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「あの斉藤?! 」
「そうだよ。アノ斉藤だよ! 」
「マジカヨっ! 」
「あいつ銃上手いぞ? 二発とも、当てやがった」
「あぁ! わかってるよ。どうする? 比呂っ! 」
「逃げ・・・れないよな? 」
「無理っぽくね? 」
「ヤルしかねーだろ?! じゃぁ! 」
比呂はすばやくベレッタを抜く。
コンドームを剥ぎ取り、腰の下に構えた。
「どうやる? 」
和彦もショットガンを構え、ゴムを引き剥がした。
「お前が援護、俺が飛び出る」
「いつものってことか? 」
「そう! 腰抜け和彦大作戦」
「うるせ――ってか・・・ちょ・・・比呂、やばい」
比呂は今にも岩から横へ飛び出しそうな姿勢で、聞き返す。
緊張で声が大きくなる。
「なにが?! 」
「やばい・・・反対から――」
「んだよっ! 」
比呂はわずらわしそうに振り返る。
そして和彦の視線を追った。
その視線の先に・・・
雨の雫の中に丸木一裕の姿が見えた。
距離20メートル。
「嘘・・・だろ? 」
比呂は呆然と呟く。
一裕は走ったりせずにゆっくりと比呂達へ向かっていた。
左手には銃を握っているのが比呂達にも見えた。
比呂の額に汗が浮かぶ。
和彦は舌打ちをついた。
「ついてねぇ! んな時に一裕かよっ! 」
「和、斉藤との距離は?! 」
和彦はそう尋ねられると同時に岩の上部から顔を出す。
即座にギインと火花が散った。
すばやく顔を戻して、元のように岩に背を向け座り込む。
「20メートル、いや15だ!」
「近づいてるか?! 」
「ああ、真っ直ぐな!! 」
「ちっ・・・」
「もっかい、比呂、策練れ! 」
「練ってるっつのっ! 」
一裕がうっすらと笑みを浮かべているのが見えた。
まずい――と比呂は思う。
この状態で一裕に発砲されたらそれまでだった。
なんとしても一裕の注意をひきつけつつ、
斉藤知子を遠ざけなければならない。
いや、撃ち殺さなければならない。
偶然の挟み撃ち。
比呂の頭がフル回転する。
そして、一つの筋が出来た。
「和彦っ! 絵里! 良く聞けっ! 」
「おう! 決まったか? 」
「俺が飛び出す。せーので和、一裕撃て! 」
「撃てって当たんねーよ! こんな距離じゃ! 」
「誰が当てろって言った! 威嚇だ! 」
「ん?・・・で? 」
「俺、そのまま左にずれながら一裕ひきつけるっ!
和は撃った瞬間振り返って岩の向こうの斉藤撃てっ!
威嚇だっそれも! 」
「わかってるよっ! 」
「で、その後すぐ、絵里! お前ワルサーで斉藤撃て。
当てなくていい。威嚇だ」
「え? あたしっ?! 」
「出来ないなんていうなよ。命かかってんだっ!
絵里は間隔を短めにあけて、斉藤を狙いつづけろ!
その間に和は弾いれて、左から飛び出せ! そっからは絵里も狙え。
当てるつもりで撃てっ! 絵里に注意がイってれば和が仕留めろ。
和に注意がイってれば絵里、なんとかして仕留めろ」
「わかったっ! お前どうすんだよ?! 援護なしでイケんのか?! 」
「あほかっ! 援護欲しくても銃がねーだろうが!! さっさと斉藤片付けて、加勢しろっ! 」
「わかったよっ! いくぞ!! 」
比呂は痛む右足に一瞬目を落とし、唇を引き結んだ。
「せー・・・の―――」
「ちょ、ちょっと待ってっ!! 」
絵里が割って入る。
「なんだ?! 」
比呂は焦りを顔に浮かべたままにじれったそうに絵里を見る。
生暖かい雨の香りが苛立ちを煽る。
「あたし・・・できるか――」
「あほっ! しょっちゅうエアガンで俺の頭撃ってんだろうがっ! 」
「だってホンモノなんて初めてだよ?! 」
「大してかわんね―よ! 衝撃が強いだけだっ! 綾っ!
弾切れたら横で渡してやれっ! 絵里、弾の入れ替えわかるな?! 」
「比呂のエアガンと一緒?! 」
「一緒!! 」
「わかった! あ・・・比呂っ」
「なんだ?! 今急いでんだよ! 」
「――気をつけてね? 」
「・・・ああ、お前らもなっ 」
「比呂、いくぞ?! 」
「ああ…」
「せー・・・のっ 」
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