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 和彦は呆然と空を眺めつづけた。
しとしとと、雨は静かに降る。
とても静かに。
その雨はまるで和彦の罪、人を殺めた罪を洗い流してくれるように感じられた。
そして、そう感じた瞬間に比呂のことを思い出した。


ばっと振り向く。
その時、和彦の目の前に意外な光景が飛び込む。
 

黒いヘルメット。


黒い戦闘服。


黒い銃。


黒いマスク。


それらに身を包んだ6人。


いつの間にそこに現われたのか、
放心状態であったとはいえ全く気付かなかった。
見慣れたその姿。
その中の一人が和彦に向かい、人差し指を口元に当てた。



――声を出すな――


和彦は動けない。


まさか、こんな事って――


人差し指を手に当てたまま、もう一方の手で和彦を手招く。
呆然としたまま和彦は指示された通りにゆっくりと近づく、
岩の陰で絵里と綾が羽交い絞めにされ、口を塞がれている。
手招いていた男がゆっくりとマスクをずらす。
そしてヘルメットも。


その顔を和彦はよく知っている。
その男は――Riotのメンバー黒木康明だった。
康明はズボンのポケットから白いカードを取り出し、
和彦に見えるように掲げた。


――我々は反政府過激派。
このプログラムを妨害するためにこの場にいる。
妨害とは、君たちを生きてこのプログラムから回収する事。
しかし、逆らったり、声をあげたりした場合は
いかなる場合でも射殺する。――


和彦の口は開いたままだ。


康明はカードを捲る。


――これより、君たちの首輪を除去する。
声は絶対にあげるな。
そして、こちらの指示があるまでは一切動いてはいけない。――


カードを掲げたまま康明は絵里から取り上げたワルサーを受け取る。
そして2発、銃口を地に向けて放つ。


銃声が響いた瞬間。
二人を羽交い絞めにしていた者とは別の者が
リモコンのようなものを取り出し、二人の首輪に当てた。
ピという音と共に、首輪のLED表示が消える。
そして羽交い絞めにしていた者がピッキング工具を取り出し、
すばやく首輪をはずした。
あっけなく首輪は外れる。
カチャンと音を立てて。
そして、康明はもう一発、ワルサーを放つ。
和彦の首輪にもリモコンがあてられ、
すばやく背後からピッキング工具で首輪を外された。
 唖然とした3人に向かい康明はやっと口を開く。


「驚いた? もう声を出してもいいよ」


3人はあっけにとられていた。
そして、絵里が気付く。


「や、康くん? 」


康明は絵里に小さく手を上げ、笑顔を見せた。


「や、康くん・・・ってか・・・え? は?」


和彦も呆然としたままそう呟く。


「説明してる暇はないけど、とりあえず助けに来た。
逃げるよ? 比呂は? 」


和彦は狐につままれたような顔のまま答える。


「え・・・あ・・・比呂だっ! 比呂っ! 」


「落ち着いて、比呂は? 」


「あ、一裕・・・丸木をひきつけるって言って、どっか・・・」


「さっきの銃声がそう? 」


「う――うん、いや、わかんね」


康明はすばやくインカムをONにした。


「こちら、マルフタ。和彦以下2名を回収。
比呂がいない。位置を」


「ガッ――了解。 比呂はそこより南へ200メートル離れた場所にいる。
一人生徒と接触している。
戦闘になっている恐れもあるが、音声だけではよくわからない。
銃声が聞こえた。気をつけろ。――っガ」


「了解」


和彦は状況を少しだけ理解したように、康明に詰め寄った。


「ってかっ! 康くん何やってんの? 遊んでんじゃないんだよ!! 
殺されるっての!! 政府だっての!! 相手は!! 」


康明はヘルメットとマスクを下に戻しながらそれを右手で制する。


「わかってるよ。 僕達、もう何年も前から政府にケンカ売ってるの。
Riotってそういう団体なの。
和たちがゲームだと思ってたのは訓練で、僕たちはこれのためにずっと訓練してたの。
とりあえず、生きてここから出て。説明はその時するよ。
僕は比呂を回収する。いい? 」


和彦は返事が出来なかった。
思考がついていかなかった。
康明はほかのメンバーに何事かを伝え、足早にその場を離れた。


南へ。


一人のメンバーがヘルメットとマスクをずらしながら、和彦に近づく。
和彦はその顔をみてまた腰を抜かすほどびっくりする。


「イ、 イサムさん? なに? なんなの? 」


「オス。和彦。つーわけで離脱だ。
意味わかるな? 撤収するぞ」


イサム。
沖沢勇。
Riotのメンバー。
27歳。
康明同様、比呂や和彦たちの子守りも担当している工作員。
ゲーム中は和彦とよく同じチームを組んでいた。
比呂は康明に銃を教わり、和彦はイサムに銃を教わった。
イサムは和彦に銃を手渡す。


M4A1。


アサルトライフルをより使いやすくしたカービンと呼ばれる銃だ。


「自分の身は自分で守れや。
レディ達はRiotが責任を持って守ってやるから」


「へ? あ・・・ああ。何? ほんとにコレ何? 」


「理解しろってほうが無理か・・・よしゃ。
こっからゲームだ。そのつもりで聞けよ? 
俺たちはこれからこの富士演習場を離脱する。
これが目標だな。
当然、政府の監視があるけど上手い事交わす手はずは打ってる。
問題は生存している生徒との接触。
今、お前達の首輪ははずしたけど、
他の生徒の首輪は当然生きてる。
音声で存在を政府に気付かれる可能性がある。
俺たちの存在を気付かれたら結構やばい。
だから、ま、生きてる奴は見つけ次第排除。
これはRiotでやる。
すでに他の班、わかるな? ゲームと一緒だ。
他の班が経路を確保してくれてる。
俺たちはその経路を突破して外に出て逃げる。
おまえもRiotのメンバーなんだから保護は期待するな。
むしろ俺は戦力と思ってるからな。以上」


「え? うん・・・よくわかんねーけど、逃げれんのね? 」


「ラクショーだ」


「どうすればいい? 」


「簡単。ついてくればいい」





[残り7人]

 


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