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 比呂達4人は、南西の山間部を目指していた。
根拠はもちろん、経験の差を生かすためだ。
比呂と和彦にとって山の中での戦闘そのものははじめてではない。
いや、慣れているといったほういいだろう。
毎週のように演習とよばれたRiotのゲームに参加していたのだ。
他のクラスメイトたちよりも数段、山の中では速く動ける。
銃の扱いにもそこそこ慣れている。
実銃の衝撃と、重さ、感触、
初めて味わうそれらを差し引いても間違いなく有利だ。
さらには戦術。
動き方。
軍隊並に統率のとれたRiotのゲームのなかでは
高度で高い技術が要求されるそれらを、
比呂も和彦も大人に混じってこなしていた。
あくまで、遊びの一環ではあったけれど。
どう考えても、山中に潜むことがこの先の戦いを有利にさせる。
 4人は重い気持ちのまま、無言で歩を進めた。


静かだった。
遠くで聞こえる銃声が余計にその静けさを強調していた。
湿った風が流れて、比呂は空を見上げた。
どんよりとした雲が覆い被さるように広がっている。
灰色の雲はまさに比呂達の心の色だといってもいい。
そして、悲しみが同調したように、ぽつり、ぽつりと雫を落とし始めた。


「降って・・・きたな」


比呂が呟くように言う。


「言わなくてもわかるよ」


和彦も空を見上げて答えた。


「急ぐか? 」


「あぁ」


そうして4人は足早に小雨の中、一路南へ向かった。
 雨が降り出して数分後、ふ、と和彦が足を止める。


突然に。


雨足はまだそれほど強くはなっていない。
ぽつりぽつりと申し訳程度の雨量だ。
降り出してからはさほど進んではいない。
山間部までは数十メートル距離がある。
目の前の低い、壁のような岩が気になっているのだろうかと、
比呂は和彦に声をかけた。


「何? 」


和彦はそれには答えずにゆっくりとあたりを見渡す。
そして、その様子に比呂は舌打ちをつく。


「またかよっ」


比呂はすばやく、和彦とは反対の方向へ目を向けた。
絵里と綾も気付く。


――なにかいるのだ。


比呂が今来た道を振り返ると、その視界に人影が飛び込む。
一瞬にして緊張がピィンと貼る。
男か、女か、わからない。
ただ、危険であると言う事だけがわかった。
真後ろで和彦が叫ぶ。


「伏せろっ」


その言葉と同時に、比呂は絵里を引き倒しながら自分も体を倒す。
一瞬速く、和彦が綾を引きずるように岩の陰に引き寄せた。


ギンっ!!


比呂達の目の前の、半分ほどの高さ、岩の上部に火花が散る。
遠くで何かが破裂したような音が聞こえていた。
銃声。
それはまぎれもない銃声。
すばやく4人は岩の陰に身を寄せ、しゃがむ。


「くっ・・・誰だ? 」


「わかんね。見えなかった」


「銃だよな? 」


「間違いないね」


「一人か? 」


「複数じゃなかった・・・ような気がする」


「はっきりしろよ、比呂」


「知らねーよ。 一瞬見えただけだっての! 」


「くそっ」


「っ」


「ちょっと顔だして確かめろよ」


「お前がなっ」


「あほ、あぶねえだろうが」


「んだその理屈はっ。 俺は危なくねってのか」


「いいから、さっと顔だしゃいいんだよっ」


「わかったよ。 くそったれっ! 」


比呂はそう言い捨てるとすばやく体を起こし、
岩の影から顔だけをひょっこりと出した。
その瞬間、比呂の顔の10数cm先で火花が散る。
比呂は驚き、そのままのけぞるように倒れた。


「おいっ! 平気か?! 」


「あたってねぇ! 」


「誰だ? 」


「斉藤だっ! 」


「斉藤? 」


「斉藤! 斉藤知子っ! 銃持ってるぞ! 」


知子は冷静な判断力を失っていた。
佐藤浩明を思いのほか上手く排除できた事がその原因かもしれない。
自分の力を誤認した。
運も、力も、そして運命すらも味方してくれているという
ある種妄想に近いものを抱いた。
焦りもそこに干渉する。


偶然に見つけた4人の生徒。
4人ともよく知っているクラスメイト。
そして排除すべき敵。
知子は相手の武器も戦力も確かめずに銃を放つ。
はやく、はやくこのゲームを終らせたかった。
血の匂いはもうたくさんだった。
冷たい汗も、ひりつくような緊張も。




[残り8人]

 


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