょっとからかいたくなるような綾の慌てぶりだが、今はそんな余裕はない。
ベレッタのマガジンを抜き、残りの弾数を確認する。


― 15発・・・・・。
試し撃ちもしてなかったのか・・・・・。


手になじんだベレッタは、比呂がサバイバルゲームで愛用している拳銃だった。
もちろんエアガンだ、重量はもっと軽い。
本物の装弾数は15+1発。
つまり比呂とのもみ合いで撃ったのが一発目だったのだ。


――一裕はおれを殺す気あったのか・・・・・?
ただの宣戦布告だったのかも・・・。
あのカケヒキも一裕独特のジョークって事か?
ふざけやがって。――


「綾・・・・。おまえどうする?」

「え?・・・・どうするって?」

「和彦との合流は無理だ・・・・・。出て行く方向を見逃しちまった・・・・。」

「え・・・・」


綾は少し考えてから


「っじゃあ、捜しに行こうよ。」
と言った。


「危険だ。誰がやる気になってるかわからない。
いつ襲われるかわからないぞ。それに和彦だって馬鹿じゃない。
もうこの辺をうろついてなんかいないだろう。」


比呂はベレッタの状態を確認しながら続けた。


「おれは・・・・・・絵里を待つ。」


「絵里ちゃん?・・・そっか仲いいもんね・・・。」


「ああ・・・もうすぐ出てくると思うけど・・・合流は危険を伴う。どうする?綾。」


「うん・・・・・・。でも・・・・・あたし一人でいるよりも・・・・・比呂くんといたほうが・・・安全だと思う・・・・。」


「よし。・・・大丈夫だ。和彦に会うまではおれがかわりに守ってやる。」




少し無理して笑顔を作った。



――これで綾が少しでも気持ちが軽くなればいいのだが・・・・。


「・・・。」


綾は頬を赤く染めている。



―― まぁ・・・成功かな?
















沈黙。











「比呂くん・・・・・。」


綾がつぶやくように言った。


「和くん・・・・だいじょぶかな・・・・・・?」


「さぁ・・・・。」


比呂は出口をにらみつけながらそう言った。


「さぁ・・って」


少し無責任な言い方だったかもしれない。
綾の声は少し非難のニュアンスを含んでる。
取り繕うように比呂は付け加えた。


「あいつが簡単にくたばるような奴だと思うか?多分、無事に逃げてる。・・・・・たぶんな。」


「うん・・・・・・」


出口に人影が見えた。
絵里だ。
よかった・・・・。
無事だ。


「行くぞ。」


比呂はすばやく立ち上がり、移動をはじめる。
綾もそれについてくる。
絵里は足早に林に入る。
比呂たちが移動してるすぐ下だ。
声をかければ聞こえそうだが、あまりにも危険だ。
約10メートルの間隔で絵里の後ろを追う。
なるべく音を立てないように、そして周囲に最大限の注意を払って。
もちろんこんな時に銃撃なんか受けたらひとたまりもない。
しかし今、絵里を見失ったら二度とあえなくなるかもしれないのだ。



絵里はまっすぐに林を突っ切る。


―― 何か目標があるのか?


迷いなく突き進む。
しかしやがて立ち止まり。
うずくまった。肩がゆれている。
泣いているみたいだ。



なんで!?なんで!?
あたし達何もしてない!!
どうしてこんなことになってるの?!
プログラムって何?!
朋美は無事なの?
誰かに殺されたの?
どうして殺し合いなんかしなくちゃいけないの!??
あたし死にたくない!
まだやりたいことだってたくさんある!
まだ行きたいところだってたくさんある!
あたし誰かを殺すことなんかできない!
嫌だ・・・・。帰りたい・・・・・・。
誰か・・・・・・。
だれか・・・・・。
助けてよ・・・・。
比呂・・・。
助けてよ・・・・。


「比呂・・・・。」


絵里は比呂の名を呼んだ。
その顔は涙でぐしゃぐしゃになってる・・・。


「およびですか?お姫様。」


絵里は後ろを振り返った。
その顔は恐怖にこわばっている。
が、すぐにまた泣き虫の絵里の顔に戻っていく。


「比呂!」


絵里は比呂に抱きついた。
比呂!!比呂が!
助けに来てくれた。!
絵里は驚きと喜びで胸がいっぱいだった。


「ここは危険だ。移動するぞ。」


比呂はそれだけ言うと、絵里の腕をつかみすばやく移動する。
絵里は嬉しかった。
助けに来てくれた。
比呂が、あたしを・・・・・。


比呂は、絵里を少し深い茂みに入るように促した。
そして綾を手招きで呼び寄せる。
そして同じように深い茂みに入るよう促し、周囲に異常がないかさっと見渡した。
近くに人の気配はない。


―― とりあえずは安心だ。よし!合流に成功だ。


比呂も茂みに入った。


―― ふうっ・・・。
さて・・・これからどうしますか・・・?――




[残り36人]



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