秋也の目が見開かれる。
目の前のモニターは信じられない結果を表示していた。
点滅する赤いゴシック体のフォント。
秋也達Riotは、政府の中央演算センターを経由してプログラム本部仮設サーバへ接続していた。
赤字のフォントはその接続が切断されている事を示している。
「まさか…」
典子も状況を把握し、秋也へ視線を投げた。
「政府が? 気付いたのかな? 」
少し不安げな表情で典子は秋也にそう、尋ねた。
「いや、それはないだろう。ちょっと待って、試してみる」
秋也は目の前のキーボードを忙しく叩き始める。
幾分慌てている様子は隠せない。
即座に千成隆志は異変に気付き、二人の傍へ駆け寄る。
「トラブルか? 」
「あ、千成さん。接続が…切れました」
「何? 」
「政府のサーバから切断されたんです」
「ちょっと待て。気付かれたのか? 」
「それはまだわかりません。もしかしたら何らかのトラブルが向こうで起きたのかも」
秋也はキーボードを叩きながら何度か舌打ちをくれる。
「どうだ? 」
「接続できません。こっちの回線は生きてます」
「政府がこっちの動きに気づいて――」
「そういう感じじゃないですね。向こうからブロックされている気配はないんです」
「向こうのトラブルだとすると? どういう状況が考えられる? 」
「…断定は出来ないですが、ハードウェアのトラブルか、回線そのものが落ちてるか…」
秋也がそう答え終える瞬間、二人の会話に割ってはいるように通信技師が声を張り上げた。
「千成さんっ! 政府本部の電源が落ちてるみたいです! 」
「なっ―――」
「無線を傍受しましたが、どうやら変電設備のトラブルらしく、てんてこ舞いですね」
秋也と隆志が顔を見合わせる。
「秋也。起こり得るケースは? 」
「…。政府はおそらくホストコンピュータごと再起動をかけますね。当然、突然の自体でしょうからこっちがいじった設定は死にます。つまり――」
「つまり? 」
「振り出しに戻ります。最初からやり直しです」
「くそっ」
「千成さん。作戦を中止してください。無理です、再び生徒のチャンネルを設定しなおすのは! 」
「絶対に無理か?! 」
「再起動時に今まで見せてきた状況とはまったく違うものが流れます! 第一、5個の首輪が機能停止してるんです!! 政府がそれを見れば…! 」
「…!? 」
隆志は口をつぐみ、考えを巡らせる。
さっとテント内を見渡し、くそっと呟いた。
すばやくインカムのマイクをオンにし、抑えた声で伝える。
「総員に告ぐ、政府本部の電源が落ちた。復旧後、こちらの動きがバレる。作戦行動中の実行部隊は即座に撤収。なんとしても離脱しろ。ランディングポイントは修正の可能性があるが、とにかく今は予定通りのポイントを目指せ。繰り返す、なんとしても離脱しろ」
マイクをオフにした瞬間から、テント内が急激に慌しくなる。
「通信! 誰でもいい。一人は政府の無線傍受だ! 一言も聞き逃すなよ! 」
「はやくウイルスを流せ! 」
「こっちハード内のデータ消去完了! 」
「撃て! 急げ、ディスクごと銃で破壊しろ」
「何してんだ! 離脱の準備急げ! 」
「作業がない奴は離脱しろ! 時間がないんだ!! 」
「馬鹿やろう! さっさと動け!! 」
「実行の通信確保してんのかっ! 」
「訓練じゃねーぞ!! アタマ使って自分で動け! 」
「撃て! 音なんかかまうな! とにかくハードは全部壊せ! 」
「マルフタ! 康明が部隊からはなれてます! 千成さん! 指示を! 」
「離脱だ! とにかく離脱しろ! 康明からの通信は?! 」
「きました! 比呂と一緒です。確保できました! 」
「離脱しろって言え! とにかく急げ! 」
騒然としたテント内に隆志の怒号が響く。
何人かの通信技師がコンピュータをハードごと銃撃し、破壊し始めた。
金属片やプラスティックが粉々に弾かれる音。
Riotの作戦そのものが壊れていく音だ。
何ヶ月もの準備が無駄になり、秋也たちがこの場にいる意味すらも否定されていく。
作戦は失敗だった。
予期せぬトラブル。
そう言えば聞こえはいいが、犠牲にしたものが大きすぎる。
何よりも、実行部隊の命の保障はこの時点でまったくなくなった。
ゼロだ。
生きて帰れる保障は。
隆志は7年前の悲劇を思い出し、唇を噛んだ。
「――くそったれっ! ――」